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薬師見習いの処方魔術  作者: 湖陽 照
第1章 祝福のメイラード
11/13

処方番号1-10 『きっかけのfist』

 魔法使いの学校なんて奇天烈で陰気の極みなのかと思えば、由緒正しく歴史を積み上げた荘厳で風通りのよろしい景色が広がっていた。此処が島の中心部で浮かぶ島だと思えない程、狭苦しさを感じない。


 絶海の孤島から切り離された大地の欠片には、元からそこに根付いていた自然が断ち切られることなく確かに息吹いていた。人工的に整えられたものもあるが、不思議と景観を損なわない形で乱雑に且つ伸び伸びとした緑も見受けられる。開花時期がまだ先なのか、小さな蕾がちょんちょんと慎まし気に鎮座している。 


 幼子の手首に巻きつけられた風船の紐のように島と島を繋いでいた鎖はとうに見えなくなり、いつの間に光も差し込みづらい奥まった場所まで進んでいた。


「此処が学長室なのですが、少々お待ち頂けますか? 最近は整理を怠っていまして、貴方を迎い入れるには少々気恥ずかしく……」


「気にしませんよ。仕事場なら乱雑しているのが常でしょうし」


 照れ隠しなのか、困った顔でコテッと顔を傾けると、 


「いえ、待たせておきながら何をと思うでしょうが、貴方に良い印象を抱いて貰う為に努力する時間をどうか頂けませんか?」


「…………。残酷な話ですがこういうのは傷が浅い方がいいと聞きますし、今のうちに言っておきます。

 お気持ちは嬉しいけど受け取れないワ、ごめんなさい!」


 指を揃えて頭は斜め三十度を意識、大仰に芝居がかった口調でお断りの文句を添える。


 半端な情けを掛ければ、恋は根腐れを起こし愛憎となって腐臭を撒き散らすことになる。この人の恋愛遍歴がどんなものか知る由もないが、誰も救われない結果になる前にスパッと切って捨てるのが真の情けというものだ。


「お気遣いなく。好きでしている事なので貴方の意思はあまり問題ではありません」


 何を隠そう異性に惚れられるなんてぶっちゃけあり得ない私である。

 そんな私の断腸の思いで振り絞った気遣いは、邪気の無い笑顔で無情にも一蹴された。


「健気な純心と捉えるべきか、ただ人のこと考えていないだけなのか判断に困る発言ですね……」


「安心して下さい。どちらの私にしても貴方を好んでいることは変わりませんので、それこそ問題外

です」


「……了解しました。そこで待ってるので片付けでも何でもごゆっくりどうぞ」


 痛み出した頭を片手を当てながら、「ありがとうございます」と言葉を残していそいそと扉の向こうに消える学長を見送る。後ろ向きでよろよろ、すぐそこの柱に寄りかかってホッと息をつく。


 手持無沙汰を誤魔化す為、常にポケットに入っているタブレットケースをいじってみれば、だいぶ少なくなった砂糖菓子がカラカラと鳴った。

 


 ――――ケースとワンセットで常にポケットに入れてあるスマホは無い。



 繋がらない電話帳の羅列や、走りたくても走れないソシャゲのアプリアイコンを眺めるしか出来ない苦痛は地味に耐え難く 、持ち歩いても仕方がない。

 だがしかし、ダウンロードした曲ぐらいでも多少の慰みにはなったはず……いや、充電を無駄に消費するだけ損か。それに真水で洗ったとは言え、どっぷり塩水に浸かったスマホに電池を入れる勇気はまだ無い。


「――ン……ララ、ンララ……フッ、フフン――――」


 朧げなメロディーをこれ以上忘れてしまわないように鼻歌でそっと歌う。

 ぼうっと壁の目地を辿っていくと慣れない土地柄と風景に疲労が溜まっていたのか、思考が徐々に溶け出していく。どこかで囀る小鳥の声が静寂を呼び込み、さらさらと流るる小風が身体を優しく撫でていった。


「捕まえろ!」

 

 突然響き渡る大声量、慌ただしく逃げ去る羽音が幾つも重なって消え去っていく。

 柱に預けていた重心をすかさず戻し、何事かと音の出元に向こうとして――


「――ッ、――――!」



 ――――気づけば左頬に熱を感じた。

 


