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61:予定外な事が起きました

 薔薇のような深紅のドレスに身を包んだアルフィール様と、白を基調とした夜会服を纏う第一王子が優雅に歩いて。そのすぐ後ろを貴公子らしい装いのジェイド様、ゼリウス様、ラステロくんが続く。

 絵画から抜き出たような五人は本当に美しく、ホールに集まった学生たちが見惚れながらも道を開けていった。


 兄さんも含めて、誰もが輝くような美しさのアルフィール様と第一王子たちに釘付けになっている。でも、私が一番見つけたい人は他にいる。必ずいるはずのもう一人……イールトさんの姿を探して、私は目を凝らした。


(いた! イールトさん、カッコいい……!)


 アルフィール様たちの向かう先、学長先生がいるホール奥の壇上に先回りするつもりなんだろう。感嘆の声が会場を埋め尽くす中、イールトさんは人波の合間をスイスイと縫って歩いていた。

 イールトさんも当然夜会服なんだけれど、従者だからかその装いはベーシックな黒でシンプルなものだ。けれどそれが、どうしたって素のイールトさんのカッコ良さを引き出していて。誰もイールトさんの素敵さに気付きませんようにと、思わず祈りたくなるほどだった。


「シャルラ。挨拶が終わればすぐに一曲目が始まるはずだ。僕たちももう少し近くに行こう」

「分かりました」


 ダンスパーティーは例年、学長先生の挨拶で始まるらしいけど、今年は第一王子も学園にいる。学長先生に続いて行われた第一王子の挨拶にみんなで大きな拍手を送った。

 そうして王国の発展を祈願すると、招かれていた楽団が音楽を奏で始めた。


 ホールの中央に空間がさっと出来上がり、第一王子とアルフィール様が踊り始める。高位貴族の学生ペアが次々にそれに続き、花が一気に咲き乱れたように会場中が華やかに煌めいた。


(すごい……めちゃくちゃ綺麗)


 どの生徒も、みんな自信に溢れた笑顔を浮かべて踊っている。今踊ってる人たちは、婚約者同士か血縁関係にある人たちだからか息もピッタリで、さすがとしか言いようのない美しい空間が広がっていた。


「シャルラ、星を纏う姫君。僕と踊って頂けますか」

「はい、兄さん。喜んで」


 見惚れている場合じゃなかった。私もあそこに入らなきゃいけないんだった……。

 気後れしてしまうけれど、尻込みしていても仕方ない。この後は第一王子と踊らなきゃいけないんだから。


 気合を入れて自分を叱咤し、練習以上に甘い言葉付きで差し出された兄さんの手を取る。

 イールトさんが話していた通り、兄さんはリードが上手で、多くの人の中でも全く不安を感じる事なく踊る事が出来た。私自身、レッスンで今流れている一曲目のワルツを覚えた後に、兄さんにも数回練習に付き合ってもらっていたから、緊張はしていても動きに乱れは出ていない。


 そうなると、自然と周囲に目を向ける余裕もあるというもので。


(やっぱり第一王子とアルフィール様はお似合いだなぁ。……それにしても第一王子、喜びすぎじゃない?)


 踊る二人は互いを見つめあっていて、誰が見ても完璧なカップルって感じだけれど。特に第一王子は心の底から幸せそうな笑みを浮かべている。

 そしていつも通り表面的に微笑んでるだけなはずのアルフィール様の耳や首筋が、遠目から見ても分かるぐらい赤く染まる時があって。これは甘いセリフをめちゃくちゃ言ってるんだろうなと、何となく想像がついた。


(この後、好きでもない私と踊らなきゃならないんだし、今のうちにアルフィール様を愛でたい気持ちは分かるけどね。ジェイド様と喧嘩してまでドレスを選んでたみたいだし)


 今日アルフィール様が着ている深紅のドレスは、第一王子が婚約者として贈ったものだ。そのドレスには第一王子の髪色と同じ銀糸で刺繍が入っているから、第一王子がアルフィール様を大切にしてるのは、貴族なら一目で分かるんだと思う。

 でも実はそれでも、あのドレスは第一王子の妥協の結果だったと私は知っている。当初、第一王子は自分の瞳と同じ緑色のドレスに銀糸の刺繍を入れて贈ろうとしてたらしい。

 でも私がアルフィール様の秘密を明かしたから、ジェイド様がそのドレスを贈るのはさすがにマズイと止めて。喧嘩しつつも第一王子は最終的に折れて、急遽深紅のドレスを作らせて贈ったんだとか。

