EP.20 (性癖)歪曲の魔眼
「ただいまー!」
「おかえりなさい」
「おかえり! ライくん!」
ギルドで荷物を回収した後、僕達は宿屋に帰ってきた。
アリアとミリアが笑顔で出迎えてくれる。
「ライくん、そちらの3人は……?」
「……また新しい女誑かしたんだ?」
アリアが首を傾げて質問し、ミリアはジト目でこちらを見つめた。
「私はイザベラです。それでこっちのガラの悪い方がルルで、陰気な方がクリスです」
「この3人、訳アリでね。ここに泊めて欲しいんだ。宿代は僕が払うから」
「それは構わないけど……こんな所でいいの? 特に隠れてるとかそんなわけじゃないんだけれど……」
「大丈夫大丈夫、ぶっちゃけこの宿屋がこの街で一番安全まであるから」
これは何も拠点機能によるものだけじゃない。
この街で一番強い冒険者は僕だ。
他の冒険者が一斉に襲い掛かってきてもなんとかできる。
バゲッジ達も加わったらちょっと厳しいけど……周囲の被害とか後のことを何も考えなければまあ対処できる範囲内だろう。
そんな僕がここに泊ってるんだ。
安全じゃないわけがない。
実際、この宿屋はかなり繁盛してるが、誰も妨害してこない。
少し前は時々荒くれ者を嗾けて営業妨害してくる輩がいたけど、僕が何回かボコボコにしたら、すぐに諦めてくれた。
僕がここに泊ってるってことが広まってからは、どうしようもないバカぐらいしかちょっかいかけてこないし。
強いだけじゃなくて人気もあるからね。
僕を敵に回せばこの街の人間は冒険者も含めて結構な割合が敵に回ることになる。
特に商人が敵に回るのは致命的だ。
まあこれは正体隠す暗殺者相手には意味がないだろうけど。
「それじゃあ、丁度ライくんの部屋の周り3部屋開いてるから、そこ使っていいわよ」
「今日はこれで解散にするから、ゆっくり休みなよ。明日からビシバシ鍛えてあげるからね」
「はい! 分かりました!」
さぁて、僕はトレーニングのプランを練らないとね。
その前に3人をメンバーに追加しておこう。
拠点の恩恵をしっかりと受け取ってもらわないといけないし。
―――――
「おはよう、よく眠れたかな」
「おはようございます!」
「ああ、バッチリだぜ!」
「す、凄くスッキリしたですぅ」
よかったよかった。
拠点の効果もしっかり効いたみたいだね。
体力も魔力も全回復してる様だ。
「早速訓練場に向かおうか」
3人を連れてギルドへ向かう。
「それにしても、この町も随分賑やかになったねぇ」
いや、元から賑やかではあったんだけどね?
僕のアイドル活動を見に色んな町から人が来てるから、倍ぐらい賑やかになった。
人が増えたことでトラブルが多いのなんの。
「ラ、ライ様のアイドル活動のお陰ですねぇ」
「ライの姉貴、すげえ人気だよな」
「私より可愛いの嫉妬しちゃいます」
はっはっは。
僕が可愛いのは当然のことだからね。
僕は可愛い。
美少女にだって負けないさ。
僕より可愛いのは僕の彼女達だけだと思ってるよ。
「あの! お姉さん!」
「おや? どうしたのかな、少年」
歩いていると、可愛らしい少年が声をかけてきた。
「さ、サインください!」
僕のファンみたいだ。
お姉さん呼びってことは僕が男であることは知らないらしい。
ふむ、せっかくだし性癖捻じ曲げるか。
「うわっ、ワリィこと考えてる顔だ」
「た、多分性癖捻じ曲げるとか考えてる顔ですぅ」
「邪悪。これ以上被害が出る前に仕留めるべきじゃない?」
失礼な。
少年の性癖は捻じ曲げるべしと古来から決まってるんだよ。
古事記にも書いてある。
彼のヤマトタケルもあの世で頷いてるはずだ。
何せ日本最古の男の娘なのだから。
「うん、もちろんいいよ」
「や、やったぁ! これにお願いします!」
そう言って少年は背中から剣の鞘を取り外し、手渡してきた。
「少年、名前はなんていうのかな?」
「ビリーです」
「ビリーくんだね。それじゃあ、サインするね」
せっかくだ。
オマケをしておいてあげよう。
サインを魔術刻印として刻み込んでいく。
ルーンも組み合わせ、多種多様な強化を施した。
剣本体だけでなく、鞘にも効果付与をしておこう。
「はい、どうぞ。おまけもしておいてあげたから大切にしてね。定期的に魔力を流してあげるといいよ」
「ありがとうございます!」
ビリー君の頭を優しく撫でる。
たちまち顔をほころばせた。
「頑張ってね、ビリー君」
「はっ、はい!」
いやぁ、僕の性別を知った時の反応が楽しみだなぁ。
その場に居合わせれないのが残念だよ。
「なんか今サインついでに滅茶苦茶凄い強化施しませんでしたか?」
「うん? 剣に『魔力貯蔵』、『自動修復』、『自動研磨』、『高速再生』、『耐久強化』、鞘に『吸血成長』と『封魔結界』、を付与しただけだよ?」
「か、完全に別物ですぅ……!」
「そのレベルの武器買おうと思ったら金貨が必要だぜ?」
でも性能的にはそこまで強いってわけじゃないよ。
滅茶苦茶壊れにくくて魔力を貯める性質を持っただけで、鋭さ自体は変わってないし。