 殴り飛ばされた距離から拳の勢いが窺い知れる。

 体育を真面目に受けるタイプだったことが幸いし、無意識に体が受け身の姿勢をとっていた。滑らかな仕上がりの廊下を後頭部を庇う態勢で滑走する。

 

 スピードが乗った拳による容赦のない一閃。申し訳程度とはいえ、後退りも含んだ反射的な受け流しと圧倒的な力により抵抗なく吹っ飛んだお陰もあってか、飛距離の割にダメージは少なかった。

 そのせいか、殴られたと知覚できても攻撃されたと認識するまでに至らない。


 ただ、あまりにも唐突な暴力に、疑問符が脳内を埋め尽くす。


 ――ふと、陰りを感じて顔を上げるとようやく状況を理解した。

 

 目の端で捉えた黒い残像。

 決して短い距離ではない、廊下の曲がり角から飛んできた褐色の弾丸。それは精悍な顔つきな青年の拳だったのだと。

 かっちり着込んだ制服姿の時点で少年なのだろうが、青年といっても差支えの無い大人びた風貌。萌葱色の長い前髪からは、硬いシトリンの瞳が静かに光っていた。

 

「いきなり何を――」


「おまっ、何やっちゃってんの!?!?」


 私以上に困惑と驚愕の色を載せた声が再度、廊下に響き渡る。

 今時の若者風の無造作に跳ね癖がつけられたワインレッドの髪、所々の毛先が茶色く色づいており、ダークラムの瞳をボコボコと沸騰させながら駆け寄ってきた。


「捕まえろと言っただろう?」


「言ったよ、言いましたけどっ! けどそれがどうして渾身の右ストレートをかますことになるワケ!?!?」


「無防備な最初の数秒が勝負だ。……逃げられたら困る」


「おまえ、実は捕まえると仕留めるを混同してるなんてことある?」


 キョトンとした相方に鋭いツッコミが入る。


 どうも暴行教唆の現行犯(仮)である少年の意図した状況ではないらしい。

 コンビ歴がまだ浅く、互いのノリを把握しきれていなかったが故の事故。事前に打ち合わせぐらいしておけというに、ああも芸人張りに狼狽えられれば、殴られた側としても冷静にならざる負えない。


「…………結局ところ、何したかったの?」


 口内に溜まった鉄臭い唾液を飲み込み、いつまで続きかねないコントに割って入る。


「えっ……と、その……あーえー、今日はこの辺で勘弁しといてやる!! もう妙なこと起こすんじゃねーぞ!!」


「雑か。見切り発車じみた捕り物にしたって多少の決めセリフぐらい用意しておけというに、相方の暴走の一つ止められないって……」


「うるせぇーッ! 思いのほか使い勝手が悪過ぎてこっちも想定外なんだよ!」


 頓挫した状況にどうにかオチを付けようと破れかぶれの捨て台詞を並べ出す。少々無理があると自覚はあるのか、ビシッと向けられた挿し指に対して表情筋は豪快に引きつらせていた。


「だろうなぁ。だから笑いもせず一旦区切りがつくまでやり取りを見てた。

盛大に空ぶった羞恥心で逃げ出したいのは分かるけど、出会い頭に殴られた理由ぐらい聞かせて貰っても罰は当たらないと思う」


「悪いと思ってるならとっとととんずらさせてくんない? 空気読めないヤツ。友達の一人もいないからそんな心配りも出来ないんじゃねーの?」


 調子が戻りつつあるのか、小バカにした態度で見下してくる。

 

「言うに事を欠いて失礼が過ぎる、友達ぐらいいる。ちょっと国際電話でも繋がらないようなところにいるだけ」


「……よく分からないが、それはこの世にいないってことじゃないのか?」


「グッ……、その言い回しはちょっと痛い」


 黙りこくっていた緑の少年の素朴な返しにクリティカルが入った。若干意味が違うように聞こえてしまうのが余計につらい。


 イケない、売り言葉に買い言葉の応酬で泥沼に嵌まり掛けている。赤髪の少年が私に敵意を向け、人を嗾けてきた理由が未だに掴めないというのに。


 見かけはごく普通の人間だがここは異世界、言葉数は少なく、話を一足飛びに進めていくのが普通なのかもしれない。所謂、「言わなくても分かるでしょっ!」の文化風習が格段に進んだ世界――だとしたら、いきなり前途多難。


