EP.11 戦闘!ゴブリンの集落
僕が異世界に来てから約1ヶ月が過ぎた。
明日は2人とお別れする日だ。
「はぁっ……! はぁっ……!」
冒険者ギルドでたむろしていると、ミリアちゃんが駆け寄ってきた。
「あれ? ミリアちゃん? どうしたの?」
今日はミリアちゃんは熱が出てお休みって女将さんが言ってたけど。
いや、顔が真っ赤だ。
多分熱を気にする余裕もないほど慌ててるのだろう。
「ライくん! お母さんが! お母さんが!」
「落ち着いて、ミリアちゃん。女将さんに何があったの?」
嫌な予感がする。
「お母さんが小鬼族に!」
「なっ!」
どういうこと?
なんで女将さんが?
「えっとね、私の熱を治す為に薬草を取りに行ったの。それで大量の小鬼族が襲ってきて雇ってた冒険者がお母さんを置いて逃げちゃったんだって」
は?
置いて逃げた?
何のために冒険者雇ってると思ってるの?
というかそもそもなんで女将さんが直接取りに行ってるんだ。
確かに最近薬草が品薄らしいけど、買えなくても冒険者に取りに行かせればいいだけじゃ……。
いや、そういえば薬草採取が趣味だって言ってたっけ。
「その雇ってた冒険者たちも流石に罪悪感があったのか、私にそのことを伝えてからどっか行っちゃって……」
ふざけてるのかそいつらは。
そんなことしたらもう二度と冒険者としてはやっていけないだろうに。
というか僕が潰す。
いや、その冒険者は後で対処すればいい。
今は女将さんのことだ。
まずいな……。
この世界の小鬼族は同人誌みたいに女性を犯したりする事はない。
というより、生殖器官を持たず、食事で取り込んだ魔力を使い繁殖する。
そして人肉が最も効率がいいらしく、大人の人間1人分で5〜10匹産むそうだ。
小鬼族の恐ろしい所は、人間を生きたまま喰らうという所。
食べても死なない部位から少しづつ噛みちぎるらしい。
だから奇跡的に助かっても、手足を失ったり精神を病んだりで、再起不能になっていることがほとんどだそうだ。
苗床になるのと踊り食いされるのどっちがマシかは知らないけど、どちらにせよ碌なものじゃない。
「すぐに助けに行く! 方向はどっち!?」
「リマジ森のあっちの方! ライくん! お願い!」
アリスとハーレンは今日も依頼を受けていて町にいない。
僕がなんとかしないと。
大丈夫、大丈夫。
今の僕なら、小鬼族が何匹いたところで問題ない。
「行ってくる!」
僕は冒険者ギルドを飛び出した。
「っと、ごめんなさい!」
「ちょっ、ライの兄貴!?」
ギルドを出る際に誰かにぶつかったが、焦っていた僕は軽く謝罪して再び走りだした。
魔力を脚に集中させ肉体を強化し、全力で踏み出す。
町を出てすぐ足の裏から魔力を放出し、さらに加速して森に向かう。
そして森の奥深くに入るとそこには大量の小鬼族がひしめき合う集落があった。
「小鬼族……数が異常だ」
来るまでにやけに小鬼族を見かけるとは思っていたけど、まさかここまでとは。
これだけの数がいたら、いくら小鬼族とはいえ、街1つ滅ぼせるだろう。
だいたい数千ぐらいだろうか。
これは間違いなく統率種がいる。
それも上位の。
将軍種か、それとも王種か。
流石に皇帝種や魔王種はないだろう、いたらとっくに街が滅んでる。
勝てるか……?
