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TS転生大魔導士は落ちこぼれと呼ばれる  作者: O.T.I
第二部

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星海の試練



『それじゃ、アレシウス……じゃなかった。今はフィオナだっけ?』


「そう。アレシウスの記憶はあるけど……今は別人と思っといて。……まあ、彼の管理者権限は引き継がせてもらってるけど」


 彼女は使えるものは何でも使う主義である。

 不便を強いられるくらいなら、そこまで別人であることを主張するつもりもない。


『オッケー、分かったわ。……じゃあ、フィオナは分かってると思うけど、ここの『試練』の内容について説明するわね』


 気を取り直して……と言うふうにディーネが切り出した。

 何となくしんみりとしていた空気もそれで一変し、いよいよ『星海の試練』とやらに挑む時がやってきたのだ。



『あなたたちは……これから、この星の海に船を漕ぎだして大航海に出るのよ!』


「「「はあ……?」」」


 唐突なディーネの言葉に、フィオナ以外の面々は思わず目を丸くして間の抜けた声を漏らす。


『なによ、ノリが悪いわね。……まあ、ぶっちゃけて言うと、これから私が出すヒントをもとにあなたたちは先に進むための扉を探し出す……ってことよ』


 ぶっちゃけて言うと、それだけのことだった。

 しかし。



『それだけの話ではあるんだけど……見ての通り、この部屋はただの空間ではないわ。もとの大きさの数百倍にまで空間拡張しているの。その中から小さな扉を探し出すのは困難を極めるはずよ』


 それは確かに……と、一行は頷く。

 前の部屋から入ってきた扉と、全天周に映し出された星々しか視界には無い。

 一見して道標もない空間から扉を探し出すのは、ノーヒントでは不可能に近いだろう。



「それで……ヒントと言うのは?」


 おそるおそる……と言ったふうにレフィーナが問いかける。

 するとディーネはまるで歌うように朗々とその言葉を紡ぎ出す。


『【天翔ける船は海の精霊の歌声に導かれん。大いなる竜が天頂に至りし時、船よ北を目指すべし。しかるのち、竜が地に沈みし時は喰らい合う双蛇の(あぎと)に向かうべし】』


「「「???」」」


「…………ふむ」


「…………なるほど」


 ディーネの謎の言葉に、ウィルソン、メイシア、フェルマンの3人は揃って疑問符を頭に浮かべ戸惑いを見せる。

 その一方で、フィオナは少し考えるそぶりを見せ……レフィーナは合点がいった様子で呟いた。


 フィオナは何度かこの試練を突破してるので、その言葉が次に進むためのヒントであることは分かるが、まだ答えまでは出ていなかった。

 しかしレフィーナの呟きからすれば、彼女は謎を解いたのであろうと察する。

 であれば、ここはレフィーナに花を持たせようとフィオナは彼女に視線を向けて皆へ説明するように促した。

 レフィーナはそれに頷いてから、謎の言葉が意味するところを語りだす。


「『海の精霊の歌声』はアレのことだと思いますわ」


 そう言って彼女が指差す先には、ただただ無数の星々の光が広がるだけだが……



「美しい歌声で船乗りたちを魅了し惑わすという海の精霊の伝説になぞらえ、その姿を星に描き出す。その中でひときわ強く輝くのがセイレーネ。まずはあれを目指すということでしょう」