 参った、これならどこぞの学長の方がまだ波長が合う。異世界人は人外の括りなのか? 悲しい疑問は残るが取り敢えず――――、


「ええ、彼女に友人はいません。その代わり、私がいます」


「しれっと出て来て酷いこと言わないで……」


 ――――どこぞの学長様は怒っていらっしゃった。




※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「魔法による治療は高いレベルになるにつれて相手の魔力を操作し治癒力を底上げします。内と外から平行して治すからこそ早い回復が見込まれるのですが、貴方の場合は応急処置程度にしかなりません。申し訳ない」


「道具もなしに出血を塞げるだけでも有難い話です。

あ、すみませんが氷貰えますか? 腫れる前にガンガン冷やしておくと翌日響かないので。これ経験談です、間違いない」


 何処から取り出したのか分からない氷袋。「ありがとうございます」と驚きもせず受け取る私も大概、学長マジックを信頼し始めてきたらしい。

 逃がしきれなかったダメージが後になって赤い雫となり顔を濡らしていたのをさっさと拭き取り、発赤して膨れ上がった頬に袋を当てながら思い出す若かりし頃。

 

 バスケで足を捻ったまま放置したら翌日、尋常ならざる痛みに悶え苦しむこととなった。

 地面と接地するごとに麻痺した感覚と固まった関節を無理やり動かす痛みの二重奏を二、三日フルタイムで聞くはめになりたくなければ四の五の言わずに即治療、あの時染みついた教訓である。


「しかし、僅か数分でアクシデントに見舞われるとは……、持ってらっしゃいますね。流石」


「何にも嬉しくないんですよ、なんなら今すぐ叩き売ってやります。一部の界隈にはさぞや高く売れるでしょうよ」


 やさぐれた態度が少々表に出てしまったのはご愛敬。

 耳心地の良い低音ボイスで本気の感心されれば余計に腹ただしくもなる。

 

「それにしても……、自分が通ってるとこの学長も知らないってどうなの?」


「しゃーねぇでしょ! 入学式の時居なかったんだし……」

 

 当の本人を前に小声ながらもしっかり反論するあたり、懲りるということを知らない。年頃の男子は皆こうなのか、それともとりわけこの少年が恐れ知らずなのか。

 どちらにせよ、さっき溢した「あんた誰?」の一言がただでさえ悪い印象をさらに増長させてしまったと理解しているのか、チラッチラッと学長を伺いつつ気まずそうに顔をそらしている。


 …………――――。


 一方、緑の人は無表情なまま直立不動を崩さずにいた。

 褐色の肌によって輝きが強調されたシトリンの瞳の真っすぐなこと、逃げも隠れもせぬと言わんばかりの堂々とした立ち姿、赤髪の少年と同様――――否、実行犯である分、ちょい足しの罪状で連行されてきたにも拘らず、なんなんだお前は、誇りを持って散らんとするどこぞの敗戦兵か。


 寡黙で大人びた彼の振る舞いからは思考が読みにくい。潔さの表れか、人に指示されたから殴るという単調さからして何も考えていない可能性もある。

 

 ………………――――。


「さて、アール・ドランカード君にグイン・ヴォルガ君。

 生徒は入学式が終わり次第寮で待機、自主学習に励むように指示を受けているはずです。それがどうして私手づからご案内していた方を殴り飛ばすなどという暴挙に出ることとなったのか……、是非、話を聞かせてもらいましょう」


 ……………………――――ちょっと待て。


「ちょっと待った、今日入学式だったんですか!?」


「ええ。本日は我がブラックレイルカレッジの栄えある入学式――

 ――言っていませんでしたか?」


「聞いてません、そんなこと」


 何を考えてるんだ、この駄馬はっ!? 諸事情も何も呑気にモーニングを食べて、島の観光案内してる場合じゃない。

 学校としては決して外せない一大イベント、そこに今ぽけーと首を傾げる学長がいなきゃ締まらない。というか、数少ない顔出しの機会だというのに何サボタージュしてるんだ、これでは生徒に認知されるわけがない。

