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新たな旅路

ミラド「おじさま!?それは一体どういう事ですの!!?」


バーグ「…私も反論したが議会での決定なのです。私ではどうしようも…」


騒動の翌日、俺とフラーフェは街を出る準備をしていた。バーグには何度も謝罪されたがこればっかりはしょうがない。


事は騒動後、マライブへ戻った時の事。


咲「マライブからの追放…!?」


バーグ「…そうだ。議会での満場一致、議会の者どもは私達の反論を一つも納得してはくれなかった…。本当に申し訳ない…」


議会ではこの騒動の事の発端として俺の名が挙げられていた。男に狙われたのは俺がここに来てからというもので俺がいるとまた狙われかねないというモノだった。バーグやガルクが反対したものの認められなかったとのこと。そして次の日までに、つまり今日中には街から出ていけということだった。

フラーフェの方は議会の方では挙がらず滞在はしても良かったのだが、俺が出ていくなら一緒に付いていくと話を聞かず一緒に出ることとなった。


ミラド「サキ!!」


準備を終え屋敷から出る直前、ミラドが走り寄って来た。奥からバーグも来ていた。


ミラド「またいつか…きっと…」


姫様らしくない落ち込んだ顔つき。鼻の所もほんのりと赤くなっている。


咲「姫サマらしくないな。ただ、追放ってだけだって。またどこかで会えるだろ?」


バーグがそっとミラドの肩に手を置く。それが涙腺を切ったのか嗚咽を出しながらバーグに泣きつく。


バーグ「…サキ。この度は本当に申し訳ない」


咲「バーグさん、こればっかりはしょうがないよ。俺のせいでこの街の人々に迷惑をかけちゃったし。…じゃ、バーグさん。またどこかで」


ミラド、バーグに背を向け屋敷を後にする。


マライブの城門に到着した時、門の所に一人誰か立っていた。

そこにいたのはジールだった。


ジール「ようやくうるさい奴が消えるか」


咲「へっ、よく言うよ。お前が一番反対していたらしいじゃないか」


ジール「…」


今回議会で二人に加えジールも反対していたというのは聞いていた。

何でも顔を真っ赤にするほど反対していたのだとか。


ジール「一番の功績者が処罰されるのが気に食わなかっただけだ。…またどこかで会おう。その時まで僕も腕を上げて貴様に勝ってみせる」


そう言うと俺たちの横を通り過ぎていく。

気のせいか顔が少し赤かった気がした。


咲「…ああ。楽しみにしているぜ。行こう、フラーフェ」


フラーフェ「…うん」


俺とフラーフェは城門を通り抜けていく。後ろを振り返る。今は見慣れたマライブの大きな城壁。ふとあの時の光景を思い出す。


入る時も出る時も慌ただしかったな…。

色々な出来事を思い返してしまう。けど今はそんなことしている場合じゃない。やるべきことがある。


ここからまた俺たちの新たな旅路が始まるのだから――


咲「ここに来たのはいいものの、どうするか…」


俺達は街を出た後メニスタへとやって来た。

エンダイトとフラーフェが言ったあの男の言葉、『彼女を守りきって見せよ』。

アイツはフラーフェのことを知っているようだった。フラーフェ自身は名前だけしか覚えていないようだったが。

とにかく、フラーフェの過去に何があったのか、それが分かればアイツのことも分かるのではないかとここに来たわけだ。


咲「ここにあるのは廃屋と、あの花畑だけか…。廃屋に何か手がかりでも残っていればいいけど…」


フラーフェ「…」


マライブを出てからずっとこの調子だ。二人きりといってはしゃぐものと思っていたが…。

俺はフラーフェの方に振り向く。


咲「ほら、行くぞ」


返事もしない。…ったく。


フラーフェ「えっ…?」


少し気恥ずかしいが手をつなぐ。


咲「…元気出しなよ。いつもらしくないぞ」


照れ隠しに目線を逸らしつつ言う。唐突に、それに俺からつないだことも相まって呆気にとられているのか目がキョトンとしている。


フラーフェ「…うん。ありがと」


優しく握り返してくれる。…少しは元気になってくれただろうか?