 ジェイド様から愚痴混じりに話を聞いた時は、突然仕事をねじ込まれた仕立屋さんに思わず同情してしまったものだ。


 そんな事を思い出していたら、イールトさんの姿が視界の端に見えた。すぐそばにはジェイド様とゼリウス様、ラステロくんもいて、イールトさんと一緒に男四人で何か話しつつダンスを見守っている。


 本当ならジェイド様たち側近候補の三人も婚約者がいたっておかしくないと思うんだけど、お相手が卒業してるとかまだ入学してないとか、そういうわけでもなく。さすが攻略対象というべきか、彼らには婚約者がいなかった。

 でもだからってそれは別に、ゲームの強制力とかではない。王太子が誰になるか決まっていない現状、王宮内の派閥は第一王子派と第二王子派に分かれているそうで。見通しが立ち次第、派閥抗争の結果を反映して政略結婚出来るようにと、側近候補のジェイド様たちは婚約者を決めてないんだそうだ。


 結婚相手を好きに決められないなんて可哀想って、話を聞いた時に思ったけど。あの三人は特に好きになった相手がいるわけでもなかったから、今まで問題なかったらしい。

 まあでも、私にとって一番大切なのはイールトさんなので、イールトさんに婚約者がいないならそれでいいんだけどね。


 そんなこんなで、踊りながら色んな所を見たり、思考を飛ばしたりしちゃったけれど。兄さんのおかげで無事に一曲目を踊りきる事が出来た。


「ありがとうございました、兄さん。とっても楽しかったです」

「僕も楽しかったよ。上手になったね、シャルラ」

「兄さんがリードしてくれたおかげですよ」


 婚約してる者同士でなければ、二曲連続で踊るのはマナー違反だ。私は兄さんにお礼を言いつつ、ホール中央から離れる。予定ではここで第一王子が来るはずなんだけれど……。


「シャルラちゃん。いつも可愛いけど、今日はとびきり素敵だね。ボク、見惚れちゃったよ」

「ラステロくん……?」


 ニコニコ笑顔で私たちのそばへやって来たのは、ラステロくんだった。驚く私を横目に、ラステロくんは兄さんに目を向けた。


「ミュラン先輩。シャルラちゃんをダンスに誘っても?」

「シャルラが良ければ構いませんよ」

「ありがとうございます! シャルラちゃん、ボクと踊ろうよ」

「え⁉︎」


 ラステロくんも計画は知ってるはずなのに、突然ダンスに誘われて唖然としてしまう。するとそこへ、ゼリウス様が割り入ってきた。


「ラステロ! お前は何を勝手なことを!」

「ボクが誰と踊ったってゼリウスには関係ないでしょ?」

「関係ある! なぜシャルラ嬢なんだ!」

()()()には許可をもらったよ。そうですよね、ミュラン先輩?」

「え、ええ……まあ」

「何⁉︎ ミュラン、撤回しろ!」

「ゼリウス、落ち着いてよ。ゼリウスも許可をもらえばいいでしょ?」


 どうしてか、ラステロくんとゼリウス様の言い争いに兄さんが巻き込まれている。目の前で突然起きた出来事に、当然の事ながら私は固まるしか出来なくて。


(なにこれ、どうなってるの⁉︎ みんな計画は知ってるはずでしょ⁉︎)


 困惑して第一王子の姿を探せば、なぜか第一王子はアルフィール様をホールドしたままホールの中央に残ってる。アルフィール様は身を捩って何かを第一王子に話してるみたいだけれど、第一王子はアルフィール様を放すようには見えない。

 予定外な事が多すぎて焦りを感じてると、さらに困った出来事が起きた。


(え、これ二曲目だよね? 何なの⁉︎)


 流れ出した曲は、イールトさんから教わってたものと違う。混乱する私に、ラステロくんとゼリウス様が手を差し出してきて。


「ほら、シャルラちゃん。踊ろうよ」

「ラステロ、抜け駆けはズルいぞ! シャルラ嬢、俺と踊ってくれ」

「む、無理です! 私、この曲知らないんです!」

「君なら大丈夫だ」

「そうだよ。さっきすごく綺麗に踊ってたじゃない」


 ラステロくんは無邪気な笑みで言ってるけど、全然大丈夫じゃないから!

 何もかも違ってて、どうしたらいいのか分からなくて涙が滲む。すると唐突に、横から「失礼します」と声が響いて、ふわりと柑橘系の香りが私を包んだ。

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