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物流の街 キブス

門番「…よし。通れ」


門番は道を譲る。

…怪しまれずに中に入れたようだ。


フラーフェ「良かった。あとはカイって人に話を聞きに行くだけだね」


小声で話しかけてくる。それにコクリと頷く。

ここからは何が起こるか分からない。いつ襲われるのかも。

そんな中に一人で情報収集する人物とは一体何者だろうか?

ガルクが言うにはこの街のどこかにカイという古い知り合いがいるそうだ。


門をくぐり抜け晴天が広がる。キブスは山の上にあるがマライブから様々な魔法を提供されているらしい。気温も一定の温度を保たれ、街にはいる前は髪の毛も乱れるほどの風も今は全く吹いていない。そして空には様々なレールが至る所に繋がれている。所々四角いものがあちこちに流れ建物に空いた穴へと入っていく。人も忙しそうに歩いている中、中央にはこの街の中心と象徴するように城が見える。見た所、街としては動いているようにも見えるが、ガルクの言葉がちらつく。


咲「この街に俺を狙う誰かがいるんだよな…」。


フラーフェも小さく頷く。

迂闊にここの住民に尋ねて良いものか…。注意しつつも尋ねてみる。通行人は忙しいのかこちらに振り向くこともしない。

その時一人の男が小さく声をかけて来た。メガネをかけた彼は目にクマがあり頬が少しこけていた。


???「君たちがガルクの言った知り合いかな?」


ガルクの言葉が出て瞬時にこの男がカイであることが分かった。彼はこっちこっちと案内してくれる。

そこは街の中心から外れた小さな二階建ての家だった。


カイ「ここならようやく話が出来るな。」


一息ついたといったような顔をする。しかし俺の服を見て顔をしかめる。

すぐにテーブルの上にあった紙に手を伸ばし何か書き始めた。

書き終えた紙には、服にどうやら細工をされているらしく、今から解除するとのことらしい。


数分後、小さな破裂音がする。


カイ「ふう。どうやら盗聴器の様だね。変な男に襲われただろう?奴らは狙いを付けた者にこうやってマーキングの様な事をするんだ」


そう言われると確かあの気味悪い男に襲われた時、何かされたような気がする。


カイ「さて、それは置いといて…君たちがガルクの言っていた二人だね。改めて僕がカイだ。そちらがフラーフェ君、そして君がサキ君だね?…いやいやガルクが好みそうな体型に姿を変えたものだ」


愉快そうに笑っているが、こっちとしては笑えない。全く笑えない。


咲「アイツ、元に戻ったら覚えておけよ…」


カイ「おっと…フラーフェ君は魔物なのか。中々上手い事仕上げているな」


咲「…フラーフェが魔物だって何で分かった?」


俺の問いに単純に答えた。


カイ「何でって、僕は魔物を研究しているんだ。マキが言っていなかったかい?…ああ、彼女のことだ。僕と同じ研究者というのが恥ずかしかったのかな?」


…マキも魔物を研究していたのか。だから最初あんなにフラーフェを…。

いや、今はそんなことに驚いている場合じゃない。


咲「それで…ガルクが言うにはここでかなり厄介なことが起こっているそうだが?」


メガネを取り布で拭きつつも彼は言った。


カイ「そうだね。その話に戻ろう。…どうやらキブスが他の街と戦争を起こそうとしているみたいなんだ」



フラーフェ「戦争!?」


大声を上げるフラーフェに静かにとカイは口の前に人差し指を出す。


咲「何だってそんなことを?それぞれの街は役割を担って何事も無かったじゃないか」


カイ「それが僕にもさっぱり分からないんだ。だからガルクは君たちをここに来るよう急がせたんだよ」


そう言うとカイはポケットからとあるポスターを見せてくれた。

その紙を見てみると、どうやらキブスの中心にある広場でこの街の誕生祭をするらしい。


カイ「それが明後日開催される。その席にキブスの重鎮達は出席する。その時彼らの居城はほとんどがら空きになる。その間にそこで情報収集してもらいたい、ということさ」 


咲「なるほどな…だが何処にそんな書類があるのかなんて見当ついているのか?」


安心してとまた一枚の紙を取り出した。


カイ「これは僕が中を確認して作り上げた地図がある。色々調べた結果どうにも怪しい空間があってね。そこに何か重要なものが隠されているはずだ」


ただ、と付け加える。


カイ「そこに行くには多分隣の部屋の図書室に侵入する必要があるはず。他の部屋は入れたのにそこだけ入ることを許されなかったからね。後は――」


小さな鳴き声が聞こえ奥の扉から小さな何かが入って来た。


???「フギャー!!フギャー!!」


小さな翼を生やしたそれは容赦なく口から火を出しカイの顔を燃やした。


カイ「…ドレン?また首輪を付け忘れたのかい?」


静かな怒りは扉の前にいつの間にか立っていた褐色の肌色をした彼女に向けられていた。


ドレン「…すみません。でもこの子が可愛そうなので…」


カイ「だからといって僕が焼けても良いのかい?」


ドレン「……分かりました。さ、ドラコ。こっちに…」


ドレンと呼ばれた彼女に抱きかかえられ、小さな生物は奥に消えていった。

あれは一体何だろうか?

どうもカイを敵視しているようだったが…


カイ「ははは。ごめんね、見苦しいところを。先程の小さいのはドラコ。かの伝説のドラゴンの子供さ。そして、先ほどの彼女は僕の助手のドレン」


伝説のドラゴン。そう言われているのは聞いていた。滅多に人前に姿を現さず、見る事さえないかなり珍しい生物の一つだ。でもなぜそんな生物がここにいるのだろう?


カイ「どうしてここにいるのかって顔をしているね。それこそ僕がここにいる理由でもあるのさ。その生態の研究の為にここにいる。だってドラゴンといえば高所に多い生物だからね。やっとのことで見つけたものの、どうも僕じゃなくて彼女に懐いているようでね。彼女に世話を任せているんだ」