ほんのりと温かく柔らかい感触。


たとえ元は魔物であろうとも今の彼女は紛れもなく人間だ。落ち込んだり笑ったり泣いたりもする。だが、それでもカザックのような人間もいるだろう。魔物を忌み嫌い殺そうとする者が。それでも俺は彼女を守る。何があっても絶対に守ってみせる。



メニスタの廃屋はどこも原型はあるもののほとんど崩れており資料らしき物なんて全く見当たらなかった。歩き回ること数十分、花畑から少し離れた所に唯一崩れていない建物を見つける。


咲「何かあると良いが…」


扉の前に立つと、ふと視線らしきものを感じる。後ろを振り向くが誰もいない。

魔力感知もするが反応は無し。気のせいだったのだろうか?


咲「…まぁいいか」


ツタが扉に絡んでいたのか開けるのにやや苦労したが何とか中に入ることが出来た。

中も壁はツタがびっしりと張り巡らされていた。多分壊れなかったのはこれのおかげだったのだろう。中にはタンスなどの物は見当たらない。

.

咲「何もない…か」


何かあるかと期待したが無駄だったようだ。

ただ、不自然な紙切れ以外は。


咲「何だ…?」


何か文字らしきものも書かれている。読もうと近寄った途端、後ろの扉が勢いよく閉まる。とっさに構える。しかし誰もいない。さっきまで風が吹いていたわけもなく、勢いよく閉まるのは不自然だ。


咲「…そこにいるのは誰だ?」


姿は見えない。しかしこうも殺気を放たれては誰かがいるのは明確である。

カザックか?

しかし、アイツにしては大人しく感じる。憎悪ではない。ただの殺気。

すっと姿を現す。そこには深くフードを被った細長い気味の悪い男がいた。

男は何かを確認をしている。顔を照らし合わせているような。


???「…?」


男は消える。消えた瞬間どこに現れるかは分かっていた。


咲「ぐっ…!!」


キンッと高い音が鳴る。ギリギリの所で土の籠手を創り相手の剣を受け止める。俺の真後ろに男はいた。どうやらコイツは俺が狙いのようだ。

俺と同じくらい、いやそれ以上に力がある。


???「ギギッ、ギ」


大きく目を見開いたかと思うと片手を俺の首元を掴んで来る


咲「ぐっ…!!」


フラーフェ「サキから離れて!!」


フラーフェの一振りで男は後退する。

男は気味の悪い音を出しながら笑いだす。


???「…ミ、ミミツケ、ミツケタ!」


見つけた?俺を?

男はまた姿を消していく。


咲「くそ、逃がすか!!」


男に殴りかかる。しかしすでにそこにはいないようだった。

…どうも殺気の様なものはもう感じられない。


咲「くそ逃がしたか…」


見つけた?俺を?一体どういうことだ?

その時外から断末魔が聞こえる。

急いで外に出る。出たところでそこに青白く光る粒子が散らばっていく。その近くにはガルク、マキがいた。


ガルク「よっ、無事だったか?」


咲「マキさんにガルク!?どうしてここに!?」


俺達が驚くもマキは話ならその建物の中でと促す。

建物の中に入るとマキは地面に何か設置し始める。


ガルク「いいか?よく聞け。今からお前らはソライブに行け。良いな?なに、安心しろ。俺らも付いていくからよ」


ソライブ?一体どういうことかと口を開こうとした時一枚の紙を渡される。


喋るな、動くな、黙って聞け。まだ近くにお前を狙っている奴らがいる。

俺が話し終えたら分かったと言え。良いな?

