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82:続・忠告が現実になるなんて(イールト視点)

「シャルラ様がいないって何があったんだ、リジー」


 駆け込んできたリジーに問いかければ、リジーは必死に息を整えながらも話してくれた。


「なかなか待ち合わせ場所に来なくって。チラシを配ってた場所に行ってみたんだけど、もう終わって解散したって、残ってたクラスメイトの方が。だから色々探して回ったけど、どこにもいなくて……!」

「分かった。一度落ち着こう」


 目に涙を浮かべたリジーを宥めながら言った言葉は、俺自身に向けたものでもある。焦燥感に突き動かされるままに探し回っても意味がない。単に人混みでリジーと落ち合えず、探し歩いてすれ違ったのか。それとも何かに巻き込まれたのか。

 ぐるぐると俺が考えていると、殿下が冷静に声を上げた。


「ジェイ。影から連絡は?」

「ありません。万が一危険な時には保護するよう指示してありますので、命に別状はないはずですが」

「ならば、教職員と警備兵に捜索するよう通達。念のため、シャルラが見つかるまで誰も学園の外に出さないよう伝えろ。それから、ラスに連絡を」

「分かりました。ですが、ラステロにも探させるおつもりですか? さすがにこれだけ人がいては、難しいのでは……」

「シャルラの魔力は特殊だから、分かりやすくもあるはずだ。ないとは思うが、影が倒されてる可能性もある。やれることはやっておきたい」


 ラステロ様なら、離れた場所からでもシャルちゃんの魔力を探れる。希望が見えた気がしたが、すぐにある事に思い至った。


(これってまさか、ラステロ様のイベントなんじゃないか?)


 ジミ恋の学園祭で起きるラステロ様のイベントは、基本は劇の練習を通じて好感度を上げていくというものだが、最後に仕上げといえる事件が起きる。主役となったヒロインを妬んだ悪役令嬢アルフィールの手によって、ヒロインは本番前に密室に閉じ込められるらしいのだ。

 そしてヒロインのステータス値が基準を満たしていると、ラステロ様が救出に現れる。主役の二人が抜けるため公演は中止となるが、代わりに好感度が急上昇するとお嬢様から聞いていた。


(もしそうなら、ラステロ様に見つけられるわけにはいかない。俺たちだけで探さないと。でもシャルちゃんは主役じゃないから、本当にゲームのイベントとは限らないんだよな……)


 どうすべきかと逡巡していると、同じく気が付いたのだろう。お嬢様がハッとした様子で頭を振った。


「いけませんわ、殿下。ラステロは劇の主役です。もし時間がかかれば、午後の公演に支障が」

「それなら心配はない。間に合わない時は、私が代役を務めよう」

「……は?」


 あり得ない殿下の申し出に、お嬢様のみならず俺とリジー、ミュラン様まで唖然としてしまう。

 だがそんな中で、ジェイド様とゼリウス様は呆れたように肩をすくめるだけだった。


「ディラインのやつ、やっぱり言い出したな」

「わざわざ台本の写しを手に入れて一晩かけて暗記してきたと思ったら、このためですか」

「殿下、まさか……!」


 お二人の不穏な会話に、お嬢様の眉が吊り上がる。すると殿下は、困ったように眉を下げた。


「フィー、誤解しないでくれ。私が仕組んだわけではない。大切なシャルラ嬢を危険に晒すなど、私がするわけないだろう?」

「それはそうですが……」

「ただ私は昨日見た舞台に感動したから、読み込んでいたんだ。その結果、台詞を覚えてしまっただけだよ。ラステロならきっとすぐにシャルラを探し出せるだろうから、私が代役をするのはあくまでも間に合わなかった時だけだ。それでも嫌かい?」

「いえ……」

「それなら早速練習を始めよう。念のため一度は合わせておく方がいいだろうからね」


 殿下は本気でラステロ様の代役を務めるつもりらしい。ここまで言われてしまえばお嬢様とて拒否出来ず、ジェイド様が各方面へ伝書魔法を飛ばし始めた。きっとラステロ様はすぐに動き出すだろう。