ふぅ、とため息をつく。


ドレン「カイ…そろそろサキさん達を休ませてはいかがですか…?」


ドラコ「フギャウ!!」


いつの間にかカイの隣にはドレンと首輪というよりも馬に付ける手綱の様なものを付けたドラコがいた。


カイ「ん?ああ、もう付けたのか。そうだね。確かに山を登って来たんだった。話はまた明日にでもしよう。二階を自由に使うといい。ドレン、彼らを案内してあげて」


頷いた彼女はドラコを抱えながら俺達を二階に案内してくれた。


ドレン「では、こちらの部屋をどうぞお使い下さい…。シャワーや食料などはあちらの奥の扉の方にありますので…」


ドラコ「ギャウ、ギャウ!!」


ドレンの言うことにそういうことと言わんばかりに頷く小さなドラゴン。何か発する度に小さな火が漏れ出ているのが少し危なっかしいが。


フラーフェ「可愛いドラゴンだねー。よーしよし」


軽く頭を撫でられると何とも言えない猫撫で声を出す。


フラーフェ「わー!この子大人しくてかわいー!!ねぇサキも触ってみて!」


ドラコがこちらを見つめる。一瞬怯んでしまう。あまりこういったことには慣れていない。先程のカイの様になりそうだが…。


ドラコ「ギャウ?」


撫でてほしいといわんばかりの目で見つめられる。

とりあえずそーっと手を伸ばしてみる。

するとドラコ自身が手にすり寄って来た。

一瞬怯んでしまう。ヤモリの様なひんやりとした皮膚。表面にザラザラとしたものは無く寧ろ軽く指がくっつく様な弾力のある触り心地だった。


咲「中々感触は心地良いんだな…。それに人懐っこい」


ドラコ「ギャウ!」


ドレン「ふふ…。この子がこうやって自分から撫でさせてくれるのはあなた方に甘えたいということですよ」


微笑を浮かべた彼女。

このドラゴンは基本ドレン以外には威嚇するということだ。

今もカイには何故か懐かずああやって顔に火を放つのだとか。


ドレン「明日は一日私が一緒に街を紹介させていただきます…。大したおもてなしは出来ませんが今日はお部屋でくつろいで下さい」


ドラコ「ギャウッ!!」


彼女はお辞儀をし、一階へと降りて行った。


咲「さて、明後日が本番か…」


フラーフェ「ねぇ、サキ…。キブスの偉い人たちは何で戦争なんて起こそうなんて考えているのかな…?」


咲「さぁな…マライブは平和そのものだったし、バーグさんも別にどこかで戦争なんて話もしていなかったし」


ガルクやマキにしてもそうだ。カイからこの情報を手に入れたのだろう。カイという人物はかなりの危険な橋を渡ってこの情報を手に入れたのだろう。


咲「いや、今日はこういうことを考えるのはよそう」


疲れからかあまり頭が回らない。

ここまでの道のりは険しかったからだろう。段々と眠気が襲ってきた。早く寝たいという欲が出る。


フラーフェ「慣れない身体でここまで歩いたもんね。…じゃあ私はシャワー浴びさせてもらおうかな。お休み、サキ」


咲「ああ、先に寝させてもらうよ。それじゃフラーフェお休み」


そういって俺は部屋に入っていく。

奥の方にベッドが二つある。扉に近い方のベッドに倒れ込むように寝転がると、そのまま俺の意識はすぐに遠のいていった。





フラーフェ「サキ、おはよう…ってどうしたの?何だかまだ疲れてるように見えるけど…」


咲「大丈夫。気にしないでくれ…」


朝方眠気眼でシャワーを浴びたのがいけなかった。自分の身体の状態をすっかり忘れていた。いつも通り服を脱いだら自分の身体に驚き頭をぶつけてしまったなどと恥ずかしくて言えるわけがない。


食料として置いてあったものを頂き一階へと降りる。

丁度ドレンがドラコにマッサージの様な事をしている所だった。


ドレン「おはようございます…。昨日はよく眠れましたか?」


ああ、と答え辺りを見渡す。カイの姿が見当たらない。


ドレン「カイなら朝早く研究所へと行きました…。私も本来朝早くにはここを空けるのですが、あなた方の案内があるので今日はドラコと一緒にお休みです」


ギャウギャウとドラコも返事の様な声を出す。


ドレン「準備が出来ているのなら今すぐにでも案内出来ますが…」


じゃあそれならと案内を頼み、外へと俺たちは出た。



外は青一色の晴天。既に街の方では忙しそうに荷物を持った人、書類などが入っているであろう封筒を大量に荷車に乗せ動く人。この街は朝から忙しいようだ。


咲「マライブはこんなに忙しそうな感じではなかったのにな」


同意というようにフラーフェも声を上げながら見つめる。


フラーフェ「この街の人は働き者の人が多いんだね。もう少しのんびりしても良いのに」


ドレン「…仕方のない事ですよ。ここは物流の街、キブスですから。すべての物をすべての街へと届けることで成り立っていますから。…大切な人への手紙や物を丁寧に素早く送らねばなりませんので…」


ドレンの説明に納得する。ただ、キブスの人たちは休みというモノがしっかりあるのだろうか?そんな心配もあるがドレンはそういった体制はしっかりしているのでそう不満を持つものは少ないのだそうだ。


次に訪れた場所はこの街の唯一の憩いの場という大きな広場へと向かう。そこへ向かう途中も人々はせわしなくあっちへこっちへと行ったり来たりしていた。

人はちらほらいるものの静かで閑散としていた。

広場の端に立つと広大な風景が見渡せた。マライブの広場と比べ磯の香りなどは全くないが、景色は素晴らしかった。


フラーフェ「うわぁ!!すごいすごい!!」


かなりのはしゃぎっぷりだ。確かにこんな風景を見られるのはここだけだろう。


ドレン「いかがですか?ここからの景色であの喧騒を忘れ一日ここで過ごす人は多くいます。私も辛いことがあればここで一日ずっと眺めるんです。そうすれば嫌なことも全て忘れられる…」


ドラコ「ギャウ!!」


ドレン「ふふっ…。ドラコもそう思いますか?」


そうドラコに話す彼女にはどことなく哀愁が漂っていた。


フラーフェ「あ!ここにもオブリテの花が咲いてる!!」


フラーフェが指さす先にいくらかのオブリテの花が咲いていた。見た所オレンジ色の花しか見当たらない。


ドレン「オブリテの花をご存じなのですね。ここは日当たりが良くこの街一番の休憩スポットなんですよ。この街の空が暗い時、日の光が入らないような寒い時、私は良くドラコのおなかをさすってあげます。優しく気持ち良くなるように。そうすると心地良くなって眠ってくれますから」


そう言うと彼女はカイの家に戻りましょうと言った。まだ太陽が真上にある頃だった。



その日の夜、カイにドレン、俺とフラーフェは二人の向かいに座り明日の夜に行う作戦の確認をした。



俺はベッドに横になっていた。何となく昼間のことを思い出す。何かどうしてか釈然としない。そんなことを考えていると扉が開く。中に入って来たのはフラーフェとドラコだった。


フラーフェ「あ、起こしちゃった?」


咲「いや、まだ寝てないさ。それよりもドラコと一緒にどうしたんだ?」


苦笑いするフラーフェに対しドラコは元気に声を上げる。


フラーフェ「ドレンさんが今日はちょっとやることがあるからドラコをと一緒に寝てあげて下さいって頼まれて。私達となら安心だってさ。それよりも…あっ」


咲「うわっ!?」


フラーフェの手をすり抜け俺に突撃するようにドラコが飛び込んでくる。


ドラコ「ギャウ!ギャウ!!」


まるで自分の親の様に甘えてくるドラコに驚いてしまう。

ペロペロ舐められたり頬ずりされたり。くすぐったくてしょうがない。


フラーフェ「なーんか寂しいなぁー…えいっ!!」


咲「フラーフェ!?」


ドラコと同じようにフラーフェまで甘えてくる。

それにもみくちゃにされかなり息苦しい。


咲「お前ら!ちょ、息苦しいって!」


フラーフェ「ドラコなんかに私のサキを独り占めになんかさせないもんっ!!」


ドラコ「ギャーウ!!ギャウギャウッ!!」


まるでこっちこそと言わんばかりに対抗するドラコ。

そのあと気が済むまで俺はずっともみくちゃにされ、眠れたのは二人が騒ぎ疲れ眠った後だった。




作戦決行日の夕方。その日の朝ドレンは作戦の準備として朝早くに家を出ていた。カイ自身もある程度手伝っていたからか目のクマがより一層酷くなり髪はぼさぼさになっていた。


