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序章 第5話 『10分と10時間の差』

挿絵(By みてみん)

「下ごしらえは、これで、ばっちりね」

「いよいよだね」


下準備を終えて、本格的に調理をしていく。


エーデルが今回、手がける料理はバイコーンの内臓(ホルモン)を使ったスープ。

スープと聞くと一見、簡単そうに思えるかもしれないけど、食べているだけでは気づきにくい気配りが大切なメニューなのよね。


「さっそく、やっていくね」


威勢よくエーデルが手を動かし始める。


カットした人参や、じゃがいもの根菜類と、エーデルが苦労して下処理した内臓(ホルモン)の胃袋、心臓を大きめにカットして鍋に入れて炒める。内臓(ホルモン)は部位によって、硬さが違うので、入れるタイミングは、それぞれ違う。最初に入れた胃袋、心臓は煮崩れないし。長く馴染ませれば味が染み込む食材なので、最初から入れる。逆にレバーや大腸などは柔らかい食材は、仕上がる直前に入れる。こういう、ちょっとした手間で味が変わってくる。


「これくらいで、どうかな?」

「うん、いい感じね。じゃあ、次はこれを入れて」


そう言って瓶に入った黄金の色をした酒をエーデルは鍋に入れていく。


「この匂いって――」

「お酒ね。シードルっていうりんごを使ったお酒ね」


熱くなってる鍋にシードルが入ると、じゅわっと音を立ててる。そして、次の瞬間、ぼわっと音を立てて目の前に炎が上がる。


「うわっ!びっくりした」


エーデルが思わず声を漏らし、身体をのけぞらせる。これはフランベという調理方法で炎が上がったのは、一瞬で、炎が消えたのはシードルのアルコールが飛んだ証。炎が消えると鍋には、りんごのいい香りが広がった。


ほどなくして、そこにバイコーンの骨から取った出し汁を、なみなみに注ぎ、そこにハーブも加える。


「あれだけ、下処理したのに灰汁が凄いね」


エーデルは浮かんでくる灰汁を丁寧に取りながらぼやいた。


「逆ね。あれだけやったから、この程度で済んでるっていうのが正しいかしら」


しかし、このスープという料理の大事なポイントは正に丁寧さだ。技術こそ必要としないが、丁寧に下処理をして、灰汁や脂をこまめに取る、そして時間をかけて煮込む。


こういう見た目には派手さはないことを最初に経験しておくのが料理をする上で今後が楽になることっだりする。

それをエーデルは今日で学べたはず。


これで、一先ずは、エーデルの一品目のバイコーンのホルモンスープが出来上がった。

この次はバイコーンのグリルをチェックに外のかまどに2人で確認しに行く。その際に、外を出ると夕方になっており、夕陽が沈みかかっており、周りは暗くなりつつあった。


「なにこれ?」


エーデルは自分が見たものに戸惑っていた。朝にかまどの上に肉を並べてからは店内で仕込みをしてて、この肉を見てなかったから、こういう反応になるのも無理はない。かまどにある肉たちは、どれも真っ黒だった。


「これ焦げてるの?」


私は首を横に振って否定する。これが焦げてるかは食べてもらえば分かってもらえるはず。

焼き上がったバイコーンの肉を1枚切り出す。すると外側の黒さとは違って中身はしっかりと焼きムラもなく火が均一に入っていた。

しかも、断面の色は、文字通り灰色になっていて肉汁が溢れてキラキラと輝いていた。その肉をエーデルに食べさせる。


「んんぅ!!美味しいぃ!」


エーデルの不安そうな顔が一変して、笑顔がこぼれる。

なんで、なんでと噛みしめるたびに連呼するエーデル。


「それは薪に秘密があるのよ」

「薪って、かまどに入れてる薪のこと?」

「そう、普段の火力重視の薪じゃなくて、煙が出やすく長く燃えている薪を使うことで時間はかかるけど。燻すには適した薪で焼いてるの」


それが白い脂肪と筋肉質な赤身が一体となって綺麗な灰色になっている効果だった。

これで10時間かけたバイコーンのスモーキーグリルの完成となった。


「さぁ、ここでお終いじゃないわよ」

「分かってる。デザートを作るんでしょ。言われた材料は用意してあるけど、たったこれだけでいいの?」

「そう、これだけで天使のクリームを作るのよ」


エーデルが言う、たったこれだけの材料というのは、ヨーグルト、生クリーム、砂糖、この3つだけ。この3つだけで今日のメニューに合うデザートが作れるの。百聞は一見に如かず、エーデルにさっそく作ってもらおう。


