第一話【竜撃船】
近年になって、竜による被害が増大したと言われている。
二十年前にもある王国が、竜に滅ぼされた。
王国は三千年もの間、栄え続けるほどの大きなものであった。
栄華を極め、人々の技術と魔術の粋が集められていた。王国の軍事も強大であった。にも関わらず、その王国は一夜にして灰となった。
たった一頭の竜によってである。
その竜の名はロキ。
この世に一頭しか存在しない皇帝竜である。
私の友人たちは、その竜を《暴君ロキ》と呼ぶ。
ずいぶんと不本意な呼び名である。
皇帝に対して、暴君であった。
もっと、崇高な呼び名で呼んで戴きたい物だ。
王国が滅ぼされて以来、人々の竜に対する恐怖は増した。竜を畏怖し、忌み嫌うようになった。
もっともそれ以前も、竜は恐れられ嫌われてはいた。だが今回の件は、流石にやり過ぎであったようだ。
人々は竜を討伐する為に、竜撃ギルドと言うものを組織した。
今では何億もの人間がギルドに集まり、竜を脅かす存在へとなりつつあった。
それまでは人間が何人、束になろうとも竜達に取っては痛くも痒くもなかった。ところが最近では、幾頭もの竜が人間たちに撃たれている。
それと言うのも、竜撃船の存在が大きい。
「おい、姉ちゃん。竜撃船に空きが出たようだ!!」
竜撃ギルドの窓口の男が、魔力盤を見ながら叫ぶ。
私は彼の目の前にいるのだから、叫ぶ必要性は見当たらなかった。実に不快であった。だから、人間は竜に滅ぼされるのだ。
「それは、何と言う名の船だ?」
「鯨噛丸っちゅう名前の船だ。かなりのサイズの船だから、見れば直ぐに解るだろう!」
――鯨噛丸。
最近、良く耳にする名の船だった。
多くの竜が、この船に撃たれている。
もしかしたら、この船に乗れば或いは――。
「出発は三十分後だ。場所は火山。獲物は火竜だ。乗るかい?」
「あぁ、乗せてくれ」
即答であった。
「なら、決まりだ。三番ドックに行きな」
奥にある通路を指差しながら、男は此方に笑みを投げる。
全く、いけ好かない男だ。
もっとも、人間の大半はいけ好かない。
私は鯨噛丸に乗り込むべく、男を背に向け歩き出した。
「アンタ、まさか……ヴァリアンテの生き残りか!?」
服の背の刻印を見たのだろう。
滅びた王国の名は、ヴァリアンテ。
私が滅ぼした王国である。