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100:意外な結末になっていました

 魔力切れで気絶した私が目を覚ましたのは子爵家の自室で、討伐訓練終了予定日の翌朝だった。つまり私は、丸一日以上眠っていた事になる。

 お屋敷にはイールトさんが運んでくれたみたいだけれど、目を覚ました時にはイールトさんの姿はなく。代わりにずっと付き添ってくれていたらしいリジーが、泣きながら父さんたちを呼んできた。

 父さんと兄さんは私を代わる代わる抱きしめながら、「無茶をするな」とか「よく頑張った」とか色んな事を言ってくれたけれど、その後すぐに王宮へ出かけてしまって。私は残った母さんとリジーに「まだ安静にしていなさい」とベッドに押し込まれ、そのまま数日、部屋から出してもらえなかった。


 ドラゴンたちが魔の森を立ち去り、魔獣も倒されて。アルフィール様が無事に帰ってこられた事はリジーが教えてくれたけど。ラステロくんのお兄様がどうなったのかとか、詳しい事は分からないままだ。

 それらを私が知れたのは、討伐訓練から一週間後。一年生最後となる登校日に、学園に行ってからだった。


「シャルラさん、お見舞いに行けずにごめんなさいね」

「いえ、気にしないで下さい。アルフィール様がご無事で良かったです」

「あなたのおかげよ。本当にありがとう」


 いつも通り兄さんと登校した私を、珍しくアルフィール様が待ち構えていた。アルフィール様は私を見るなり両手を握ってきて。目に涙を溜めて頭を下げようとするから、私は慌てて止めた。


「アルフィール様、そんなことをしたらお化粧が取れてしまいますよ」

「まあ。リジーのようなことを言うのね」

「私にリジーの真似は無理ですよ。リジーは本当にすごいメイドですから」


 ハンカチを押し付けるようにして渡せば、アルフィール様はそっと目元を押さえた。すぐそばにいるイールトさんから視線を感じるけれど、何となくソワソワして全く顔を見れてない。だってもうこれで、気持ちを隠さなくていいんだから。

 でも二人きりになってからちゃんと告白したいから、今はどんな顔をすればいいのか分からず目を逸らしてしまっていた。


「あの、それであの後どうなったんですか?」

「ミュラン様から聞いていないの?」

「はい。兄さんも知ってたんですか?」


 首を傾げた私に、兄さんは苦笑して頷いた。


「一応ね。シャルラにはまだ言ってなかったけど、殿下の側近候補に正式に選ばれたから」


 討伐訓練後、兄さんがずっと忙しくしてたのは、殿下の元で色々動いていたからみたい。そんな大事な事まで内緒にされてたとは思わずポカンとしていると、私たちの背後から愉快げな声がかけられた。


「ミュランを許してやってくれ。口止めしていたのは私だからな」

「殿下、おはようございます」

「おはようシャルラ嬢。フィーは泣いたのか? 少し赤くなってるね」

「……っ! ディー様!」


 颯爽と現れた殿下は流れるようにアルフィール様の顔を覗き込むと、そのまま目元に口付けた。アルフィール様が顔を真っ赤にして殿下を押し返そうとするけど、殿下は甘い笑みを浮かべたままアルフィール様を抱きしめる。周りから黄色い声が上がったけれど、殿下は全く気にしていない。

 殿下と一緒にやって来ていたゼリウス様とジェイド様が、ため息を漏らした。


「ディライン、他の生徒の迷惑だ。いい加減にしろ」

「やり過ぎるとアルフィール嬢に逃げられますよ。やるなら二人きりになってからにして下さい」

「そうだな。フィー、帰りは迎えに行くよ。教室で待っていてくれ」

「……はい」


 殿下は名残惜しそうにしながらも、ゼリウス様とジェイド様を連れて去っていく。兄さんも慌ててそれを追ったから、側近候補になったのは本当なんだなと実感してしまった。

 四人の背を見送っていると、横から呆れたような声が響いた。


「殿下ったら浮かれすぎ。フィーちゃんが無事だったから嬉しいのは分かるけど、見せつけるのもいい加減にしてほしいなぁ」

「ラステロくん……」

「おはよう、シャルラちゃん。この前は助けてくれてありがとう」


 ラステロくんはいつものようにニコニコと笑っているけれど。どうしてかその笑顔は、前と違って見えた。


「おはよう、ラステロくん。この前は大変だったね?」

「まあね。歩きながら話そうか」


 ラステロくんに促されて、私たちは教室へ向かった。ラステロくんはゆっくり歩きつつ防音結界(シールド)を張ってくれて。アルフィール様と一緒に、私が気になっていた事を教えてくれた。


