第22話 『エギーユ山』
「なんか秘密の空間って感じだね」
エーデルがアレス魔法道具店にある転移魔方陣がある地下の階段を下りながら呟いた。
「やっぱり反応がガキんちょね」
「褒めてるのにぃ!」
「別にワタシも悪く言ってるつもりはないわよ」
口を開けば、なにかを言い合ってる2人に少しうんざりしながら、私はため息をついた。
「ほら、これから一緒に魔石を獲りに行くんだから油断してたら駄目よ」
「うん、分かった」
「分かりましたわ。ルイズお姉さま」
地下に着くと、小さな台座があり、そこに魔方陣が描かれていた。
「これが、転移魔方陣ね」
「契約している任意の場所に瞬時に移動できるので、魔石などの材料を用意するのに重宝しているんです」
そう言いながらウーティーは転移に使う巻物を用意する。
「それじゃあ、行くわ」
そう言うと魔方陣が光出す。その光が今度は魔方陣を中心にドーム状の光になった瞬間――転移した。
アレス魔法道具屋の地下に居たはずが、見上げると遠くに黒い剣が峰がみえる。ここは間違いなくエギーユ山だというのを示していた。
「転移魔法陣って凄いね」
「そうね、本来ならアンファングから5日はかかる場所にあるのを一瞬で移動できちゃうんだから」
「ここは、ちょうどエギーユ山の中腹で、ここから少し行けばカーバンクルの生息エリアになるので」
進行方向へ指を差してウーティーが説明する。
「え?カーバンクルの額の魔石が火力魔石なの?」
どうやらエーデルは知らなかったようで驚いていた。
「そうよ、カーバンクルの額の魔石は火力魔石以外にも使い道があって便利な魔石の1つなのよ!」
「なんで、ウーティーが偉そうなの?」
「別に偉そうにはしてないわよ」
「とにかく、その生息地に向かいましょ」
「カッコいい!!」
私とオーガとの戦闘をしている姿をみて、ウーティーが歓喜の声を上げる。鈍重なオーガをスピードで翻弄してオーガ3体を斬り伏せていく。
「ちょっと、ルイズの戦いをみてないで。ウーティーも戦ってよ」
反対側でオーガ1体と戦っているエーデルがウーティーに文句を言った。
「もうちょっと、ルイズお姉さまのカッコいいのを見ておきたいのに。仕方ないわね」
そういうと手をかざして魔法を発動させる。その手に風が集まり、それが刃となってオーガを切り裂いた。ウーティーは精霊魔法の使い手だ。今のは風の精霊魔法の疾風刃を放ったのだ。
「よし、トドメは僕が!」
ウーティーが放った魔法で膝をついているオーガに向かって氷結炸裂弾を放つ。無数の氷の矢がオーガに突き刺さり、仕留めた。
「やるじゃない!ホントにガキんちょなのに高レベルの魔法使えるのね」
ウーティーはエーデルの戦いぶりをみて、印象を改めているようだった。それはエーデルも同じようで、魔物との戦いによって仲が深まっているみたいだった。
「雨降って地固まるって所かしら」
2人がオーガを倒している間にこちらもオーガを仕留めていた。
「やっぱり、ルイズお姉さまは強くてカッコいいわね」
「そう?もっと女性らしいというか、エーデルみたいな魔術師の方がスマートでいいんじゃない?」
「いえいえ、ルイズお姉さまの剣さばきは踊っているかのように可憐」
「そ、そう?ありがとう」
エーデルが何かを見つけたようで声を上げた。
「あれじゃないの?カーバンクル」
エーデルが指さした先には翡翠色をしたうさぎほどのサイズの魔物がいた。そして、その額には赤い魔石が輝いていた。
「そうよ、あれがカーバンクルよ」
そう言いながらウーティーが先に走り、カーバンクルに近づいていく。ウーティーは私たち2人に手招きをして、はやくはやくと急かしてくる。そのウーティーの後ろから巨大な影が現れた。
「あれは――」
ウーティーの後ろから現れたのはカーバンクルの成獣だった。ウーティーの近くにいるカーバンクルは幼獣の姿で、成獣になる姿をみかけるのは珍しい。ウーティーの傍にいるカーバンクルの親なのだろうか?ウーティーを敵だと認識して攻撃をしようと腕を振り上げている。その姿は死角になっていてウーティーは気づいていない。
「ウーティー、うし――」
エーデルが声をかけ終わるよりも、いち早く地面を蹴って、ウーティーへと近づき、抱きかかえる。
「え?」
ウーティーは何が起こったのか理解できていなかったが、目の前にカーバンクルの鋭い爪が振り下ろされたのを目撃して、今の状況を把握した。
