序章 第6話 『ピークアウト』
夜の帳が降りたころ、街の外れにある食堂では、美味い食事と酒を求めてやってきた者たちが、今日の疲れを癒すための宴の幕を上がっていた――
「はーい!追加のバイコーンのスモーキーグリルお待たせ」
「待ってましたぁ!」
客の歓声が上がり、ルイズが元気よくテーブルに追加の皿を並べる。
「今度は、リブロースのスモーキーグリルね」
「え?さっきのスモーキーグリルとは違うの??」
「そうよ。さっきのブリスケットっていう部分で少し繊維が粗いから噛むと旨味が溢れて、肉がほどけていったでしょ」
少し前、食べたのを思い出しながら、うんうんと頷く客たち。
「今のは元々、柔らかいお肉をスモーキーグリルにしちゃったから口の中に入れたら溶けちゃうよ」
「おお、そりゃあ楽しみだ!」
客たちは目の前の肉塊を見つめて、生唾を呑みこんだ。
「じゃあ、ごゆっくりどうぞ」
そういうと皿のお肉にかぶりつく客を尻目に、私は他のテーブルに向かう。
横目でエーデルを見ると――
「このスープ、エーデルちゃんが作ったんでしょ?本当に美味しいわ」
「そう。よかったぁ。皆、いっぱい食べて飲んでね」
「食感の違うホルモンが食べ応えあるのに、スープはあっさりでやみつきになっちゃうのよね」
「その内臓が厄介だったけど、頑張った甲斐があった」
どうやら、エーデルは女性客のお姉様方に気に入られて、可愛がられているようだ。
「ルイズちゃん。こっちにワイン1本、追加で」
「こっちは麦酒を4つ」
「はーい!ただいま」
また別のテーブルからオーダーが入ってくる。まだ、忙しいけど、エーデルの初メニューを提供した日だけど何もトラブルなく、いつもと変わらず、皆が満足そうで良かったと胸をなでおろした。
客席も満席状態から、空きが目立つようになり、店の喧騒も落ち着きをみせていた。
同じタイミングで、店の様子を察したようにカウンターで麦酒を呑んでるコメルじいさんが声をかけてきた。
「ようやく落ち着いたようじゃな」
「ええ。一人なのになかなか、話に付き合えなくてごめんね。」
「ええんじゃ。わしも職種は違えど、商売人じゃからな。そこは分かっとる」
「ありがと。コメルじいさん」
少し溜まっていた皿などを洗いながら、コメルじいさんと少しの間、話をしていると――
「こりゃあ、美味いのう。濃い目の肉としっかりとしたスープの後のデザートにぴったりじゃな」
「でしょ。それも、エーデルが一人で作ったのよ」
コメルじいさんが食べているのは、エーデルが仕込んでいた天使のクレームだ。それに酸味のあるベリーソースをかけて、出してある。
「見た目こそ、どっしり山のようじゃが、実際、口にしてみればどうじゃ。口当たりは、ふわっと軽くさっぱりしとるのに、牛乳の濃厚さはそのまま」
コメルじいさんは、うちの常連だが、甘党ではないし。デザートにここまで舌鼓を打つのは初めてかもしれない。
「それは、あとでエーデルに直接、言ってあげて。きっと喜ぶわ」
エーデルの料理が喜ばれて、私も自分の事のように嬉しくて笑顔で話す。
「そうじゃ。今日、出先でな、話を聞いたんじゃが。どうやら、もうすぐ国王様が外遊から、お戻りになるそうじゃ」
コメルじいさんの言葉に、少しため息を吐いて反応する。
(そっかぁ。ここを開いて1年となれば、そうなるわね)
「そもそも話を聞く限り、ルイズには落ち度はないと思っとるし。ここが、こうして繁盛しているわけじゃから戻る必要もないしのう」
コメルじいさんの視線はてきぱきと動く、エーデルを追っていた。
(私も今更、宮廷料理人に戻りたいという気はないけど……)
「はぁー。食った。食ったわい。それじゃあ、わしは帰るとするかの」
そう言うとコメルじいさんはゆっくりとカウンターに手をついて席を立つ。
「コメルじいさん。ありがとう」
そう言いながら、私は頭を下げて感謝を伝える。コメルじいさんは気にするなと手を横に振っていた。
「ごちそうさま。まぁ、なんじゃ。ここがわしは、好きじゃ。だから、なくなると困る。クビにされたとはいえ、最後に挨拶だけして筋だけ通せば何ら問題はないと思うぞ」
コメルじいさんは入口に向かうと、そこでエーデルと何か会話している。今日のメニューの感想を伝えているのだろう。
しかし、王族の動向など、秘匿性の高い情報をわざわざ伝えてくれたコメルじいさんには本当に感謝しかない。
失ったものより、今ある大切なものを大事にしようと噛みしめながら、遠くにある王都シュタール城がある方角の空を眺めて宮廷料理人をクビになったこと、そしてエーデルとの出会いを私は思い出していた――
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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