EP.12 決戦!小鬼之王《ゴブリンキング》
「嫌な予感がして追いかけて来てみれば、ライ、テメェ自分の命と引き換えになんかするつもりだったろ」
「ダメっスよそういうのは。みんな悲しむんスからね!」
思いっきりバレてる……。
これ後で口止めしなきゃ。
いくら命のストックがあるとはいえ、自分の命を犠牲にしようとしたってアリス達にバレたらこってり絞られる。
「というか生贄魔術なんて禁術どこで……ああ、姉御っスか」
そう、アリスだよ。
Aランクなだけあって禁忌指定の魔術も色々知っていた。
アリスは生贄魔術を教えることに乗り気じゃなかったけど、なんとか言いくるめて教えてもらったのだ。
命が沢山ある僕と相性がいいからね。
「よし、2人がいるならこれにしよう」
──性質変化、聖職者。
槍が白百合の旗に変化した。
「フレッフレッがんばーれ!」
旗を振りバフを撒く。
バゲッジ達は黄金の光に包まれた。
『身体強化』、『筋力強化』、『耐久強化』、『敏捷強化』、『士気向上』、『精神昂揚』、『獅子心王』、『対魔特効』、『対魔防御』、『矢避けの加護』、『怪力』、『硬化』、『加速』、『幸運』、『感覚強化』、『精神防御』、『衝撃吸収』など、多種多様バフをかけてバゲッジ達を支援した。
今のバゲッジ達はAランク中位に匹敵するだろう。
「『光槍弾』!」
「『断潰撃』」
「『天気雨』!」
僕が槍を投擲し小鬼魔術師を穿ち、バゲッジが大剣で小鬼将軍を叩き潰し、トラスが大量の短剣を降らせ小鬼族を蹴散らす。
2人と協力し大量の小鬼族達を殲滅していった。
そして戦い続けてようやく、見窄らしい小屋の前に放置されている女将さんを見つける事が出来た。
「見つけた! 女将さ──」
「っ! 避けるっス! ライの兄貴!」
「がはっ!」
女将さんに近づこうとした瞬間、横から衝撃が来て弾き飛ばされてしまった。
「下ガレ、我ガ民、臣下達ヨ」
突如声が響く。
その声に従い、小鬼族達はまるでモーセの海割りの様に一斉に道を開けた。
その先にいたのは筋骨隆々で、他に比べ5倍以上の巨体を持つ小鬼族だった。
携えている大剣も明らかに質が高い。
「貴様ガ我ガ民ヲ殺戮シタ人間カ」
他の小鬼族とは違う、圧倒的な威圧感。
「これが……小鬼之王」
ああ、これは王だ。
魔物の中で粘性体二次いで最弱と言われる小鬼族。
それでも王種は別格だった。
だけど、それだけじゃなさそうだ。
僕が聞いていたのより、知性が高い。
本来、小鬼之王はAランク、町を滅ぼせる災害級の魔物だ。
でもそれは小鬼族の軍勢を含めた脅威度だ。
だが、この小鬼之王は恐らく更に上、単体でAランクの領域に至っている。
「コノ雌ガ目的ダナ?」
小鬼之王は女将さんの方にゆっくりと歩いていく。
「待て!」
「誰ニ命令シテイル」
瞬間、途轍もない重圧感が僕たちを襲った。
止めないといけないのに、僕たちは重圧に気圧されて一歩も動けない。
そして小鬼之王は女将さんを片手で掴み持ち上げた。
「はっ! 俺が相手してやらぁ!」
バゲッジが駆け出し、女将さんを掴んでいる腕を狙い大剣を振るう。
それを小鬼之王は軽々と回避し、蹴りを入れて反撃した。
「ぐぅっ!?」
「面白イ、王タル我二抗ウカ?」
「王だがなんだか知らねえがやってやらぁ! 行くぞトラス!」
「応っス!」
そうか、バゲッジ達は僕のバフの力で恐怖心がないからアイツの重圧から抜け出すことができたのか。
僕自身にバフをかけれないのが悔やまれる。
王種の威圧ってだけあって恐怖で足が竦んでしまう。
2人が戦っているのに見ているだけしかできていない。
今の僕は精々Bランク上位程度の実力しかない。
どう考えても相手にならない。
2人に手伝ってもらう以上、情けない所は見せられない。
相手が格上だろうが関係ない。
全力で戦ってやる!
「良イダロウ! 我ノ覇気ニ抗ウソノ胆力ニ免ジテコノ雌ヲ解放シテヤロウ」
そう言うと小鬼之王は女将さんを地面に降ろした。
「我ト闘エ! 我ニ勝テバソノ雌ヲ解放シヨウ! 我ガ民ヨ! 勇猛果敢ニシテ屈強ナル戦士ヨ! ソノ命、我ニ捧ゲヨ!」
小鬼之王が大剣を掲げると、小鬼族達は一斉に自分の心臓にナイフを突き立てる。
大量の魔力が小鬼之王に流れ込んだ。
その巨体は更に大きく、強く、作り変えられていく。
これどう考えてもAランクじゃ収まらないよ?
