不安
マライブの正門で俺は何事もなく中に入ることが出来た。それはバーグが事情を話しているかららしい。しかし今の街の現状は住民や政治家達が今回の騒動で不安から皆警戒しているらしく目立つ行動は避けろ、とのことでその黒髪を隠すようにと深めの帽子を渡された。その時ちらりと兵士の顔が見えたが俺の事を訝しんでいるように見えた。
今の俺は今回のキブスやソライブ、メライブの騒動からの生き残りの一人として連れて来られたということになっているが黒髪ということから不吉なものとして見られているのかもしれない。
ギルドに着くと中にはマキとカレンの二人が待っていた。
ガルク「よう。今帰ったぜ」
マキ「…やっと帰って来たのね」
マキさんにしては何だか歯切れの悪い返事だった。
二人の間に挟まれているテーブルには多くの書類が置かれている。
ジール「クエストの書類ですか?それにしてはいつもより数が多いようですが」
マキ「どれも同じものよ。」
見せてくれた書類には護衛、討伐と様々だった。ただどれも同じというのは目撃情報、討伐モンスターの内容だ。
ミラド「まるで『人間のような魔物』が動くものすべてに襲い掛かってくる…?一体何かしら?新種の魔物かしら」
ミラドやジールは不思議そうに見ていた。これが一体何なのか、分かっていたのは彼ら以外の3人だけだろう。
咲「ミラド、それは…」
マキさんが首を横に振る。教えるべきではないと。知ったところで彼女らにはどうしようも出来ない。そう言っているようだった。
ガルク「…ここのクエストは俺と師匠で対応する。ミラドとジールは街で何か遭った時の市民の誘導、防衛を頼む。…長めの休みだと思って休んでくれたらいい」
有無を言わせない静かな迫力があった。二人とも何か察したようだったが黙って頷いていた。
マキ「…こちらの話にはけりがついたわね。それで――」
ちらりとこちらを、いや此処に入ってから俺の後ろに隠れているドラコに目を向けているようだった。
ドラコ「ひっ…」
マキを先ほどから見て怯えているようだった。
咲「大丈夫だよ。マキさんはあの男のようなことは絶対にしないから」
ドラコ「ほんとう…?」
怯えつつマキの方をちらりと見つめる。
マキ「ええ。カイのようなひどいことはしないわ。約束する」
ドラコは少しだけ身体を出すが、そこから動こうとはしなかった。
よほどカイから色々と残酷なことをされたのだろう。
マキ「…彼と同じものを私にも感じるのでしょうね。…サキ。この子も貴方が変えたのかしら?」
俺は頷く。マキさんはそう、と一言いうと後の事をカレンに任せ奥の部屋へと消えていく。
カレン「えっと、フラーフェさんは騎士団長様のお部屋にいます。ただ今は誰ともお会いしたくないとのことですので面会は難しいそうです。あと、サキさんとドラコちゃんにはこちらのギルドの仮眠室をお使い下さいとのことです」
食料、施設の説明を一通り聞く。その後それではとカレンは大量の書類を持ち奥の部屋へと入っていった。
これから一体どうなってしまうのだろうか…?
誰も何も予想できないままだった。