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77:子どもたちと遊びました

 私たちが孤児院へ入ると、第一王子はちょうど院長先生に挨拶を終えた所だったらしく、院長室の方から歩いてきていた。

 ゼリウス様の話によると、お忍び扱いなのはあくまでも子どもたちの前だけだそうで。本来は視察だから、院長先生たち大人にはちゃんと王子だと伝えてあるらしい。

 ちなみに、つい先ほどまでゼリウス様が馬車にいたのは、差し入れの毛布や服などを運び入れたためだったそうだ。護衛だけじゃなく荷物運びまでしているなんて、騎士見習いの立場もなかなか大変だと思う。


 そんなわけで何も知らない子どもたちにとって、第一王子は格好の遊び相手に見えているようで。こちらへ歩いてくる第一王子の両手両足には、小さな子が何人もぶら下がっていた。


「やあ、シャルラ、イールト。よく来たね」


 私たちを見て笑みを浮かべた第一王子に、思わず頬が引き攣ってしまう。子どもたちの相手をするのにちょうどいいとか思われてるんだろうな。


「あ! シャルラお姉ちゃんだ!」

「お兄ちゃん、だれー?」

「きっとシャルラお姉ちゃん、けっこんしたんだよ! だからずっと来なかったんだ!」

「してない! 何言い出すの!」


 久しぶりに会った子どもたちは、嬉しそうに私を迎えてくれたけれど。一緒にいたイールトさんを見て、とんでもない事を言い出すからビックリしてしまった。


(私だって、いつかはって思ってるけど。でもまだ恋人にだってなってないんだから)


 アルフィール様が死ぬ未来を回避しない限り、私とイールトさんは互いに気持ちを伝えられない。そう決めたのは私自身だけれど、寂しい気持ちがないとはいえない。言葉がなくても想いは分かってるけど、表には出せないわけだからね。

 だからあまり追及されたくなくて、私は必死に誤魔化した。


「この人は私のお友達。イールトお兄さんっていうんだよ。私がここに来なくなったのはお父さんと暮らすようになったからで、結婚したわけじゃないからね」

「えっ! シャルラお姉ちゃん、お父さん見つかったの⁉︎」

「いいなー。ぼくもお父さんほしい……」

「あっ……ごめんね」


 話を逸らそうとしたけど、失敗してしまった。みんな家族がいない子たちなのに、軽率だった。

 ハッとして口を噤んだ私の手を、イールトさんが励ますようにギュッと握ってから離して。第一王子の足元にいる子の前に、しゃがみ込んだ。


「初めまして、俺はイールト。お父さんにはなれないけど、君たちの兄にはなれる。一緒に遊ばないか?」

「あそぶ! ぼく、あそぶよ!」

「わたしも!」

「ディー様とゼリウス様も、よろしいですよね?」

「もちろんだ」

「俺も構わないぞ。何して遊ぶ?」


 イールトさんに目を向けられて、お二人は微笑み頷いてくれた。寂しそうだった子たちが、みんな一斉に笑顔に変わる。


(良かった……。みんな、ありがとう)


 イールトさんたちは、歓声を上げる男の子たちを庭へ連れ出して。私はみんなに感謝しつつ、女の子たちの手を引いた。


「シャルラお姉ちゃん! わたしにもお花の冠作って!」

「やった! ぼくの勝ち! 次はイールト兄ちゃんが鬼だよ!」

「ディー兄ちゃん、ボール投げしようよー!」

「リウお兄ちゃん、もっと高い高いしてー!」


 廊下で会ったのとは別の子たちも、はしゃぎ声に誘われて庭へ出てきて。みんなでもみくちゃになりながら、思いきり遊んだ。

 集まってる子どもたちは全部で二十三名だ。驚いた事に、この孤児院の子どもの数は減るどころか増えていた。


 十五歳となった年長の子たちは、予定通り仕事を見つけて孤児院を出たらしいけれど。王都内の他の孤児院にいた子たちが、ここに集められているらしい。何でも、とある理由で建屋の改修工事が急遽必要になったため、子どもたちをここに移したそうだ。

