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68:一緒に頑張る事になりました

本日二話目の投稿となります。一つ前は間話になっています。

ここから第三章スタートです。最後までコツコツ書いていきますのでよろしくお願いします。

 ダンスパーティーの翌日。私は朝から学園を訪れた。けれど今日一緒なのは、兄さんではなくリジーだ。

 ダンスパーティーに限らず、涼風祭り(アキュエリテ)の日はどこも夜遅くまで賑わう。その翌朝ともなれば誰もが寝坊する上に、祭りの後片付けをする必要もある。そのため王都中のお店や施設は、今日一日軒並みお休みだ。

 そしてここ王立学園サンドリヨンも、この日の授業は休みとなっていた。


「シャルラはここで毎日勉強してるのね」

「うん、そうだよ。それにね、学食のご飯が美味しいの」

「最初に出てくる説明がそれなの? やっぱり食いしん坊よね、シャルラって」

「えー! そんなことないよ。リジーにも分かりやすいかなって思っただけだもん」


 馬車を降りて、リジーとお喋りを楽しみながら二人で職員塔へ向かう。


 昨夜、パーティーから早めに帰った私は、途中から体調不良になり保健室で休んでいた事になっている。その時に忘れてきた物を取りに来るついでにリジーに学園を見せてあげたいと父さんたちに話して、今日は家を出ていた。

 けれど職員塔に向かう本当の理由は、忘れ物じゃない。今日の目的地は、そのさらに先にあって。


「あ、シャルラちゃん。おはよー!」

「おはよう、ラステロくん。……イールトも、おはよう」

「おはようございます、シャルラ様。体調はいかがですか」

「もう大丈夫。ありがとう」


 職員塔の前で、ラステロくんとイールトさんが私たちを待っていた。

 昨日たくさん泣いてしまったから気恥ずかしいけれど、イールトさんの優しい笑みを見て心が温かくなった。それでも互いの気持ちはまだハッキリと表に出すわけにいかないから、一線を引いた対応を心がけないとね。


 そうしてそのままラステロくんの案内で、私たちは塔内部へ足を踏み入れる。リジーとイールトさんは互いに気まずそうにしてたけれど、今ここで何かを話す気はないようで無言で歩を進めていた。

 先生方の部屋が集まるこの塔には数回来た事があるけれど、今日は初めて塔の地下へ向かう。殺風景とも言える石造りの地下室は薄暗く、床には複雑な魔法陣が敷かれていた。


「ここから本当に王宮に行けるの?」

「そうだよ。今日は特別だから、みんなには内緒にしてね。そっちのメイドちゃんも」

「はい、承知しております」

「じゃあみんな、この上に乗って」


 足元にある魔法陣は、転移陣と呼ばれるものだそうで。王宮と学園とを結んでいて、普段は第一王子や限られた者しか使用出来ない特別なものだそうだ。

 王都の端にある学園と王都中心にある王宮はかなり距離があるけれど、これを使えば一瞬で移動出来るらしい。


 今日の私たちが本当に目的地としてるのは、その王宮だ。アルフィール様を救うべくイールトさんも交えてみんなで話をするために、私たちはお城にある第一王子の執務室へ招かれている。

 けれど、私たちが会って話をする事を今はまだアルフィール様には内緒にしておきたい。そんなわけで、お休みの学園に遊びに来たと見せかけて、こっそりお城へ向かう算段だった。


 全員で転移陣に乗ると、ラステロくんが腕を振って。陣が淡く揺らめいたと同時に光に包まれて、体がふわりと浮いた気がした。

 そうして目を開けると、景色はガラリと変わっていて。ランプで明るく照らされ、色鮮やかなタペストリーが飾られた部屋に私たちは立っていた。


「す、すごい……」

「もう着いたんだ……」


 イールトさんは経験があるのか、落ち着いたものだけれど。私とリジーは初めてだから、唖然としてしまう。魔法ってやっぱりすごい。


「ほら、こっちだよ」

「シャルラ様、リジー。行きましょう」


 ラステロくんとイールトさんに促され、私とリジーは歩き出す。部屋を出る間際、扉のそばに立つ見張りの騎士様に会釈をすると、無表情ながらも軽く敬礼を返してくれた。


(ここ、本当にお城の中なんだ)


 以前、第一王子に呼ばれて王宮に来た時は、お城の入り口付近と庭園に繋がる回廊ぐらいにしか入らなかった。その時に通った通路は、高級そうな石床だったけれど。今、私たちが歩いているのは、ふかふかした絨毯の敷かれた通路だ。