 なんてこった、この二人に若干の情状酌量の余地が生まれてしまったではないか。


「学長が不在でよくもまあ入学式が成立したな……」


「ホントそれな。こっちは長い間立ちっぱなしで疲れったていうのにさぁ。

 やぁっと式が終わったかと思えば部屋から出ずに勉強してろなんてつまんねぇじゃん」


 アールと呼ばれた少年はわざとらしく首を振りながら不満たらたら、まるで遊園地の園門で待ちぼうけを食らう子供のように文句を並べたてる。

 気持ちは分からんでもないが、だからって進んで説教のネタを提供しなくてもいいだろうに。


 ……優雅なモーニングタイムの実情をカミングアウトすべきなのだろうか。

 ――――いや、仮にしたところでどうにもならんし、状況が泥沼化するだけだから黙っておく。


「入学していきなり軟禁状態なのも原因不明の体調不良で倒れる生徒が沢山いるって話らしいし、なら暇つぶしにその謎を暴いてやろうって話を聞いて回ったら“小さな人影を見かけた”なんて噂が最近出回り始めたって分かって校舎まで探しに来たんすよ」


「いう程小さいかな、私? 何にしたって、それで犯人だと決めつけるのは乱暴過ぎると思う」


「人なんていないはずの校舎で小柄のフード被ってるやつがいたら怪しいって思うでしょ。俺も言い方が悪かったけどさぁ、話を聞きだそうと思ってとっ捕まえようとしただけなのにコイツがいきなりブッ飛ばすし…………」


「すまない……、真意を汲み取れきれなかった。次は頑張ろう」


 素直か。そうだけどそうじゃない。

 眉一つ動かない熱が失せた単調な声、しかし心なしかサイドの黒いグラデがかった髪に勢いが失われている気がする。

 耳を垂らした子犬の幻影が申し訳なさげに鳴いていた。アレには神経でも通っているのか。


「つまりただの悲しい事故であった……と。

 いえいえ、まさかそのようなつまらない話のはずがないでしょう? この学校の入学を認められる程に優秀且つ、入学早々、校内の問題解決に取り組まんとする熱意と正義感を持った生徒は実に珍しい。そんなあなた達が、彼女を殴り飛ばすなどという驚きの形で関わることになったのですから。

 これでも()()である私は、もう少し面白い流れを期待したいところですが――いかがでしょう?」


「学長?」


 とろみのあるオノマトペを随所に垂らし入れながら“学長”を前面に押し出してくる。


 店で酒を混ぜる時のいつもの柔らかな物腰は変わらないまま、曲がりなりにも教育者なのか、粗相をした生徒を律するに必要な圧をしっかり放っていた。皮肉めいた様子はなく、けれど叱られている感も拭えず、傍から見る分には秀麗な絵画でしかないが、真正面から相対する彼らにとっては気まずくて仕方なかろう。

 ペースやトーンにも変化が見受けられないので、このねちっこい詰問がいつ終わるか予測がつかないのがさらに苦しいところ。

 


 変わらない口調、変わらない仕草、変わらない態度。

 ――――待てど待てども変わらないまま。



 ……どうも雲行きが怪しい。



 別段、難しい話はしていない。起きた出来事の把握、真偽の精査、処罰の決定、すべき事はたったそれだけだというのに、まるで着地点を見失っている。

 繰り言にしかならないと分かりきった問い掛けをわざわざすることもない。



「……つまり謝れってことっすか? っていうかそもそも今更だけどこの人誰? 

