VS呪法戦機
大呪術師ディアナが遺した解呪の魔道具を求め、彼女の研究室に至るための試練。
それもいよいよ最後のものとなった。
一行を代表して戦いに臨むウィルソンとフェルマン。
彼らと対峙するのは、今では失われた数々の叡智と技術によって生み出された【呪法戦機アストラス】。
その機械人形は見た目から想像する以上の機敏な動きで二人に迫る。
そしてウィルソンの剣の間合いに入るまで、もうあと一歩二歩……というところでアストラスの機体に変化が生じた。
カシュンッ、という音とともに右手甲の先に長剣ほどの刃が伸びたのだ。
それを見たウィルソンは警戒を強め、構えていた魔法剣で防御姿勢をとる。
それを見たフィオナは……
「王子!まともに受けるのはダメです!!」
と、彼に注意を促した。
間合いに踏み込んだアストラスは剣を伸ばした腕を振り上げ、一気に振り下ろす。
標的となったウィルソンは、しかし冷静に剣筋を見極め、魔法剣を頭上に掲げてアストラスの剣を受け止めた。
そして、そのまま力で対抗するのではなく軌道を逸らすようにして受け流す。
しっかりとフィオナのアドバイスを聞いていたようだ。
初撃を無難に防いだウィルソンは、隙が生じたアストラスの脇腹に魔法剣を叩き込む。
だが……ガィンッ!という衝撃音とともに剣が弾かれてしまった。
「やはり硬いな!」
見るからに防御力が高いであろうことは彼も分かっていた事だ。
まずは実地でそれを確認したのだろう。
「装甲部はほとんどダメージ通りません!!なるべく関節部分を狙って下さい!」
「分かった!!」
今度はしっかりとフィオナに返事をしながら、彼は間合いを離すためいったん後ろに下がる。
その際に炎弾の魔法をいくつも浴びせ、アストラスを牽制するのも忘れない。
そして、ウィルソンが後退したタイミングを見計らい……
「……猛き業火よ!!火神烈破!!」
フェルマンが放った上級火炎魔法がアストラスに炸裂する。
足元から渦を巻いて燃え上がる炎がアストラスの全身を包み込む。
後方で観戦するフィオナたちのところまで強烈な熱気が伝わってくる程だ。
フィオナの目から見ても非常に強力な魔法は、流石は二つ名持ちの魔道士と言ったところだが……
燃え盛る炎の中、アストラスの上半身が激しく回転する。
すると炎は竜巻のように舞い上がり、やがてそれも全て吹き散らされてしまう。
あとには、装甲の表面を煤けさせた機械人形の姿があった。
「ちっ……ノーダメージか」
見たところ目立った損傷も見られないアストラスを目にして、フェルマンは舌打ちする。
しかし。
「いえ、あいつは魔法防御も相当に高いですけど……全くのノーダメージというわけじゃないです。ただ、攻撃魔法を使うなら雷撃の方が多少は効果がありますね」
と、フィオナはフォローとアドバイスを伝えた。
「承知。……雷撃系統はあまり得意ではないが、そうも言ってられんか」
「しかし先生、連携は良い感じです。このまま行きましょう!」
「ああ!」
初手で連携の感触を掴んだ二人は、これからが本番とばかりに目まぐるしく動き始めた。
そして対するアストラスも二人と同様に様子見を終えたらしく、本格的な戦闘モードへと移行する。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
二人の攻撃はアストラスに対して着実に攻撃を当てている一方で、二人の被弾は未だ無し。
しかし、一見してウィルソンたちが押しているように見えるが、彼らにそれほど余裕があるわけでもない。
フィオナはダメージは与えられていると言うもののアストラスの様子からはそれが伺えず、それもあって二人は少しずつ疲労を積み重ねていた。
であれば、実際には互角の戦いといったところだろうか。
「……なかなか苦戦してますわね」
レフィーナにはそう見えたようだ。
古代の賢者たちの叡智の結晶が相手ともなれば、それも仕方がない……と彼女は思ったのだが。
「そうでもないよ。着実にダメージは与えてるし。私が想像したよりは善戦してると思う。……もし王子が身体強化を覚えたら、近接戦闘は私より強くなるかも」
と、フィオナの評価はむしろ上等なものだった。
特にウィルソンの戦いぶりには彼女も目を瞠るものがあるらしい。
「でもさ、今さらだけど……王子に何かあったら大問題じゃない?」
高度な戦いに目が追いつかず、早々に目視するのを諦めていたメイシアがそんな懸念を口にした。
確かに王太子のウィルソンが大怪我を負おうものなら、彼女の言う通り問題になるかもしれない。
「まあ……怪我はするかもしれないけど、いちおーアストラスも『不殺モード』のはずだよ」
「ウィル兄様が自分で言い出したことですからね。多少の怪我くらいは大丈夫でしょう」
フィオナに続いてレフィーナもそう言うが、メイシアは『ホントに大丈夫かなぁ……』と、やや懐疑的だった。
そして、ふとフィオナは思い出したように……
「そういえば……アイツ、なんか私が相手する時だけ制限なしの『ガチンコモード』になるんだけど?」
と、疑問を浮かべる。
それまで黙っていたディーネが、それに答えた。
『そうしないと時間稼ぎにもならないでしょ』
「……だから手加減できなくなって壊しちゃうんだよ」
怒られた時の記憶を思い出し、苦々しい表情で彼女は呟いた。
そして、その間もウィルソンたちの戦いは続き……
やがてアストラスの動きに変化が現れた。
それをいち早く察知したフィオナが叫ぶ。
「あ……二人とも!ダメージが一定値を超えて、そろそろ攻撃パターンが変わりますよ!!」
その声が終わるかどうかのタイミングで、アストラスの腕がまたもや変形する。
今度は左手がポロッと外れたかと思えば、そこから筒状のものが伸びてきた。
「あれは……!?」
「魔導砲……熱光線を放つ武器です!!射線に入らないように注意して下さい!!」
彼女の注意喚起に、二人は警戒を最大限に引き上げ的を絞らせないように立ち回り始めた。
そして彼らに注意を促したフィオナ自身も……
「こっちもとばっちりを食らわないように……神光城壁!!」
と、ギャラリーを護るべく結界魔法を行使した。
最後の試練の戦いは、いよいよ最終局面を迎えつつあった。