カイ「裏門のところでドレンが待機している。さて、そろそろ行ってもらおうか。僕はここで君たちのサポートをしよう」


カイから渡された無線機のようなもの。これから俺達をサポートしてくれるらしい。


ドラコ「ギャウ…」


ドレンと一日会ってないのもあってかドラコはいつもの元気が無い。


フラーフェ「…ねぇカイさん、ドラコも一緒に連れて行っても良いですか?」


カイの顔が曇る。


カイ「駄目だ。滅多に見ることも出来ない貴重なドラゴンだ。危険なところには連れて行けない」


きっぱりと断られてしまう。だがフラーフェは引かなかった。


フラーフェ「ドレンさんに会わせてあげたいんです。好きな人とは一日でも会わないのは辛い事だから…」


咲「…カイさん俺からも頼む。ドレンさんもサポートだろう?俺達みたいに危険な所に行くわけじゃないんだ。それにここに一緒にいるとドラコに作戦の邪魔をされるかもしれないぞ?」


ドラコ「ギャウ!!ギャウ!!」


縛られて大きくあかない口から小さな火が漏れ出る。


カイ「…ふぅ。僕の所より彼女の方がコイツも落ち着くか。分かった、そうしよう」


どうやらカイが折れてくれた。

フラーフェがドラコに向かって良かったねと言うとドラコ自身も羽を勢いよくパタパタさせ声を上げた。


カイの言う通り街は人通りが少なく中央付近は人混みや何やら楽器の様な音が聞こえる。

その祭りを横目に見つつ、俺たちは昨日の広場へと急ぐ。あの時とは違い誰一人いない中、ドレンが一人で作業しているだけだった。


ドラコ「ギャウォーン!ギャ!!」


ドレン「ドラコ?」


ドラコがドレンの元へと近寄っていく。まさかと思っていたのだろうドラコの鳴き声でこちらに気づいたようだ。


ドレン「カイの元で待つよう言ったでしょう?紐まで外して…」


叱っているようだが、顔には笑顔が浮かんでいる。


フラーフェ「ドレンさんごめんなさい。私がわがまま言ってカイさんの所から連れて来たの」


俺もフラーフェと一緒に頭を下げる。ここに来るまでの間勝手に口に付けられた紐も外していた。勝手なことをしたのは分かっているが何よりもそんな窮屈なのは可愛そうだというのが俺たちの意見だ。


ドレン「そうだったんですか。いえ、ありがとうございます。…ですが、この子はあなた方と一緒に行動させて下さい。この子は探し物が得意ですので」


フラーフェ「でも…」


ドレンは微笑むだけだった。本を開き何か唱えると紫色に光る模様が浮かび上がり扉が現れる。そこが裏口に当たる所で普段は隠されているそうだ。


ドレン「…ここを通れば図書室に続く廊下に出ます。一本道に一つの部屋があるのですぐに分かるでしょう。監視は減ってはいますが見つからないよう気を付けて下さい」


咲「…ああ、分かった。ドレンさんも気を付けて」


ドラコ「ギュ…」


悲し気な声を出す。ドレンは微笑む。目が潤んでいるようにも見えた。

俺達は光る模様へと入っていく。




――彼らが城へと姿を消していく。やれることはやった。私はつくづく天から見放されているようだ。死ぬことが決まってからこうも上手く事が運べるとは。

…後は死ぬだけだ。いや、本当に死ねるだろうか?


涙がこぼれ落ちる。体も震えてくる。

助けて、とも逃げて、とも言えなかった。だって私をあれらがずっと監視していたから。

恐怖からなのか冷たい視線からなのかは分からない。


ドレン「ドラコ…元気でね」


後ろから声がする。その声に憐れみを抱きつつも、私の意識はそこで途絶えた。




城の中は静寂に包まれていた。誰かがいる様な気配も感じられない。


フラーフェ「丁度誰もいないみたいだね…」


咲「そう…みたいだな。」


耳元に小さな雑音が鳴る。


カイ「良かった!繋がった!!そっちは大丈夫か!?」


咲「カイさん?どうしたんだ?」


どうやら今まで通信の妨害を受けていたらしい。敵が俺たちの存在に気づいたかもしれないというのだ。今まで以上に用心してくれとのこと。了解した。そちらも安全な所で避難してくれと伝える。そして俺たちは気づかれないように慎重に歩く。

城の廊下は正に絵に描いた様な煌びやかな雰囲気だ。床には赤く廊下の端まで伸びているであろう長いカーペット。白一色の壁に金色の模様が描かれ、その間に窓が一定の間隔で付けられている。マライブのバーグの屋敷と似た雰囲気だったがあちらと違うのは照明の明るさだろうか。バーグの屋敷は全て魔法で灯りを付けていた。しかしこちらは原始的な燭台であり日が沈みつつあるこの時間帯は灯りが頼りなく薄暗い。だが、今はそれが返って好都合だ。

廊下を歩くと一つの部屋の前だけ燭台の数が多い場所があった。その前に来ると明かりでうっすらと扉があるのが分かった。


咲「ここみたいだな…」


周りを見る。誰もいない。

少しずつ扉を開け中に誰かいないか確認する。足音は聞こえず扉の開く音が響くだけだ。

ゆっくりと扉を開け中に入る。図書室は吹き抜け構造であり天井には燭台が吊るされ薄暗い明かりで周りを照らしていた。


フラーフェ「このどこかに秘密の部屋に通じる何かがあるって…。骨が折れそうだなぁ」


咲「そうだな…。とにかく片っ端から調べよう」


ドラコ「……」


ここまでドラコが1つも声を上げない。いつもは何か声を上げるのだが、城に入ってからというもののやけに静かだ。

そう思った時ドラコが急に独りで飛び立ちどこかへと行く。


フラーフェ「ドラコ!?どこに行くの?」


慌てて俺たちは後を追いかける。中々移動が速く、姿を見失ってしまった。

ただ、どこからか何かがぶつかる音、ドラコの叫び声が聞こえてくる。

その場所へ急いで向かうとドラコが本棚に何度も何度も体当たりをしていた。


フラーフェ「こら、ドラコ静かにして!」


ドラコ「ギャァアオ!!ギャァアアオォウッ!!」


体当たりするのをやめさせようとするとけたたましく叫ぶ。

ドラコが体当たりしていた所を見るとおかしなことになっていた。

本棚にヒビが入ってボロボロなのは分かったが何故か本自身にもヒビが入り欠けていた。

するとそこから大きく崩れ始め部屋の様な空間が現れた。

隠し部屋か?

