EP.4 魔の術理と槍の術理
「魔術を教える前に、軽く魔術理論の講義をしてあげましょうか」
「お願いします! アリス師匠!」
「し、師匠……! いい響きだわ……!」
そうして講義が始まった。
アリス曰く、この世界には魔素が満ちていてそれを体内の魔腑で精製することで魔力になる。
魔腑は実体がなく、脳、心臓、丹田の三か所に重なる位置に存在するらしい。
そして血管に重なる魔力回路を通して体内を流れ、放出する事ができる。
「魔術とは、魔力を以て神々の権能を再現せしめる神秘の具現。そう呼ばれているわ。昨日教えた通りね」
地の理を捻じ曲げ天の理に近づけることで本来有り得ない現象を引き起こす、だっけ。
「魔術の行使に使われるものは主に5つ。魔力、術式、触媒、印、そして意志。魔力は魔術行使に必要なエネルギー、燃料よ。意志の力を増幅する性質を持つわ。術式とは方向性を与えるもの。魔力に色を付け、形を定め、魔術を構築する」
ふむふむ。
術式はプログラムみたいなものかな。
「触媒とは魔術行使を補助するもの。杖や指輪などのことね。後、普通の魔術行使には余り使わないけれど、血などの魔力を通しやすい物質を利用した物理的な術式構築に必要な素材や、召喚魔術などで対象を指定する為の、対象に縁のある物のことも触媒と呼ぶわ。そっちは主に儀式魔術に使われるわね」
縁のあるもの……例えば髪の毛とか体液とか?
「ええ、愛用していた装備とか、血縁者とかもね。後、召喚者そのものが触媒になることもあるわ。触媒なしで召喚魔術を行使した場合、大抵召喚者に似た性質の生物が召喚されるわね」
そういうのもあるのんだね。
「次は印ね。印とは魔術行使に必要な動作のこと。特定の動き、例えば指パッチンとか舞などが含まれるわ」
ナ〇トとか呪術〇戦の掌印みたいなものかな。
覚えるのが大変そうだ。
「そして魔術を行使する上で最も重要なのが意志よ。どんなことを引き起こすか、どのように引き起こすかというイメージが大切なの。意志の強さによっては術式で定められたことからある程度は逸脱したことを引き起こせるわ」
なるほど、意志……か。
意志の強さには自信があるよ。
特に、僕の家族や恋人が関係したら絶対に折れない自信がある。
「まとめると、意志には力が宿り、魔力がそれを増幅する。そして曖昧なそれに術式で明確な形と色を与える。印や触媒はあくまで補助。手練れの魔術師であれば省略しても構わない。理解できたかしら?」
「はい!」
「次は魔術の等級ね」
『一節級』
一節の詠唱、もしくは一工程からなる魔術行使。
魔術において基礎の基礎であり入門編。
魔術適性が0でも努力しだいで扱え、生活魔術とも呼ばれるらしい。
「例えば指パッチンや指差し、詠唱だと『火よ』、くらいの簡易的なものね」
そこから『二節級』、『三節級』、『四節級』、と言う風に詠唱や工程が増えるほど高位の魔術になるそうだ。
5〜9は纏めて『長文級』と呼ぶらしい。
そして個人による魔術行使の限界点である『十節級』と言う風に階級が分かれているらしい。
その更に上は『儀式級』、『逸話級』、『伝説級』、『神話級』、『惑星級』が存在するが、基本的に大規模な儀式でしか発動しないから関係ないと言われた。
「まあ、当分魔術は使えないでしょうし、魔力操作の精度を上げることに注力しなさい。才能はあるし、普通ならあっという間に魔術を使えるようになるんでしょうけど……魔力量が多いし、スキルで質も高まってるのが原因で魔力操作の難易度が上がってるのよね。いままで神秘とは縁のない世界にいたのも関係してるのかしら」
あー、そうか。
魔力の量と質がどっちも高いから制御が大変なのか。
じゃあ確かに魔術なんて使ってる場合じゃないね。
暴発したら洒落にならないし。
「それに、術式を構築出来なくても使える魔術はあるわ。いえ、正確には魔術ではなく『魔力感知』や『魔力操作』と同じ、技術の範疇なのだけど、『強化』って言うの。『強化』もは『魔力纏衣』、『魔力循環』、『魔力放出』の3種類の強化方法があるわ」
『魔力纏衣』は魔力を纏うことによる強化。
燃費が悪い上に強化率も低いという欠点を持つが、その代わり対魔力防御としての性能が高いため、精神干渉やデバフを弾くために使われるらしい。
副次効果として、物理攻撃の効かない霊体相手にでも攻撃を通せるようになるそうだ。
『魔力循環』は体内で魔力を高速回転させる強化。
最もオーソドックスな強化方法らしい。
