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85:二度目のダンスパーティーが始まりました

 学園祭最終日となる、柊星(ホリス)の月、第四(ソイル)の日になった。

 いつもならソイルの日は学園がお休みになるけれど、今日だけは特別だ。そしてその代わりのように、明日からは年を跨いだ長期休暇となる。


 昨日あんな事件があったから、最終日はどうなるかと心配だったけれど、警備を強化した上で予定通り行われるそうだ。

 私たち以外の生徒は、何も知らないままだもんね。ただでさえ学生たちはお祭り最終日と休暇前という事で浮かれているだろうから、学園側も中止になんて出来なかったのかもしれない。

 私は不安がないとは言い切れないけれど、実は嬉しかったりもする。だってこの二日間、色々あって学園祭を楽しめなかったんだもの。ダンスパーティーは後夜祭となるため、日中は今度こそ学園祭を楽しめるはずだ。


 そしてその私の願いは、無事に叶える事が出来た。

 出し物を三日目までやってるクラスはほんの僅かしかなくて、残っているのは有志による芸術作品や研究発表の展示がほとんどだったけれど。上町のレストランも昼過ぎまではお店を開いていたから、私は目一杯楽しんだ。


 もちろん私一人じゃなく、アルフィール様とイールトさん、ラステロくんも一緒だったよ。

 リジーの予想通り、昨日の代役の件でイールトさんはかなり大変な事になっていたけれど。いつものように後から殿下たちも偶然を装って合流して、私たちは和気藹々と日中を過ごす事が出来た。


 そうして昼過ぎに一度お屋敷へ戻って、私は後夜祭のためにドレスに着替えた。

 リジーに手伝ってもらって着替えたのは、殿下の髪と同じ銀色の可愛らしいドレスだ。このドレスは殿下から贈られた事になっているのだけれど、本当はイールトさんからのプレゼントだったりする。


 ジミ恋では学園祭最終日のダンスパーティーの際、ヒロインの元に贈り主不明のドレスが届くそうで。そのドレスの色で、ダンスの相手が分かるのだとアルフィール様から聞いていた。

 これまで通りなら、どうしても王子ルートに乗せたいアルフィール様が無理矢理にでも銀色のドレスを用意しそうなものだけれど。私と殿下がデートを重ねているのを何度も見たからか、今回は届いたドレスを着るようにと言われただけで、アルフィール様は何も裏工作をしなかった。


 だから本当なら私は、自分でドレスを用意するか、殿下に頼むしか方法がなかった。

 きっと殿下なら、アルフィール様が安心出来るようにと快く頼みを聞いてくれたと思うけど、さすがにそれは私が嫌で。どうやって父さんにお願いしようか悩んでいたら、イールトさんが用意すると言ってくれたのだ。


 約束通り贈り主が伏せられたまま届いた銀色のドレスには、さり気なく金糸の刺繍も入っていた。これはどう見てもイールトさんの髪色だから、恥ずかしいような嬉しいような照れくさいような。もうとにかく落ち着かなくて、ベッドで転げ回りたくて仕方なかった。

 でもドレスだけでなく、イールトさんの瞳と同じ空色の宝石で作られたアクセサリーやドレスに合わせた靴も一緒に届けられていたから。いくらイールトさんは働いているとはいえ、こんなにお金を使わせてしまって申し訳ないと青ざめてしまった。


 まあそれもリジーに「滅多に使わないしお給金も貯まってると思うから、気にしないでいいのよ」と言われてしまったから、大人しく着けたけれど。

 実際申し訳なく思いつつも嬉しかったしね。パーティーが終わったら、しっかりお礼を言おうと思う。


 準備を終えると、夏のダンスパーティーの時と同じく、兄さんにエスコートしてもらって学園へ向かった。贈り主不明のドレスを着てきた事は兄さんも知っていて。ドレスの色を見て困惑しながらも「似合ってる」と褒めてくれた。

 ……やっぱり、殿下からのプレゼントだと思われてるんだよね。アルフィール様にそう思ってもらうためのものだから、それでいいんだけど。何となく、家族にだけは本当の事を伝えておきたかったなと寂しく思った。


 でもそれはそれとして、私は今日また殿下と踊らなくちゃいけないわけで。馬車に揺られながら、私は気合いを入れ直した。

 ジミ恋のシナリオにそって、殿下とは二曲目に踊る事になっている。さすがに今回は、夏の時のような失敗がないように、殿下たちにしっかり言い聞かせておいたから大丈夫なはずだ。


