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69:魔獣の種類を聞きました

「まずお嬢様が知る未来ですが、これは一つではなく複数……全部で五パターンあります。このうち殿下とシャルラ様が結ばれる以外、全ての未来でお嬢様は亡くなられます」

「魔獣討伐訓練で殺されるという話はすでに聞いているが、それに違いはないんだな」

「はい。四つのパターン全てで魔獣に殺される形となりますが、それぞれ襲ってくる魔物は違います」


 第一王子の執務室で、イールトさんがジミ恋の事は伏せつつ詳しい話をしてくれる。早速本題に入った話に、ラステロくんがお菓子を食べる手を止めて、ジェイド様が一字一句全て書き取ろうとペンを手にし、第一王子が身を乗り出した。


「具体的には?」

「アラクネ、ヘルハウンド、マンティコア、バジリスクです」


 イールトさんは神妙な面持ちで四種の名前を挙げた。魔獣については授業でも習っているけれど、最近は図書館で調べたりもしていたから、その内容を思い返した。


 アラクネは蜘蛛型の魔物で、体は大きな毒蜘蛛そのもの。けれど体の一部に女の人のような顔を持っていて。その顔で安心させて近づき、獲物を蜘蛛の糸で巻いて食べてしまうという、恐ろしくも気持ち悪い魔物だったはず。

 ヘルハウンドは別名、地獄の番犬と呼ばれる犬型の魔獣なんだけど、図鑑で見る限りお世辞にも可愛いとは言えない。狂犬と呼ぶに相応しい暴力的な見た目の巨大犬で、頭が二つもある魔獣だ。

 マンティコアは獅子型の魔獣でライオンのような見た目をしている。でもその背にはコウモリみたいな翼が生えていて尻尾は蠍の形だ。見るからに強そうだし蠍の毒も持ってるらしいけど、色々混ざりすぎだと思った記憶がある。

 そしてバジリスクは蛇型の魔獣で毒を持っているんだけど、さらに厄介なのが石化の特殊能力。目を合わせると石化しちゃうんだそうだ。怖すぎるよね。


「どれもとんでもないですね……」


 思わず呆然として呟いてしまった。だってこの四種類はどれも上級と呼ばれる魔物たちだから。並の冒険者では手に負えず、一匹を相手にするのに騎士団の小隊が出動するレベルの魔獣だと図鑑に書いてあったんだよ。

 するとイールトさんは困ったように眉を下げて。


「シャルラ様の仰る通りなのですが、これはお嬢様を直接襲う魔物だけです」

「え……他にも出てくるんですか⁉︎」

「はい。これもまた種類が違いますが、それぞれ中から低級の魔物と一緒に出てくるそうです」


 アラクネの場合は、スライムやカーバンクルなど魔法生物系の魔物が。ヘルハウンドの時には、グールやスケルトンなどのアンデッド系の魔物。

 そしてマンティコアの時には、バイコーンやスレイプニルなどの動物系の魔獣。バジリスクの時には、オークやゴブリンなどの亜人系の魔物が出るらしい。


 話を聞いた第一王子が、露骨に顔を顰めた。


「それだけ種類があるなら混乱は必至だな。だが我々もいるのだから、アルフィールが殺されるほどでもない気がするが。それほど数が多いのか?」

「数はそれほどでもないようです。ただボス級の魔獣も出るので、こちらまで手が回らなくなるそうで」

「ボス級? まだあるのか?」

「はい。ドラゴンです」

「なっ……!」


 淡々と話したイールトさんの言葉に、第一王子だけでなくジェイド様やラステロくんも目を見開く。私はというと、どうにもピンと来なくてリジーに目を向けたら、リジーも不思議そうに首を傾げていた。


