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89:バレてしまいました

 後夜祭から殿下と抜け出したアルフィール様は、その後パーティー会場に戻って来る事はなかった。お二人が何の話をされたのかは分からないけれど、話を終えたアルフィール様を殿下が直々に公爵家のお屋敷まで送っていったらしい。イールトさんはゼリウス様からそれを聞くと、慌てて帰っていった。

 その頃には、ちょうど兄さんもダンスに疲れた様子だったから私も早めに帰る事にして。初めての学園祭は静かに幕を閉じた。


 そうして長期休暇が始まったのだけれど、私はお屋敷から一歩も出れない日がしばらく続いた。

 元々休暇の間はイールトさんとのレッスンやアルフィール様とのお茶会、殿下との嘘デートにラステロくんとの魔法訓練など色々予定があったのだけれど。みんなそれぞれ学園祭で私が閉じ込められた事件を調べるそうで、それらの約束も全て中止になったのだ。


 地下倉庫にあった謎の魔法陣についても、父さんが中心となって調べが進められている。

 父さんの仕事場である魔法管理局は、違法な魔法使用者の摘発や魔力保持者の出入国管理などを担っているそうで。父さんは局長の下、多くの局員をまとめる管理官という立場で仕事をしているらしい。

 魔法管理局の局長と管理官は貴族家が代々引き継いでいるそうで、モルセン子爵家の跡取りである兄さんも卒業後すぐに父さんの補佐として入局する予定だ。そのため今のうちから経験を積んだ方がいいという事で、兄さんも父さんと一緒に連日家を空けている。


 そんなわけで私は暇になったのだけれど、事件の被害者なため家から出ないようにと厳命されてしまい。勉強や魔法の基礎訓練は続けたけれど屋敷内で出来る事には限りがあるから、ほとんどの時間を母さんと二人でのんびり過ごすしかなかった。


 このお屋敷に来てからずっとレッスンや勉強で忙しかったから、穏やかな日々は落ち着かなくて。刺繍や読書などゆっくりお茶を飲みながら淑女らしい方法で時間を潰すのは、なかなか慣れなかったけれど。

 それでも新年を迎える頃には、家で大人しくしているのもだいぶ板に付いてきて。後夜祭でのアルフィール様の様子や第二王子派の動きなど気になっていた事すら、頭の片隅に消えてしまった。


 でもあの日感じたアルフィール様への違和感を、忘れちゃいけなかったんだ。

 それが分かったのは、新しい年の雪枝(スノレ)の月、第一(ゴルド)の日。後夜祭で踊った時の約束通り、殿下に呼ばれて王宮に向かってからだった。


「シャルラ。僕はもう行かなくてはならないけど大丈夫かい?」

「うん。ジェイド様がいらっしゃるから、大丈夫だよ。行ってらっしゃい、兄さん」


 この日も兄さんは、父さんの手伝いをしつつ仕事を学ぶために魔法管理局へ出向く予定があったため、私をお城の入り口まで送ってくれた。父さんの働く魔法管理局は、王宮の広い敷地の中にあるんだそうだ。

 城の入り口では、以前、お茶会に呼ばれた時と同じようにジェイド様が待って下さってたから。私は名残惜しげな兄さんを手を振って見送り、リジーを連れて歩き出した。


「ラステロはだいぶ心配していたが、シャルラ嬢は元気そうだね」

「はい。あの事件のことならもう大丈夫ですよ。今日はドレスのことを教えてもらえるんですよね? ラステロくんも来てるんですか?」

「ああ、みんないるよ」


 軽く話をしながらジェイド様に案内されたのは、これまで入った事のない立派な部屋で。座り心地の良さそうなソファが何客も並んでいた。


「ここで少し待ってて。殿下を呼んでくるから」

「はい、分かりました」


 私は素直に頷いて腰を下ろし、メイドさんが入れてくれたお茶を飲みながら殿下方を待つ。

 すると程なくして扉が開いたんだけれど……。


「シャルラさん、ごきげんよう」

「……アルフィール様?」


 入ってきたのは嬉しそうに微笑む殿下と、なぜか殿下に腰を抱かれたアルフィール様。そしてニコニコと笑うラステロくんと、真面目な表情のゼリウス様に、呆れた様子のジェイド様。一番後ろには、気まずそうなイールトさんまでいて。


()()()()()って、こういうことなの?)