カイからもらった地図で方向を確認すると、どうもこの部屋が隠し部屋らしい。多分どこかにスイッチらしきものがあるのだろうが、強引に部屋に入ることが出来てしまった。


咲「暗くてどのくらいの広さなのか分からないな…」


空いた穴を覗いているとドラコが声を上げ独りでに先へと行く。


フラーフェ「待って!ドラコ!!」


ドラコを追いかけフラーフェも暗闇の中へと走っていく。


咲「おい、待てって!!…ったく!」


暗闇に消えたフラーフェとドラコを追いかけ暗闇の中へと足を進める。

暗闇の中、遠くに小さな火が出たり消えたりしている。

先に行ったフラーフェとドラコだろう。ドラコが火を出して位置を教えてくれている。

この隠し部屋はかなり大きな空間なのだろうか?足音がやけに響く。


フラーフェ「サキ、大丈夫だった?」


咲「ああ。先に行ったときはひやひやしたがな。…しかし、何かあるとは言っていたがただのだだっ広い空間があるだけで何も無いな」


地面も無機質なもので足音がかなり広範囲に響く。一体どれだけの広さだろう。


…何だ?何か音が聞こえてくる。


何か硬いものが当たる高い音だろうか?風が吹き抜ける音で曖昧にしか分からない?聞こえる音に耳を澄ましているとフラーフェが急に腕を引っ張り走りだした。


フラーフェ「サキ、走って!!あの男達だ!!!」


あの男、それだけで理解した。メニスタで俺達を襲ったあの男だ。

けたたましい奇声。耳がおかしくなりそうだが今はそんなこと気にしている場合じゃない。

かなりの数だ。フラーフェだけで相手できる数じゃない。

それに何故かフラーフェはディメンシスを使おうとしない。そういえばキブスに入ってから現れもしない。何故だ?いや、それよりも――

一瞬何か聞こえた?些細なことに気を取られた瞬間、足を何かに掴まれる。


咲「なっ!?」


その場でこけてしまう。薬が遠くへと転がっていく。俺を逃すまいとぞろぞろとあいつ等が集まり、奴らに身体を拘束されていく。皮膚にドロリとしたものが体を伝っていく。


フラーフェ「サキから離れて!!」


一心不乱に剣を振り回しあいつ等を攻撃するが数が数だ。フラーフェも押し負けていきあいつ等に押さえ付けられていく。


咲「フラーフェ!!!」


届きそうな位置にある薬に手を伸ばす。あと少しの所で届かない。

何かを嗅がされ意識が遠のいていく。フラーフェの叫ぶ声が小さくなっていく。

あと少し。もう少し早く薬を飲めばと後悔しながら、俺の意識は途切れていった。



…何かが顔に当たる。頭が働かない。視界もぼやけている。

また何か顔に当たる。視界が少しずつ鮮明になっていく。

ぼやけた視界には何か一定のリズムで音が鳴る物、人の身体が映され所々光っている物、事細かに数字が表示されている様なもの。まるで現代の機械と似たようなものが並べられている。

手や足を動かそうにも動かない。動かそうともがくと髪の毛を誰かに掴まれ無理矢理頭を上げさせられる。


???「やっと起きたか!ほら、しっかり目を覚ませ!!ほら!!!」


目の前にはカイがいた。


咲「カイ…?ここは…?」


カイ「気絶されたら研究が出来ないじゃないか!!」


咲「がっ…!?」


突然体に激痛が走る。体に電流の様なものが流れたような。

視界と頭が一気に醒める。

同時に思い出す。カイが俺らを裏切っていたことも。


咲「カイ、この…。うぁっ!?」


また全身に痛みが走る。


カイ「全く。何故研究に協力的にならない?この力がどれほど素晴らしい物か君には分からないのか!?」


何度も、何度も何度も身体に激痛が走る。段々と鼻に肉が焼ける様な臭いがしてくる。


???「まだそんな原始的な方法で実験しているのか?だから君は部下に慕われないんだ。だいたい――」


奥から年老いた老人の声が聞こえてくるが、意識が遠のいていきまた途切れた。




???「――キ!――きて!」


誰かの声が聞こえる。頭に何重にも響いていく。どうやらまた気絶したらしい。体を揺らされているのか、それともまたカイに何かされているのかさえ判別がつかない。そんなぼんやりとした頭は胸の痛みで覚めていく。


咲「うっ…」


段々とぼやけていた視界が元に戻っていく。同時に聞こえていた誰かの声もハッキリと聞きとれる。


フラーフェ「…キッ!!ねぇ、起きてよサキッ!!」


涙目になりながらずっと身体を揺らしていたフラーフェが視界に入った。


咲「フラーフェ…?」


声に気づいたのか目を見開ている。安堵感なのか溜め込んでいたものが溢れ出したのかフラーフェは顔をクシャクシャにして目から大量の涙がこぼれおちていく。


フラーフェ「サキィ…!!もうっ…死んじゃったのかと…思っ……」


最後まで言えず泣きついてくる。後ろにはドラコも一緒にいた。


ドラコ「ギャウギャウ!!」


フラーフェ「…うん、そうだね。まだ終わりじゃないもんね」


涙を拭いつつフラーフェは俺の手足の枷を外していく。


咲「フラーフェ…一体どうやって…」


確かドラコとフラーフェは牢屋に閉じ込められていたはずだ。


フラーフェ「ドレンさんのおかげだよ。ね、ドラコ」


ドラコ「ギャウ!」


そう言ってフラーフェの手にあったのは鍵だった。


フラーフェ「昨日私達で街の広場に行った時にドレンさんが言っていたでしょ。あれのおかげ。あの話に矛盾があって、それで気づけたの」


そういえば確かにドレンさんは言っていた。『空が暗い時、日の光が入らないような寒い時』と。オブリテの花はそこの気温で花の色が決まる。あそこに咲いていた花はオレンジ色だけだ。それにこの街の気温は一定になっている。つまりはあの言葉はこのことを指していたんだと今になって気づく。


フラーフェ「私たちが閉じ込められた牢屋が少しだけ寒くって。それでピンときたの。ドレンさんが言っていたのはここの事じゃないかって。もしかしてと思ってドラコをさすってあげたら鍵を口から出してくれたの。ドラコには辛い思いをさせちゃったけど…良し!外せた!」


外れると同時に俺は地面に両膝をつく。カイにやられたのがかなり響いているのか歩くことすらままならない。


フラーフェが自分の首に俺の腕をまわす。


フラーフェ「サキ、大変だろうけど頑張って!!」


少しずつ何とか歩く。とにかくここから逃げなくては。




武器はフラーフェがここに来る途中に見付けてくれた。治癒で回復は出来るのだが、もしあいつらが捜しているのだったら使えば場所がばれてしまう。見つからないようなるべく慎重に歩く。通路に窓は無く明かりが燭台しかなかった。今が昼なのか夜なのかも分からない。窓が無い延々と同じ廊下をずっと歩いていった。すると廊下の終わりと共に扉が見えそこを開ける真っ暗な部屋に出る。どうやら最初に俺らがいたあの部屋らしい。奥にドラコが開けた壁から光が差しているがその前には二つの人影が見えた。


カイ「随分と時間が掛かったね」


ふふっと声を上げる。逆光で彼の表情は分からなかったが、今の彼のそれは狂気に満ちているモノにしか感じられなかった。


カイ「全く最後の最後まで上手くいかないものだ。どうして僕の助手たちは全員邪魔をするのだろう?僕はこんなにも従事しているというのにねぇ…なぁドレン君」


ドレン「…」


嫌な静寂。ドレンは一つも声を発さない。…いや違う、耳を澄ますと微かに何か聞こえる。


咲「何だ…?」


俺は何とか聞き取ろうとする。


ドラコ「ギャアアアウ!!!」


突然今まで聞いたこともないドラコの奇声に驚き顔を向けると、ドラコは牙をむき出し威嚇をしていた。だが何か悲痛な叫び声にも聞こえた。一体どうしたんだ?


