巨木が生い茂る公園で散歩をしていたら
僕は、緑豊かな公園の近くを通って通勤しています。
その公園には、長寿の大木が所々に生えていて、主枝は大蛇のように伸びていました。
ある夏の夕暮れ時、何気なくその公園を散歩していると、僕の顔面に風が吹き付けたのです。
どうやら、その風は公園の入口付近から吹いてきたようでした。
僕は、目にゴミが入っては堪らないと思い、咄嗟に目を閉じたのです。
数秒後、僕は公園の入口付近にある巨木をぼんやりと眺めていました。
すると、左前方の巨木の枝で、首吊り自殺をしようとしている人が見えたのです。
ただ、その時点では踏み台の上に乗っている状態でした。
僕は、慌ててその人がいる方に駆け寄ったのです。
しかし、巨木の真ん前迄行くと、そんな事をしている人はどこにもいなかったのです…。
それどころか、辺りが急に真っ暗になったのです。
「何だよ、冬でもないのに急に日が落ちるなんて」
巨木の枝を凝視していると、首吊り自殺をした跡と思われる千切れたロープだけが残っていたのです。
「となると、さっき見たのは首吊り自殺をした人の亡霊ってことか」
僕が家に帰ると、家族からこんな事を聞いたのです。
「ねえねえ、先週うちの近くにある公園で首吊り自殺があったんだって」
「でも、公園のどの辺で起きたのかは誰も知らないんだってさ」
それを聞いて、さっき迄の事が鮮明に思い出されました。
「ああ、それならば僕が分かるよ」
「へ~、そうなんだ」
「今度、公園に行った時に教えるから」
ただ、今日はもう遅いと思い、明日の朝に公園に行く事にしたのです。
翌朝、僕は休日にもかかわらず、逸る気持ちで近くの公園に行ったのです。
そして、公園の入口付近にある巨木を見上げたのです。
「確か、この木で間違いはないよな」
すると、驚いたことに、昨日あんなにハッキリ見えたロープの残骸が無くなっていたのです。
「いやいや、そんな事ってあるのか」
僕は、巨木の右側に伸びた枝を隈なく凝視してみました。
すると、どうやらロープを掛けたと思われる凹みを発見したのです。
そうなると、昨日の首吊り自殺をする様子や、千切れたロープは何で見えたんだろう。
それに、辺りが真っ暗だった筈なのに、何でロープが見えたんだろう。
というか、夕暮れ時だったのが、何故急に真っ暗になったんだろうか。
「あっ、ロープの下には既に死体は無かったんだっけ」
それにしても、こんな身近で自殺が起きていたとはね。
僕は、暫く巨木の前で呆然としていました。