 予想外の事に、戸惑ってしまうけれど。私は出来る限り丁寧に淑女の礼を取って挨拶をし、殿下に問いかけた。


「殿下、アルフィール様、みなさまもごきげんよう。殿下、今日はお招き頂きありがとうございました。えっとそれで……どういうことですか?」

「それを話すために君を呼んだんだ。さあ、座ろうか。フィー」

「はい、ディー様」


 ディー様⁉︎ 今「ディー様」って、アルフィール様は言ってたよね⁉︎ 聞き間違いじゃないよね⁉︎


 どうしてこうなってるのか意味がわからないけれど、殿下はある意味いつも通りだからまだいい。でも、あまりにおかしいアルフィール様の様子に唖然としてしまう。

 アルフィール様は殿下を嫌がる所かディー様って呼んでるし、見つめ合うお二人は何だか甘い雰囲気だし、本当にどういうことなの⁉︎


「シャルラ嬢。まずは私からというより、フィーの話を聞いてやってくれ」

「へ? あ……はい」


 アルフィール様の腰を抱いたまま、私の向かいに二人並んで腰を下ろした殿下の言葉に、呆然としたまま頷きを返す。

 するとこれまで甘く微笑んでいたアルフィール様が、私を見てスッと目を細めて。


「シャルラさん、聞きましてよ。よくもわたくしの秘密を勝手に話しましたわね」

「ひっ⁉︎」


 アルフィール様の唇は弧を描いているけれど目は全く笑ってないし、何なら声も地の底を這うように低い。これ本当に全部バレてる⁉︎

 内心で焦りながらイールトさんをちらりと見れば、イールトさんは気まずそうにしつつ小さく頷いた。


(嘘でしょ⁉︎ 何で、どうして⁉︎ ……まさか、あの時にもうバレてたってこと⁉︎)


 混乱する頭にふと浮かんだのは、後夜祭でのアルフィール様の様子だ。

 殿下とダンスを踊られてる間、不安げだったアルフィール様。私が殿下とダンスした後、睨んできたアルフィール様。そして殿下と二人きりで話をしたいと言って、後夜祭を抜け出したアルフィール様……。


(もしかしなくても絶対そうだ。それで殿下から、話を全部聞いたんだ。私とイールトさんが裏切ったことも知って……)


 全部を知ったからって、殿下となぜここまで親しげなのかは分からないけれど。バレたからには、私に出来る事は一つしかないわけで。


「申し訳ございませんでした!」

「えっ⁉︎ シャルラさん⁉︎」


 私は即座に床に両膝をつき、そのまま額を床へ擦り付けるようにして平伏した。アルフィール様はビックリしているから、きっとこれは平民の間でしか通じない謝罪方法なんだろうけど、私はこれ以上の謝り方を知らない。

 下町ですらみっともないと言われる、謝罪の最終手段。土下座と呼ばれるそれを何の躊躇いもなくやっても、許してもらえるかは正直言って分からないし、裏切ったんだから下手したら殺されてしまうかもしれない。それでも私は、こうするしかなかった。


 すると私の隣に、誰かの気配がして。


「わたしも、申し訳ございませんでした!」

「リジー、あなた」

「シャルラ様だけでなく、わたしも殿下方に話してしまったんです! ですからどうか、わたしにも処罰を!」


 私は土下座を続けてるから、隣は見えないけれど。どうやらリジーも、私と一緒になって土下座しているらしい。

 二人揃ってただひたすらに頭を下げ続けていると、アルフィール様の呆れたような声が響いた。


「いいから二人とも、顔をお上げなさい」

「でも……」

「いくら何でも、土下座までしてほしいなんて思わないわ。それにわたくし本当は、そんなに怒ってないのよ」


 アルフィール様も知ってたんだ、土下座。……って、そうじゃなくて。


「怒ってないって、本当ですか?」

「全く怒ってないとは言わないわ。裏切られたことは悲しかったもの。けれどそれ以上にあなたには申し訳ないことをしたと、わたくしも思ってたのよ。リジーにもね」


 恐る恐る顔を上げれば、アルフィール様は優しい目で私たちを見つめていて。


「あなたたちのおかげで、わたくしはもう一つの可能性を見つけられたわ。だから、ありがとう」

「アルフィール様……」「お嬢様っ!」


 ふわりと微笑んだアルフィール様に私はどっと力が抜けて、隣ではリジーが泣き出して。結局私もリジーも、そのまましばらくは床の上にへたり込んだままだった。

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