 どう考えても、高貴な人が通るとしか思えないその通路は、当然のように壁や天井の装飾も豪華で、所々に飾られている花々は色鮮やか。その花のために使われている花瓶なんてどう見ても高級そうで、もし倒れたらと思うと迂闊に近づく事も出来ない。

 私はビクビクしながらラステロくんに付いていったけど、元々公爵家で働いていたリジーは全く動じてなくて羨ましかった。


 そうして歩いていくと、目的地である第一王子の執務室なんだろう。立派な扉の前で、ゼリウス様が騎士様と一緒に立っていた。


「おはよう、シャルラ嬢」

「おはようございます、ゼリウス様」

「元気そうだな。昨日はちゃんと眠れたか?」

「はい、おかげさまで」


 ゼリウス様も心配してくれていたみたい。会って早々に顔を覗き込まれたから、少し恥ずかしい。


「ちょっとゼリウス、近いって。ほら、どうぞシャルラちゃん」

「えっ……ありがとう。失礼します」


 軽くノックしただけで、返事も聞かずにラステロくんは扉を開けて。背中を押されてしまったから戸惑いながらも部屋へ入ると、重厚感溢れる執務室の奥で第一王子が苦笑を浮かべていた。


「全くラスは……。おはよう、シャルラ嬢」

「おはようございます、殿下。あの、勝手に入ってすみません」

「いや、構わない。君が気にすることじゃない。ジェイ、話を始めるぞ」

「かしこまりました。先に茶を用意させましょう」


 広々とした執務室は、壁全体が書棚になっていて資料や本がぎっしり詰まっている。唯一、部屋の奥にある窓の前には、第一王子のいるどっしりとした執務机が。その手前には机が三つ並び、そのうちの一つ、書類がうず高く積まれた机にジェイド様が向かっていた。


 第一王子に声をかけられ立ち上がったジェイド様は、呼び鈴を鳴らす。その間に第一王子は執務机から回り込んで、部屋の手前側に置かれているソファセットへ腰を下ろした。


「君たちも座るといい。イールトとリジーもだ」

「ありがとうございます。失礼します」


 一人がけの椅子に第一王子が。指し示された三人がけのソファに私が腰を下ろすと、すかさず隣にラステロくんが座ってきて。その反対側にリジーがおずおずと腰を下ろした。

 イールトさんは微かに顔を歪めつつも、すぐさまいつもの表情で私たちの向かいにある二人がけのソファに座り、イールトさんの隣にはジェイド様が座った。


「ゼリウス様は座らないんですか?」

「俺はここで大丈夫だ。シャルラ嬢は優しいな。ありがとう」

「いえ……」


 嬉しそうに言いながら、ゼリウス様は扉近くの壁に背を預ける。今日のゼリウス様は、お茶会の時と同じく騎士の制服姿だ。いつもと同じく剣も携えていて、王子殿下の護衛なのだと一目で分かる。

 とはいえ部屋の外には騎士様が立っているし、ただでさえお城の中には他の騎士様方もたくさん巡回しているみたいだから、そんなに心配しなくていいと思うんだけど。ただ立ってるのが好きって事はないだろうし、本当に真面目な人なんだろう。


 そんな事を考えているうちに、メイドさんが手際よくお茶を入れて去っていった。部屋に私たちだけになると、第一王子が茶をひと口飲んで、イールトさんに目を向けた。


「知ってるとは思うが、この部屋にはシールドが幾重にもかけてある。盗み聞きの心配はないから、自由に話してほしい。それで……アルフィールの様子はどうだ?」

「昨夜のうちに殿下とシャルラ様が無事にダンスを踊られたとお伝えしましたので、少しは安心されたかと思います。ですがまだ疲れは残っておられるご様子でしたので、今日はゆっくり過ごされるかと」

「そうか……」


 第一王子は沈んだ表情のまま、またカップに口を付ける。そうして息を吐くと、意を決したようにカップを置いて両手を組んだ。


「一刻も早くアルフィールの憂いを取り除いてやりたい所だが、私たちには情報が足りない。イールト、話してくれるか」

「私はお嬢様に忠誠を誓っています。殿下の頼みとはいえ、お嬢様をお助けするのに必要と思われること以外、話す気はありません。それでもよろしいですか?」

「構わない。頼む」

「分かりました」


 イールトさんには、昨日のうちに私がどこまで第一王子に秘密を明かしたか伝えてある。イールトさんはきっと一晩かけて、どこまで話すのかを整理してきたんだろう。

 少し目を伏せ、顔を上げると、イールトさんは静かに話し始めた。

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