37 第二の断罪
十字架に磔にされたデニスとルナリアの二人の全身が燃え続けている。魔女裁判の火炙りの刑を彷彿とさせるその光景をアメリアは特等席で見物していた。
「あはははははっ、どうですか!! 火炙りの刑のお味は!! あはははははははははははははははは!!!!」
だが、彼女のその言葉に返事を返すものは誰もいない。この場で燃える二人の声帯は焼け落ちてしまい彼女の言葉に返事を返すことが出来ないのだ。それでも、アメリアは自らの中にある黒いナニカを吐き出す様に只管に二人の火炙りを見物しながら嗤い続けていた。
―――――バチバチバチバチッ!!
燃える、燃える、燃える、燃える、磔にされて身動きが出来ないデニスとルナリアの体が燃えていく。その火は収まるどころか、更に勢いを増していく。
二人の着ている衣服は既に焼け落ち、体の至る所が黒く変色している。デニスの貴族らしい気品のある容姿や、ルナリアの可憐な容姿は最早見る影も残っていない。下手をすれば、二人はもう生きてはいないかもしれない。そんな時になって、ようやくアメリアは嗤うのを止めて冷静な顔つきへと戻った。
「時間も押しているのでこの辺にしておきましょうか」
そして、第一の刑にある程度満足したアメリアが手を横に振うとまるで時間が巻き戻ったかの様に火が消え、二人の姿は十字架と共に火炙りの刑を受ける前の姿に元に戻った。
「ふふふふっ、火炙りの刑のお味はどうでしたか?」
「もう駄目だ……、やめてくれぇ……」
「も、もう熱いのはいやぁ……」
だが、二人には先程の火炙りの刑はかなり堪えた様だ。彼等の口からこぼれ出るのは弱音だけだった。そんな二人に対してアメリアは冷酷な言葉を告げる。
「では、第二の刑を始めましょうか」
「……第二、だと……?」
「……まだ続くの……?」
「ええ、当たり前でしょう? 私の味わった苦しみ、それと同等以上の苦しみを貴方達にも味わってもらうまで終わりません。決して終わらせません。終わらせてはならないのです!!」
「「ひっ!!」」
アメリアの声の内に見え隠れする彼女の狂気を感じ取った二人は思わず怖気づいた。そんな彼等を横目にアメリアは第二の刑の準備を始める。
「第二の刑、そのテーマは裏切りです。貴方達は私やお父様たちを裏切った。そんな貴方達に相応しい罰を用意しました」
そして、アメリアが指を鳴らすとその瞬間、何人もの男女がまるで転移してきたかの様に現れた。彼等の姿を見たデニスとルナリアは彼等に見覚えがあるのか訝しげな表情を浮かべる。
「貴方達はこの人達に見覚えがありますよね」
「……私の屋敷で働いていた使用人達、か?」
「ええ、その通り。正解です。彼等には第二の刑の端役を担ってもらいます」
そう、彼等は皆、デニスの部下や屋敷で働いていた使用人達だ。だが、二人には彼等を使って一体何をするのか、それは全く分からなかった。
「さて、第二の刑の為の最後の仕上げと行きましょう」
すると、アメリアは使用人達の方に顔を向けた。案の定、急にこんな場所まで転移させられた使用人達は困惑している様子だった。
「ここは……、屋敷の執務室か……?」
「それよりも、何故旦那様が磔で囚われているのだ!?」
「何が一体どうなっているんだ!?」
使用人達は自らの主人が磔になっている現状を見て困惑の声を上げる。挙句の果てには、磔になっているデニスを今すぐ解放しろとアメリアに詰め寄るものまでいた。
だが、アメリアは彼等の声を無視し、彼女がパチンと指を鳴らす。すると、何処からかまるで転移してきたかのように、数多もの武器が彼女の傍に出現した。それらの武器は、相手を殺傷する物ではなく、打撃を与える事に特化した物、所謂鈍器と呼ばれているものだった。
「さて、今回集まってもらった皆様にはお願いがあるのです。貴方達には先程出した鈍器を使って、あそこにいる伯父様とルナに暴行を加えていただきたいのです」
「なっ!?」
「何故っ、何故我々がそんな事をしなくてはならないのだ!!」
「そうだ!! お前のお願いなど聞けるか!!」
だが、アメリアのお願いに対して、彼等の反応は余りにも鈍かった。それも当たり前だろう。彼等にしてみれば、急に現れた小娘に何故自らの主人に暴行を加えろと頼み事をされて、何故聞き入れなければならないのか、そう思うのは当然だ。
「……どうしても私のお願いを聞いていただけないのですか?」
「当たり前だ!! なぜ我々がそんなことしなければならないのだ!! そんな事よりも早く旦那様を解放しろ!!」
彼等も大なり小なりデニスに対しての忠誠心を持っている。そんな彼等がアメリアのお願いを聞き入れる筈がないだろう。
「なら、仕方がありませんね……」
アメリアは自分の言葉に従わない彼等に対して呆れが多分に含まれた溜め息をつくと、手を横に振った。その直後、アメリアに一番反抗していた者の首がまるで鋭利な刃物で切断された様にズレ落ちたのだ。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