フラーフェ「ドレン…さん…」


何かにフラーフェも気づいたようだ。嗚咽の様な声が聞こえる。ドレンの方に顔を戻す。そこで俺もやっと気づいた。


カイ「ああ、腕が落ちたか。全く、君でも駄目だったか」


ドレン「ヴ……ヴゥァ…」


ドレンさんだったモノに。


部屋に明かりがつく。カイがドレンと言った人物は、いや人なのか?所々内臓も骨も見える。身体全体がドロドロに溶けているような、見ているだけで吐き気がこみ上げてくる。


咲「何で…何でドレンさんが…」


カイ「何で、だって?もちろん僕に逆らったからだよ。今まで全員そうだ。僕に反論した者、僕から逃げ出そうとした者、僕に助けを求めた者。この街の住人全て、だ。そういう奴らは餌が主だが彼女はそれなりに優秀だったからね、実験材料にしてあげた。ただそれだけだ。他に聞きたいことはあるか?」


咲「…たったそれだけでお前はドレンさんを殺したのか?」


カイ「違うな。彼女は死んでいない。これでも彼女は生きている」


カイが指を鳴らす。上から何十人とあいつ等がいた。その中には街で見かけた人、せわしなく働いていた人、入り口で出会った門番もいた。だが全員何か動きがぎこちない。


咲「まさか、この人たち全員…」


カイが一体の服をナイフで切り付ける。するとそこから赤色の液体を噴き出し。何故か人の形を無くしていく。最終的はそこにドロドロの肉の塊がそこには出来上がった。


カイ「彼らもそうだ。人間だよ、一応はね。ただご覧の通り彼らは僕の作った専用の服で形を維持しているだけだ。これじゃ使い物にならない。その上残念なことに脳まで溶けたのか知能も低く扱いづらくてしょうがない。『完璧な人形』として使うにはね。…僕が言いたいことは分かったかな?」


奥歯が割れるくらいに噛みしめる。あんなのは人間じゃない。もはや化け物だ。それにカイが言いたいことは分かった。だがそれは到底許されるものではない。


カイ「そうさ!僕は人間を魔物にして使役したいんだよっ!!君が彼女にしたようにさぁ!!」


咲「ッ!?お前とは違う!!」


カイ「違わないさ!!君は魔物を人間にしたいからした!!僕の人間を魔物にしたい事と何が違う!?何も違わないだろう!!」


フラーフェ「サキとあなたを一緒にしないで!!」


カイ「そうか!ならばこうしよう!!」


カイが指を鳴らすと数体が姿を消す。その瞬間俺は何かに突き飛ばされる。顔を上げるとフラーフェとドラコがあいつ等に拘束されている。


咲「フラーフェッ!!」


駆け寄ろうとするも数体が道を阻む。


カイ「君が攻撃しなければそいつ等は何もしないよ。ただし…ほら、ドレン君。あの二匹を殺せ。そうすれば君は元の人間に戻れるんだ。…やってくれるね?」


ドレン「…」


何も言わずに少しずつ歩き始める。




カイ「あの魔物風情を助けたいなら、彼女達を救いたいなら君が彼らを魔物に変えてみなよ」


咲「ドレンやめろ…!!」


フラーフェもドラコも叫ぶ。だがまるで聞く耳を持たない。

カイが言う条件は俺がフラーフェにしたことの逆、つまりあの醜い存在にされた彼らから“人間という概念を無くせ”ということだ。もし本当にまだ人間だというなら、彼らやドレンをあの苦しみから救うことは出来る。だが彼女らを人間に戻すことは出来ない。一度無くしたモノを元に戻すことは不可能だからだ。カイに一生魔物という名の奴隷として使役されることだろう。いや、カイの目的はそこじゃない。この力を利用するつもりだ。使えば応用した技術で魔法でも薬でも作ることだろう。そうなればすべての人間が魔物に変わることだってありえてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。


カイ「良いのか?このままではこいつらどころか彼女も救われないぞ?」


刻一刻と迫る。ドレンとフラーフェ達の距離も数メートル。

その時低い声が聞こえる。何処からだ――?


???「……ジ…。………ヺズグ……」


掠れた声だった。誰が言ったのかも分からない。でも何を俺に伝えたいのか分かった。分かってしまった。


血が出るほど唇を噛みしめた。フラーフェ達もドレン達もどちらも救いたかった。

でも俺には掠れた声に従うことがどちらも救う方法だと思うしかなかった。


咲「くっそおおおおおお!!!」


俺は無の力を使う。この部屋一帯が白く光り始める。

光で目の前が見えなくなる。それでも耳にはさっきの掠れた声が鮮明に聞こえこだまする。


???「アリガ…ド…」


俺は…無の力で彼女らの『存在』を無くすしかなかった。



咲「フラーフェッ…!!」


痛む身体に鞭を打ち何とかフラーフェとドラコのそばに寄っていく。フラーフェの目は少し潤んでいた。


フラーフェ「サキ…」


咲「大丈夫だったか?」


少しの間。フラーフェは何かを断ち切るように頷いた。


カイ「…ああ、このプランAは失敗か。こうなればBしかないか…おい!!」


???「そうこなくちゃぁなぁ…ヒヒッ」


後ろからまとわりつくあの声が聞こえてくる。

この狂い堕ちた感じ。声の方向に振り向く。ヤツだと分かったが暗闇で姿が見えない。


咲「テメェ…」


カザック「往生際がわりぃなぁ。ここが、死に所ダロォ?…なぁ、サキィ?」


何処までもしつこい男だ。何かをこする音を出しながら暗闇から姿を現す。俺はヤツの姿を見て驚愕してしまう。身体は黒く変色し右半身はゴーレムの腕の様に肥大し硬くいびつな形に変容していた。


咲「一体どこまで狂ってやがるんだ…」


カザック「この姿カッコイイだろ?そこのジジイからもらった力なんだがな、いやいや最高だなぁ!身体が疼いて疼いてしょうがねぇ。早くお前を殺したいってなぁ!!」


カイ「半殺し、だ。腕や足は潰れても構わん。決して間違っても殺すなよ?」


カザック「へいへい。…せめて楽しませてくれよ?じゃねえと殺してしまうかもしれねぇからなぁっ!!!」


カザックの右腕の一振りをフラーフェが受け止める。


フラーフェ「サキ!!ドラコと一緒に逃げてっ!!」


咲「フラーフェ!!?」


カザック「ハハハッ魔物、テメェが先に死ぬかぁ!!?」


どう見てもフラーフェでは耐えられそうもない。その時、遠くに光る小さなビンを見つける。


あれは…!!マキからもらった薬だ!!ここに残っていたのか!


咲「フラーフェ、少しで良い。時間を何とか稼いでくれっ…!!!」




後ろで激しい鉄と鉄の当たりあう甲高い音が聞こえてくる。

長く持つとは思わない。以前のカザックならまだしも今のカザックは怪物と化している。

ビンが目の前に見えた矢先、カイが割り込んでくる。


カイ「薄情者だね。彼女を置いて逃げるつもりかい?」


顔に張り付いただけの薄っぺらな笑顔。ドラコが歯をむき出して威嚇する。何故最初に見抜くことが出来なったのか後悔がこみ上げてくる。


咲「ふざけたことを。俺はフラーフェと一緒にここから逃げ出すんだ。お前みたいなクズと一緒にするな!」


顔が一瞬歪む。


カイ「クズ、ね。じゃあ一つ質問しよう。ここに来るように言った彼女たちは君にこんなものを持たせて何故わざわざ敵地に行かせたと思う?」


気づいていないわけが無かった。カイに地面に転がったビンを拾われる。


カイ「ここが既に僕以外に人が存在しない場所だと知っていたからだ」


驚愕の事実に言葉が出ない。マキ達はここに人がいないことを知っていた?つまりここの人間が化け物に変えられていたのを何もせずただ傍観していた――?


俺の表情を見てかさらに付け加える。


カイ「何故知っていたうえで何もせずにいたか?それは簡単な話だ。彼女達もしたことがあるからだ。興味があったんだよ。僕と同じようにね」


咲「な…それって…」


カイ「彼女達も人間を怪物に変えていたクズ共なんだよ」


そんな…。マキ達も人間を魔物に変える実験をしていた…!?

