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閑話1 隣国へと広がる影響

予告した通り、ここから数話ほど閑話が挟まります。ご了承ください。

 それは、アメリアのいるエルクート王国の隣国に位置するリンド王国と呼ばれる国での出来事だった。

 その日、リンド王国の王宮内にある大会議場では今後の国の行く末を左右しかねない程の重要な会議が行われていた。だが、その会議は内容が内容の為に大いに荒れてもいたのだ。


「今すぐ出兵の準備だけでも始めるべきです!!」

「いや、準備完了後にすぐにエルクート王国に侵攻するべきです!!」

「ちょっと待て!! 流石にそれは急過ぎる、今から始めてもこの期間内で準備を終わらせるのは不可能だ。これの二倍は欲しい!!」

「私は出兵に反対だ!!」

「私もだ!! この混乱で隙だらけとはいえ、もし負けたとなれば……」

「臆病者は黙っていろ!! 」


 この会議の内容、それは隣国であるエルクート王国に攻め入るか否かを決めるものだった。


 このリンド王国とエルクート王国の間では数多くの条約が結ばれているが、その殆どがリンド王国側に不利となる不平等な条約だ。リンド王国の黎明期に国力の差を背景として結ばれたその条約によってエルクート王国はリンド王国から利益を搾取し続けた。それ故に、条約の破棄はリンド王国の悲願となっていた。


 だが、国力の差は健在の為に、今迄は現状に甘んじるしかなかった。そんな彼等の耳に入ってきたのがエルクート王国の宰相であるファーンス公爵と二名の大臣が同時に失踪という前代未聞の事件だった。

 エルクート王国は必死に隠蔽工作をしているが、国の重鎮の失踪という事態をそう簡単には隠す事は出来ない。

 更には、噂程度ではあるが数カ月前に起きた王太子の婚約破棄騒動の被害者とも言えるアメリア・ユーティスが宰相や大臣の失踪に関わっているのではないのかという話まで聞こえて来ていた。元王太子の婚約者とは言え、ただのか弱い令嬢でしかない筈のアメリアが何故宰相達の失踪に関わることが出来るのか、その噂の真偽は定かでは無かったが、ファーンス公爵が今も行方不明という事だけは確定している様だ。


 ともかく、宰相と大臣の同時失踪という異常事態はエルクート王国に大きな混乱を招くのは間違いない。

 エルクート王国は世界最大とも言ってもいいほどの国力を持つ国である。そんな大国で起きるであろう混乱の予測に文官武官は共に盛り上がった。


 今迄、自分達を押さえつけていたエルクート王国に起きようとしている混乱は、リンド王国内で攻め入ろうという機運が高まるのには十分な出来事である。領土の一部を奪う事が出来れば、それの返還を条件に条約の破棄を迫ることが出来るだろう。

 条約の破棄は搾取され続けたリンド王国にとっては悲願とも言えるものだ。その大きな可能性となる今回の混乱を逃す手は無いと政務に関わる者達は盛り上がっていたのだ。


 無論、国力の差は今持って存在する為に侵攻に反対する者もいたが、会議の参加者の中ではごく少数だ。それ程までにこの国はエルクート王国からの搾取を受けていた。それこそ、この国がエルクート王国の属国と言っても過言ではない程に、だ。


「陛下、今こそご決断を!!」

「我々の悲願を果たすときです!!」

「陛下!!」


 そして、エルクート王国と戦う事を望んでいる者達は、この会議の中心人物であるリンド王国国王であるアンドルフ・リンドに最後の決断を求めた。それを聞いたアンドルフは彼等を手で制止して、長い長い長考の末、一つの答えを出した。


「……よかろう、出兵の準備を始めよ」


 国王であるアンドルフから出兵の準備の言葉が出た瞬間、会議室内は大いに沸きあがった。


「ありがとうございます、陛下!!」

「これで我々の悲願が!!」


 だが、アンドルフは盛り上がる侵攻賛成派の声を再び手で制止する。そして、僅かながらもいる反対派にも話を聞き始めた。


「陛下、私はやはり反対です。敗戦した時のリスクが大きすぎます」

「やはり、納得できないのか?」

「そうです、もし負けたとなれば……」


 反対派、特に文官の一部からは慎重、或いは反対という意見が根強く残っていた。やはり、敗戦した時のリスクが大きすぎるのだ。成功しても失敗しても間違いなく恨みを買う。エルクート王国の混乱が収まった時、かの国の軍勢がこの国へと侵攻してくるかもしれない。そうなれば、この国が滅ぼされる可能性も十分にある。反対派の文官はそれを心配しているのだ。


「反対していた者達、お前達の心配も分かる。だが、我々の置かれた状況がどういった物かも知っていよう?」

「それは……、ですが……」


 条約の不平等さは武官よりも文官の方が十分に知っている。エルクート王国との交渉の度に彼等は条約の不平等さを思い知らされてきたのだ。だからこそ、アンドルフが言うこの国の現状に対しては言葉が詰まってしまった。


「国力の差を考えれば、この機会は千載一遇の時ともいえよう。だが、負ければ全てを失いかねない。それ故に、慎重に事を運ぶことをここに約束する。それでは不満か?」

「……いえ、陛下がそこまで考えてくださっているのなら、私達は異を唱えるつもりはありません」

「そうか……。では、皆の者、準備を始めるのだ。だが、事は慎重に運びたい。あくまで準備だ。私の許可なく、出兵する事は決して許さん!!」

「「「「「はっ!!」」」」」


 そして、会議の参加者たちは次々と会議室を退室していった。これから、彼等は忙しくなるだろう。兵を動かす為にはそれ相応の準備が必要だ。実際に兵を率いて戦う武官だけではなく、文官も各種調整に追われる事になる。だが、それでも長年の悲願を達成できるとなれば、彼等の士気は高くなるだろう。


「さて、私もそろそろ残りの執務を終わらせるか……」


 そして、会議が長引いた為に今も残っている本日の執務を消化するべく、会議室から執務室へと戻ったアンドルフだったが、その部屋の中には招かざる客人がアンドルフが戻ってくるのを待っていたのだ。


「お久しぶりですね。リンド王国国王、アンドルフ・リンド陛下」

「……な、何故お前がここにいるのだ、アメリア・ユーティスよ……」


 執務室に戻ったアンドルフが目にしたのは、部屋に用意されたソファーに優雅に座るアメリアの姿だった。



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