 ふらふらしてたのを怒られるのは、まぁ? しゃあないとしても、いかにも怪しいのを放っておいて俺たちだけ咎められるってのはなんか納得いかねーんですけど。がくちょーが入学式をほったらかしてまで案内をするっていう程のガキ?」


 同じことを喋らせるのかと苛立ちを覚えたのか、居心地の悪さにこちらへ飛び火させることにしたらしい。この重苦しい状況下でも場を濁す器用さと往生際の悪さはなかなかにガッツがある。 


「正確には『案内するほどの人?』が正しい。二十三だから」


「嘘ぉ!?!!?」


「「ホント」」


「加えてこの方は魔法が存在しない異世界からの来訪者です」


 ッ――!? 何言って――――


 あまりに唐突な暴露に声も出ず、目線で正気の疑いを問いただした。笑顔で黙殺に終わったが。

 当然、アールの目は点になる。まさかまさかのまさか過ぎるこの返しは予測不可能に決まっている。

 アールと共に年相応の表情を見せていたグインは再びデフォルトの顔に戻っていた。そして片眉をグッとしかめて一言――――

 

「……………………、異世界……って遠いのか?」


「なに距離感測ろうとしてんの!? 普通に考えてあり得ないでしょーが!」


 異世界――それは男たちの心を掴んで揺さぶり、決して放さない素敵ワード。


 歩けば棒にあたる頻度で数多くの人達が異世界にお邪魔しては、高貴なる人生を送ったり、チートで無双したり、革命起こしたり、シナリオ改変に奔走したりと、実に多彩な生き方で第二の人生を謳歌している。


 昨今では元手も無しに始まる異世界生活も数を増やしてきたが、大概は良くも悪くもイベントとのエンカウントが必須。私の場合、手持ちの砂糖菓子でどうにか食い繋いでまずまずの滑り出しに成功した。

 ――が、柔らかな物腰に対して先程から一切微動だにしない学長からの意味不(イミフ)な電撃アプローチ。胡散臭さからの撤退姿勢の二人。これらにどう対処するかが今後の展開の難易度を左右するだろう。


「……それは話を進める上で明かさなければならなかった情報でしたか?」


「どうでしょう? ですが、このフレーバー無くして貴方の良さは引き立たないと直感します。貴方のことです、自分の身の上、魔法が使えない事も含めて気にしたままでは気が引けて彼らと協力しにくいと見ました」


 何か思いついたのか、急に生き生きと饒舌になる。停滞していた空気が嘘のようにぐんぐん勢いが増し、流れが出来上がった。


「ちょっと待ってください、協力って……まさか二人を調査に参加させるつもりですか!?

 そもそもいつ魔力欠乏に陥って倒れるか分からないから、私が借り出されたんじゃなかったんですか? なのにこの二人を一緒に行動させたら本末転倒でしょう」


「今しがた、魔法の素人ですらない自分には荷が重いと貴方が口にしていたのを思い出しまして、丁度いいと思ったのですよ。

 ええ、彼らなら多少なりとも魔法の知識はありますし、先程までぶらついていたというのなら校内の構造もいくらか把握してるでしょう。万が一倒れてしまったとしても貴方が私に連絡して頂ければ問題ありません。

 ――――即席のブレンドにしては良い出来ですね」


 可哀そうに、まるでついていけない子供達は突っ立ったまま事の成り行きが面倒へと一直線に進んでいく様を呆然と眺めるしかなかった。

 異世界人――、彼らからすればエイリアン擬きと共にちょっとした探偵ごっこをする事になろうとは露程にも知らず……。


「ドランカード君、ヴォルガ君。本来ならば重い処罰を下すところですが、この度の一件に興味があるというのならば話は早い。

 罰則は原因調査を依頼した彼女から調査完了の報告を受け、それを私が了解するまで彼女の助手として働くこと――――、場合によっては無期限となりうる可能性もある罰則です。妥当なところでしょう」


「え゛ぇっ!?!!? めんどくさ……」


「今すぐ退学の判を捺して叩き出しましょうか? これでも()()ですので」


「是非ともやらせていただきます!」


 あ、デジャブ。

 随分と根に持っているらしく、私の時とは違い少々荒っぽい脅しで押し切った。にこやかな瞳からは虚ろな影ではなく、純粋に苛立ちが香ってくる。


「………………。っ――、分かりました」


 隣からピシピシ身体を叩かれてようやく子犬属性の彼はハッと、返事を返す。

 こうして今ここに校内を恐怖に陥れる謎の魔力消失事件の調査団が誕生した。


 始まりは鋭い一発の拳から。

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