10歳の勇者
最終回はいつものゲームの世界ではなく、現実の世界が舞台となっています。
「兄ちゃん、ゲーム貸してよ。」
少年が兄のゲーム機に手を伸ばす。しかし兄は少年には渡さないよう、ゲーム機を高いところへ置いた。そして一言少年に言い放つ。
「お前には早い。」
「意地悪!」
少年の顔を見ようともしない兄の背中に怒鳴りかけるが彼は振り向かなかった。
「いいもん。椅子があるから。」
少し危ないが気にしない。少年は木の椅子の上に兄の本を何冊か積み上げる。その上でさらに背伸びするとゲーム機に指が届いた。
「やった!」
しかし、少年が声を上げた途端に椅子がぐらつき、ゲーム機ごと少年は椅子から落ちた。
「壊れてない?!」
兄のゲーム機が壊れたとなればどれほど怒られるだろう。少年は恐る恐る目の前のゲーム機を見つめる。運良く、少年が掴んだままの状態で傷はついていなかった。
「よし、やろうっと。」
少年の最近のお気に入りは自分が勇者となり、魔王を倒して街を平和にするゲームだ。自分の思い通りになることが何よりも嬉しいのである。
「あ、魔物。こいつの素材は高いんだよな。」
少年は目の前の魔物に刃を向けるよう、勇者を操作した。Aボタンを躊躇せずに押し、一瞬で魔物を消し炭にする。
「ゲームって魔物を倒す瞬間が一番面白いな。」
少年は普通の人間だ。リアルの世界の常識を知っているし、サイコパスでもない。ただ、ゲームはゲームと思う普通の少年である。そんな彼は今日もキャラクターに恐れられている。
初めて小説家になろう、で投稿した物語がこの勇者に告ぐ、でした。たくさんの方に読んでいただくことができ、とても幸せです。またこの村人たちのその後でも書いてみたいなと思います。