第10話 『竜の子供エーデル』
亜人の子が目を覚ました。
「おお、気が付いたか」
リアムが、話しかける。状況が意識がはっきりしないのか。焦点が定まっていない。大丈夫だろうかと思っていたら――
意識がはっきりしたのか、目を見開いて地面を蹴って、私たちから距離を取った。
瞬時に、いつでも飛び掛かれるよう戦闘を取る。私たち2人をきっちりと視界に収めつつ、周りの情報に目配せをする。
「ちょ、ちょっと待て。お前が沢で弱って倒れていたのを見かけて介抱していただけだ」
落ち着かせるように両手を前に出して説明するリアム。
「そうよ。私たちは貴方に危害を加えるつもりはないわ」
続けて私も敵意がない事を伝える。
「ほんとか?」
「ええ、今も弱ってる貴方にスープを作っていたの」
焚火にかかっている鍋に目線を送る。
「毒とかないのか?」
「ないわ。ほら」
少しずつ警戒が弱まっている。あと、もう一押しだ。私はミネストローネを器に盛って、一口食べてみせる。
「これで、毒がないのは分かってもらえるかしら?」
「そ、そうだな。話だけでも聞いてやっても――」
亜人の子が言葉を言い終わる前にキャンプ地に大きな音が鳴り響いた。
「ぐぅーーーーーー!」
「アハハ!めっちゃ腹減ってるんじゃねえか。アイツが作った料理は美味いぞ」
緊張で張りつめていたものが決壊したようにリアムが大きな笑い声を上げる。腹の音がなって顔を真っ赤にする亜人の子。
「こら、リアム。笑わないの。さあ、どうぞ好きなだけ食べて。熱いから気をつけてね」
リアムを一喝して、器に盛ったミネストローネをスプーンと共に亜人の子に渡す。それを警戒しながらも受け取ってくれた。
亜人の子は私たち2人の顔を窺いながら、器に盛られたミネストローネの匂いに魅せられて、意を決して口にするのを決めたようだ。
「んんっ!なにこれ」
亜人の子は堰を切ったようにミネストローネを頬張る。「なにこれ」と連呼して食べ続けていく。
「そんなに慌てないで。おかわりもあるから」
追加でミネストローネを盛ってあげる。この食べっぷりをみると気に入ってくれたようでよかった。
「ねえ、食べながらでいいから、話を聞かせて。私はルイズ・シャサール。今は冒険者をやってるの。貴方は?」
亜人の子はミネストローネを食べながら上目遣いで私を見つめてから口を開く。
「私はレーヌの子。エーデル」
エーデルと名乗った亜人の子は、静かにそう答えた。髪は銀髪のストレート、前の髪は顎のラインで切り揃えられていた。顔色こそ悪いけれど、それでも幼いながらも精悍な顔立ちをしていた。そして竜人の象徴の角が2本生えていた。
「俺はリアム。リアム・シルトだ。よろしくな、エーデル」
明るく、でも優しさを含んだ声でリアムが名乗る。エーデルもそれに頷き反応する。
「エーデルは、どうして一人で野生の大森林に入ったの?」
そう聞くとエーデルは不思議そうな顔をして答えた。
「入るもなにも、僕はここで暮らしているから」
「「ええ!?」」
私とリアムは2人同時に驚きの声を上げてしまった。
「竜人が野生の大森林に暮らしているって話は聞いたことねえな」
リアムが言ったことと、私も同じ回答だった。そもそも、竜人だけでなく、魔物以外がここで暮らすなんてのは聞いたことがなかった。それぐらい野生の大森林は危険な場所だった。
「エーデルの他に誰かと暮らしているの?」
もし、暮らしているとしてもエーデル、ひとりではないはずだ。
「うん。母上と暮らしているよ」
「その母親は、どこにいるんだ?」
リアムが聞くと、エーデルは躊躇しているようだった。エーデルが躊躇っているのを気遣って私はフォローを入れた。
「別にいいのよ。私たちは、エーデルが住んでいる場所を探ろうとかをしたい訳ではないの」
それを聞いて、エーデルの顔が少し和らいだ。
「最近、母上が元気がなくて元気づけるために、いつも花を摘みに来ているんだけど。そうしたら、いきなりアメミットに襲われて、逃げていたら沢に落ちて――」
「アメミットだって!?」
リアムが思わず大きな声を出した。
アメミット――頭はワニのような大きな顎を持ち、身体は獅子の姿をした野生の大森林でも最強の一角を担う大型の魔物だ。B級の中でも上位の冒険者パーティーで、なんとか討伐できるというレベルの魔物だ。しかし、この野生の大森林は広大で森の中心に行くほどに強い魔物のテリトリーになる。ここは、まだ野生の大森林の外側。アメミットがテリトリーにしている場所からは、かなり離れている。人が歩いて2日くらいの距離がある。実際、この私たちが受けているギルドの依頼のグレードはD級。そのルートにいる魔物も、それに準ずる魔物が出るエリアとなっている。
「こんな場所までアメミットが現れるっていうのは初耳だな」
「そうね」
リアムは別にエーデルの話を信じていないわけではなく、この付近までアメミットが出るというのに驚いているということだった。
「普段、相手をしているバーゲスト程度なら平気なんだけど。アメミットは母上に注意するように言われていたんだけど、怖くなって、がむしゃらに逃げているうちに、気がつくと、ここでいた」
エーデルがアメミットに襲撃されて怪我がなかったのは、不幸中の幸いだった。
「僕は住んでる場所に帰りたい。母上も心配しているだろうから」
「そうね。もう夜になっているから、動くとしても朝になっちゃうけど。私たちは、エーデルの帰る手伝いをするから遠慮せずに言ってね」
「ありがとう。ルイズ、リアム」
エーデルは気を許してくれたのか、少し恥ずかしがりながらも笑顔でお礼を言ってくれた。
「気にするなよ。困ったときはお互い様よ」
リアムが歯を見せてエーデルに笑いかける。
ギルドの依頼はひとまず置いておいて、明日はエーデルを住んでいる場所まで帰る手伝いをすることで話はまとまった。
このあとは、3人でなんでもない話をして、明日のためにも、休むことにした。
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