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序章 第4話 『魔物の臓物の処理』

挿絵(By みてみん)

遅めの朝飯を食べ終わった私たちは再び、夜のメニューの仕込みに取り掛かる。


さっき、解体した時に取り除いた内臓(ホルモン)を使う。その工程を今回、私は口は出すけど手は出さずに、エーデルにひとりにやらせる。

これが、さっき言っていたエーデルのメニューをデビューさせるという言葉の正体だ。エーデルも、すっかり真剣な目になって、やる気は満々だ。


「いつも、ルイズが処理しているのを知っているけど。やっぱり、下処理前の魔物の内臓(ホルモン)は慣れないね。生臭いし。やっぱグロい」


エーデルが、顔を少しだけ引きつらせながら、これから処理をするバイコーンの内臓(ホルモン)を訝しげに目を細める。

見た目が、グロいというのは仕方ない。内臓(ホルモン)はどれも浅黒く、美味しそうという見た目からはかけ離れている。


「そうね。その生臭さを、これから取り除いていくの」


鍋に水を張り、その中に内臓(ホルモン)を傷つけないように沈めるよう伝え、ルイズが恐る恐る、鍋に入れていく。


「匂い消しに胡椒の粒と塩を入れて、あとセロリも入れるわ」

「セロリ?あの野菜の?」

「そうそう。でも、食べれる茎の所じゃないわ。入れるのはセロリの葉っぱね」


エーデルにセロリの葉っぱを嗅いでみるように促す。

不思議そうに言われるまま、葉っぱを鼻に近づける。すると――


「うわっ!すっごいセロリの香りがする」

「そう。茎の部分よりも、葉っぱの方が匂いが強いのよ。だから葉っぱだけを少し入れるだけで匂い消しになるのよ」


あまり入れすぎると逆にセロリの香りが前に出過ぎてしまうから、少しだけとエーデルに言い聞かせて鍋に加えた。


「これで沸騰するまで下茹でするんだけど。これを3回繰り返すわ」

「美味しく食べるには手間がかかるんだね」


3回と聞いてエーデルは、あらためて魔物を食べるということの大変さを感じていた。


エーデルの、その反応も分からなくもない。魔物を興味本位で食べようとする冒険者もいるかもしれない。臭みを消すために、1回は下茹でしてみるかもしれない。1回では駄目だと気づくと2回目をやってみるというのは、結構な人が辿り着くのだが、それでも臭みが取れないと、やっぱ駄目だと諦めてしまうのが普通の判断ね。この手間こそが魔物を料理して食べようと言う気にさせない理由の1つに違いない。




「できた。これで臭い問題は解決かな」


3回目の下茹でを終えて、エーデルが声をかけてくる。


「いいえ、まだまだかかるわよ」

「え?まだまだなの?」


エーデルに下茹でした内臓の臭いを嗅いでみるよう促す。


「ほんとだ。まだまだ生臭いね」


エーデルは苦い顔をして、ため息をついた。


「でしょう?次は内臓に小麦粉をまぶして揉みこむの」


いわれるまま内臓(ホルモン)に小麦粉をまぶして揉みこむと、内臓(ホルモン)の周りに付いた小麦粉が次第に黒く変色していく。


「げぇ!なにこれぇ!」


それを見たエーデルは驚きの声を上げる。


(そうよね。初見は、そういう反応になるわね。)


魔物の悪臭の原因となるエキスが小麦粉の成分に反応して染み出てて黒くなる。今度は、それを丁寧に水洗いさせる。


「次は?」


エーデルは、もう何でも来いと構えてみせる。


「これで最後よ。次は牛乳に内臓(ホルモン)をつける。そうすると最初は牛乳の色が青白くなって、次にピンクへと染まったら下処理完了の合図よ」


下茹でを3回。小麦粉で洗う。そして、牛乳に漬ける。この3つの工程を踏んで、魔物の内臓(ホルモン)が食べれるようになる下処理の基本だ。


(そりゃあ、誰もそうまでして食べたいとは思わないわよね。)


あくまで、これは基本の下処理で他の魔物によっては、さらに面倒な工程が加わったりするから厄介だ。


私はエーデルに内臓(ホルモン)の付けた牛乳がピンクになるのを待つ間に、他に必要な野菜のカットを指示する。

(その間に、私は外のかまどの様子を一度、確認しに行かなくちゃ。)


パチっ。パチパチっ。


かまどからは薪が割れて、炎が静かに燃えている音が聞こえる。あれから6時間くらい経った。肉はいい感じに赤茶色になって脂が透明になって肉の上で輝いている。正にエーデルが言ったように、この時点でも照りのあるベーコンに近い色をしていてを食欲をそそる。だが今回は、これをまだまだ燻していく。薪の具合を確認して、その場を離れ、もう1度、店の中に戻る。


戻るとエーデルは野菜のカットも終わっていて、内臓(ホルモン)を付けていた牛乳も、すっかりピンクに変色していた。エーデルの臨戦態勢は、ばっちりだった。


「おまたせ。じゃあ、やっちゃおうか」


エーデルは言葉にせず頷いて反応すると、先ほど漬けてあった内臓(ホルモン)を牛乳から引き揚げる。


「うわぁ!」


エーデルが驚きの声を漏らす。最初は浅黒く身もだれていた内臓が、色は赤みがかって鮮やかになり、身はぷるんと張りがある。


「これが下処理の効果ね」

「凄い。ちょっと感動しちゃうな」


エーデルが、自分の手で調理したことの結果を実感し、できなかったことができるようになる。その手ごたえに歓びを感じていた。


エーデルと出会った時は、エーデルは親と死別し、一人きりになって魔物に襲われているのを救ったことをきっかけに、ここで一緒に暮らすようになって約1年――横で一緒に成長を見ていた私も、なんだか自分の事のように嬉しくなった。


師匠が私に料理を教えてくれた時も、同じような感情だったのかなと、自分の昔を少し思い出した――


「どうかしたの?」


少し不思議そうにエーデルが私の顔を覗き込む。


「な、なんでもないわよ。さぁ、ここからが重要よ」


私は、少し恥ずかしくなった顔を見られたくないのを誤魔化した。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


内臓の処理の仕方はバイコーンの元ネタとしている牛ではなく、鹿や猪の臓器の下処理をベースに色々と混ぜています。牛乳に漬けるとかは鶏レバーのやり方ですね。


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