彼の張り付いた笑みが次第に狂気へと変貌していく。


カイ「…だが違った。アイツらは実験を成功させた。何百何千と失敗した僕と違って!!一発でっ!!」


語気が荒くなっていく。目は血走り呼吸も早くなっていく。まるで獲物を求める獣の様に。


カイ「だから僕は実験を繰り返した!何度も、何度も!!ここの使えない奴らを根こそぎ使って!そして、ようやく完成が見えて来たんだ。何が足りなかったのか」


ポケットから緑色の液体が入った注射器の様なものを取り出す。


カイ「これが何か分かるかな?…聞いたところで無駄か。これが彼女らに使ったものだ。何故実験に失敗したのか、それは憎悪だ。誰かを憎む心が強ければ強いほどより強い自我を持った魔物となれる…」


独り不気味に笑い出す。その時、後ろからパチパチと誰かが拍手する音が聞こえてくる。


???「カイよ。ようやくその答えにたどり着いたか」


後ろから誰かが拍手する音が聞こえた。


そこには杖をつきこちらに寄ってくる老人がいた。


カイ「先生!?まだこちらにおられたのですか!?」


カイが先生という老人、彼がこの計画の元凶だろうか?


???「だから言っただろう、君の方法は強引過ぎると」


そう老人は言うとカイに取られてしまっていた薬を俺に投げてくる。

俺はその行動に驚き慌てて放られた薬のビンを掴む。


???「私の部下が手荒なことをしてしまったね。その薬で彼女を助けてあげなさい」


手元の薬を見ても何も小細工はされていない。一体何の意図があってこんなことを?

カイの奴は先生と言った人物に何か抗議している。

いや、今はそんなこと気にしているべきではない。一刻も早くフラーフェを助けなければ!!


フラーフェの方に目をやるとカザックの攻撃を巧みに受け流していた。

しかし、疲れからか反応が鈍くなっていき最後にはカザックの一振りに吹き飛ばされていた。

俺は急いで薬を飲む。身体が焼けるように熱くなる。同時に力が沸き上がるような感覚が身体を伝っていく。倦怠感のようなものは無くなりいつものあの身軽さが戻ってくる。


咲「ロックガンショットッ!!」


遠くからカザックに向けて魔法を放つ。しかし、


魔法が発動しない――?

カザックが腕を振り上げている。フラーフェとはいえアレをくらってはひとたまりもない。


マズイ、このままじゃ――!!


俺は気が付けばフラーフェへと駆け出していた。




-フラーフェside-


目の前にはカザックの重いハンマーのような一振りが下されようとしている。

こんな時にあの時の記憶が蘇る。サキと一緒にガルクさん達のギルド試験を受けていた時の事だ。メルベアが私めがけて突進してきた時。あの時、曖昧な記憶が私の行動を鈍らせた。何故今になって思い出すのだろう?


サキ「フラーフェッ!!」


動けない私の前にサキが割って入る。そして目の前で彼は私を庇う為にカザックの攻撃に自ら当たった。


地面を転がっていく彼をただ茫然と見る。突然頭に鋭い痛みが走る。私の曖昧な昔の記憶が鮮明になっていく。


そうだ…。あの時私は言いつけを守らなかったから、彼らの目の届く所から離れたから。私が人質になったから。だからあの人は死んでしまった。私のせいで。その記憶が今この状況と酷似しているからだ。かつての古びた、でも忘れてはならなかった記憶が私の頭の中を支配する。

あの人は最後の最後まで怒ることもせず、ただありがとうと。

私はあの人を犠牲に生き延びた。…また私は大切な人を犠牲に?


フラーフェ「あ…、アアアアアアァァッ!!!」


 side end




身体が焼ける様に痛い…。ああ、アイツの攻撃を直で受けたもんな…。

叫びたい程の激痛だがそんな声も出せそうにない。それに目も霞んできているのか見えなくなっていく。

…何処からだろう、叫び声の様なものが聞こえる気がした。

瞼が重くなっていく。このまま閉じればどうなるか予想もしていた。


ほんの少しくらい大丈夫だよな…?


自分に言い聞かせ俺の意識はプツリと途切れた。



目を開けるとそこは何処か見知らぬ洞窟だった。浅く敷かれた藁に俺は横たわっていた。体を起こすと暗闇から大きな竜が現れる。だけど俺は何故か驚くことも怖がることもしなかった。寧ろいつも一緒にいたように、おはようと挨拶をしていた。竜の方もおはようと返してくれる。

意識が飛ぶ。ふと気づく。そこは木が生い茂る小さな川が流れる場所、

私は、いや俺は。…何だろう、今の身体が自分なのか違う誰かなのか、分からなくなる。川を覗きこむ。長い黒髪の女の子。これは俺?私?意識が混濁し始めた。


後ろから声が聞こえる。振り向くとそこには彼がいた。

私に彼は色々と話しかけてくれる。実は私は彼の変容っぷりに驚いている。昔はあんなに無口で人の話なんて興味のないような性格だったのに。


プツリとまた意識が飛ぶ。そこは空が青く澄み、緑一色の草原だった。そこには私と彼と、ここでは嫌でも浮いてしまうピンク色の可愛らしいカマキリの子がいた。この子は彼と違って素直で明るくていつも笑っているような、そんな子だ。いろんな花を見つけてはそれを私に持ってきてくれた。可愛らしい花も、少し形が不気味な花も。この子は言葉を発せないがこっちのある程度の言葉と表情で何を言っているのか理解しているようだった。ちょっと愛情表現が激しい子だけど。


景色が歪む。気づくと空は一転し灰色だった。私は力尽きていく自分の体を見つめていた。

彼は私を抱きかかえ涙を流しながら何か言っている。

何と言っているのか聞こえすらしない。よく見ると近くにはあの子もいた。

あの子は動くことも何もしなかった。まるで魂が抜けたかのように。

最期はこんなことになってしまった。でも私は幸せだったよ。

私は囁き最後に笑顔を見せ、眠るように目を瞑った。




…少しずつ身体に何か暖かいモノが流れてくる。

声も聞こえてくる。どこかで聞き覚えのある声、いや泣き声か?上手く聞き取れない。


???「――大丈夫か?」


俺の目の前にはエンダイトがいた。


咲「エンダイト…!?」


どうしてここに…?

