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TS転生大魔導士は落ちこぼれと呼ばれる  作者: O.T.I
第二部

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受け継ぐ者


 王太后マリアに連れられ、王族が集まる一画に向かうフィオナとレフィーナ。

 その途中、フィオナは先ほどのやり取りで気になっていた事をこっそりレフィーナに聞く。



「……レフィーナって、ミュラー家だったの?」


 それを問われたレフィーナは、目を丸くする。

 いまさらそれを聞くのか……と、彼女の表情にありありと浮かんでいた。

 それを見てフィオナは言い訳する。


「いや、だって……学院じゃみんな家名を名乗らないじゃない」


「まあ、確かにそうですが……」


 フィオナの言う通り、アレシウス魔法学院で学ぶ者たちは身分によらず平等という理念があるため、原則として家名を使う場面は殆ど無い。

 しかし、表立って家の権力を持ち出すことは許されないが、学院社交界で派閥が作られるところを見ても半ば形骸化しているとも言える。


 そもそもフィオナは、先日の王宮訪問の準備のためレフィーナの家で世話になってるのだが……

 それはフィオナも自覚しているので、バツが悪そうにしている。

 そんな彼女のうっかり具合にレフィーナは少し呆れたものの、家ではなく自分自身を見てくれていた事にむしろ好感を抱いた。



「アレシウス様の血縁ではないとは言え……やはり気になりますか?」


「そりゃあね」


 大魔導士アレシウス=ミュラーは天涯孤独の身で、その子孫もいないはずである。

 では、なぜレフィーナの家名が「ミュラー」であるのか。

 それは……


「アレシウス様がその長年の功績から伯爵位に叙爵された時の家名である『ミュラー』の名は、弟子の一人……私の祖先であるアルベルト様が継ぎました」


「うん。覚えてるよ。アレシウスには何人も弟子がいたけど……直接の後継者と呼べたのは、フィロマとあの子くらいだったからね」


 アレシウス=ミュラーの元に集った弟子の多くは、魔法学の基礎や応用を彼から学んだが、やがて自立して自分自身の研究テーマを追い求めていった。

 かの大呪術師ディアナがそうであったように。


 だが、建国の祖であるフィロマや、レフィーナの祖先であると言うアルベルトは、アレシウスの弟子であると同時に助手の様な立場だった……と、フィオナは言う。



「フィロマ様とは喧嘩別れだったそうね」


 いつから話を聞いていたのか、マリアも話題に入ってくる。

 そしてその言葉は、以前フィオナがレフィーナに語ったものと合致していた。

 つまり、初代国王フィロマがアレシウスの弟子だった事実は一般的には知られてないが、王家に連なる者であれば知る者もいるのだろう。


「……マリア様はご存知でしたか」


「ええ。彼の日記が遺されていてね……夫から見せてもらったことがあるの。袂を分かつとも、アレシウス様に対する敬愛の念はずっと持たれていたみたいね」


「そうですか……」


 言葉は素っ気ないが、彼女が喜んでいることはその表情から明らかだった。

 それを見たマリアは柔らかな笑みを浮かべ……


「だからこそ……あなたと懇意になる事は皆喜んであるのよ。もちろん、あなた自身を気に入ったと言うのが大きな理由だけどね。……迷惑だったかしら?」


 最後の言葉は、フィオナが目立たず平穏な人生を歩みたいと思っていることを察してのものだろう。


「迷惑だなんて……そんな事はないです。そういうふうに思っていただいてたのは嬉しいです。……まあ、あまり目立ちたくはないのは確かですけど」


 今となっては別に迷惑とは思ってないし、好かれることは素直に嬉しいが、目立ちたくはない。

 全て彼女の本心である。


「そう、なら良かったわ。……ネヴァグ家のお嬢さんのような考えも分からないのではないのだけど。貴族には貴族の、平民には平民の居場所があるというのはね。ただ、私はその両方の立場で生きてきたから……もちろん弁えるべきことはあるけど、そこに大きな垣根があるというのは残念に思うのよ。我ながら甘いとは思うのだけど」


 それを聞いてフィオナは、なるほど……と思った。

 マリアの考えは、ウィルソンやレフィーナに受け継がれてると感じたから。

 そして……少しだけ、マリアに親近感を覚えるのだった。




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