 まず、あの真っ白なドラゴンはやっぱりエンパイアドラゴンだったらしい。エンパイアドラゴンは念話という特殊魔法で話しかけてきたそうで、私とイールトさん、殿下とアルフィール様の四人にだけ加護を授けてくれたんだとか。

 私が屋敷で休んでいた間、イールトさんが代表で色々調べられたんだけど、加護の内容はまだ全部分かっていないんだとか。ただ防護の力があるのは確かだそうで、攻撃を受けても傷一つ負わなくなってるらしい。魔獣に襲われても大丈夫なようにドラゴンが守ってくれていると考えればいいと、ラステロくんが話してくれた。


 そしてラステロくんのお兄様だけれど、ドラゴンの召喚で負った傷は私がいつの間にか治していたらしく。特に命に別状はないまま、捕らえられているそうだ。

 ラステロくんのお兄様はラステロくんを深く恨んでいたけれど、召喚の際に庇われたのをきっかけに和解したそうで。今は大人しく、全ての経緯を洗いざらい話しているらしい。


 それで分かったのだけれど、あれほど警戒していた第二王子派は、実は今回の件に全く関わっていなくて。むしろラステロくんのお兄様がロイメル家のお嬢様に近付き、騙して利用していただけだったらしい。

 魔物寄せを横流ししたとされていた魔導士団員も、むしろ逆で。ラステロくんのお兄様の動きに気付いたから、罪を擦りつけられて消されていただけだそうだ。


 だからロイメル公爵令嬢の制服は盗まれただけという話も本当だったそうなのだけれど、今回の一連の事件と全く関係ない別件でロイメル公爵の悪事が色々と分かったそうで。ロイメル公爵は弟に家督を譲り、領地で隠居という名の幽閉になったんだとか。

 これにはロイメル公爵の妹である王妃様が大激怒したそうで、ロイメル公爵に絶縁を言い渡したそうだ。ロイメル公爵は妹が大好きだったそうで、どんな罰よりも王妃様の沙汰にショックを受けているらしい。


 それから全ての黒幕が自分の息子だと分かった魔導士団長様は、責任を取って辞任しようとしたらしいけれど、これは国王様に止められたそうだ。

 殿下の命をラステロくんと一緒になって守ったのだから、それで罪は贖っていると国王様は話されたらしい。


 今回の件には、ドラゴン召喚など禁術も深く関わっているから公に出来ない事も多々あって。表向きにはラステロくんのお兄様はドラゴンとの戦いで戦死した事にされて、調べが終わり次第、毒杯を賜る事になってるんだとか。

 せっかくラステロくんたちご家族と和解出来たのにとも思うけれど、死者も出ているし殿下の殺害未遂も起こしている。不問にするわけにいかないのは、私にも理解出来た。


 ただ、騙されていたロイメル公爵令嬢は、ラステロくんのお兄様に本気で恋をしていたそうで。戦死したと聞いて涙を流し、修道院に自ら入る事に決めたんだとか。

 何も悪い事をしていないロイメル家のお嬢様の人生まで変えてしまったのだから、ラステロくんのお兄様の罪はあまりに大きいとつくづく思った。


「ラステロくんは大丈夫なの? お兄様のこと」

「ボクは平気だよ。こうなるのを覚悟してたし」


 心配に思って問いかけると、ラステロくんはどこか切なげながらも微笑みを返してくれた。お兄様とのわだかまりが消えて、ラステロくんも変わったのかもしれない。


「もし辛い時はちゃんと言ってね。話ぐらい聞くから」

「それって友達だから?」

「うん、そうだよ」

「シャルラちゃんらしいね」

「ラステロ。わたくしも友人として話を聞いてあげてよ?」

「フィーちゃんはいいよ」

「まあ、なぜですの?」

「フィーちゃんの時間をボクが取ったら、殿下にヤキモチ妬かれちゃうもん」


 アルフィール様の気遣いにクスクスと笑うラステロくんは、特に無理はしてなさそうだ。私はホッとして、教室に足を踏み入れた。


*本日は二話更新になります。この後、今日21時台に最終話を投稿予定です。

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