コクリと頷く。そしてガルク事細かに話をする。分かったかと聞かれ分かったと。答えた。

その瞬間周りからけたたましい笑い声が聞こえてくる。魔力感知しても反応が無い。やがてその声は遠ざかっていく。


ガルク「…よし、もういいぞ。しっかし、気味悪いなアイツら」


丁度マキも設置し終えたらしく、こちらに寄ってくる。


マキ「妨害作業も終わったわ。久しぶりね、二人とも。でもゆっくり話している暇はないの」


いつになく二人は真剣な表情だった。


咲「どういうことだ?それにやつらは?」


ガルクは頭をかく。


ガルク「とにかく、お前らは今からキブスに向かえ」


咲「キブス?ソライブじゃなくて?」


ガルク「ああ。だから――」


ガルクの笑顔。何故だろう、背中に寒気が走る。




フラーフェ「サキ、大丈夫?」


咲「だ、大丈夫…こ、これくらい…」


強気とは裏腹に呼吸は異常に早い。高所もあるからか呼吸するのも辛い。…胸が少し重くなったのもあるが。


フラーフェ「でも顔色すごく悪いよ?一旦休憩しよ?ね?」


静かに頷く。強がってもこのままでは倒れるのは目に見えている。

座りやすそうな平らな岩を見つけそれに腰を下ろす。


咲「体力も、こんなに、落ちるもの、なのか…」


自分の華奢な身体を見て途切れ途切れに呟く



数時間前。


咲「…はぁ?」


ガルク「だから、キブスに俺らの知り合いがいるからそいつの所で――」


咲「そこじゃねぇ!!どういう事だ!?身体を変えるって!!?」


ガルク「そりゃ女に変わるってことだろ?それ以外にどういう意味がある?」


マキが宥めるように俺に説明する。


マキ「良い?今のままだとさっきの男共にあなただってばれるのよ。奴らは対象の人物の姿形、声、魔力値、魔力の色だって全て覚えるの。彼らを欺くにはそうするしかないのよ」


フラーフェ「魔力の色?マキさん、魔力にはそんなものがあるの?」


マキもこの質問には顔をしかめた。ガルクが間に割って入る。


ガルク「んー…まぁ例えだな。俺もそんなもの見たことないが個人個人でそういうのがあるんじゃないかと。例え俺が超絶美少女になっても魔力値0のよぼよぼ爺さんになっても奴らに見つかって何度も危ない目に遭ってな。可能性としてそういうのがあるんじゃないかと結論に至ったんだ。お前、この中かどこかで奴らと戦わなかったか?あいつ等隙を見てターゲットにマーキングをしてくるぞ」


…思い当たる節はある。首を掴まれたあと見つけたと言いすぐに逃げ去った。あれがマーキングならば俺がどんな変装してもすぐに見つかってしまうのだろう。


咲「…それで俺がその自分の魔力の色というのを無くせと?」


そういうことだと頷かれる。


マキ「魔力値に関しては封印という形をとるわ。入り口の検査はそれで通過は出来るはず」


ガルク「とにかくさっさとやるぞ」


両手指を気持ち悪いくらいに動かす。したくてしたくてたまらないというように。


咲「ちょっ、おまっ…!」


マキが逃すまいとがっちり拘束してくる。


マキ「ごめんなさいね。ジールも彼の犠牲者だから」


咲「マキさんそれ何の言い訳っ!?身体を変えるのって――」


コイツがただがしたいだけだろ――

言葉を遮るようにガルクは俺の頭を掴む。

身体から青白い光が放たれ光に包まれていく。



また目の前にいつかの黒髪の人物。また笑うとも悲しんでいるとも分からないような表情を見せる。そして強い光が放たれる。その時、頭の中で何か声の様なものが響く。



目を開けると俺は地面に横になっていた。

いつの間にか気を失っていたのか…。


フラーフェが心配そうに見つめている。


まだ頭がぼんやりとする。とにかく体を起こす。長く伸びた髪の毛が視界に入る。それに胸がやけに重い。

認めたくなかったし、自分の身体も見たくなかった。


咲「まさかこうなるなんて…」




キブスはこの大陸の中央、最も高い山の頂上にある。

その道中魔物にも出くわすのだが、全てフラーフェが撃退してくれている。何せ今の俺は魔法も自分の身を守ることも出来ない本当にただのか弱い女の子となってしまっている。魔力値はほとんどの一般人と同じ、もしくはそれ以下の値になってしまい援護射撃も何も出来やしない。ガルクが言うにはそっちの方が乙女らしくて可愛げがあるだろ?…とのこと。

一応無と治癒の力だけは使えるのだが、マキの見解だと魔法は使うなと言われた。幸いあの薄気味悪い奴らは魔力値が分かってもどんな属性を持っているかは分からないらしく、今のところばれてしまう心配はないそうだ。だが属性の感知能力は高いらしくかなり遠くの所にいてもその力を察知出来るそうだ。つまり使えばどこにいるのかばれてしまう。


