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52 緊急事態

 メアリが大聖堂にある立ち入り禁止の区画に足を踏み入れてから十数日後、メアリは教皇であるネビルが使っている執務室の前にいた。今日も先日同様、ネビルから紅茶を持ってくるように指示があった為、今日の当番としてメアリが紅茶を執務室へと持ってくる事になったのだ。


 ――――コンコン


「失礼します。紅茶をお持ちしました」

「うむ、入れ」

「では、失礼いたします」


 そして、メアリが扉を開け執務室の中に入ると、そこには先日と同じように執務をするネビルの姿があった。彼は執務室に入って来たメアリの姿を見ると少し驚いた様子を見せた。


「おお、君か」

「はい」

「……そう言えば、君と会うのはこれで二度目になるな」

「ええ、その通りです」


 メアリはそう返事をすると、ネビルの元まで向かい、慣れた手付きで紅茶の準備を始める。そんな時、執務が一段落済んだネビルは紅茶の準備を続けるメアリの方へと視線を向けた。その時、ネビルは自分が彼女の名前を知らない事に気が付いた。


「……そう言えば、君の名前は何というのだ?」

「メアリと申します」

「メアリ、か。悪くない名だ」


 そう言って、ネビルは満足げな表情を浮かべる。その直後、ネビルは先日にメアリの素顔を見る事が出来なかった事を思い出した。


「そう言えば、前に会った時に見る事が出来なかった君の素顔を……」


 だが、ネビルのそんな言葉を遮る様に、バンッ、という音と共に勢い良く執務室の扉が開かれた。そして、直後に部屋の中へと飛び込んできたのは先日と同じライアンと呼ばれていた男だった。飛び込んできた彼の姿を見たネビルは露骨に訝しげな視線をライアンへと向ける。


「教皇猊下、緊急事態です!!」


 そう叫ぶライアンは先日よりも明らかに焦った様な表情を浮かべている。だが、ネビルの顔には「またか」と言わんばかりの表情が浮かんでいた。それも仕方がないだろう、今の状況はまるで先日の焼き増しの様な展開なのだから。


「どうした、そんなに慌てて。また、なにか起きたのか?」

「そんな悠長にしている場合ではありません!! 今すぐ外をご覧ください!!」

「何だ? 外に何があるというのだ?」

「そんな事を言っている場合ではありません!! 早く、早く外をご覧ください!!」


 ライアンの鬼気迫るという言葉でしか表現できないだろう声色と表情から、ネビルは立ち上がって執務室にある窓から大聖堂の外を見降ろした。


「なっ……」


 その瞬間、ネビルは思わず絶句した。何故なら、大勢の人間達が大聖堂の周囲を取り囲んでいたから。

 だが、ネビルが絶句したのにはもう一つの理由があった。それは彼等の姿だ。彼等は各々が武器や防具を身に纏っていたのだ。その光景は、傍から見れば彼等はまるで大聖堂に攻め込まんと包囲している様であった。

 武装した人間が大聖堂の周囲を取り囲んでいる、そんな異常とも言える光景を見たネビルは慌てた様子で何が起きているのかを問いただすべく、ライアンに詰め寄る。


「なんだっ、何なんだあの連中は!?」

「どうやら、奴らはあのアルバート司祭率いる反乱軍の様です!!

「なっ!?」


 ネビルもアルバート司祭の名前は知っていた。アルバートはネビル達教会上層部にずっと異を唱え続けてきた。だからこそ、ネビルは彼に対して当てつけの様に閑職へと追い込み、各地の教会を転々とさせる様に命令を出していた。

 ネビルは、いずれアルバートが自分達に歯向かうだろうとは予測していた。そして、地下で力を蓄えている事もある程度は把握していた。だが、ネビルは自分達に反抗しようとする不穏分子を見つけるには丁度良いと、アルバート達の事を見逃してきたのだ。やがて、アルバート達を上手く暴発させて、彼の元に集った不穏分子を一気に粛清する、ネビルはそんな目算を立てていた。そして、彼等の組織が現状は穏健派と強硬派に分かれており、その為に大胆な動きが取り辛いという事までも把握していた。だからこそ、こんなタイミングで一気に攻め込んでくるなど想像もしていなかったのだ。


「奴らの目的は分かっているのか!?」

「はい、連中の目的は我々教会上層部の人間を武力で一掃する事のようです!!」

「な、なんだとっ!? だ、だが、この大聖堂には多数の騎士達が常駐している筈だ!! あやつらは何をしているのだ!?」

「その騎士達も今は頼りにはできません。大聖堂に常駐している騎士達の約半分が向こう側に寝返りました。恐らく以前から寝返り工作を進めていたのでしょう。こちらの側に残っているのは我々子飼いの騎士だけです!!」

「そんなっ、馬鹿なっ!?」

「今は、我々の側にいる騎士が連中の足止めをしています。ですが、数の差も有り、それも長くは続かないでしょう。このままでは、間違いなく我々は連中に捕まります!! そうなる前に、地下にある例の通路から一刻も早く脱出を!! そして、我々が持っている貴族とのパイプを利用して再起を図りましょう!!」


 やっと、自分達が危機的状況に追いつめられているのだと、本当の意味で自覚出来たネビルは少しだけ逡巡した後、決断を下した。


「っ、仕方あるまい!! そうだ、他の奴らはどうしたのだ!? もう逃げたのか!?」

「はい、大聖堂にいる上層部の人間は全員が例の地下に向かっている様です!!」

「そうか、なら我々も一刻も早くあの場所へと向かう。ライアン、行くぞ!!」

「はっ!!」


 余りの急展開にネビルは近くにいる侍女のメアリの事など忘れて、反乱軍に見つからない様に大聖堂から脱出するべく、慌ててライアンと共に執務室から飛び出していった。


 ネビル達が去った後、一人執務室に残ったメアリはその口元に不敵な笑みを浮かべる。


「ふふふふっ。さて、あの人達も動き始めたようですね。では、私は一足先に彼等を迎える為の準備を始めましょうか。あはははっ、あははははははははっ」


 そして、メアリがパチンと指を鳴らすと、次の瞬間には彼女の姿は執務室から消え去っていたのだった。

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