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第六話



 野外実習は、実地での戦闘訓練がメインとなる。

 訓練…と言っても、サポートの為のベテラン冒険者が帯同する以外は、ほぼ実戦だ。


 騎士は当然ながら戦う技能を求められる訳だが、魔導士も戦闘能力が重視されるのは変わらない。

 魔法は遥かな太古において、繰り返される戦争の中でこそ存在意義を認められてきたのだ。

 それを嘆き、戦う術として以外の様々な分野に活路を見出した者こそ、古の大魔導士アレシウス=ミュラーその人である。


 しかし、彼が学院を創立して以来、生活に役立つ為の技術研究が盛んに行われるようになったが……やはり、戦うための力であることが原点であるのは変わらなかった。

 特に王侯貴族ともなれば、ノブレス・オブリージュの理念により有事に際しては前線で戦うことこそ高貴なる者の務めと考える者が多い。


 故に、この様な実戦的な訓練は意義があるのだ。




 ……とは言っても。

 まだ経験の浅い若者が無闇に命を落とす危険に晒されるのも望ましくはない。

 なので、安全対策にはかなり気を使っている。

 ベテラン冒険者を付ける事も然り。

 そして、実習を行うリゼラ山の周辺地域についても予め調査を行い、脅威度の低い魔物しか生息していないことを確認している。




(……リゼラ山って、確か暴君竜(タイラント・ドラゴン)の討伐をしたところだよね。まぁ、千年も前の話だから関係ないけど)


 かつての記憶からそんな事を思い出したフィオナ。


 彼女は知らなかったが……最近流行りの物語では、それを『フラグ』と呼ぶのだった。




















「レフィーナさん、魔法頼む!!」


「はいっ!!」


「リネット!後衛まで抜かせるな!!!」



 野外実習が始まり、フィオナ達の班は魔物を求めて探索を開始したところ、早々に魔物の群れと接敵。


 現在、その戦闘の真っ只中である。



(ゴブリンね……まあ、雑魚なんだけど、数だけはわらわらと多いなぁ……。先輩達も多少は経験があると言っても、まだまだ実戦慣れとまではいかないし、30匹以上はキツいかぁ……。この状況じゃ流石にサボってられないから、てきと〜に頑張りますか)


 フィオナ以外のメンバーは、それこそ死にものぐるいで戦っているが……彼女は内心でそんな気楽な事を考えながら、しかし的確にサポートしていく。

 ……極力目立たないように心がけながら。


 彼女は、前衛の隙間を抜けて来ようとするものがいれば出鼻を挫き、誰かが囲まれそうになったら突破口を作り……

 なるべく皆が経験を得られる場を奪わないよう、しかし事故が起こらないように細心の注意を払うと言う、ともすれば離れ業とも言える事をやっている。


 班の他のメンバーは、それを理解する余力も無いが……よほど危険な状況にならない限り、静観を決め込んでいるベテラン冒険者のルードだけは正確に把握していた。


 (……この嬢ちゃん、ただもんじゃねぇな。状況判断能力がずば抜けてる上に、最小限の魔法で最大の効果を出すサポート……。この年齢でこれだけできるたぁ、末恐ろしい……いや、既に完成の域かもしれん)



 そして少しづつだが着実に敵は減っていき、やがて戦闘は終了となった。













「ふう……まさかあんな群れに遭遇するとはな」


「いくらゴブリンと言えども、あれだけの物量で来られると流石に肝が冷えたよ」


「はぁ……はぁ……さ、流石に……実戦はハードですわ……」


 上級生たちは疲れを見せながらも、まだ少しは余裕が見られた。

 しかし、今回が初参加のレフィーナは息も絶え絶えの様子であった。


「大丈夫?レフィーナさん。初戦闘であんな群れに当たるなんて……ツイてないわね。……あれ?でも、フィオナさんは随分と余裕があるわね……」


 初っ端から魔物の洗礼を受けたレフィーナを気遣うリネットだが、同じ一年生のフィオナがケロッとしてるのを見て不思議そうな表情を見せる。



「おい、まさかサボってたんじゃないだろうな?」


 その会話を聞き咎めたアルバートがフィオナを睨みながら問いただして来た。


「へっ?いやいや、ちゃんとやってましたよ〜」


「そうです!私のフィオナがサボるわけないでしょう!」


「『私の』じゃねぇ……」


「フィオナさん……言葉遣いが……乱れてましてよ……。ですが、ウィル兄様の言う通りですわ」


「しかし……あれだけの戦闘のあとで、まだ戦闘経験もない一年生が余裕綽々でいられるとも思えんが」



 と、不穏な空気になりかけたところで、ルードが口を挟む。


「いや、その嬢ちゃんはサボって無かったぞ。寧ろ凄まじく的確なサポートをしていたな(まぁ、手は抜いていたかもしれんが)」


「そうなのですか?ルードさん」


「あぁ。あんたらは余裕が無かっただろうから分からなかったかもしれんが……何度かパーティ瓦解に繋がるような場面があったんだがな、嬢ちゃんが尽く防いでくれていたぞ」


 その言葉に、一斉に視線がフィオナに集まる。

 彼女はどこか複雑そうな表情だ。


(くっ……折角目立たないように立ち回ったのに……とんだ伏兵がいたもんだわ!)



「そうか……疑ってすまなかったな」


「い、いえ……大したことはしてませんから」


「何謙遜してるのよ!これからもその調子でサポートお願いね!」


「そうだな、改めてよろしく頼むぞ」


「は、はい!」



 まぁ、そう言われるのは悪い気はしないな……と、フィオナは思い、元気よく応えるのだった。












 そして、その後も何度か魔物の群れに遭遇し、戦うことになったのだが……



「……兄上、いくらなんでも魔物の数が多すぎではありませんか?」


「……ああ、私も気になっていた。最初のゴブリンからして数がおかしい。どう思いますか、ルード殿?」


「確かにな。何れも雑魚だったから俺が戦闘に入るほどではなかったが……少々異常ではあるな」


「そうなんだ……ゴブリンなんて、1匹見たら30匹はいると思え!だと思ってたけど」


「フィオナさん、それは黒い悪魔のことではなくて?」


「……いや、そうか。その可能性もあるのか……?」


 フィオナの言葉を聞いて、ルードは何か思い当たったのか、そんな呟きを漏らした。



「どうしたんです、ルードさん?何か気になることでも?」


「……一旦野営地に戻って、他のチームの状況を聞いた方が良いかもしれん」


「「「えっ!?」」」



 思いがけないルードの言葉に、学生たちは驚きの声を上げる。

 ルードの様子は真剣そのもので、冗談を言ってるような雰囲気ではない。


 しかし行動を決定するのは、あくまでも学生たちが考えて自ら判断を下すものだ。

 ルードは緊急時のサポート要員に過ぎないし、意見を述べる事自体異例のことだ。


 故に、学生達のリーダーを務めるジョシュアが代表して、ルードの発言の意図を確認する。



「ルード殿、戻った方が良い…というのはどう言うことでしょうか。さっきのゴブリンの群れは確かに異常でしたが……それが何に繋がるのか」


「……杞憂ならそれに越したことはないんだがな。それに近年では聞かなくなった話でもあるが……」


 そう前置きをしてから、ルードはそれを口にした。





暴走(スタンピード)……が起こりつつあるのかもしれん」



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