将軍種なら多分なんとかなる。
王種でも、何回か死ぬかもしれないが勝てないことはないだろう。
周囲の被害を考えなければ死なずに勝てるだろうけど、でもそしたら女将さんが……。
「ああ、やっぱり見たくないな」
ミリアちゃんの悲しむ顔。
父親のいないミリアちゃんにとって、母である女将さんは、唯一の心の支えだ。
もし女将さんが死ねば、ミリアちゃんは泣くどころじゃ済まないだろう。
「うん、やっぱり僕がやるしかないよね」
僕はバッドエンドとか大嫌いだ。
意地でも女将さんを死なせるもんか。
「『可憐なる玉座の天使』」
女将さんがどこにいるか分からないから、巻き込まない様に3分間だけだ。
全力で暴れてやる。
──性質付与、狂戦士。
「クラス、『舞い踊る黒き女神』」
槍が三又に変形し、柄は青黒く、穂先は赫く変色した。
銘は『破壊神の三叉戟』。
変化はそれだけに留まらない。
背中から計8本もの腕が生え、それに合わせて槍も増える。
肌の色が青黒く変色し、額からは第三の眼が開いた。
──狂化、80%。
その瞬間、意識が融ける。
身体が憤怒に支配され、制御を失う。
「ゔゔ……ゔぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
爆発的な魔力の高まりと共に、咆哮が轟いた。
その細腕からは考えられない剛力によって槍が振るわれる。
一振りする度、一突きする度に轟音が鳴り響き、有象無象の小鬼族達は断末魔の叫びをあげる間もなく消し飛ばされ、踏み込む度に地面が抉れる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
薙ぎ払い、突き刺し穿ち、叩き打ち砕く。
理性なく、嵐のように暴れているだけ、しかしその動きは槍舞のように美しかった。
「ぐっ! ぐがあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!」
小鬼族の一撃が脇腹を掠める。
しかし、狂化による影響で痛覚が鈍っているため、咆哮をあげすぐさま反撃する。
だがその瞬間、矢が頬を掠めた。
1つ、また1つと、その柔肌に傷が増えていく。
切り傷、刺傷、打撲痕。
小鬼族たちの装備する粗末な、けれど多種多様な武器による攻撃が、その肉体を蝕む。
3分が経ち、スキルが解除された。
理性を取り戻した僕の周囲には数多の屍が積み上げられている。
「ふう……とても……アイドルとは……思えない戦い方だけど……ねっ!」
飛んできた攻撃を弾き飛ばし、防御に徹する。
「今度はこれだ!」
──性質変化、魔術師
「『王権示す玉座の女神』」
今度は槍が青緑になり、穂先から眩い光を放ちだした。
肌が褐色になり、翼が生える。
そして僕は全力で空へ飛翔し、体勢を整えた。
「|傷を閉じよ《schließe Wunden》、『快癒』」
緑の光が全身を包み込み、次第に傷が癒えて行く。
四節級の治癒魔術だ。
僕は三節級の魔術までしか使えないが、クラスの性質変化に合わせ変形した槍の能力の影響で、一段階上の位階の魔術を行使可能になっていた。
それだけでなく、一節分の詠唱短縮を使えたのが、二節分まで短縮できるようになった。
ホントは治癒魔術だったら聖職者の性質付与の方が効率がいいんだけど、性質変化は再使用まで3分のクールタイムがあるからね。
偶像のバフも聖職者のバフもスキルによるバフも自分にはかけられないから、これだけの数の小鬼族を戦闘向きじゃない性質変化で耐えれる気がしない。
仲間がいればよかったんだけど……ないものねだりしてもしょうがないし。
「っ!」
殺気を感じ後ろを向く。
そこには錆びた斧を振るい首元を狙う小鬼族の姿があった。
「うっそでしょ!?」
ギリギリで回避し、小鬼族に手をかざし、魔法陣を展開する。
一節級、『着火』。
ただ火種を起こし火を着けるだけの簡易的な魔術。
だが、本人の魔力量、クラス補正、槍の能力、スキルによる強化が重なることにより、小鬼族程度であれば容易く灼き尽くすことの可能な魔術になっていた。
一体何が起きた?
ここは空中、それもかなりの高度。
空を飛べるはずのない小鬼族が居る筈がないのだ。
何をしたのだろうと下を観察すると驚愕の光景が広がっていた。
小鬼魔術師に強化魔術をかけられた小鬼弓士が、小鬼戦士を投げ飛ばしてきていたのだ。
「馬鹿じゃないの!?」
確かに弓士は投擲技能も含まれるけどさぁ!
それは違うでしょ!
同族投げ飛ばすんじゃないよ!
しかもこの高さだし着地のことなんも考えてないな!?
完全に捨て駒だコレ!
