29:攻略法を聞きました
私の返事を聞いたアルフィール様は、王子ルートについて話してくれた。
「まず、あなたは明日、入学時に義務付けられている魔力テストを受けるわ。その後にディライン殿下との出会いイベントがあるの」
ジミ恋のヒロインは、この魔力テストで聖魔法に適正があると分かるそうで。その時ヒロインは母親を事故で亡くしているから、もっと早くに回復魔法が使えれば助けられたのにと、自分を責めて泣くんだそうだ。そこで出会うのが、第一王子らしい。
「今のあなたは、嘆くことはないでしょうけれど。魔力テストが終わったら、そのイベントの場所に行ってほしいのよ。無理に泣く必要はないけれど、そこで出来る限り思い詰めた雰囲気を出してほしいの。出来るかしら?」
「はい。頑張ります」
第一王子は表向きは理想の王子様だけれど、本当の性格は自信家で俺様。でも動物好きな一面もある、優しい人なんだとか。
だから第一王子は人知れず泣いているヒロインを無視出来ずに慰める……というのが、出会いのきっかけになるそうだ。でも、アルフィール様とイールトさんが母さんを助けてくれたから、実際はそうならない。
そのため、アルフィール様の知っているシナリオを教えてもらいつつ、声をかけられなかった場合にどう動くかも打ち合わせていった。
「でもアルフィール様。そもそも王子様が、そんな人気のない裏庭なんかに来るんですか?」
「そのはずよ。もしシナリオと違った動きをするようなら、わたくしがどうにかするから。あなたは気にせず、やるべきことをやってちょうだい。道に迷わないようにだけ、気をつけて」
「分かりました」
休み明けとなる明日は授業がなく、学園の生徒たちはテスト結果を返されるだけらしい。一つ上の学年の第一王子も同じはずだから、イベントの場所までうまく誘導しておくとアルフィール様は話した。
出会いイベントの場所は、私の魔力テストが行われる部屋――魔力測定器のある教室から少し離れた裏庭だそうだ。学園内の地図はイールトさんからすでに教えられているけれど、改めて道順の確認もしていく。
私は本当は、王子様と恋なんてする気はないけれど。ここで出会わないと、第一王子の気持ちを確認する事も出来なくなるから、必ず成功させようと気合を入れた。
「それから、その時に殿下の側近候補の二人にも会うの。その二人も攻略対象だから、気に入られないようにしてね」
ジミ恋では会話の内容によって好感度というものの上がり下がりがあるらしい。アルフィール様は、第一王子以外の攻略対象について教えてくれた。
「殿下と一緒に出会いイベントが起きるのは、騎士団長の息子ゼリウス・ガルダンディと、宰相の息子ジェイド・サクリファスよ。この二人は殿下と同い年で二年生なの」
騎士団長の息子さんは、学園内で第一王子の護衛もしているらしい。根が真面目な熱血漢で初めはヒロインを警戒するけれど、素直に感情を出すヒロインを徐々に受け入れていくそうで。剣の腕や筋肉を褒めると喜ぶそうだ。
筋肉は分かるけど、剣の腕を見る機会はないと思う。私はゲームのヒロインと違って、感情を出さないようにたくさん練習してるから、筋肉にだけ触れないように気をつけよう。
宰相の息子さんは、いかにも頭が良さそうって感じのメガネをかけていて本好き。近寄り難い冷たい雰囲気を持つ人だけれど、本の話題をきっかけにして好感度が上がるそう。本にもメガネにも触れないようにしよう。
「そしてもう一人の側近候補は、魔導士団長の息子ラステロ・グリニジェリ。彼はわたくしたちと同じ一年生だから、明後日の登校時に出会いイベントがあるわ」
魔導士団長の息子さんは、無邪気で明るく近づきやすい雰囲気の人だそう。でも実はすごく頭のきれる人で腹黒。性格的には一番厄介な攻略対象らしいけれど、甘いものが大好きだからお菓子繋がりで仲良くなるらしい。
裏で何考えてるか分からないとか怖すぎる。学園で女友達が出来ても、お菓子の話題は絶対出さないようにしよう。
そして当然のように、側近候補で攻略対象だという三人も貴族なんだそうだ。きっと兄さんみたいに綺麗な人たちなんだと思う。
「最初の出会いは強制イベントだから、必ず全員とやらなくてはいけないけれど。それ以降は、特定の場所に行かない限りイベントは起きないわ。それぞれの出現ポイントを教えるから、ディライン殿下以外の場所には近づかないようにして」
「はい。分かりました」
「あとの問題は、ステータス値ね。誰のルートに入るのかは、好感度とステータス値で決まるの」
「すてーたすち、って何ですか?」
「簡単に言えば、学園での成績のことよ。それぞれのルート毎に、上げておかなければいけない分野と最低値があるのだけれど。王子ルートに入るには、全てのステータス値が高レベル……テストの点数で言えば、90点以上ね。そのぐらい上位に達していないといけないの」
思わず悲鳴を上げそうになったけれど、根性で耐えた。でも全部が高レベルって! 確か第一王子は最難関の攻略対象だって聞いてたけど、そんなになの⁉︎
第一王子の協力を得るために、ある程度印象は良くしておかないと……って思ってはいたけれど。私、本当に出来るのかな⁉︎
「イールトの報告だと、あなたはかなり頑張ってるみたいだから、大丈夫だと思うけれど。放課後にわたくしとイールトで、あなたのお勉強を見てあげるわ。頑張りましょうね」
「は、はい……」
大変な事になってきたけれど、今更断るなんて出来ない。覚悟を決めるしかないよね。
「大体こんなところかしら。質問はある?」
話はほとんど終わったみたいで。アルフィール様は優しく尋ねてくれた。
聞きたい事はあるけれど、警戒されないように本命は後にしよう。
「ありがとうございます。二つあるんですけど、いいですか?」
「ええ。構わないわ」
「えっと……兄さんも攻略対象なんですよね? 兄さんの好感度はどう気を付ければいいですか?」
「ミュラン様は何もしなくても好感度は勝手に上がっていくの。詳細は伏せるけれど、彼にも色んな過去があるから。母親を亡くして突然知らない家に引き取られたヒロインに、同情してくれるのよ。自分より弱い相手への庇護欲が強いんでしょうね。ステータス値が低いままだと、同情がだんだんと愛情に変わっていくキャラだったわ」
兄さんの過去、か。兄さんは跡継ぎとして引き取らてきたんだよね。本当の家族と引き離されて寂しかったり、色々あったんだろう。兄さんは優しいから、自分の境遇と重ね合わせてヒロインに同情したのかもしれない。
「今、あなたの母親は死んでないのに、どうしてかミュラン様との結婚話が持ち上がってるみたいだけれど。どちらにせよステータス値が上がれば高嶺の花扱いになって、彼の興味からは外れるわ。もし違っても、ディライン殿下となんて張り合えないもの。だからステータス値さえ上げておけば大丈夫なはずよ」
「そうなんですね。分かりました」
「それで、もう一つの質問は?」
私が真剣に取り組もうとしてる姿勢を、きっと感じてくれたんだろう。アルフィール様は優雅な手つきでカップを手に取り、笑みを浮かべて口を付けている。
今ならきっと、協力者として答えてくれるはずだ。
「あの……ゲームのアルフィール様は、どんな風に亡くなるのか教えてもらえませんか?」
アルフィール様は微かに眉を上げて、カップを置いた。