「つまり……『星詠み』ということか」


 レフィーナの説明に、フェルマンは納得した。

 ウィルソンとメイシアの表情にも理解の色が浮かんでいた。


 『星詠み』とはすなわち、神話・伝説・物語などの登場人物や神々、魔物の姿を星空に重ねて描き出し、詩を詠むという伝統芸術である。


「貴族女性の嗜みの一つか。流石はフィーナだな」


 ウィルソンが称賛の言葉をレフィーナにかける。

 彼が言う通り『星詠み』は貴族女性の間では一般的な教養の一つとされており、高位貴族の令嬢である彼女であればそれを嗜んでいるのも当然かもしれない。

 しかし、幅広い知識とセンスが問われるものでもあるため、一瞬で謎かけのような言葉の意味を理解したのは流石と言えよう。


 そして、貴族女性の嗜みと聞いたフィオナは何となくメイシアに視線を向けた。

 彼女も男爵家のご令嬢であるが……


「ウチは成り上がりの木っ端貴族ですから。そんな高尚な趣味とは無縁ですわ。オホホホ……」


 と言うことらしい。

 自虐的な言葉に聞こえるが、別に彼女はそこまで家格を気にしてるわけではなく、ただの冗談だろう。



「ま、まあ、ともかく。レフィーナの言う通り、まずはあっちの方に行こうか」


 そう気を取り直してフィオナが言うと、一行は先に進むべく歩き始めた。

 足元には床のようなものが見えず、フィオナ以外は恐る恐る……と言った感じで。







 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「それにしても……こんな空間まで作り出せるとは。これも大呪術師ディアナが?」


 暫く歩くと足元の不安も無くなりしっかりとした足取りで進む一行。

 そうすると話をする余裕も出てきたのか、フェルマン教諭がフィオナに質問する。

 この研究施設に足を踏み入れてから、彼の興味は尽きないようだ。

 もちろん他の面々もそれは同じなので、フィオナに注目した。



「あぁ、この部屋はディアナじゃなくて……」


『マスターはそんなロマンチストではないわ。この部屋の仕掛けは【神秘術師フォルティーア】が作ったものよ』


 フィオナが答えようとするのに先んじて、ディーネが答える。

 新たな人物名の登場に、疑問の視線は引き続きフィオナに向かうと、今度こそ彼女は答えた。

 やや苦笑してるのは、『ディアナはロマンチストではない』という言葉に対してだろうか。


「アレシウスの弟子の一人だよ」


「それはそうでしょうけど……『神秘術』と言うのは聞き慣れないですわね?」


 フィオナの簡潔な答えに、レフィーナが更に疑問をぶつける。

 この施設に関わっていたのはアレシウスと彼の弟子たちなのだから、『フォルティーア』なる人物もその一人であることは分かるが……『神秘術師』というのがいかなるものかが想像できなかったのだ。


「『儀式魔法』ってあるでしょ?系統的にはあれと似たようなものなんだけど……」


 彼女曰く。

 いわゆる一般的な魔法というのは、術者自身の魔力を媒介にして、望む事象を顕現させるもの。

 それに対して神秘術とは、もっと大掛かりな……人智が及ばない、地脈や天体の巡りや特定の配置などを媒介にして発動させる魔法の研究分野ということだ。


「当時でもまだそれほど研究が進んでなかった分野でね。フォルティーアもアレシウスが晩年になってからの弟子で……だから私も詳しいことはあまり分かってないんだ」


 なので、彼女が今世で魔法の研究を行うとすれば、神秘術の研究は候補の一つに考えてたりする。


「なるほど…………あ、そろそろ『大いなる竜』が天頂に至りそうですわよ」


 そう言ってレフィーナは頭上を指差す。

 一行の歩みとともに星々はゆっくりと動いていたのだが、目印になってると思われる『大いなる竜』の星が天の最も高い位置に来たのだ。



「そうすると……次は北を目指すと言うことだが」


「北は……あちらですわね。『北天星ノーゼニス』……常に北の方角に座す不動の星です」


 竜の星を示していた指を少しだけ下げた先にある、全天の中でもかなり明るく輝く星だ。


「じゃあ……『竜』が沈むまではあっちに進むんだね」


 進行方向を変え一行は再び歩き出す。


 それまでと同様に、歩みとともに星々も再びゆっくりと動き、『竜』の星も天から下りはじめた。



 はたしてレフィーナの見立て通りに一行は先に進むことができるだろうか。



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