第17話 『物件探し』
「まず、こちらが1軒目がこちらになります」
「うわー!広ーい」
私とエーデルは自宅兼店舗の内見をリュネットと一緒に見て回っているところだ。
まずは1軒目――
「ここは以前も飲食店として営業していたので厨房機器なども、残っているものをそのままお使いいただけるようになってます」
「おおー、これがオーブンか!初めてみる」
エーデルは、はしゃぎながら店内を走り回る。たしかに飲食店だった物件だけあって、無駄な出費もなさそう。
「悪くなさそうね」
「しかも、ここのエリアはアンファングでも人の往来が多いエリアなので繁盛も見込めるのではないかと思われます」
今は日中だからなのか、リュネットが言うほどの人の往来は感じられない。
「ですが――ルイズさん。あまり、こちらはお勧めできません」
リュネットが急にお勧めできないというのは、どういうことなのだろうか。そもそも、私の出した条件の中でリュネット自身が選んだ物件のはず。几帳面なリュネットが、そもそも候補リストの物件をお勧めしないというのは、どうも腑に落ちなった。すると、リュネットは、はしゃぐエーデルをチラッと見たあとに続きを話し始めた。
「ここが往来のあるエリアなのは、ここが歓楽街エリアなのです」
「――!?」
どうりで、日中の人の往来が少ないわけだ。このエリアの真の姿は夜になってからということだった。ここには娼館があったりするし。そういう利用客も見込めるが、まだ子供であるエーデルが一緒に住む、自宅兼店舗というのには相応しくないということを気遣ってくれたのだろう。
「リュネットさん。エーデルを気遣ってくれたのね、ありがとう」
「業務なので」
私は少し誤解をしていたのかもしれない。融通が利かない、いかにもお堅いギルド職員だと思っていたのだけれど、決してそんなことはない、自分の認識の甘さを恥じた。
続いて、2軒目にやってきた――
少し、街はずれにある3階建ての物件。先ほどとは違って、元は宿屋として利用していたので食堂にするなら改装をする必要がある物件だ。個人的には間取りだけをみた時には、ここが本命と考えていた。
「ここは書類にある通り、元宿屋ですので、1階は厨房にするために大幅に改装する必要がありますが、内装も綺麗なようですね」
「そうね。改装費用は元宮廷料理人でお給金はよかったから、問題ないわ」
「ねー、2階行こうよ」
「ええ、一応、チェックしときましょ。住居部分にするか、客席にするかも見ておきたいし」
エーデルが走って、先に2階に上っていった。私とリュネットも後に続いた。
「これだけ内装が綺麗で立派なままなのに、街はずれとはいえ家賃が安すぎないかしら?」
「確かに、そうですね。2、3階も破損個所などの報告もないので、長期期間、借りられてないのでオーナーが値下げしたということでしょうか」
2階に上がると見た感じも問題なかった。客室を見てみようかと思ったら、奥の客室からガタガタと音がしている。
「ちょっと、エーデル。なにやってるの?」
返事はない。とにかく、音がする奥の客室に行くしかない。私とリュネットは、少し早歩きで客室に向かった。
「ここね」
ドアを開けようとドアノブに手を伸ばした瞬間――
「バアアアン!」
扉が大きな音を立てて、急に開く。しかも、私の意思とは関係なく。その急に開いた扉に私とリュネットが頭をぶつけてしまった。
「大丈夫?リュネットさん」
「ええ、大丈夫です。これも業務ですから」
いや、真面目か!と思ったが、それどころではない。私はエーデルを怒鳴りつける。
「なにやってるの!危ないでしょ!」
すごい速さでエーデルが客室から出て行って廊下を駆け抜けていく。
「ちょっと待ちなさい!エーデル!」
一体、客室でなにがあったのかと思い、私とリュネットの2人で客室に足を踏み入れる。部屋のクローゼットが半開きになって、その扉がゆらゆらと揺れていた。そこに手をかけようとした瞬間――
「ヒュオオオオー」
何者かが風切り音を立ててクローゼットから飛び出してきた。私は何かを把握できずに反射的に逃げた。本能が逃げろと言っていたからだ。私もリュネットも客室を出て、エーデルがいる階段のところまで廊下を走る。
