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57:優しさを感じました

「ラステロくんもカッコいいと思うよ? でもラステロくんたちは綺麗すぎるから、そういう対象に見れなくて」

「綺麗すぎるって、何それ。確かにイールトより顔がいい自信はあるけど、そんな理由じゃ納得いかないよ。イールトのどこがいいわけ?」

「ええ⁉︎ あの、えっと……。イールトさんはお仕事を真面目にしててすごく素敵だし、何を着ても似合ってるし。でも笑うとちょっと可愛かったり」

「あいつ、従者のくせに普段はそんな呼び方されてたんだ……。ねえ、シャルラちゃん。ボクだって殿下のサポートは色々頑張ってるんだよ? それに可愛さならボクの方が上でしょ?」

「それはそうなんだけど、イールトさんはもっとしっかりしてるっていうか……」


 結局、誰の助けも得られなかった私は、ラステロくんに気圧されるままにイールトさんのどこが好きなのかを延々と話す羽目になった。

 まだイールトさんに告白も出来てないのに、どうしてこんな話をしなきゃいけないんだろう。もう恥ずかしすぎて、穴に埋まりたい。


 それでも頑張って話したけれど、自分から聞いてきたのにラステロくんの機嫌はどんどん下降していって。さすがに見ていられなくなったのか、第一王子が声を挟んでくれた。

 ……遅すぎるけど。


「ラス、その辺にしておけ。話が進まない」

「あーもう。分かったよ」


 第一王子の言葉はラステロくんも無視出来なかったみたいで、不満げに口を尖らせたけれど質問責めをやめてくれた。どうにか終わって助かった……。


「シャルラ嬢は大事な協力者だ。そこまでイールトに心を寄せてるなら、女を使うのはやめておこう」

「ありがとうございます……」

「その代わりといっては何だが、シャルラ嬢。君が聞いてきてくれ」

「は……ええ⁉︎」


 ホッとしたのも束の間。第一王子がとんでもない事を言い出したんですけど⁉︎


「私が聞くんですか? イールトさんに?」

「嫌か?」

「嫌というか、私が聞いてもたぶん答えてもらえないというか」

「だが他の方法となると脅迫ぐらいだろう。それでもいいのか?」

「脅迫⁉︎ そんなの絶対ダメです!」


 慌てて止めると第一王子は愉快げに微笑んだ。これ私、揶揄われてるのかな。ラステロくんといい第一王子といい、もう本当、この人たちどうにかしてほしい!


 するとジェイド様が、私を気の毒そうに見てきた。


「殿下。あまり追い込んでも意味がありません。それにイールトがシャルラ嬢をどう思ってるかも分かりませんし」

「それもそうか」


 うわあ。ジェイド様、それ言っちゃう? 恥ずかしさと居た堪れなさでいっぱいだったけれど、これはまた違った角度で刺さってるよ。胸が痛い。

 そして第一王子、そこで納得しないでほしい。泣きたい。


「ですので、まずは確認しましょう。……リジーといったね。イールトの好みはどういう女性か、妹の君なら分かるのではないかな? イールトがシャルラ嬢をどう思ってるか、聞いたことは?」


 ジェイド様、そこまで聞くんですか。私、イールトさんにすでに諦められてるんですけど。全部終わったらどうにかして挽回していこうと思ってるのに、トドメを刺さないでもらえませんかね。


 けれど放心しかけた私をよそに、リジーはあっさりと答えた。


「兄の好みですか? シャルラ様みたいな方ですね」

「そうなのか」

「なんだ。それなら何の問題もないな」

「いや、問題は大ありなんですって」

「シャルラ様?」


 リジーとジェイド様、第一王子の会話に、思わず声を挟んでしまった。でもしょうがないよね。こんな話、いつまでもしていたくないし。


「確かにリジーの言う通り、イールトさんは私を悪く思ってなかったと思いますよ。でもそれは、過去の話です。だってそうじゃなきゃ、アルフィール様と一緒になって私に殿下を勧めたりしないじゃないですか」


 そう。イールトさんが私を思ってくれてたのは、もう終わった話なんだ。


 まだたった一ヶ月しか経ってないけれど、告白をしようとして止められた時を思い出す。あの時、友達になるからと譲ってもらったイールトさんのハンカチは、今も肌身離さず持ち歩いている。だから私とイールトさんは友達。本当にただそれだけで……。


 ツンと鼻に走った痛みを、目をギュッと閉じてやり過ごす。リジーが申し訳なさそうに「すみません」と囁いてきたけれど、返事は出来なかった。


「それなら、さっさと諦めたらいいじゃない。そんなやつのこと」

「ラステロの言う通りだ。俺なら君を泣かせたりしない」

「ちょっと、ゼリウス! どさくさに紛れてシャルラちゃんに触らないでよ!」


 俯いてしまった私に、隣に座るラステロくんが優しく声をかけてくれる。次いで響いたゼリウス様の声と共に、ラステロくんの反対側に誰かの気配がして、膝上で握り込んでいた手をゴツゴツした大きな手で包まれた。