 学園に着く頃には、すっかり日が落ちていて。魔法の光で照らされた校舎も庭も、昼よりずっと美しく輝いていた。

 馬車を降りれば、みんな庭を眺めながらダンス会場となる学食に向かっていて。私と兄さんもその人の流れに乗って移動した。


 そうしてみんなが会場に集まると、夏と同じように学長先生が挨拶をして。続いて殿下が……と思ったら、「ホーホー!」と陽気な笑い声を上げながら真っ赤な帽子と服を着込んだ男性が、大きな白い袋を担いで壇上に現れた。


(あれ? あの人、公爵様と来てた人だよね?)


 赤い服の男性は、白い付け髭をしていたけれど。その体格といい目元といい声質といい。どう見ても、学園祭初日に見かけたおじさまに見えた。

 しかもそのすぐ後ろを、一昨日公爵様たちに付いていた強面の男の人たちが、なぜか立派なツノを頭に付けて歩いてくる。今日は騎士服を着てるから、きっと本当は騎士様なんだよね? ツノの意味が分からないけれど。

 それにその先頭の人は一番豪華な騎士服を着てるのに、どうしてか一人だけ鼻を赤く塗ってるから、思わず笑いそうになってしまった。


「兄さん、あれって」

「静かに。あれ、なんて言ってはいけないよ。あの方は国王陛下だから」

「えっ⁉︎」


 あれが国王様⁉︎ という事は殿下のお父様なはずだけど、なんであんな変な格好してるの⁉︎


 唖然として見ていると、赤い服の国王様は白い袋をどさりと置いて、朗々とした声で話しだした。


「今年一年、皆よく学業に励んだな。学園祭も例年以上に素晴らしい出来だったと聞いている。良い子には褒美をやらねばならん。学長にプレゼントを渡しておくから、帰る前に忘れずに取りに来るように。今宵は存分に楽しむがよいぞ! 皆、よい休暇を!」


 国王様は白い袋を学長先生に押し付けるようにして渡すと、また「ホーホー!」と陽気な笑い声を上げながら帰って行った。もちろんその後を、ツノをつけた騎士様っぽい人たちも付いていく。

 私たち一年生はポカンとして見送ったけれど、兄さんたち二年生と三年生はみんな拍手喝采で一行をお見送りしていた。


「今年のプレゼントは何か、楽しみだね」

「えっと……毎年あるんですか?」

「そうだよ。この学園が出来て以来、ずっと続いている伝統だそうだから」


 兄さんの話によると、あれは私たち生徒を励ますために行われる、後夜祭恒例のパフォーマンスだそうで。代々の国王様が、大昔の賢者「サンタ・サン」に扮して学生たちにプレゼントを置いて行ってるらしい。

 という事は、殿下も将来あれをやる事になるんだよね。想像してしまうと、また笑いが込み上げてきそうだ。


 ちなみにあの謎のツノをつけた男性たちはやっぱり騎士様で、賢者が従えていた魔獣の格好をしていたらしい。先頭の鼻を赤く塗っていた人は、騎士団長なんだとか。

 それってつまり、ゼリウス様のお父様って事だよね? 確かに髪がゼリウス様と同じ赤色だったけど、恥ずかしくないのかな。

 ……あ、恥ずかしくても王命なら断れないのかも。可哀想になってきた。


 そんなこんなで私が一人で混乱しているうちに、最初の曲が流れ出して。殿下とアルフィール様が優雅に踊り出した。

 今日のアルフィール様は、綺麗な緑色のドレスを着ている。あれってもしかしなくても、殿下からのプレゼントなんじゃないかな? 確か夏の時に、ジェイド様が止めたって言ってたドレスだよね?

 アルフィール様があのドレスをどう受け取っているのか、急に心配になってきた。


「シャルラ。僕たちもそろそろ行くよ」

「……はい、兄さん」


 いつまでも考えに耽ってる場合じゃない。私も兄さんの手を取って踊り出す。

 踊りながらアルフィール様の様子を伺ってみると、にこやかに微笑んでいるけれど何となく表情に翳りが見えて。本当に大丈夫なのかなと、私は不安で仕方なかった。

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