体感ではアメミットに止めを刺したスピードよりも速かった気がする。エーデルの許へと辿り着いて、ようやく振り返って、追われていた何かを把握する。リュネットが一生懸命、走ってくる後ろから、追ってきていたのは幽霊だった。
「ルイズ!あ、あれなに?」
エーデルが私の後ろに隠れながら、追ってくる何かを指を差した。
「あれは幽霊よ」
元々、死んだ人間の残留思念が実体化した存在で、悪霊になれば魔物として認定はされるが、基本、害はないというのが幽霊だ。
けど――私は幽霊が大の苦手。だから私が本能で感じた嫌悪感は間違っていなかった。
「リュネットさん、置いていってごめんね」
「いえ、業務ですので」
ゼエゼエと肩で息をしながら、リュネットがいつもの返事をする。これで家賃が安いのが判明した。幽霊が住み着いていれば安くもなるわけだ。
「ねえ!なんで、注意事項に幽霊がいるってのが書かれてないのよ」
苦手な幽霊のことだったので、リュネットに文句をつける。リュネットは書類に目を通して、確認する。
「恐らくですが、告知義務の5年を経過しているので記載されていないと推測されます」
「あの幽霊っていうのは魔物なの?」
「魔物ではないけど、神官職の人に浄化魔法でしてもらわないと住んだりはできないわね」
前提として、私が絶対に住みたくはなかった――
そして、最後の3軒目――
アンファングの街から、ちょっと外れた場所にある地上2階、地下1階建ての建物が最後の候補物件だ。
「ここは以前までは冒険者ギルドが管理する詰め所でした」
「詰め所?」
「アンファング開拓当初に野生の大森林の魔物の動向を監視する場所として建てた場所でして、現在は借家として貸し出されています」
1階に入ってみると大きいラウンジとキッチンが備え付けられていた。
「吹き抜けだー」
「ええ、立派な作りの家ね」
エーデルが上を見上げて歓喜の声を上げる。私も想像以上の立派な作りに驚く。
「ねえ?さっきみたいないわくつきじゃないでしょうね」
「今回は、そういうのはございません。なにしろ元々、冒険者ギルドが管理していた建物ですので」
ちょっと意地悪な聞き方を私はした。
「でも、なんでこんなに立派なのに借り手がいないの?」
「とある冒険者パーティーの方々が拠点として借りていらしゃったのですが、拠点を移すという理由で現在は、借り手を募集中となっているのです」
「とある冒険者パーティーって?」
エーデルがリュネットに興味本位で訊ねた。私も、とあるっていう含みのある言い方がちょっと気になった。
「それは個人情報なので明かすことはできません」
「えー駄目なの?」
「ええ、それが――」
「業務ですので――でしょ?」
エーデルがリュネットの口癖を真似て、リュネットの回答よりも先に答える。
「その通りです」
リュネットは眼鏡をクイっとして続けた。
続いて地下へ下りると、地下は貯蔵庫になっていた。地下とはいえ、そこは明らかに冷たい空間になっていた。
「ひんやりしてる、なんで?」
「これはですね、結界師の方が貯蔵庫用に氷結結界の陣を張っていただいているからなのです」
「すごいね」
エーデルは壁を触って、冷たさを確認して遊んでいた。
「ちなみに、その結界は、どの程度の周期で張り直すのかしら?」
「1年ごとですね。次回の結界更新は半年後になりますね。更新の際は家賃とは別料金になります」
「あら、そうなの?でも、使い勝手がいいからお願いすると思うわ」
「いかがでしたか、こちらの物件は?」
広いラウンジもいいし。2階の部屋も問題なし。地下は氷結結界の貯蔵庫と設備は完璧。
「そうね。私は問題ないけど――エーデル、貴方の新しい家になるんだけど、どうかしら?」
「うん!僕、ここ、気に入ったよ!」
「では?」
私とエーデルは顔を見合わせて――
「「ここに決定!」」
私とエーデルの新しい家がここに決まった。帰ってくるのが住んで楽しくなる家にできたら――いや、2人でそれをこれから作っていこうと胸に決めた。
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