 だがこのまま練習など始められては、代役を用意出来ない俺は探しに行けなくなる。焦りを感じていると、リジーが俺の腕を引いた。


「兄様も、シャルラ様を探しに行って」

「そうしたいが、しかし」

「兄様の代役ならわたしがやるわ。台本は全部覚えてるの」


 台本は、シャルちゃんたち裏方にも一応配られていた。練習時に皆が揃わない時に、代読したりするためだ。どうやらリジーは、その台本を読み込んで丸暗記していたらしい。

 お嬢様が主役を務める劇だからだろうが、過激とも言えるリジーのお嬢様好きが役立つ日が来るとは……。


「分かった。それなら、お嬢様を頼む。お嬢様、よろしいですね?」

「ええ。シャルラさんをきっと見つけて」


 まだ本番まで時間はある。衣装係は裁縫の得意なクラスメイトがやっているから、俺の衣装をリジー用に手直しするのも間に合うだろう。

 後をリジーに任せて早速駆け出そうとすると、ミュラン様が声を上げた。


「イールト、僕も一緒に行くよ」

「分かりました。ではまず、リジーとの待ち合わせ場所に行ってみましょう」


 伝書魔法とは、人ではなく指定した場所に向かって飛ばすものだ。もしかすると、シャルちゃんが伝書魔法をリジーに向けて残しているかもしれない。

 俺とミュラン様は、待ち合わせ場所となっていた時計塔へ急いで向かう。すると予想通り、シャルちゃんの伝書魔法である黄色い小鳥が近くの木に止まっていた。


「どうやらシャルラ様は、三年生に呼び出されたようですね」


 残されていた伝言は、少し話をしてから行くため待ってて欲しいというものだった。

 これはやはり、ラステロ様のイベントと見て間違いないだろう。お嬢様が常々気にしているゲームの強制力なのか分からないが、悪役令嬢アルフィールの代わりのように動こうとする女生徒たちがいるのだから。


「そうだとしても遅すぎるな。この辺りで人目を気にせず話せる場所というと……」

「何箇所かありますね。一つ一つ見ていくしかないでしょう」


 ジミ恋でヒロインが閉じ込められるのは、窓もない密室だ。学園の中で窓がなく施錠出来る部屋など限られている。だがそれをミュラン様に話す事は出来ないから、さり気なく誘導して確かめていくしかないだろう。

 死角となる庭の一角や普段生徒は近付かない用務員用の小屋を見て、物置が多くある校舎の地階へ向かった。


「イールト、こんな奥まで来るか?」

「人の目がない所というと、あり得ないとは言えないかと」


 さすがに不審に思ったのかミュラン様が尋ねてきたが、時間は刻一刻と過ぎていく。ラステロ様より先に見つけなければという思いもあるが、もしイベントではなかったらシャルちゃんに危害が加えられてるかもしれないと思うと、とにかく気が急いた。

 すると不意に、柱の陰に人の気配を感じて足を止めた。


「どうした、イールト?」

「誰かいます」

「おっと、敵ではありませんよ。シャルラ様をお探しなんですよね?」


 姿を現したのは、学園の制服を着た男だ。だがその立ち姿から只者ではないのが感じられ、殿下がシャルちゃんに付けていた影なのだと一目で分かった。


「シャルラ様はこの先、二つ目の部屋にいます」

「分かりました」

「少し気になることがありますので、シャルラ様をお願いしてもよろしいですか? 今のところ敵はいませんので」

「もちろんです」

「ありがとうございます。では」


 王家の影であろう男は、一瞬のうちに姿を消した。恐らく特殊魔法の一つ、影魔法の使い手なのだろう。

 そうして俺とミュラン様はすぐに教えられた部屋へ向かった。

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