最初に、エーデルに生クリームに砂糖を入れて泡立ててもらう。


「うぉおおおおおお」


悲鳴のような叫びのような声を上げて、手を懸命に動かして生クリームを泡立てるエーデル。


(声は関係ないけど。出したくなる気持ちはすごく分かるわね。)


さっきまでは丁寧さが大事な作業だったが、今回はそういうのはない。如何に物理的に手を早く動かして泡立てられるかにかかっている。


器の生クリームが最初は泡立て器が、ちゃぷちゃぷと音を立てていたが、その音が徐々に減っていく。それと同時に生クリームが固くなり泡立っていく。それと共に砂糖と混ざり合った生クリームは次第に艶を帯びていく。


「これで……どう……かな?」


肩で息をしながら私に確認を求める。

その頑張りのおかげもあって、生クリームはしっかりと綺麗に泡立った。


「ばっちりね。じゃあ、ヨーグルトと合わせようか」


ヨーグルトは朝から薄い布に包んで、それをざるに置き、下に桶かなにかを用意しておくように言っておいた。すると、そのぷるんとしていたヨーグルトから水分がなくなって、桶には抜けた水分が溜まっている。


使うのは水分を抜いたヨーグルトの方、それと泡立てた生クレームを半分合わせる。この時はしっかりと2つが混ざるように合わせて、残りの生クリームと合わせる時はサッと混ぜる。水分が抜けて固くなったヨーグルト、泡立った柔らかい生クリーム、これが合わさって

できたのが、固すぎず柔らかすぎない不思議な食感のものが出来上がった。


「これで完成よ」

「え?」


エーデルが聞き間違えたかのような反応をしている。それを見た、私はもう一度、同じ言葉を繰り返した。


「これで完成よ」

「ほんとに?これだけ?」

「これだけ」

「天使のクリームっていうから、もっと大変なのかと思ったけど」

「ちょっと、出来上がったそれを舐めてみて」


言われるままに天使のクリームを指につけて舐めてみる。


「ふぇえええ!ふわっとしてるのに濃厚な味で美味しいぃ」

「だから、これで完成なのよ」


エーデルはホルモンスープの手間や10時間かけたスモーキーグリルとの落差もあって、手ごたえのなさに面をくらっていた。


「これが料理が難しいとこなのよ」

「難しい?簡単じゃなくて?」


エーデルは逆のことを言われて、理解が追い付いていない感じだ。


「そう。じゃあさ、例えば剣の稽古だったら1時間より10時間、稽古した方が実力は上がるでしょ?」

「確かに、そうだね」

「でも、料理は違うのよ。例えば今回の生クリームなんかはさ、泡立てすぎると急にボソボソになっちゃうのよ」

「そうなんだ。初めて知った」

「だから天使のクリームにとっては10分が適切な時間で、スモーキーグリルは10時間が適切なわけ」


ふむふむと言いながら、エーデルは頷く。


「だから時間をかければ、かけた分、美味しくなる訳じゃないの。そこが料理の難しさでもあるし――」


私はエーデルの顔に向かって笑顔で、こう続けた。


「面白さでもあるのよ」

「確かに。今日は色々とやって、新しいことをやるのが楽しかったよ」


エーデルも、笑顔で私に返事をしてくれた。それを見て、私はエーデルの頭を優しく手を置いて撫でた。

そう、自分も初めて料理の楽しさを知れたときに師匠から、そうして貰ったように。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


ちなみに今回のエピソードで出てきた天使のクリームことクレームダンジュは、そのままの方法で作れちゃいます。それに身近にあるジャムやハチミツをかければ立派なデザートになりますの是非。




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