第3話 鬼に金棒、暴君に人参
ムーンキャッスル二十九階、下弦の守執務室にて。
見華月は先ほどの月面会見での望月に腹を立てていた。
「なんなんだ、あのガキ。無礼、無礼、無礼っ極まりない!」
その怒りを昇華するように大好物のニンジンをぼりぼり食べながら立派な椅子にどすっと座る。
「おい!、執事!あー名前は…、とにかく来てくれ!」
するとドアが開き、スーツを着て、前足には白手袋をつけている羊之助がぴょんっと入ってきた。名前が少しややこしいがもちろんながらうさぎである。彼は見華月の専属執事である。
「さっきの会見で防衛費に関して茶々を入れてきた奴の身元を特定してくれ」
「了解しました。ですが、見華月下弦、あなたにはもっとするべきことがあるのではないでしょうか。頭数増加問題、食料危機、環境汚染、外交…月面には優先すべき課題が山積みです。どうかそちらに注力していただきたい。あと、私の名は羊之助と申します」。
すると見華月はさらに機嫌を損ねたようで自分の食っていた人参を羊の口にねじ込ませ、壁ドンした。
「なんだ、馬之助、俺に何か異論があるのか?」
殺気だった眼力で見華月は羊之助をにらむ。壁ドンされた側はたまったもんじゃない。
「ないよな?…馬之助、忠告するが余計なことはするなよ?君は俺に言われたことを淡々とこなすんだ。だって君は雇われの身なんだからな。この世界は利口でいた方が身のためだぞ」。そう言い残して部屋を後にした。残された羊之助は
「だから羊だって…」とボソッとつぶやき、口につっこまれた人参をぼりぼり食べた。
あの会見から三日たった昼のことだった。
「ごめんくださあい」。俺が外に出るとそこには頭頂部には毛が五本生えておりその分眉毛としわが濃い老兎がやってきた。見覚えのある顔だった。この歳をとったうさぎは望月家が住む地区の区長である。特に特に特徴的なのはテクノロジーの隆盛がうたわれえている今日でも草履をはいている点だ。名前は恩納豆気。主に区レベルで管理をするいわば町内会の会長的な感じだ。
「こんにちは望月さん。今日はお渡ししたいものがありましてね」。そういって俺は封筒を渡された。表紙には何も書かれていないことが不可解だった。そして「長い物には巻かれろ、ですよ。正義のヒーローごっこは身を滅ぼしますよ」そういって区長は立ち去って行った。頭部には数本の生命がおり、俺に手を振っているようにゆらゆらと揺れていた。