第18話 『はじめての朝』
朝食の準備をしていると後ろから声をけられる。
「ルイズ、おはよぉ」
大きなあくびをしながらエーデルが階段を下りてきた。私は料理を準備しながら返事をする。
「おはよう、エーデル。顔を洗ってきて、朝ごはんにするよ」
「はぁあーい」
まだまだ眠そうなエーデルはフラフラと顔を洗いに行く。私たちは、新しい家に入居して、初めての朝を迎えていた。
あのあと、そのまま当日に契約を交わして、昨日の夜に入居をした。そこら辺の段取りがスムーズにできたのもリュネットの手腕だろう。おかげで無駄に宿屋に泊まったりする必要がないので、ありがたい。
「なんか、いい匂いがする」
「いま、やってるから。もうちょっと待っててね」
「え?朝食のパン、バケット?わたし、このバケット苦手」
昨日、買ったバケットをみたエーデルが顔をしかめる。
「固いのが嫌なんでしょ?」
「うん、パンには全部、ふわふわであってほしい」
「仕方ないでしょ、昨日、契約とかしていたら遅くなって店で売っていたのがバケットしかなかったんだから」
「うーん、我慢する」
嫌々ながらもエーデルは自分を納得させたようだ。
「大丈夫、この硬いバケットを柔らかくしてあげるから」
「え?そんなことできるの?このバケットを?」
カウンターに硬いバケットをコンコンとぶつけて聞いてくる。
「ちょっと、食べ物で遊ばないの。ほら、そこにあるサラダを並べてら座って待ってて」
「わかった」
返事をするとエーデルはランチョンマットを敷いて、その上にサラダとナイフとフォークを置いて、カウンターに座って待っている。
「じゃあ、ちょっとパフォーマンスを見せちゃおうかな」
「え?なになに?」
フライパンに入れていたものを空中に飛ばす。
「うわー!危ない!!」
思わずエーデルが声を出す。その飛ばしたものを皿でうまくキャッチする。
「びっくりした?」
「びっくりしたよ、フライパンから飛んでくるからハラハラしたよ」
さて、あとは仕上げのソースを作るだけ。小さな手鍋に砂糖を入れて、温める。
「ルイズ、ルイズ!」
「え?なによ」
エーデルが慌てて声を出しながら、手鍋を指差していた。
「けむり!鍋から煙が出てるよ!」
「大丈夫!こういうのなんだから」
「えー!僕、焦げてるのはヤダよ」
ガッカリした顔をしながらカウンターにうなだれる。そうなってるエーデルに、さらにびっくりさせる場面にきた。
ジュワワワワワーーーー!!
「ナニナニ?ルイズ!煙が上げってるよ!!さっきよりも煙が!」
その音にびっくりして1回、驚いて、煙で2回、驚くというのをエーデルに見せつける。正しくは湯気なんだけどね。一見、派手にやらかしたかのように見えたが、これは決して失敗したわけではなかった。
手鍋で温めていた砂糖が溶けると、煙が少し出て、砂糖が少し茶色に色づく。さらに、そこに水を注いぐと砂糖と水が合わさって一気に湯気が吹き上がる。それを鍋でくるくると揺らしていると、砂糖と水が一体になって、湯気もなくなっていく。
「はい!これで完成!」
スプーンで、すくうと溶けた飴のようにトロっとした茶色なソースが出来上がる。これが、カラメルソースだ。
「あれ?メッチャ綺麗!焦げてたんじゃないの」
エーデルが不思議な顔をしている。そして、その出来上がったカラメルソースを、さっき皿にのせたものにかける。
「これで黄金のトーストが完成よ!」
「あれ?バケットは?」
「バケットをフライパンで焼いたのが、これよ」
「この黄色のパンにさっきの茶色のソースがかかったこれが?」
「そうよ。卵と牛乳にバケットを浸してのをフライパンで焼いたのが、この黄金のトーストよ」
「ええ!これ、バケットのなの?」
エーデルは大きな声を出して驚いた。確かにパッと見ではバケットには見えないかもしれない。バケットの周りに黄色の衣が、まとっていて、表面はきつね色に色づいているものに変貌を遂げていた。
「ほら、温かいうちに食べちゃいな」
「うん」
「「いただきまーす」」
エーデルは黄金のトーストにナイフを入れる。
サクっ!サクサクっ!
「あれ?中は柔らかいし。バケットなのに外は表面がサクってしてて硬くない」
「でしょ、だから柔らかくなるって言ったでしょ?」
エーデルが黄金のトーストを口に運ぶ。
「ふわっふわっ、してるぅうう」
バケットなのに、バケットなのにと連呼するエーデル。そんなにお店で出てきたバケットが嫌なのね。覚えておくわ。
「甘くてやわらかくて美味しい」
ほんとに、がっつく姿がリアムっぽい食べ方に似てきた。慌てないように注意するが、エーデルは夢中で食べていた。
「ほら、口の周りに付いてるわ」
私はエーデルの口をふきんで拭ってあげた。こうして、自分の家で寝て起きて、朝食を作って食べるというシンプルで当たり前な行為が宿屋に泊まったり、お店で食事をするのとは違った安心感を感じ、自宅という居場所の存在の大きさを再確認できた。この新居をエーデルにとって、そういう場所にできるようにしていきたい。
「ルイズ、もう食べないの?食べないなら僕が食べるよ」
「こら、食べるわよ」
エーデルは私が言い終わる前に、私の黄金トーストを口に入れる。
「ああ!食べた!返して」
「もう口に入れちゃったから無理だよ」
私たちは新居での、はじめての朝というのもあって、いつも以上に、はしゃいでいたのかもしれない。
そんな私たちらしい新しい生活の幕開けとなった――
ここまで読んでいただきありがとうございます。
お気づきと思いますが今回のエピソードの黄金のトーストはフレンチトーストのことです。昔、ヨーロッパでは黄金のトーストと呼ばれていたのを引用しました。
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