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13:続・ゲームの話をされました

 毎日忙しく働いていた前世のアルフィール様は、疲れ切った心を癒すべく、隙間時間を縫うように乙女ゲームで遊んでいたらしい。

 そのあまりの激務に、若くして身体を壊して亡くなってしまったそうだけれど。最期の瞬間まで遊んでいたのが、「ジミ恋」と愛称で呼んでいた乙女ゲームだったそうだ。


「ジミ恋は、地味な女の子でも地道に努力していけば、シンデレラのように素敵な恋を成就出来るっていうコンセプトの乙女ゲームよ。平凡で何の魅力もないけれど元気と明るさだけはあるヒロインが、努力を積み重ねて幸せを掴み取るお話だったの。だからヒロインは……つまりあなただけれど、地味で目立たない子だったわ。現実ではなかなか報われないわたくしたちプレイヤーに、夢と希望を見せてくれた素敵なヒロインがあなたなのよ」


 庭から目線を戻したアルフィール様は、ニッコリ笑ってお話してるけれど。なんか私、ものすごくけなされてる?

 でも地味なのは確かにそうだし、最終的には褒められたっぽいし、何も言えないのが辛い……。


「ヒロインが地味な分、ジミ恋は攻略対象にすごく力を入れてたわ。どのキャラもイケメンだったけれど、中でも最難関攻略キャラだったディライン殿下は飛び抜けてた。殿下はわたくしの最推しだったの」

「最難関? サイオシ?」

「攻略対象は何人もいると言ったでしょう? 乙女ゲームは、それを好きなように選べるわけではないのよ。それぞれ条件が設定されていて、それをクリアするとその攻略キャラのルートに入れるの」

「その条件が、一番難しいのが第一王子様だったんですか?」

「そうよ。そしてわたくしは、ディライン殿下が一番好きだったの。色んな乙女ゲームをやったけれど、ジミ恋のディライン様を超えるキャラはいなかったわ」


 第一王子のお話をするアルフィール様は、ものすごくウットリした顔をしていて……。見ているこちらまでポーッとなってしまいそうな艶やかさがある。目に毒だ。


「だからね、わたくしがちゃんと覚えてるのって、ディー様のことだけだったの」

「……え?」

「ディー様とのハピエン目指して何十回もやり込んだし、ディー様の一枚絵(スチル)は全種隅々、背景や小物の角度までハッキリ覚えてる。セリフだって一字一句漏らさずに言えるわ」


 ディー様っていうのは、第一王子のディライン様の事だろう。アルフィール様は本当に第一王子が好きみたいだ。

 自信満々で言うには、ちょっとクセがあり過ぎる言葉があった気もするけれど。アルフィール様は第一王子の婚約者なわけだし、何の問題もない。むしろ未来の王様を王妃様がここまで愛してるというのは、喜ばしい事だと思う。


 私は思わず感心してしまったけれど、アルフィール様は真顔で話を続けた。


「でもね、他のことって曖昧にしか覚えてないのよ。ディー様のルートにうまく入れなくて他のルートも全部やったから、それぞれの結末は一応覚えてるけれど。ヒロインがどこの家に引き取られたとか、引き取られる前は何をしていたとか、そういうのは全然覚えてなかったの。オープニングで毎回流れてたけど、だからこそスキップしちゃってたから」

「それで事故を防げなかったんですね」

「ええ。わたくしが覚えていたのは、ヒロインが十五歳となる年のオレアの月ゴルドの日に、下町で事故が起きるということだけ。事故を起こした低位貴族に引き取られるのは覚えてたけれど、それ以外はさっぱりだったから、手の打ちようがなかったの。ごめんなさいね」


 低位貴族というのは、五つある貴族階級のうち、下の二つの事だ。父さんの持つ子爵位と、その下の男爵位の事を指す。

 アンヌさんからは、貴族家は下位になるほど数が増えると聞いている。男爵と子爵合わせて数百にもなるそうだから、どの家の馬車が事故を起こすかなんて、絞りきれなくても当然だと思えた。


「こちらこそ、すみませんでした。助けて頂いただけでも有り難いのに、文句を言ってしまって」

「いいのよ。あなたの疑問はもっともだもの。でも、これでお分かり頂けたかしら。あなたのお母様が死なずに済んだのは、わたくしが未来を知ってたからだって」


 二杯目の紅茶を飲み干したアルフィール様は、またあの怪しい笑みを浮かべていた。何かすごく嫌な予感がするけれど、私は頷きを返すしかない。

 乙女ゲームというものを完全に理解したわけじゃないし、正直言って信じきれない部分もある。でもそれでも、母さんを助けてもらったのは事実なわけで、未来を知ってるのは本当なんだと思うから。


「はい。母を助けて頂いて、本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」

「良かった。それならその恩、返して頂けるかしら」

「え?」


 怪しく笑うアルフィール様は、私と同い年とは思えない妖艶さだけれど、その目は全く笑ってなくて。冷や汗が背筋を伝うのを感じて、私はごくりと唾を飲んだ。

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