真っ赤な唇付きマスク
「なんだ、このマスク?」
藤崎は眉間を寄せた。
難事件を推理すようにこのマスクの意図を推察する。
首を振る。
名探偵藤崎誠でも答えを出せない。
このマスクが売れると思えなかった。
これまでいくつもの難問を解決してきた自称名探偵の藤崎でも、
これを売れるようにするのは無理だと思った。
「石原〇とみモデルだよ」
男は真面目な顔で言った。
「石原さ〇み?」
藤崎の眉間のシワはさらに深くなった。
「石原さと〇知らないのか?
あの女優の。
でも、結婚しちゃたなあ~
残念。俺好きだったのに~」
男の顔が晴れやかになる。
「やっぱ、独身の女性の方がいいかな」
男は手を打って言った。
藤崎はそのマスクをなでた。
「えッ!?」
「びっくりしただろう。
その感触。
唇の感触にするのに、こだわったんだ」
男は天才科学者、。
藤崎と同じ東大卒。
「みんな、石原さ〇み、これがコンセプトだ」
男は楽しそうに言った。
「女性が付けるかなかなあ~」
藤崎は首をひねる。
「まあ、面白いけどなあ」
「ターゲットは女性じゃない。
男だ。
彼女にこのマスクをしてもらって、
石原〇とみとキッス!
夢のようじゃないか」
「そんなこと彼女が許すかッ」
藤崎は顔をしかめた。
「あっそか、真っ赤だ。
赤にした方がリアルだな」
男は藤崎の話を聞いていない。
藤崎は無意識にマスクの唇に触っていた。
心地いい。
マスクを手に取り、後ろを向く。
そして、マスクの唇に唇を重ねた。
「やわらかい・・・」
初めてキスをした思い出が脳裏によぎった。
藤崎は背に電気が流れるのを感じた。
いけるかもしれない、という表情が顔に出た。
藤崎は胸に手をあてた。
「名探偵にお任せあれ」
藤崎は深く頭を下げた。
は~、と藤崎はため息をついた。
マスクの売り上げは順調だった。
とは言っても爆発的なヒットではない。
ある程度儲けがでる程度で。
単身男性者に売れる!
と藤崎は見込んでいた。
この唇の感触が絶妙だった。
だから、石原〇とみの唇を内側にして常にキッス状態!?
ぜったい、いけると思った。
でも、藤崎には珍しい勘違い。
初キッスの感触が藤崎の頭脳を微妙に狂わせていた。
やっぱり売れたのは夜の接待を伴う店だった。
マスク越しのキス。
コロナ感染でダメージを受けた店に少し客足を増やしたのだった。