32 ルナリアの秘密
今話は地の文が大半なのでご了承ください。出来もあまり気に入っていないので、いずれ改稿するかもしれません。
……予約投稿するつもりだったのですが、間違えて投稿を押してしまった為、このままいきます。なので本日二話目です。ご注意ください。
その少女はとある貧村に生まれた一人の村娘だった。両親と三人で村で暮らし、自身は生活の為に両親の畑仕事の手伝いをする。そんなありふれたごく平凡な一人の少女だった。
彼女はこのまま、平凡に生きて、村の誰かと結婚して、平凡に死んでいくのだと思っていた。
しかし、少女が十歳を迎えた時、彼女の価値観を一変させる出来事が起きる。村に突如として貴族の一団が現れたのだ。その貴族が言うにはなんでも、通行する予定だった道が土砂崩れで使えなくなったのだという。その為、村に一日だけに滞在させてほしいとの事だった。
その話を聞いた少女は大変驚いた。少女にとってみれば、貴族とはまさしく雲の上の存在、天上人だ。そんな人達が自分の村に泊まるとは思ってもいなかったのだ。少女は好奇心から、その貴族を一目だけ見ようと、彼等が泊まる家の前まで行ったりもした。
そして、その時に彼等の中にいた一人の貴族令嬢と偶然話す機会を得る事が出来た。その時の事は彼女にとって衝撃的な出来事だった。
その令嬢が着ているドレスも身に着けている宝石が彩られた装飾品もただの村娘である少女には手が届かない物ばかりだ。その令嬢の優雅で気品溢れる立ち振る舞いに、少女は思わず目を惹かれ、憧れた。とてもではないが、村娘である少女には真似できないだろう。
そんな令嬢が少女に語ったのは、今迄に参加した舞踏会での出来事だった。それは令嬢にとってみれば何度も行ったことがある舞踏会の一幕でしかなかったが、その少女にしてみればその話だけでも衝撃的で今迄の価値観が逆転しかねない程の話だった。
そして、同時に村娘である自分なら一度でも参加すれば一生の思い出として記憶に残るであろう舞踏会に参加する事が当たり前である世界に暮らしている令嬢の話を聞いて、少女は思い知らされた。彼ら彼女らは、自分とは生きている世界が違うのだと。
だからこそ、少女はその令嬢が暮らす世界に狂おしい程に憧れた。今の自分では絶対に手が届かないであろう綺麗なドレスを身に纏い、宝石が彩られた装飾品を身に着けて、令嬢が教えてくれたような舞踏会に参加してみたいと憧れたのだ。
だが、ただの村娘に過ぎない少女がどれだけ憧れたとしても、その憧れに手が届く可能性は皆無だ。少女は憧れを胸の内に秘めたまま、村での生活を続けていく。
そして、その数年後、少女が暮らす村でとある病が大流行した。彼女もその病に罹患してしまう。その病は凶悪で、少女の体力をいとも簡単に蝕んでいく。
やがて、病に侵された少女は衰弱していった。少女は確信していた、もう自分の命は長くないのだと。
そして、死の間際、少女が最後に思い出すのは自らが憧れた煌びやかな世界だ。
「あぁ、私も綺麗なドレスを着て、舞踏会に参加して見たかったなぁ。生まれ変われるなら貴族のお嬢様になりたいなぁ……」
そんな思いを抱きながら、彼女は眠るように亡くなったのだった。
だが、少女の人生はそこで終わらなかった。少女が次に目を覚ました時、彼女の体は眠る前よりも遥かに小さくなっていたのだ。少女がいる場所はどうやら大きな屋敷の様で、自分はどうやら生まれて数カ月しか経過していないという謎の言葉まで耳に入ってくる。
最初はその言葉の意味が全く分からなかったが、やがてその少女は時と共に次第に自分が置かれた状況がどのようなものかを把握していく。そして、現状を完全に理解した時、彼女の心は今まで生きてきた中で一番といってもいいほどの歓喜に沸いた。
「もしかして、私、生まれ変わったの!?」
そう、少女は前世の記憶を持ったまま、生まれ変わりを果たしたのだ。
しかも、その生まれ変わった先は貴族、それも男爵家や子爵家といった所謂低位貴族では無く、侯爵家という高位貴族の令嬢だ。
それは彼女にとって福音にも等しい物であったのは想像に難くない。
その後、生まれ変わった少女はルナリアという新しい名前を与えられて、両親に愛されて育つ事になった。そして、ルナリアの心の中には自身の成長と共にある思いが芽吹く事になる。
「そうよ、私は神様に愛されているの。私は特別なの。だからこうして望んだ通りに生まれ変わったのよ!!」
生まれ変わり、しかも前世で望んだ通り、貴族の令嬢に生まれ変わった事は、彼女の成長と共に自分は特別なのだという思いを強くしていった。
生まれ変わり、しかもただの村娘から憧れの貴族令嬢に生まれ変わったという経験は彼女の自尊心を歪に育て上げるのには十分すぎると言えるだろう。
前世で憧れた、綺麗なドレスを身に纏い、宝石が彩られた装飾品を身に着けて舞踏会へと参加する。そんな願望が叶った彼女の自尊心は、自分が特別な存在だという思いと共に次第に大きな物へと変わっていく。
だが、そんなルナリアにも一人だけ忌々しい者がいた。彼女の実の姉であるアメリアだ。
元々、普通の村娘だった自分とは違う、生まれた時からの生粋の貴族を体現したかのようなあの立ち振る舞い。貴族の令嬢として生まれ変わった筈なのに、アメリアのあの姿を見ると、どうしても自分が偽物だとしか思えなかったのだ。
前世で味わった、自分とは住む世界が違うと思い知らされるあの感覚、貴族の令嬢に生まれ変わったというのに彼女はそれをもう一度味わってしまった。
そして、ルナリアの歪な自尊心は、姉であるアメリアの姿を見る度、少しずつ傷が付いていく。
「私は特別な筈なのに!! 神様に愛されている筈なのにどうして!?」
自分は特別で、神様に愛されている筈。だというのに、自分の姉は自分より様々な面で優れており、王太子の婚約者にまで選ばれた。これではまるで自分より姉の方が神様に愛されている様ではないか。ルナリアはそう思ってしまったのだ。
その時、ルナリアの歪な自尊心は歪んだ嫉妬へと変わった。自分とは違う生粋の貴族令嬢、前世で憧れたその存在は、今世では当たり前のように嫉妬の対象へと変わっていく。
それ以降のルナリアは、表面上はアメリアとの仲を良好に保っていたが、裏では彼女を追い落とす機会を虎視眈々と狙っていた。
アメリアが王太子から婚約破棄をされたと知った時には、表向きは姉を心配する妹を演じ続けていたが、内心ではやはり自分こそが特別なのだ、と姉を見下していた。
だが、それだけでは足りない。ルナリアにとっては自分が唯一の特別になる為にはアメリアが邪魔だった。アメリアの姿を見る度に、自分が偽物だと思い知らされる様なあの感覚、あの忌まわしい感覚の大元だけは何としても消さなくてはならない。
だからこそ、ルナリアは心の奥底から姉であるアメリアの死を願っていたのだ。
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