「ドラゴンって……お伽話に出てくるあのドラゴンだよね?」

「たぶんそうなんじゃないんですか?」


 ひそひそと囁き合う私たちに、壁際にいたゼリウス様が呆れたようにため息を漏らした。


「ドラゴンは空想上の生き物じゃない。本当にいるぞ。なあ、ラステロ?」

「んー、そうだね。滅多に見れないけど、今も爪とか鱗とか、魔道具の素材として出回ってる物もあるぐらいだから」


 苦笑しつつもラステロくんが話してくれた所によると、ドラゴンは遥か昔、まだ私たち人間が栄える前の時代に、世界に君臨していた生物なんだとか。

 けれど長い時を経て、今は竜の島と呼ばれる場所にドラゴンたちは住んでいるぐらいで、私たちの住む大陸にいるのはごく僅か。それも火山の底とか地底深くとか、人間がたどり着けないような場所にいるんだそうで、もちろん王国内にはいないらしい。


「なんでそんなのが魔の森に出てくるの?」

「ボクに聞かれても分からないよ。これからそれを調べるんだから」

「……それもそうだね」


 誰も想像が出来ない事なら、私たちだけでいくら対策を練ってもどうにもならなかったのかもしれない。イールトさんが話してくれて良かったと、心から思った。

 するとラステロくんが、珍しく笑わずにイールトさんを見つめた。


「ドラゴンも大事だけどさ、ボクとしては他のことも気になるんだよね」

「何でしょうか?」

「フィーちゃんを殺すっていう魔獣のことだよ。アラクネとかヘルハウンドとか、確かにどれも強敵だけどさ。ドラゴンが相手なわけじゃないんだし、一撃で致命傷になるような攻撃なんてそんなにないでしょ。なんで回復出来ずに死ぬわけ?」


 私が以前、アルフィール様から話を聞いた時は、回復する間もないほど一撃で殺されてしまうと言われていた。けれどラステロくんからすると納得出来ない話らしい。

 アルフィール様がどのぐらい強いのか、私はよく分からないけれど。ラステロくんが言うんだから、たぶんそうなんだろう。


 問いかけられたイールトさんは、何かを迷うように視線を彷徨わせたけれど。深く息を吐いて、苦しげに答えた。


「それはお嬢様が、()()()()からです」


 思いがけない一言に、しんと部屋が静まり返って。ピリピリとした緊張が走る。

 だって、食われるって……魔物に食べられるということは。


「魂ごと飲み込まれるってことですか」

「その通りです」

「そんな……」


 否定してほしい一心で問いかければ、すぐに頷きが返ってきて。知らず震え出した手を、リジーが握ってくれた。


 私たち人間には、肉体とは別に魂というものがあると言われている。聖魔法を勉強したから分かった事だけれど、魔法で人の体を治す際は、その魂の記憶に合わせて肉体を修復しているんだそうだ。

 けれど魔物はその魂ごと食べてしまうから、傷ついた体を回復させようにも元となる魂の記憶がないわけで。そうなると回復魔法そのものが効かなくなってしまうんだ。


「それは確かに、回復出来ないね」

「なぜアルフィールがそんな……。その未来の私は、一体何をしているんだ⁉︎」


 納得して何かを考え込むラステロくんを横目に、第一王子は苦しげに頭を抱える。イールトさんはそんな第一王子を静かに見つめた。


「殿下はお嬢様を守ろうとなさるそうですよ。ですが、そのためにお嬢様は殿下を庇われ、亡くなられるそうです」

「……私を庇う?」


 虚をつかれたように、第一王子が目を瞬く。イールトさんは頷き、話を続けた。


「ドラゴンが出るのは、お嬢様や私たちがいる一年生の区画ではなく、殿下方がいる二年生の区画です。苦戦しながらも殿下方は一年生の区画まで後退してくるそうですが、殿下は当然の事ながら、婚約者であるお嬢様を守って戦いを続けられます。そこで先ほどの魔獣が殿下方に襲い掛かろうとするため、お嬢様が庇われるのです」

「それほど苦戦するというのか」

「はい。ドラゴンの種類も、四つのパターンそれぞれで違いますが、どれも対処は難しいと聞いています」


 第一王子がギリリと歯噛みして、重い空気が部屋に漂う。せっかく話を聞けたのに、そんな強敵が相手だなんて。どうしたらいいのだろうと、私は途方に暮れた。

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