突如としてそんな光景を見せられた使用人達は当然の様に体を震わせ怯えの声を上げる。
「さて、私のお願いを聞いていただかなければ貴方達全員がこうなりますが、どうしますか?」
アメリアは怯える彼等に向けて笑顔を浮かべながらそう言った。彼女はお願いと言ったが、その実は只の脅しだ。こうなりたくなければ自分の言葉に従え、という脅しでしかないのだ。それを理解させられた使用人達は、恐る恐るながらもアメリアが用意した武器を手に取り、拘束されているデニスの元に向かった。
「まさか、あの女の言葉に従うつもりか!?」
「だ、旦那様、お許しを!! まだ私は死にたくないのです!!」
「私はここで死ぬ訳にはいかないのです!! 私にも家族がいるのです!!」
「やめっ、やめろっ!!」
そして、彼等はアメリアの指示に従う様に各々、手に持った鈍器でデニスの体の至る所を殴打していく。
「やめろという言葉がっ、がっ、ぐふっ!!」
「旦那様、お許しを、お許しを!!」
「私はこんな所で死ぬ訳にはいかないのです!!」
デニスのやめろと言う言葉も使用人達は聞き入れない。それどころか、自分達は死にたくないという一心だけで、彼等はデニスに向かって必死に鈍器を振りかざしていた。
だが、それを見ていたアメリアは不服そうな表情を浮かべる。何故なら、彼等はデニスにしか殴打を加えていないからだ。
「ダメですよ、伯父様ばかり狙っては。ちゃんとルナも仲間に入れてあげてくださいな」
「ひっ、は、はい!!」
彼等はアメリアのまき散らしている恐怖に最早逆らえない。デニスを殴打していた使用人達の約半分がその場から離れ、ルナリアの元に集まった。そして、それぞれが自らの持っていた鈍器をルナリア目掛けて振りかぶる。
「ひっ!! やめてっ、お願い、痛いのは嫌なのっ!!」
「ダメです。さぁ、貴方達、やりなさい」
「はっ、はいっ!!」
そして、彼等は磔になり、動く事が出来ない二人に対して鈍器による殴打を続けていく。
――――ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドンッ!!!!!!!
その鈍器の音のテンポは何処か楽曲を思わせるリズムを奏でていた。
「やめっ、がっ、あがっ、がはっ!!」
「いたっ、いやっ、やめっ、かはっ!!」
使用人達から殴打を受け続けているデニスとルナリアは痛みによる呻き声を上げるが、使用人達は後ろから見つめているアメリアに怯えて、殴打の手を止めることは無かった。
そして、デニスとルナリアの二人は使用人達からの殴打を受け続けた結果、体は赤く腫れ、体の至る箇所から血が流れ出ている。所謂、血達磨状態だ。吐血もしたのか、口元には血の線がくっきりと残っていた。
そんな二人の無様な姿を見たアメリアは満足げな表情を浮かべる。
「貴方達、もう十分ですよ。あまりやりすぎても今後に支障をきたしますので、これ以上は必要ありません」
ある程度満足したアメリアがそう言うと、使用人達は二人への暴行を止め、一斉にアメリアの元へと群がった。
「で、ではこれで私達は助かるんですよね!?」
「貴女の言うとおりにしたんですから私達の命だけは助けてください!!」
使用人達はまるでアメリアに媚びを売る様にそう問いかける。だが、彼等の媚びを売る姿を見やるアメリアの瞳は、まるで厄介な害虫を見る様な冷酷な瞳だった。
「ふふふっ、お断りです」
「ど、どうして!? 言う通りにしたじゃないですか!?」
「……私、一言も指示に従えば助けるなんて言いましたか?」
「えっ……」
「そもそも、最初から貴方達を見逃すなんて言う選択肢は無いんですよ。貴方達は伯父様の指示に従い、お父様とお母様の冤罪に手を貸した。そんな貴方達を私が見逃すはずがないでしょう?」
「なっ!?」
そう、この場にいる使用人達はアメリアの両親の冤罪に大なり小なり関わっている者ばかりだ。そんな相手を彼女が放置するはずがない、ましてや見逃すなどありえないだろう。そして、アメリアは使用人達の首を切断すべく手を構えた。彼女の手を構える姿を見た使用人達は、息を飲み無意識の内に後ずさっている。
「ひっ、嫌だっ、嫌だっ!! 死にたくない!! 死にたくない!!」
自らに訪れかけている死の恐怖からか、そう言って誰かが逃げ出した直後、彼等の中の何かが弾け、全員が一斉に叫び声を上げながら四方八方に逃げ出した。
「甘いですよ。そんな簡単に逃げられる筈がないでしょう?」
だが、復讐者であるアメリアが自分の両親の冤罪に手を貸した彼等を見逃すはずがない。彼女が勢い良く横に手を振るうと、逃げ出した使用人達全員の首が一斉にズレ落ちる。
それを見たアメリアはまるで掃除を終えた後の様な満足げな笑みを浮かべるのだった。
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