手紙
全ての話を終えたフィオナは学院長室から立ち去った。
そして、一人部屋に残ったケリュネイアは彼女を見送ってから暫く物思いにふける。
そして、徐ろに仮面を外した。
その隠されていた素顔、フィオナに対しては『ひどい怪我をしている』と説明していたが……しかし露わになった美しい相貌には、そのような傷は見られなかった。
それから彼女は、部屋の片隅に置かれていた姿見の前に立つ。
鏡に映し出された自身の瞳を見つめ、一度まぶたを閉じ……再び開いたとき、彼女の表情と雰囲気は一変する。
「ふぅ〜……疲れたわ」
フィオナに対していたのとは全く異なる、砕けた口調で呟く。
纏う空気も、どこか緩い雰囲気のものとなっていた。
「さて……どうやら最後まで気付かれずにすんだかしら。まあ、自己暗示までかけてたからね」
その言葉からすれば、こちらが彼女の素の状態ということらしい。
そして、彼女がわざわざ自己暗示をかけていた理由と言えば……フィオナがケリュネイアという人物の正体に気付く可能性が僅かにでもあり、それを避けたかったと言うことだろう。
「今はまだ様子見。他の連中の出方も分からないから……。だけど、いつかは……」
そう呟く彼女の瞳から、一粒の涙が零れ落ちた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
学院長室を出たフィオナは、とりあえず途中からでも実技の授業に参加するために急ぎ足で校庭に向かっていた。
彼女は実力を隠すために手は抜いていても、授業はサボったことは一度もない。
根は真面目な性分なのだ。
「でも、途中から参加とか目立っちゃうかな……まあ、しょうがないか」
校庭が近づくにつれ、賑やかな声が聞こえてくる。
最初は魔力制御の訓練ばかりだった魔法実技の授業も今は実際に魔法を使う事が多くなり、学生たちはやる気に満ちている。
いまさら学ぶ事も殆どないフィオナではあるが、その空気感は嫌いではなかった。
ふと、ケリュネイアの警告を思い出す。
自分の力を利用しようとする者たちが近付いてくる……それ自体は彼女も考えなかったわけではない。
しかし改めて他者から忠告されると、一抹の不安が頭をよぎる。
(……まあ、深く考えてもしょうがない。なるようになるさ)
まだ起きてもいないことに頭を悩ませる必要はない。今世は気楽にのんびりと生きると決めたのだから……と、不安を追い払うように頭を振りながら、フィオナは気持ちを切り替えた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
放課後。
いつも通り、いつものメンバーが帰り支度をしながらお喋りをしていた。
ちなみに……フィオナ、メイシア、シルフィ&セルフィは学生寮、レフィーナは自宅からの通学である。
「手紙……ですか?お祖母様からの?」
フィオナがマリアの手紙を渡されたことを聞いたレフィーナは、不思議そうに首を傾げた。
「うん。まだ中身を見てないんだけど……なんだと思う?」
「さぁ……御礼状とか……かしら?」
問われたレフィーナには特に心当たりはなかったが、改めてのお礼の手紙なのでは……と予想した。
「「開けてみたら〜?」」
「それは……どうなの?」
気楽に言う双子に、メイシアは王太后からの手紙をこんなところで開封して良いのだろうかと心配するが……
「……よし、開けてみよう」
と、フィオナは意を決した。
もともとは寮に帰ってから見るつもりだったが、内容によってはレフィーナに相談するかもしれない……であれば、彼女がいる場で開けたほうが良いと判断したのだ。
封を開けると、中には折りたたまれた厚手の紙……金や銀の箔押しが施された豪華な書状だ。
丁寧な字で時候の挨拶から始まり……
フィオナと、後ろから覗き込む面々が内容を読み進めていくと……最後は誰もが驚きの表情を浮かべるのだった。