 急激な生活環境の変化に子どもたちが付いていけるかは分からないし、人数が増えれば物資も不足する。そのため第一王子は、毛布や衣類を寄付しつつ状況確認に訪れていたらしい。


 遊びに夢中な子どもたちは容赦なんてしてくれなくて、第一王子も手荒い歓迎を受けているけれど、それを咎める者は誰もいない。

 第一王子の護衛騎士たちは、孤児院内外に散開して不審者がいないか見張ってるそうだけれど、その様はさすがに威圧感がある。子どもたちを不用意に怯えさせないように、目に見えない場所で護衛してるんだそうだ。


 子どもたちと目一杯遊んだ後は、みんなで一緒に昼食を取った。孤児院でどんな料理が出されているか確認するのも、視察に入ってるんだって。

 私とイールトさんはさすがに帰るつもりでいたけれど、第一王子に引き止められて、結局そのままご一緒させてもらった。

 院長先生は女将さんと茶飲み友達だし、私の事も昔から可愛がってくれた方だ。私とイールトさんがお昼を食べていくと伝えると、喜んで用意してくれた。本当にありがたい。


 そうしてみんなお腹いっぱいになると、幼い子たちはお昼寝の時間だ。年上の子たちは食器の片付けや洗濯物の取り込みの手伝いに向かう。

 そんな中で、私とイールトさんはなぜか第一王子たちとのんびり食後のお茶を楽しむ事になった。院長先生も仕事があるからと席を立ったので、広々とした食堂には私たち四人しかいない。


 ……後片付け、手伝わなくていいのかな。というか、子どもたちのお手伝いは視察しなくていいの?


「細かな仕事まで見る必要はない。ここまでの様子で、子どもらが虐げられていないことは充分に分かった」


 私は何も言ってないのに、第一王子はどうしてそんな事を言うんだろう。また顔に出てる? 令嬢教育で表情に出ないようになったはずだけど、下町に来たから気が緩んでるのかな。気を付けなくちゃ。


「それより、我々はこのお茶を飲んだら帰るから、今のうちにあれを出せ」

「あれって何ですか?」

「手土産を持ってきていただろう。あの籠の中身だ」


 うう……目ざといよ、第一王子。本当は子どもたちと一緒に食べようと思って持ってきたんだけど、午前中はずっと遊んでて食べる時間がなかったから、置いて帰ろうと思ってたんだよね。

 まあでも、イールトさんにも食べて欲しくて作ってきたから、ここで出してもいいか。またゼリウス様にたくさん食べられないように、数だけは制限させてもらうけどね。元々子どもたちのために焼いたわけだし。


「……分かりました。少しだけですからね」

「シャルちゃん、本当にいいの?」

「はい、いいんです。ここで出さないと、後々面倒くさくなりそうですし」


 なぜかイールトさんは、私以上に出すのを渋ってるみたい。私の手作りクッキーを渡したくないとか思ってくれてたら嬉しいけど……。きっと私の事を気遣ってくれてるだけなんだろうな。


 そんな事を思いながら数枚のクッキーを小皿に取り分けると、イールトさんがみんなの席まで運んでくれた。


「やっぱりうまいな、シャルラ嬢のクッキーは」

「ありがとうございます」


 いつものように毒見と思えない感想を言いつつ、パクパクとゼリウス様がクッキーを平らげる。今日はお代わりはありませんからね! 絶対にあげないんだから!


 すると第一王子は、クッキーをしげしげと興味深げに見つめてから一口齧って。ふっと笑みを浮かべた。


「イールト。前から気付いていたんじゃないのか?」

「何のことでしょうか」

「このクッキーだ。これまでも、君は何度か食べてたんだろう?」


 すっと目を細めた第一王子を、イールトさんは睨むように見つめ返す。何の話が始まったのか意味が分からなくて、私はただ話の成り行きを見守るしかなかった。

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