Sランク……災厄級は確実だろう。
種族は変わっていない。
進化は起きていない。
小鬼之王ままなのに小鬼皇帝よりも強いし、なんならそこらのドラゴンなんかも上回るレベルだ。
「サア、来ルガイイ!」
「行くよ! 2人とも!」
「応!」
「やるっスよ!」
2人が前に出て僕は後ろに下がった。
「Lalala~!」
踊りながら歌を歌う。
全力で2人を強化した。
「おらぁ! 喰らいやがれ! 『重断』!」
「こいつも喰らうっす! 『瞬刃雨』!」
バゲッジが大剣を振りかぶり、トラスが大量の短剣を投擲する。
「声ト舞二ヨル強化カ。厄介ナ! ダガ! 所詮ソノ程度! 『大切断』!」
大剣を弾き、風圧で短剣を吹き飛ばした。
「くっ! なんだテメエ! 小鬼族の癖に戦技使いやがるのか!」
やっぱり知能が高いってのはかなり厄介だね。
まさか戦技まで使える程の技量があるとは。
「使ウトモ、『剛撃』! 『大衝轟』! 『断骨斬』! 我コソ真ノ王デアルガ故ニ! 『重嵐切』!」
ああもう!
戦技使いすぎだよっ!
そんなバンバン戦技使ってたら普通は闘気尽きるんだけど!?
しかもどれか一撃でも喰らったら致命傷だし!
「『大切断』!」
「『固定化』! 『反射』!」
吹き飛ばされた短剣が空中で固定化される。
反射でベクトルが変わり、再び小鬼之王を襲った。
「ヌウゥ!」
次々と放たれる攻撃を全力で回避していく。
「ライ! その旗のバフはもういい! 全力で攻めろ!」
「っ! でもっ!」
性質を切り替えたとしても即座にバフが切れるわけじゃないとはいえ、そんなに長くは持たない。
バフが切れたら一気に全滅してしまうだろう。
「あっしのスキルでなんとかするっス!」
「分かった!」
──性質変化、『槍使い』
その瞬間、槍が『大神穿つ回帰の槍』に変化した。
「『固定化』!」
これは……バフを固定化したのかな。
物質の固定だけじゃないのか。
これならこの戦闘中は保つだろう。
「なら僕もっ!」
指で空中をなぞるように動かす。
魔力を使い宙に文字を描いた。
「『ᛏ』、『ᛖ』、『Ƿ』!」
それぞれ強化のルーン、俊足のルーン、幸運のルーンだ。
限定的ではあるが、『大神穿つ回帰の槍』の能力で僕はルーン魔術を使える。
ルーン魔術は同じ文字でも組み合わせや解釈を変えることで効果を自在に変えることができる。
僕の場合は槍の力で使えるだけで、習得した訳じゃないから最初に使った解釈で固定されるけど。
「『嵐潰斬』!」
「『委蛇槍』! 『狼牙突』!」
曲がりくねる突きで相手の攻撃の間隙を縫うように間合いを詰める。
そしてそのまま相手の後ろに回り、首を狙い鋭い三連撃を放った。
「ヌゥ! オノレ猪口才ナ! ダガ、戦技ダケト思ウナヨ!」
その言葉と共に、小鬼之王の魔力が解き放たれる。
「嘘でしょ!?」
魔術まで使えるのか!?
どこまで規格外なんだ!
「風ヨ、吹キ荒レロ、嵐ノ様ニ!」
「バゲッジ! トラス! 全力で下がって!」
2人を下がらせ、僕は前に出た。
「土よ、隆起せよ!」
「ソシテ切リ刻メ! 『鎌鼬』」
「『土壁』!」
地面が隆起し、壁を作りだす。
その瞬間、土壁に暴風が叩きつけられた。
壁に亀裂が入る。
『鎌鼬』は四節級、それに対して僕の行使した『土壁』は三節級。
魔力出力は互角だが位階は僕が負けている。
数十秒も保たずに亀裂が広がり、壁が砕け散った。
「くっ! がぁぁあ!」
風の斬撃に全身を切り刻まれる。
手足は千切れかけ腹から臓器が飛び出かけた。
痛い痛い痛い痛い!
幸運のルーンが無ければ即死だった!
頭が回らない!
意識が飛びそうだ!
早く、早く治療しないと!