いずれは『吸血成長』の効果で一端の名剣になるかもだけど、その時になった頃には自力でこのレベルの剣なら手に入れられるくらい強くなってるよ。
「まぁ、ライの姉御がヤベェのは今更だしな。気にしてもしょうがねぇか」
「異世界人に常識求めるだけ無駄というものだよ」
「「「!?」」」
「今とんでもない事実をサラッと暴露しませんでしたか!?」
そうそう。
あんま気にし過ぎると禿げるよ。
これからもこの世界の常識だとヤバいことしまくるだろうし。
生きてたらそういうこともあるで受け流すべきだ。
そんなこんなで僕達は再び歩き始めた。
少し歩き、ギルドに着く。
「ヘレンさん!」
「あっ、ライ君!」
ギルドの扉を開け、受付カウンターの方へ声をかけると、書類仕事をしていた受付嬢のヘレンさんはすぐにこちらを向き、花が咲いたような満面の笑顔で手を振った。
はー、ヘレンさんは可愛いねぇ。
また今度デートしようね。
「今日も訓練場借りますねー!」
「はーい! こっちで手続きしておくねー!」
彼女は手元の羊皮紙にさらさらとペンを走らせる。
その仕草一つとっても無駄がなく、かつ愛らしい。
僕は3人を連れて訓練場へ向かおうと足を向けた。
その時だった。
「あ、あの……ど、どうすれば貴女みたいに素敵なアイドルになれますか?」
緊張に肩を強張らせた少女がそう声をかけてきた。
指先は落ち着きなく絡まり、視線は定まらない。
それでも勇気を振り絞ったのだろう、必死にこちらを見上げている。
「君もアイドルを目指してるのかな?」
緊張が解けるように、僕は優しく、柔らかい笑みを浮かべてそう問いかける。
すると、少女はびくりと小さく跳ねてから、何度もコクコクと頷いた。
「は、はい! 天職が偶像で……」
成る程成る程。
この世界で偶像の数は少ない。
歌い手や踊り子と言った天職が複合された支援職ということは広まっているけど、詳しいことを誰かに教わる機会はほとんどないだろう。
偶像は基本的に独学でやるしかないのだ。
どうすべきか分からない、というのはそれはそれは不安だろう。
そういうことなら遠慮なく、先輩として導いてあげなくては。
「なるほどね。なら、可愛い可愛い先輩アイドルの僕から、アドバイスをしてあげよう」
僕がウィンクをしながらそう言うと、彼女はゴクリと固唾を飲んだ。
「一番は大切なのは自分を好きになることかな。アイドルは自信がないと。オドオドしてる女の子もそれはそれで可愛くて素敵だけど、アイドルに求められる可愛さとは違う気がするしね」
まあ、もちろんそういうアイドルが好きな人もいるだろうけど。
基本的にはそれはアイドルとしての魅力じゃないと思うよ。
「自分を……好きになること……」
彼女は僕の言葉を反芻するように呟き、自身の胸元に手を当てる。
「そう。別にナルシストになれって言ってるわけじゃない。でも、自分自身の事すら好きにさせられない人が他人を好きにさせるのは難しい。自分すら魅了出来るくらいを目指さないとね」
ぶっちゃけ、天職が偶像って時点でアイドルとしての才能はある程度担保されている。
地道に訓練していけば独学でも十分力を引き出すことは出来る。
なら僕がアドバイスすべきは技術的なものよりも、精神論とかそっち方面の方がいいだろう。
「君にはこれを渡してあげよう」
彼女に羊皮紙を何枚か手渡した。
これは僕がこの世界に来て、アイドル活動をするために作詞作曲した歌だ。
ダンスの振り付けもキッチリと書いてある。
「これは……! こ、こんなもの受け取れません……!」
内容を見た途端、彼女は慌てて返そうとする。
「気にしないで。僕からのプレゼントだ。頑張ってね。応援してるよ」
その言葉を最後に、僕はひらりと手を振って背を向けた。
背中で彼女の熱っぽい視線を感じながら、僕は再び闘技場への歩みを進める。
「これがついさっき幼気な少年の性癖を捻じ曲げて愉しんでた男の姿か?」
「さ、さっきのが無ければ100点だったのですぅ……」
おぉ、散々な言われよう。
ただ少年の性癖捻じ曲げて愉しんだり、後輩となる子に真面目なアドバイスをしただけなのに。
「いや本当に人気ですね。いつもよく声かけられるんですか?」
「うん、毎日ね。といっても今日は偶々被ってただけで、いつもは1日に1回くらいしか声をかけられないよ?」
「それ十分多くないか?」
そうとも言う。
まあそんなことは置いておいて、訓練場に向かおう。
【Tips】
『少年少女のその後』
少年は剣と共に成長する。
剣は名剣を超え、魔剣へと至り、自我が芽生える。
少年はBランク冒険者として活躍した。
その二つ名は『剣姫の担い手』。
擬人化した魔剣とラブコメをしながら、最終的に英雄として後世に名を遺した。
少女は自信を持ち、立派なアイドルとして成長した。
仲間を集め、アイドルユニットを形成した。
その生涯をアイドル活動に捧げたが、同時に狂信レベルの憧憬で、ライのフォロワーとしても有名になる。
彼女は最終的に、『傾城傾国』と呼ばれ、世界に名を轟かせた。