「たしかに、あの速さはバイオレットスターライトって言われるわけだ」
エーデルが、私の速さに驚いてるところに私が叫ぶ。
「エーデル!」
その声を聞いて、ハッと気づき、すかさず雷撃炸裂弾を放つ。
「グワアアア」
網状になった電撃を受けたカーバンクルは叫びながら後ずさる。その隙をついて、私はウーティーを抱えてエーデルのいる場所まで距離と取った。
「なんで?顔を赤くしてるの?」
エーデルが冷ややかな目でウーティーに告げた。
「べ、別にルイズお姉さまの顔が近くて赤くなってるわけじゃないわよ」
「それはいいとして、まさかカーバンクルの成獣に出くわすなんて思わなかったわね」
「アタシも成獣を見るなんて、数えるほどなのに」
私は抱えていたウーティーを静かに下ろした。
「それはラッキーなの?」
「成獣の方が、魔石が大きいからラッキーではあるわね」
「まあ、油断しなければ、カーバンクルの成獣といえど苦戦するような相手ではないから」
「まあ、なんて頼もしいお言葉」
ウーティーは両手を祈るように握って私を称賛した。
「じゃあ、私が前に出るから、それを2人が後ろからフォローするってことでよろしくね」
そう言うと私はカーバンクルに向かって走り出す。カーバンクルも、私の攻撃には気づいているようだった。
「グワア」
小さな唸り声を上げて、カーバンクルは尻尾を振り回す。尻尾にある小さなクリスタルの棘が私に向かって放たれる。それをみてウーティーが精霊魔法の風障壁を放つと私に向かっていたクリスタルの棘が逸れていく。
「次は僕だ!」
エーデルは両手を広げると大きな炎の槍が現れる。灼熱魔槍を放つ。真っすぐにカーバンクルめがけて炎の槍が飛んでいく。
「あ!?」
ウーティーが驚きの声を漏らす。灼熱魔槍が放たれた直線上に私がいるのに気づいたからだろう。しかし、それを私は振り替えずに、かがんでかわす。炎の槍はカーバンクルに当たると身体全体が炎に包まれる。
「アンタ、意外とえげつないことするのね」
それをみたウーティーが苦笑いを浮かべる。カーバンクルは身体を揺らして、炎を消すと、私に向かって腕を振り下ろすが、それをかわす。攻撃をしようと飛び上がると――カーバンクルの後ろに新たな影が見えた。
「グワア!」
なんと新たに、もう1匹、カーバンクルの成獣が現れたのである。
「「2匹目!」」
後ろにいる2人も驚きの声を出す。2匹目のカーバンクルが尻尾で私を攻撃してくる。私は空中で、なんとか捻って尻尾攻撃をかわす。
「なっ!?」
その尻尾攻撃は私に向けられたものは本命ではなかった。後ろにいる2人に尻尾の棘攻撃を放つ、ついでに私に尻尾攻撃をしたに過ぎなかった。後ろの2人も、私に攻撃されたと思っていた分、反応が遅れる。幾つものクリスタルの棘がエーデルに向かっていく。
「危ない」
ウーティーが風障壁を発生して棘を逸らして事なきを得た。それを見ている間にカーバンクル2匹は私を前後に挟み撃ちをする形に陣取った。
「1匹をこっちに注意を引かないと」
ウーティーは続けて、疾風牙を後ろ向きになっているカーバンクルに放つ。疾風牙は疾風刃の上位版の魔法。それがカーバンクルに襲い掛かる。
「グワーッ」
致命傷になるようなことはないが、細かい傷が刻まれている。それでも、カーバンクルは体制を変えなかった。それを見て、エーデルも魔法を放つために魔力を手に溜め始めた――その瞬間
後ろを向いていたカーバンクルの尻尾の攻撃が2人に襲い掛かる。魔力を溜めるのに集中していたエーデルは横に吹き飛ばされる。
「ぐわぁ!」
ふいを突かれた形だったので大きく飛ばされた。そこは崖を超えて、足場のない場所まで飛ばされていた。
「「エーデル」」
私はカーバンクルに挟まれる形だったので、動けなかった。しかし、ウーティーが走って崖から飛んで、エーデルを抱える。その状態で振り向き、私に向かって叫ぶ。
「風の精霊魔法で、着地はなんとかなるから、私たちの事は気にしないで――」
後半の言葉は掻き消されて聞き取れなかった。私は2人の名前を大きく叫んだが、その叫びは虚空に消えてしまった――
ここまで読んでいただきありがとうございます。
まえがきで書いたとおり、短編は同じ世界線なので、お話が進んでいけば、こっちにも登場するかもしれません。
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