「こうなったら! 『火矢』!」
5つの魔法陣が展開され、下を向くように炎の矢が現れる。
魔法陣から射出されたそれは小鬼族の頭蓋を貫き、そのまま死骸を灰と化した。
「『火矢』! 『風刃』! 放て、『水砲』!」
上空から多種多様な魔術を放つ。
魔術や戦技、矢、槍、小鬼族などが飛んでくるから一方的とまではいかないが、かなり有利に戦えている。
さっきみたいに油断しなければ基本当たることはないしね。
「キリがない……早く女将さんを探さないといけないのに」
僕の魔力感知じゃ誰の魔力かまでは分からない。
魔術師じゃない女将さんの魔力量じゃ、魔力感知で小鬼族と識別するのは難しい。
もっと技量があれば魔力の波長で指紋みたいに識別できるらしいが、今の僕には無理だ。
つまりこの大量の小鬼族を捌きながら、駆け回って探すしかないのだ。
槍術、闘気、魔術、体術、スキル。
使えるものを全て使い、手を変え品を変え、小鬼族を殲滅しながら突き進んでいく。
殺して、殺して、殺し尽くした。
「はぁ……はぁ……」
数が全く減らない。
いや、減ってはいる。
大体半分程殺しただろう。
ただ、数が多すぎて半分殺した程度じゃ状況が全く変わらないだけだ。
それどころか小鬼騎士とかの上位種まで出てきて押されている。
このままじゃ不味いね。
「ふぅー。落ち着いて」
そうだ、落ち着かないと。
そして覚悟を決めろ僕。
目指すは最高のハッピーエンド一択。
それが見れるなら僕の命の1つや2つ、安いものだろ。
「よし! 覚悟完了!」
地上に降りて性質変化を解除し、1つの魔術を行使する。
『偉大なる玉座の天使』の固有魔術の1つ、『偽典・熾天の焔よ神威を示せ』。
超高温の炎の柱を発生させ、敵を焼き尽くす能力だ。
火力だけならアリスの魔術すら上回る。
これを使えばこの状況を確実に好転出来るだろう。
ただ、制御できないから周囲の被害が計り知れない。
当然、今の僕に最高温度を出せるわけないけど、それでもかなりの高温になるからね。
「我、契約の天使にして天の書記。玉座に侍り主の代行たる者」
詠唱に合わせ印を結び、攻撃を回避するように舞を踊った。
詠唱、印、舞、魔術を制御する為に出来うる限りのことをする。
最悪、周囲が壊滅しても女将さんが無事ならそれでいい。
ここは森の奥深くだし、冒険者もこんなあからさまに危険な場所に近づかないだろうから、多分大丈夫だろう。
威力を極限まで抑え、発動範囲は自身を中心にする。
僕ごと灼かれる事になるけど、女将さんを巻き込むわけにはいかないから、仕方ない。
「10の恩寵、136万5000の祝福、世界貫く背丈、72の翼っ!? くっ!」
詠唱を妨害しようと、何度も攻撃される。
もう狂化による痛覚鈍化はない。
気合で痛みを耐え、詠唱を続ける。
「36万5000の眼、49の宝石、天上の光を以ってここにっがはっ! ……ここに、誓約を刻まん。聖なるかな、いと尊き主よ。彼の者に天の裁きを──」
後は魔術名を唱えるだけ。
まだだ。
まだ制御が足りない。
だから固有魔術を制御するためにもう1つ魔術を発動する。
「大いなる主よ、怒りを抑え給え。我が命を捧ぐ。天の裁きは我が敵にのみ降り注ぐ」
固有魔術の詠唱を終えた僕は、魔術を発動待機状態にしてもう1つの詠唱を始めた。
これは生贄魔術の一種で、自身の寿命や生命力を対価にあらゆる奇跡を引き起こす、禁忌指定された魔術だ。
なぁに、72個も命があるんだ、1つくらい捧げても問題ないだろう。
この魔術の特徴は詠唱が不定形であることだ。
生贄魔術は自分が引き起こしたい奇跡に合わせて変化する。
今回は固有魔術が女将さんに当たらないようにすることだからそれに合わせた詠唱をした。
「『主よ、この身を──」
その時だった。
詠唱を遮るかのように大声が響く。
思わず生贄魔術を中断してしまった。
「おっと! そいつはまだ早いんじゃないか?」
「助けに来たっすよ! ライの兄貴!」
「バゲッジ! トラス!」
やって来たのは『血狼の戦刃』の2人だった。
この小鬼族の群れを突っ切ってきたのか。
これならなんとかなるかもしれない!
【真名】アリア
【天職】料理人
【性別】女性
【身長/体重】166cm/62kg
【属性】秩序・善
【特技】料理、調合
【趣味】薬草採取、裁縫
【好きなもの】子ども、乳製品、美味しいごはん
【嫌いなもの】食べ物を粗末にすること、子どもを傷つけること
【苦手なもの】別れ、老い、暴力的な人間
【備考】
宿屋『春の黄金鹿』の女将。