「『ᚢ』! 『ᚢ』! 『ᚢ』! 『ᚢ』! 『ᚢ』! 『ᚢ』! 『ᚢ』! 『ᚢ』! 『ᚢ』! 『ᚢ』!」
治癒のルーンを何度も重ね掛けし、かろうじて立ち上がれる程度に回復させる。
ルーン魔術は詠唱不要で文字を書くだけで発動するが、その代わり出力が低い。
ドルイド系統の天職ならその問題も解決できるらしいけど、僕はそうじゃないから魔力量でゴリ押しするしかないのだ。
「おい! 大丈夫か!」
「僕は問題ない! この程度掠り傷さ!」
「無理はしちゃダメっスよ!」
多少減衰していたお陰で、2人は掠り傷で済んだらしい。
これならまだ戦える。
「っ……! はぁ……はぁ……」
膝をついてしまった。
槍を杖代わりにしてもう一度立ち上がる。
「ライの兄貴、なにか奥の手とかないっすか?」
「ある……。けど、発動に時間がかかるし、なにより制御が出来ない。女将さんどころか2人も巻き込まれるよ。あの小鬼之王を一撃で消し飛ばせる威力なんだ」
「よっしゃ、なら俺達が時間を稼ぐ。女将さんは俺が死ぬ気で守ってやるから安心しろ」
「出来るの?」
「あっしらに任せるっすよ。大丈夫っす。あっしたちにだって奥の手はあるんすからね?」
「そっか……なら、任せた」
2人を信用しよう。
「話シ合イハモウ終ワリカ?」
「行くっスよ! 『極限解放』、『多重加速』!」
トラスの姿が掻き消える。
次の瞬間には小鬼之王の眼前まで迫っていた。
眼で追えない。
多分今だけは、Aランク、アリスやハーレンに匹敵する強さだろう。
ただ、かなり消耗が激しそうだね。
長くは保たなそうだ。
「ヌゥ……オノレェ!」
アイツも眼で追うのが精一杯らしい、トラスに翻弄されている。
今のうちだ。
「我、契約の天使にして天の書記」
魔力を練り上げる。
風が吹き荒れ大気が震える。
「玉座に侍り主の代行たる者」
明らかな異常事態、だが小鬼之王はこちらを見向きもせずトラスと戦っている。
『恐るべき魔性の小悪魔』の力で警戒心を解いたからだ。
「10の恩寵、136万5000の祝福、世界貫く背丈、72の翼、36万5000の眼、49の宝石、天上の光を以ってここに、誓約を刻まん」
あの小鬼之王だって真っ先に僕を止めるべきなのは理解しているはずだ。
その上で、止める必要はない、何も問題ないと判断してしまうのが僕のスキルの恐ろしさ。
流石に一対一だったら効かなかったから、バゲッジ達が来てくれて本当に良かったよ。
「聖なるかな、いと尊き主よ。彼の者に天の裁きを」
雲が渦のように巻き、光が射し込んだ。
数多の魔法陣が縦に連なる。
「バゲッジ! 守って!」
「応! 了解!」
「焼き尽せ! 炎の柱よ──」
バゲッジは女将さんの前で大剣を地面に突き刺して仁王立ちした。
トラスは急いでバゲッジのもとに行く。
「あらゆる災禍を防げ! 『不動の守護者』!」
「『偽典・熾天の焔よ神威を示せ』!!!」
光が天より降り注ぎ、小鬼之王の姿を、集落の大半を覆い隠す。
そしてそこから轟音を響かせながら炎の柱が立ち昇った。
「はぁ……はぁ……」
炎が消えると、結界に守られ無傷のバゲッジ達が現れる。
「か……勝った……」
治癒魔術で回復し、急いで3人のもとに駆け寄った。
「2人とも無事!? 女将さんは!?」
「全員無事だ……でも女将さん目を覚まさないぞ」
女将さんは眠り続けている。
これだけ激しい戦闘音がすぐ近くから聞こえるのになんでだ?
「この匂い……スリプルの実っスね」
「確か……睡眠薬の材料になるんじゃなかったか?」
「この匂いの濃さだと……かなり危険っス、すぐに解毒薬を飲ませないと」
成る程……スリプルの実を食べさせられたのか。
アリスに渡された図鑑にも載ってたね。
解毒薬を取り出し、口に含む。
そしてそれを口移しで飲ませた。
「ん……んん……ここは……」
「女将さん!」
「……あら? ライ君……? どうして……?」
よかった!
目を覚ましたみたいだ。
「えっと……薬草を取りに森に行って……それで……いや……それより……大丈夫? すごいボロボロで……血が流れてるわ……」
「僕は大丈夫です。さぁ、帰りましょう。ミリアちゃんが待ってますよ。立てますか?」
手を差し出し女将さんを立たせた。
「バゲッジ、トラス、助けてくれてありがとう」
「気にすんなって」
「ライの兄貴の役に立ててよかったッス!」
「さあ、帰ろうぜ。もう限界だよ」
「うん!」
もうへとへとだよ。
女将さんをミリアちゃんの所に届けたら速攻で寝てやる。
【真名】織田暮愛
【天職】くノ一
【性別】女性
【身長/体重】157cm/46kg
【属性】混沌・善
【特技】隠密、絵描き、漫画描き
【趣味】アニメ、漫画
【好きなもの】アニメ、漫画
【嫌いなもの】運動
【苦手なもの】バッドエンド、メリーバッドエンド
【備考】
「ふへっ」っと笑うメカクレ陰キャオタク女子。