上半身を起こす。空が明るい。日が昇っていることに驚く。周りをよく見ると俺がいる所は城へ続く裏口があるあの広場だった。

周りを見るとフラーフェが見当たらない。


咲「そうだ、フラーフェが危ない…!!」


立ち上がろうとするも上手く立てない。立とうとしても手に力が入らない。


エンダイト「安心しろ。彼女ならギルドの者の所だ」。


ギルドの者。多分ガルク達の事だろう。胸をなでおろす。だが思い出す、フラーフェはアイツと戦っていたことに。


咲「アイツ。カザックは…!?」


エンダイトは押し黙る。まるで言うべきなのか困っているとでもいうように。


ディメンシス「お主は見るべきではない」


ひょいと視界にディメンシスも現れる。一緒にドラコも覗いてきた。


咲「お前、何でここに!?」


ディメンシスがいることに驚く。だが俺は首にあるはずのない物に気づく。

フラーフェに持たせていたはずのペンダントだ。


ディメンシス「今の主はお主ということじゃ。…すまぬワシがあそこで出られれば」


どうやらこの街全体次元でさえの魔法も使えない空間となっているらしい。ただこの広場だけは全ての魔法が使える空間になっているらしい。


既にカイとあの老人もここから逃げ出しているらしくここにいるのは俺らだけらしい。

俺は自分に回復の魔法をかけつつ少しずつ身体を治していく。

そこでエンダイトが俺の上半身を支えていることに気づく。


咲「なっ…!!!」


離れようと腕をどかそうとする。だがエンダイトの方が力が強く引き離すことが出来ない。


エンダイト「むやみに動くな。傷が開く」


…どうやら今の今までエンダイトが俺に治癒の魔法をかけてくれていたらしい。

顔を近づけてくるエンダイトに俺は顔をそむける。あまりの恥ずかしさからなのか何故か胸がドキドキしてしまう。


エンダイト「…お前は」


独り言のようにポツリと呟く。


エンダイト「お前は一体誰なんだ…?」


横目で見た彼の顔は悲痛に満ちたもののように感じた。

微かに遠くから誰かの声が聞こえてくる。


エンダイト「…迎えが来たようだな。」


俺から手を放す。傷がだいぶ良くなったのか手をついて身体を支えることは出来た。

彼はあの時と同じ言葉を、いや何か懇願するように俺に告げた。


エンダイト「…彼女を救ってくれ」


そう言い残し彼はどこかへと消えた。


遠くから聞こえてきた声は少しずつ鮮明になっていく。


ジール「サキ!!無事か!!?」


マライブで別れて久しく会う二人だった。


ミラド「サキ、今あの男がいたと思うけど…!?」


咲「ああ、アイツならすぐにどっかに行ったよ」


二人は安堵の顔を浮かべると俺の顔をジロジロと見る。


咲「な、何だよ…」


ジールは複雑な表情を浮かばせ、ミラドは目を丸くしまるで動物を見るかの様な、あのフラーフェをもみくちゃにしたときの様な。

悪寒が走る。あ、これ嫌な予感がする。


ミラド「可愛い…!!」


予想的中。ミラドはジロジロと至る所を見ては俺をもみくちゃにする。


ミラド「これはっ!これは中々見ない超逸材だわ!!!貴方私の家でメイドとして働きなさい!良いわね!?良いわよねっ!!?」


圧がすごい。マライブで別れた時のあれはどこへやら。

全身くまなく色々なところを見られ、その上メジャーの様なもので全身至る所測っていく。

ドラコが怯えたように小さく声を上げる。

それに気づいたミラドはふと我に返る。


ミラド「あら?もしかしてこの生き物…」


ここが暴走の止め時とばかりにジールが間に割ってくる。


ジール「これは…ドラゴンか?」


ふと何か思い出したかの様に俺を見る。


ジール「サキ、歩けるか?君に来てほしい所がある」



ジールに連れられた場所は丁度カイの家がある通りの反対側、そこには大きな小屋、何かを拘束していたような鎖があった。


咲「何かを捕らえていた…?」


カイが作った薬を飲まされ身体が変異し手が付けられなくなった者を捕らえていたのか?だとすればここ付近にまだいる可能性がある。


ジール「サキ、そこに鎖が焼き溶かされた跡があるだろう?そのドラゴンは今までここに繋がれていたのか?」


指をさしたところを見る。溶けて形を無くした鎖がそこにはあった。


咲「いや、こいつはずっと俺と一緒にいたと思うが…」


二人の顔から血の気が引いていく。一体どうしたんだ?


ジール「サキ!!さっさっとそのドラゴンをどこか遠い場所へ置いて来い!!」


ミラド「早くしないと取り返しのつかないことになるわよ!?」


二人の慌てっぷりを見て背中に冷や汗をかく。


咲「もしかして…」


ギャウッ!とドラコが声を出す。

空からドラコの声をそのまま低くしたような鼓膜を震わせる叫び声が響き渡る。

それは少しずつ大きくなっていき地面を震わすほどに轟きだした。


空から急降下してくる。地面に着地したと同時に地震のように揺れ地面に手をつく。

目の前にはドラコと同じ色の巨大な竜が俺らの前に立ちはだかっていた。


ドラゴン「オオオオオオオオオォォォッ!!!」


ドラゴンの咆哮が耳に響き身動きが取れなくなってしまう。

鋭い目、鋭利な爪と牙。少しでも触れれば裂けてしまいそうなほどに鋭かった。

誰でも自分の子供が奪われたとなると怒り狂うのは当たり前だ。カイは見つけたと言っていたがこの親であろうドラゴンの様子を見るに盗んできたということなのだろう。

その時ドラコが叫び出す。お互いが叫び始めた時巨大なドラゴンは叫ぶのを止めた。


再び口を開いた時そのドラゴンは驚くことに話し始めた。


ドラゴン「…我が子を助けて頂き感謝します。あの女の言葉は正しかったということでしたか」


あの女?

その言葉にドラコは小さくか細い声を上げた。ドラゴンはそれで察したのか空を仰いだ。


ドラゴン「そうですか。死んでしまいましたか…。」


あの女、ドラコの反応からドレンの事だろうと分かった。


咲「ドレンが一体何をしていたんだ?」


俺に鋭い目を向ける。するとドラゴンの目は何かに驚くように目を丸くした。


ドラゴン「貴方は…。そうですね。あの女は、いやあの女共は私と私の子供を捕らえ私はここに拘束されました。私の力をもってしても壊せなかった鎖。目的は私の子供だったのでしょう。その時あの女は私に約束をしてきました。必ず私達を助けると。」


この親ドラゴンが言うにはドレンが世話係だったらしい。カイたちの中で唯一彼女だけにドラコが懐いたことからドラコを託したらしい。

それからというもののドレンは何か仕掛けを施したらしく鎖が壊せたのもついさっきだという。


ドラゴン「私は人間を許すつもりは無い。ですがあの女によって私の子供は救われている。恩を仇で返す様な事はしない。ここはお前らを見逃してあげましょう」


そう言い終わった後ドラゴンは俺らには理解できない言葉でドラコに話しかけ始めた。

すると突如として眉間にしわを寄せ俺ににらみを利かせる。


ドラゴン「貴方だからなのか、それとも…。名は何という?」


じっと見つめる。…どうやら俺に聞いているようだ。


咲「…咲だ」


ドラゴン「サキ…貴女はその力は誰の為に使いましたか?良く考え今からいう私の言葉を聞きなさい」


咲「…」


一呼吸置きドラゴンは口を開けた。


ドラゴン「…私の子を預かりなさい。そしてこの子をあなたと同じ姿にしてください」



咲「は…!?」


困惑してしまう。預かってくれ?同じ姿?俺と同じ姿というのは…


ドラゴン「この子が貴女と同じ人間にしてほしいと望んでいるのです。私達は人間の世界に干渉は一切しない魔物。ですがこの子はあの女、貴女に何かを感じてしまったのでしょう。人間になりたいと思う何かが」


目を鋭くし俺に顔を近づける。次の俺の言葉次第ではかみ殺すとでもいわんばかりに。


ドラゴン「貴女がここの連中と同じことをするのであれば私は容赦なく貴女を食いちぎってあげましょう。…この子を大事にすることが出来ますか?」


ドラゴンの目を見つめる。その目は確かに恐ろしく金縛りにあったかのように全く身体が動かせない。けれど何故か嬉しさのような悲しさのような、親としての感情のようなモノがにじみ出ているような気がした。


