村娘は恋をしない
彼は私のことを可愛い、と言った。その時、私は彼をどんな人間か知っていたはずなのに一瞬で頭の中を彼に支配された。そう、これは恋じゃない。好きでもないのに私は彼に擦り寄り、甘い言葉を吐く。私は間違いなく何かに操られていた。そんな私を彼はいつもと変わらない表情で冷たく見つめる。私の会話なんて聞いてもくれない。たまに彼は毎朝私にプレゼントをくれる。その度に私は高価なものをお返しとして彼に渡す。私は彼がプレゼントを身につけてくれたのを見たことがない。一度、店に私のあげたものが並んでいるのを見たことがある。売り払われていた。何も知らない店主は言った。
「勇者様はこんな高価なものどこで手に入れたんだろうな。町一番の金持ちだってこんなものを持っちゃいない。」
私は何をしているのだろう。この高価なものは店に売っちゃいない。町の人のために私が一つ一つ丁寧に作った魔物避けのお守りだ。彼はどこまでも私を傷つける。好きでもない人間にこんな仕打ちを受けること。これほど惨めで辛いことはない。いっそ、心の底から彼を好きになれたらどれほど楽だろう。でも、私にはそのことが怖くてたまらない。