第一話
【あらすじ、生きてる“→生きてる”】「君を一生愛し続けると誓うよ」
クリスティナに対してダグラスから婚約の際に言われた言葉は、彼女の心に深く刻み込まれた――。
クリスティナとダグラスは幼馴染みであり、十五になる時にはすでに結婚することが決まっていた。
伯爵家と侯爵家の間に交わされた政略結婚といえども、他者が羨ましがるほど二人は愛し合っていた。
「僕もクリスティナみたいなお嫁さん欲しいな!」
そんな二人には、平民だが昔から仲の良いフレディという男がいた――。
小さい頃。
クリスティナとダグラスは従者達が見失うほど夢中になって森で遊んでしまい、迷子になったことがある。
辺境地の薄暗い森の中で呆然と立ち尽くす二人の前に現れたのが、同じ年ごろのフレディだった。
「あれ? こんなところで何してんの?」
森を熟知していたフレディによって助けられた二人は、その後に彼を交えて時を過ごすこととなる。様々な遊び方を知っていたフレディと過ごす時間は、とても新鮮で楽しかった――。
数年経ったある日。
フレディは戦争に巻き込まれて両親を失ってしまい、その頃から都の孤児院に移り住むことになる。それから十歳を迎えて孤児院を出ると、老人に身柄を引き取られて貧しい生活を強いられていた。
一方でクリスティナとダグラスはフレディとの交流が途絶えた後も、順調に交際を続けていた――。
二十歳となり、都を歩いていた二人はどこか見覚えのある顔を見つける。よく目を凝らすと、ボロい布切れのような茶色い服を着たフレディだった。
彼は荷物運びで生計を立てており、毎日泥のように働いていたのだ。
「ふん……いい歳してまだあんな格好で外が歩けるとは、情けない男だ」
冷たくダグラスから馬鹿にされたフレディとは、クリスティナも心を痛めつつ距離を置いていた――。
結婚式前日。
実家で嫁入り支度を整えたクリスティナがダグラスの屋敷へ出立したが、外は生憎の大雨。
山間部に差し掛かり、雨でぬかるむ道を慎重に馬車で通過していた時、車内で侍女がクリスティナに向けて口を開いた。
「お嬢様。この辺りでは最近になって“魔女“が目撃されておりますので、充分にお気を付け下さい」
忠告を受けたクリスティナが「魔女?」と問い返す。
「人を喰らって生きながらえる、とても恐ろしい化け物らしいのです――」
侍女がそう囁いた時――“ゴロゴロ“と地鳴りのような大きな音が外から聞こえ、一瞬にして馬車が傾いた。土砂崩れがクリスティナ達を襲ったのである。
「きゃー!!」
瞬く間に崖下へ転落した馬車が粉々に砕け散り、クリスティナも外へ放り出されてしまった。
間一髪、彼女を庇った侍女のおかげで一命は取り留めたが、気を失ったクリスティナ以外は無念にも……みんな死んでしまった――。