咲「これじゃ、ただのお荷物だな…」


小さなビンを手の上で転がしながらため息交じりに呟く。

その中の小さな粒の薬はこの封印された魔力値をガルク無しで一時的に無効化するものだ。もしもの為にとマキから預かった。

一応武器として手甲を付けてはいるものの今の状況ではお守りみたいなものだった。

身体が変わったからなのか筋力でさえも落ちてしまっていた。


ディメンシス「ほほ。お主がこうも我が主から守られる状態になるとはの。これは面白いものが見られるのぉ」


フラーフェ「サキだってなりたくてなったわけじゃないからそんなこと言わないで。…でもいつも守られているようなものだったから、しっかり私がサキを守らなくちゃ」


フラーフェはいつもと違い余計に張り切っている。

俺としてはエンダイトに守るといった手前に複雑な心境だ。

数十分休憩したのちまた登山道を登り始めた。途中から山の斜面を登らず山の中へ入るような洞窟へと変わっていく。

人の手で掘られたものなのかゴツゴツとした壁や天井、階段もそれらしく荒々しく削られている。


咲「昔の登山道だから仕方ないんだろうけど流石にきついな…」


つい足が止まる。本来各街にそれぞれの街へ行く定期便の様なものをキブスが運営しているのだが今は中止されているらしく、キブスに行くには登山道を行くしか手段が無い。


フラーフェ「サキ、もう一度休憩しようか?」


心配して声をかけてくれるが大丈夫だと返し歩き始める。

ガルク達によればここを抜ければすぐらしい。


薄暗い洞窟を登ること数分。洞窟の終わりが見え外に出る。風が強く吹いて髪の毛が乱れる。

ふと山の下の方を見るとにはメニスタ、マライブが小さく見える。

もう少しだと自分に言い聞かせ足を進めようとした時、岩肌にポツポツと花が咲いている。どこかで見た覚えのある花だったが、思い出せない。フラーフェも気づいたらしく俺が見ている方向に目をやる。あっと声を上げる。


フラーフェ「ここにも咲いているんだ。こんな高いところでも良く育つねー」


…どうやら知っている様子。分かっていない俺に説明してくれる。


フラーフェ「サキ、オブリテだよ。ほら、メニスタにたくさん咲いてあったでしょ?あのお花」


それを言われようやく思い出した。オブリテというのか。メニスタでは大量に咲いているものだから一つ一つしっかり見てはいなかった。

休憩がてら良く見てみると花びらが複数枚あって真ん中に雄蕊、雌蕊が付いている至って特に目立った特徴はないよくある花というのが第一印象だった。。


フラーフェ「花の色は様々な色があってね、赤色が多かったり青色が多かったり。どれもとても綺麗なんだ。その赤と青、どちらの色が多いかによってそこが暖かい所なのか涼しい所なのか決まるの。ここは…青系統が多いから涼しいことが多いんだね。それでね、この花って何処にでも咲きやすい花なの」


へえ、と驚く。そういえばフラーフェと出会ったあの花畑は赤やピンク、オレンジが多かった気がする。つまりはその場所が暖かいと暖色系統が、涼しいと寒色系統が咲くらしい。


あっとまたフラーフェが声を上げる。


フラーフェ「あそこ、旗が見えるよ!!」


…どうやらキブスまでもう少しみたいだ。

メニスタも中々の街だったが今度の街は一体どんな街なのだろう?

俺達はまた歩き始める。


この先どんなことが待っているかも知らずに。




――おぞましいものを見てしまった。これから一体、どうすればいい?

今は外に出ることは叶わない。あれらが見張っている。あんなものから逃げきれる自信は無い。

なら、誰かに手紙で助けを呼ぶか?…いや、駄目だ。もし手紙を出すなら決死の覚悟で出すしかない。もし見つかれば殺されるか、はたまた…。

想像してしまう。このままここに居続ける?でも、そんなことをしていればいつ自分が選ばれるか分からない。



数週間たったある日、一つの情報を手に入れる。どうやら近々外から二人来るらしい。


ただ、こんな場所に来るということはその二人には特別な何かがあるはず。

…だけどもう遅い、間に合わない。ついに選ばれてしまった。

ならば、せめて一矢報いたい。それで死ぬことにしよう。

ああ、でもそう簡単に死ぬことが許されるのだろうか。


…せめて願うならあの子達には永く幸せにいてほしいものだ。


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