ドラコ「ギャウ…」


小さく鳴いたドラコを見る。何を言いたかったのかは分からない。でも俺はその時ドラコがどうしたいのか何となくだけど感じた。


ドラゴンの方に振り向く。


咲「俺は確かにフラーフェを魔物から人間に変えた。あの時はそうするしか助けられる方法が無かった。今回はドラコがそう望んでいる。そう思うようになったのはきっと、ドレンと同じ世界を見てみたいからだ。アンタが感じている人間とは違う人間がいるって分かったから。それと多分…」


ちらっとドラコを見る。


咲「俺と一緒にいたいんだろ?」


本当に何となくだが俺と離れたくないということだけは分かった。


ドラゴンは動かない。先程からの威圧感も変わらない。だが諦めなのか悟ったのか


ドラゴン「変わらない…か。分かりました。この子の言う通りにしましょう」


たたんでいた翼を大きく広げ空へと飛び上がる。俺らには分からない言葉でドラコに話しかける。そして彼方へと消えていった。


ドラゴンの姿が見えなくなる。一呼吸おいて俺はドラコに最後の確認をする。


咲「…ドラコ、本当にその姿には二度と戻れないぞ?それでもいいのか?」


ドラコは悩む様子もなくすぐさま返事をした。


ドラコ「ギャウッ!!」


まるで早くしてくれと言わんばかりだ。


咲「…分かった」


気を集中する。フラーフェを変えたのは結構前の事でもあり不安があった。


魔物を無くす。イメージを固める。間違っても存在を消さないように。その時ふと何かがよぎる。ドラコと同じドラゴン。でも大きさは全く違う。先程の親ドラゴンと同じくらいの大きさだ。


集中しなおす。少しずつドラコが白く光はじめ辺りが目を開けられないほど眩しくなる。

光は少しずつ弱くなる。その中心にはエメラルドの様に光る長髪の女の子が横たわっていた。


ドラコ「ん…終わったの…?」


咲「ああ、終わったよ」


俺は顔を横に逸らしつつ答える。

またやってしまった…!!


ドラコは服を着ておらず裸の状態だ。何か着せるものはと聞こうにもジールも目を逸らしている。

お前もか!!そうツッコミたい気持ちを抑えミラドを見ると彼女は初めてフラーフェを見た時と同じように目をきらめかせている。


ミラド「…かわいい」


俺らは全く身動きが取れないのをいいことにドラコにすり寄っていく。


咲「ミラド、その子火を吐…」


ミラド「…それを早く言いなさいよ」


遅かったようで既に顔と前髪が少々焼け焦げたらしい。


ドラコ「おねーさんより、おかーさんの方がいい!!」


そう言うと俺に抱きついてくる。


咲「おかあ、さんっ!!?」


ドラコ「だって私のおかーさんが貴女の事をおかーさんと呼びなさいって。おかーさんはおかーさんじゃないの?」


あのドラゴン最後の最後で俺に嫌がらせを仕掛けたな…!!


咲「あのな、今こんな姿してるけど本当の俺は男なんだよ?」


ドラコ「そーなの?」


何とも純真無垢な子なんだろうか。


ガルク「良かったねー、ねーおかーさん」


ドラコの隣に胸糞悪い笑顔のアイツがいた。



ガルク「…これはご褒美ですか?」


咲「何がご褒美だ。この変態め」


アイツの顔に思い切り足で踏みつける。この身体だからか力が出ずガルクは足だけで地面に頭を付けまいと踏ん張っている。


ドラコ「ねーおかーさん。このおじさん誰?」


ガルク「おじさっ!!?」


ショックのあまりか足の力が抜けたのか後頭部を思い切り地面にぶつける。


ガルク「おぉ…おおおおお…」


咲「いい気味だ、このロリコンめ」


ドラコをコイツから離しつつ見下す。


ガルク「追い打ちとはそれでもお前は人間か!?」


ひょいと立ち上がる。やっぱりまだ元気じゃねーか。

こんな茶番よりもおれはどうしてもガルクに聞かなければならないことがある。


咲「…お前ここがこうなっていたことを知っていたのか?」


拭抜けたような表情は消え静かな怒りがコイツからにじみ出ていた。


ガルク「…知らねぇ。アイツがここまで堕ちていたこともな」


砂を払いながら立ち上がる。


ガルク「俺らも一杯食わされていたんだ。…ソライブも奴らにやられていた。俺らが着いた時にはもぬけの殻だ。まさかと思いメライブにも行ってみたがそっちもほとんど同じだ。まだ何とか生き残りがいたがそれでもほんの一握りだ」


目を大きく見開いてしまう。ソライブ、メライブもほぼ壊滅状態!?


咲「マライブは!?バーグさんとか…!!」


ジール「僕たちの所にも来たが少数の犠牲者で何とかな…。あとはここの安否だけだったが、ここも…」


ジールの問いに俺は頷く。


ガルク「あのバカが。あんなもんにこだわってどうすんだ。…しょうがねぇ。一回マライブに戻るか…ってそうかサキを…」


口ごもる。そういえばまだこの姿のままだ。早い所ガルクに戻してもらわねば。


ガルク「いや、そのままでいっか。まだお前の追放は消えてねぇしな。髪の毛の色もただ単に珍しいってだけですむだろ。」


咲「ぐっ…」


ガルクの言葉で思い出した。俺はマライブから追放されていた。この姿なら確かにばれることは無いだろう。


ミラド「お洋服の事なら私にお任せを。良い物をお渡ししましょう!!」


その言葉に悪寒が走る。


ジール「決まったのならすぐ戻ろう。父上一人街を任せては大変であろうしな」


皆も同意という意思表示をする。

出発しようとした時俺の裾をドラコが引っ張る。


ドラコ「ねぇ…。おねぇちゃんのお墓作りたい」


おねぇちゃん。…ドレンの事だろう。彼女の遺骨も何も無かったけど確かにこのままにするのは駄目だよな…。


咲「皆、俺からも頼む。この子の大切な人なんだ。せめて祈るだけでもさせてくれ」


皆すぐに了承してくれた。

俺はドラコと一緒に広場にあるオブリテの花の中に小さな石を立て祈りを捧げた。この街の人全員の墓にしては小さすぎるがこれがせめてもの救いになればと思う。


祈る間色々なことを考えてしまう。ここにいた住民、ドレン、フラーフェの事を。

ここには俺ら以外誰もいなくなってしまった。静寂の中風が吹き抜ける。この俺ら以外いなくなってしまったこの街の静けさはメニスタよりもはるかに重く苦しいものに感じた。


咲「…最後のお別れは済んだか?」


ドラコに話しかける。来る途中カイとドレンのあの家に立ち寄りドレンが着ていたであろう服を見つけドラコに着させた。


ドラコ「うん。ありがと。おかーさん。…またね、おねぇちゃん」


小さく手を振る。

カイと老人あの二人はどこかに雲隠れしたが必ず見つけ出しこの行いを償わせてやる。

そう決意し俺は短くも長く感じたキブスから去っていく。




―???side―


ようやく見つけ出した。同じ力を持つ者を。

だがあれはどういうことだ?生き返ったとでもいうのか?何故あんなにも似ている?

私は黄色い液体の中身を見る。


――もしやそういうことか?

一つの可能性を見出す。もし本当ならばこのような結論を出すことはいささか研究者として考えを放棄している。だがそうだとするならば合点がいく。彼女が目覚めないのはそういうことなのかもしれない。


私のこの欲望はいつになったら満たされるのだろうか?


 Side end


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