強化率はそれなりだが燃費がよく、魔力操作技術に秀でた魔術師であれば、魔力消費を限りなくゼロに近づけるそうだ。
そして最後が『魔力放出』。
燃費は最悪だが強化率が最も高く、爆発的な力を得られる。
短期決戦用の強化方法だ。
「だから優秀な魔術師であれば、ある程度は近接戦闘も出来るの。本職には劣るけれど、近づかれて即終わり、なんてことは防げるわ」
「ならアリス師匠も近接戦できるの?」
「嗜む程度だけれどね。戦士職相手でもCランク冒険者程度なら近接戦でも勝てるわよ。Cランク冒険者って言うのはライが倒した狼を単独討伐出来る強さがあるわ。私の場合、『魔力循環』の魔力消費は完全に0だしね」
あの狼より強い冒険者より強いってこと?
普通にすごくない?
僕魔術どころか近接戦でも勝てる気がしないんだけど。
身体能力高いしクラスの性質変化あるから近接なら勝てるかなって思ってたけど全然そんなことなかったや。
「そういえば、固有魔術ってなんなの?」
『可憐なる玉座の天使』のスキル説明にそんなのが書かれてたけど。
「固有魔術って言うのはスキルに紐づいた魔術ね。スキルって言うのは基本的に他人と被ることはないわ。だからその人にしか使えない、専用魔術なの。例外は模倣や強奪系のスキルで」
「なるほど……」
僕だけの魔術……。
しかもそれが49個も使えるようになるのか。
「ホント、規格外のスキルよね。わざわざ異世界から召喚する理由が分かるわ」
こんなチートだったらねぇ。
そりゃあ呼び出すに決まってるよね。
世界の危機なら特に。
異世界に拉致されたのには思うところはあるけど、あんまり責めれないかな。
まあ、僕の彼女達に何かあったら絶対許さないけど。
「因みに、固有魔術以外にもスキル事の固有の技は存在するわ」
「そうなの?」
「そう、英雄や神の名を冠するスキル限定だけどね。まあ、それに関してはまたいつかね。当分使えることはないでしょうし。それじゃあ、魔力操作の訓練を始めましょうか」
こうして僕の魔力操作訓練が始まった。
「まず、魔力を感じ取ることから始めましょうか」
これに関してだが、あっさりと感じることが出来た。
あの時感じたポカポカする何か。
これが魔力……。
「まだ精度は低いけど……あっさり『魔力感知』覚えちゃったわね。異世界人だからかしら?」
「まあ、僕は天才ですしさもありなん」
「凄い自信家ね」
「まあ昔ちょっと色々あって……」
あれはちょっとした黒歴史だ。
今の僕が自信家なのはあれの反動だろう。
もう二度とあんなことはしない。
「それじゃあ次は、その魔力を操作しましょう。私の手を握って」
ポカポカするのが体内をゆっくりと動いていく。
なんか、変な気持ちになるね。
「んっ!」
変な声出しちゃった。
これまずいかも。
すごい気持ちいい。
体の中で掻きまわされる感覚が、なんていうか、いい。
「んあぁっ♡ はうっ♡」
「……なんだかイケナイことしてる気分だわ」
その途端魔力の動きが止まった。
あ、喘いじゃった……。
これ癖になるかも。
「魔力操作ってずっとこんな感じになるの……?」
「ならないわよ。と言うかなってたまるものですか。今のは魔力を同調させて動かしたから。自分で動かす分には特に何も起こらないわ」
なるほど……。
うん、確かにそうだね。
魔術使う度にこんなことなってたら戦闘どころじゃないもんね。
そもそも、あの時の爆発だって別に気持ちよくならなかったし、少し考えれば分かることだった。
「ちなみに同調して気持ちいい相手とは体の相性もいいらしいわよ」
「!?」
いきなりなんてこと言うんだこの人。
「まあそれは置いといて。さあ、続けましょう。今日中に『魔力循環』は出来るようになってもらうわよ」
「は、はい!」
《hr》
そして次の日。
今日はハーレンと槍術の訓練だ。
「ハーレン師匠! よろしくお願いします!」
「し、師匠……! いい響きだな……!」
アリスと全く同じ反応してる……。
やっぱり師匠って呼ばれるの嬉しいのかな。
「私は教えるのが苦手だ。何を教えればいいか分からん。よって実際に私と戦って技を磨いてもらう。もちろん魔力の使用は禁止だ」
なるほどそういうタイプか。
うん、いいね。
そういうの好きだよ。
「さあ! 槍を構えろ!」
「はい!」
ハーレンが地を蹴った。
どん、と空気を押し出すような音がして、その巨体が目の前に迫る。
僕は反射的に槍を構えた。
「遅いっ!」
ガンッ!