 それはゼリウス様の手だったんだろう。対抗するように反対の手をラステロくんに握られて。なんだかおかしくなって、噴き出してしまった。


「シャルラちゃん?」「シャルラ嬢?」

「ごめんなさい。なんだかおかしくなっちゃって」

「ううん、元気が出たなら別にいいよ」

「ああ。勝手に触れてすまない」

「いえ……励まして頂いて、ありがとうございました。でも私はまだ、諦めたくないんです。ごめんなさい」

「そう」「分かった」


 正直な気持ちを告げれば、二人は静かに手を離してくれた。リジーが差し出してくれたハンカチで目に滲んだ涙を拭って。顔を上げれば、第一王子とジェイド様も気遣うような目で私を見ていた。


(本当にみんな、素敵な人たちだな)


 第一王子は強引な所があって。ジェイド様は淡々と物事を進める人だから、少し冷たく感じる時もある。ゼリウス様は真っ直ぐすぎてちょっと困る時があるし、ラステロくんは結構イジワルだ。

 でも四人とも、本当に弱ってる人にはこうしてちゃんと優しくしてくれる。攻略対象と呼ばれる存在なのも納得出来るけれど、私はゲームと全然違う動きをしてきた。

 今の私たちの関係をアルフィール様ならきっとゲームの強制力だと言うだろうけれど。私はそんな風に思いたくないって、初めて強く思えた。


(だって私たちが誰かの娯楽のために作られた存在なら、こんなに胸が痛くなるなんておかしいもの。それにみんなの優しさは本物だよ。そうじゃなきゃ、こんなに救われるはずがない)


 今ここにいるのは、アルフィール様の知ってるジミ恋の人たちじゃない。私も含めて。

 だからきっと未来は変えていけるはずだし、この気持ちだって諦めなくて大丈夫。最後まで、私が足掻きたいだけ足掻けばいいんだ。


 息を吐いて気持ちを落ち着けて。私は真っ直ぐに顔を上げた。


「イールトには、今もマナーレッスンの先生をしてもらってるんです。だから機会があれば聞いてみます。それでいいですか?」

「ああ、構わない。私たちも他に方法がないか考えてみよう」

「脅迫はしないでくださいね?」

「善処しよう」


 リジーが入れてくれてた二杯目の紅茶は、すっかり冷え切っている。また新しくリジーが入れ直してくれた紅茶を飲みながら、私はこれからの事を第一王子たちと話した。


 討伐訓練の警護については、ゼリウス様が動いてくれる事になって。ジェイド様は、魔獣の発生状況や各地の被害状況におかしな所がないか注視しておくと約束してくれた。そしてラステロくんは、私が聖魔法を使いこなせるように訓練に付き合ってくれるそうだ。

 それからアルフィール様の不安を取り除くためにも、今後もシナリオに沿った形で第一王子とは関係を深めるフリをする事になって。もちろん同時にアルフィール様と第一王子の接点も今後作っていく事を約束していたら、お茶会の時間はあっという間に終わりになってしまった。


「あ、フィーちゃんも終わったみたいだよ」


 防音結界(シールド)を解いてお開きにしようという時、ラステロくんが声を上げた。遠くから歩いてくるアルフィール様とイールトさんに手を振れば、アルフィール様は苦笑しつつやって来てくれた。


「お疲れ様でした、アルフィール様」

「ありがとう。でもシャルラさん、手を振るなんてはしたなくてよ」

「すみません」

「殿下。シャルラさんに良くして頂いてありがとうございます」

「構わないよ。私とシャルラ嬢の仲だからね。もう終わりにする所だったが、お茶を飲んでいくかい?」

「ありがとうございます。ですが、このまま帰りますのでお気遣いなく」

「そうか。それならまた今度誘わせてもらおう」

「ええ、お待ちしておりますわ」


 どことなくラステロくんとゼリウス様が厳しい目つきになってる気がするけれど、気にしない事にして。私は別れの挨拶を終えると、アルフィール様たちと一緒に馬車へ歩き出した。


「殿下たちとはどうだったの?」

「はい。楽しく過ごさせて頂きました」


 イールトさんはリジーと話しているけれど、特に変わった様子はない。やっぱり私の事はきっともう何とも思ってないんだろうなって、少し寂しく感じるけれど。それでもやっぱり諦める気になんてなれないから。私も何てことない顔をして、お城を後にした。

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