彼女の槍が、まるで鉄槌のような勢いで僕の槍を弾いた。
重さと速度が段違いだ。
腕にしびれるような衝撃が走る。
「おもっ……!」
「誰が、重いだと?」
「っ!? ごめんなさい!?」
体勢を崩した僕の胸元を、彼女の槍の石突が突いた。
もちろん寸止め──だが、肌に冷たい感触が走った。
さっきまでギリギリ目で追える速さだったのに、重いって言った瞬間に滅茶苦茶速くなったんだけど……。
しかも笑顔が怖い!
いや、確かに女性に重いは禁句だよ?
でも攻撃が重いって言っただけで誰もハーレンが重いとか言ってないじゃないですかぁ!
反射的に謝ったけど、これ僕悪いのかな。
いや、まあ女性の機嫌を損ねたんだし僕が悪いか。
「もう一度だ!」
「はい!」
僕は地面を蹴り、距離を取って槍を構え直す。
「いきますっ!」
今度は僕から踏み込んだ。
小柄な体格を活かし、懐へ潜り込むようにして槍を突く。
しかし、彼女はそれを軽々と受け流す。
そして次の瞬間、視界が一回転した。
「うわぁっ!?」
ドスッ、と背中から地面に叩きつけられた。
「いたた……」
「さあもう一度!」
そうして何度も訓練を続けた。
「踏み込みが甘い!」
何度も。
「力が入っていない!」
何度も。
「相手から目を離すな!」
何度も。
そうして日が暮れるまで訓練を続けた。
「今日はこのくらいにしておこう。もうお前も限界だろうしな」
「は……はい、師匠」
足が震えて立てない。
これは明日筋肉痛確定かな。
こんな長時間運動したのなんていつぶりだろうか。
最近の運動なんて、誰かを助ける時か、伊織や拳斗と遊ぶ時ぐらいだったもんね。
でもそれもこんな1日中はしてなかったし。
いやしてたわ。
それも3日間ぶっ続けで。
彼女全員と。
あれも一応運動だしね。
「立てそうにないか?」
「ダメそうです」
「仕方ない、おぶってやろう」
ハーレンにおんぶされた。
背中がごつごつしてる。
訓練中もずっと思ってたけど、実際に触ってみると凄い筋肉だ。
「ありがとうございます、師匠」
「……師匠か。ふふっ……いいな、やっぱり! ……なんだその生暖かい目は」
「いやぁ? かわいいなぁって思っただけだよ?」
アリスもハーレンも弟子が出来てはしゃいでるのホント可愛い。
嫁にしたい。
「おまっ! お前ぇ! そういうことを軽々と言うな!」
「顔真っ赤にして照れてるのも可愛いよ」
「耳元で囁くなぁ!」
そしてその後はハーレンをからかい続けて終わった。
【真名】聖星歌
【天職】神聖騎士
【性別】女性
【身長/体重】162cm/37kg
【属性】秩序・善
【特技】人間観察、勉強
【趣味】越魔蕾のストーキング、盗撮、盗聴
【好きなもの】越魔蕾、長名馴染、バタースコッチパイ
【嫌いなもの】蕾の敵、馴染の敵、愛を阻む者
【苦手なもの】お化け、失敗
【備考】
愛に狂っているクール系幼馴染。