28 待ち構える者と復讐する者
ちょっとスランプ気味ですので、おかしなところがあるかもしれませんがご了承ください。
時刻は、夜も更け人々が眠りに着いている真夜中。デニスは一人、執務室内で窓から外を眺めていた。何故、彼がこんな時間になっても執務室内にいるのか、その理由は机の上に置かれた一枚の紙が関係していた。
その紙に書かれた内容はアメリアからの手紙、或いは予告状と言えるものだった。
この手紙は、本日の昼食後に執務室に戻った時、机の上に便箋に入れられてポツンと置かれていた。怪しいと思いながらも、封を開け手紙の内容を見るそこに書かれたのはアメリアの予告と呼んでも差し支えない物だった。
『本日深夜、伯父様の元へとお伺いいたします。その為、お出迎えのご準備を頂ければ幸いです。 アメリア・ユーティス』
手紙にはこんな簡潔な内容が記されていたのだ。明らかにこの手紙は挑発の意味を含んでいる。
そして、デニスはこの手紙を見た直後、妻とルナリアは安全な場所に避難させていた。特にデニスはルナリアがした事を知っている。故に、彼女がアメリアの復讐対象に入っているであろうことは容易に想像がつく。だからこそ、警備の厳重な自分の別荘に避難させてあった。
また、デニスだけこの屋敷に残っているのは『鋼牙』が立てた計画が関係している。もし、デニスも妻たちと共に逃げれば、必然的に彼はルナリアと共にいる事になる。なら、自分が囮となれば、その間はルナリアの安全は保障されているも同然だ。
それに、デニスにはアメリアを殺す為の目算もあるのだ。ここでアメリアを殺しておけば、これからもルナリアも狙われないという寸法だ。
「…………」
デニスは『鋼牙』が失敗すれば自分が殺されるかもしれないという恐怖と忌々しいディーンの最後の忘れ形見とも言えるアメリアを目の前で始末できるという高揚で内心がゴチャ混ぜになり、気持ちを落ち着かせる為に椅子に座った。
そして、必然彼の目に入ってくるのは机の上に置かれたアメリアからの手紙だ。それを見てデニスが思い出すのは彼の実弟であるディーンの事だった。
デニスは、とある二つの理由から実弟のディーンに激しく嫉妬していた。兄であるはずの彼は常にディーンの側近として見られている事に苛立ちを募らせていたのだ。
だからこそ、ファーンス公爵に寝返りの話を持ち掛けられた時、殆ど逡巡せずに寝返ると返答を返したのだ。
彼がした事、それは買収した屋敷の使用人達を使って地下室に大量の武器や食料を運び込む事だ。それも、一貴族が地下室に隠し持つにはあまりにも膨大な量の武器や食料である。そして、その情報を国へとリークしたのだ。
娘であるアメリアが婚約破棄をされたという動機もある、そして、王都の地下室に隠された大量の武器。これだけでも国家反逆罪を疑うには十分といえる。止めと言わんばかりにディーンの側近であったデニスが「ディーンから娘が婚約破棄された事による報復としての武装蜂起の相談、誘いを受けた」とでも証言すれば、それで国家反逆罪の捏造が完了だ。多少の矛盾があったとしても、ごり押しでどうにかなる。
そして、想像通りユーティス侯爵邸に強制捜査が入り、ディーンとユリアーナは拘束された。後日、二人の処刑が執行された時は胸がすく思いだった。
また、『魔女』として教会に拘束されていた二人の忘れ形見であるアメリアが処刑前日に行方不明になった事はデニスにとって少しばかりの不安要素ではあったが、それも大した問題ではないだろうと最終的には割り切っていた。
「だがっ!!」
デニスはそう呟くと思わず歯噛みした。その大した問題ではないだろうと割り切っていたアメリアの存在が彼の命を脅かす事になろうとは想像の埒外だったのだ。
「くそっ、何故っ、何故だっ!!」
正直に言うと、デニスはアメリアの事をかなり過小評価していた。勿論、彼女はしっかりとした王妃教育を受けていた為、貴族社会を渡り歩く事に関していえば一人前以上の技量はあるだろう。
だが、それだけだ。所詮、アメリアは何の力も持たない只の小娘だったはずだ。だからこそ、積極的に彼女を始末しようとは考えなかった。何処かで野垂れ死んでいれば最高だ、などという想像をした事も一度や二度ではない。
だというのに、今のアメリアは防御が徹底されている筈の王宮の一部を破壊する程の謎の力を持ち、その力であの権力の怪物とも言えるファーンス公爵を殺したとまで噂されているのだ。
デニスは何故アメリアをもっと積極的に始末しようとは思わなかったのか、と彼女の事を軽く見ていた当時の自分を激しく恨んだ。
「だが、後悔するのは後でもいい。今は目先の問題だ」
彼が呟いた通り目下の問題はそこではない。今はアメリアが自分を殺しに来るだろうという事が問題だった。
アメリアは自分の命を狙っている。だからこそ、その対策として『鋼牙』に莫大な成功報酬と引き換えに依頼したのだ。『鋼牙』に任せておけばいい。奴らなら万が一にも失敗することは無い筈だ。アメリアがどれだけの力を持っていようとも、その力を使われる前に殺せば何の問題も無い。
「くそっ、くそっ」
だというのに、彼の心の中には一抹の不安が残っているのだ。その不安は心の中にこびり付きどれだけ拭おうとしても、決して消える事は無い。
「何故だ!? どうしてだ!? 奴らに任せておけば安心だ。だというのに私の心の内にあるこの不安は一体何だというのだ!?」
デニスの不安の一因となっているのは机の上に置かれたアメリアからの手紙なのは間違いないだろう。デニスが用意できる対抗策とやら程度では私を止められない、とアメリアに言外に言われている様で、それが彼の苛立ちの原因にもなっていた。
そして、デニスは机を両手でバンッと叩き、机の上に置かれた紙を握り締める。
「くそっ、くそっ、くそっ!!」
更に、彼は握り締めてクシャクシャになった紙を今度はバラバラに破り割いていった。
「こんなものっ、こんなものっ!!」
挙句の果てに、デニスは手に残ったバラバラの紙を一纏めにした後、無造作に放り投げた。当然、執務室にバラバラになった紙が散らばるが、彼はそれを一切気にする様子は無い。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
アメリアからの手紙に八つ当たりをした事で少しは不安を紛らわせたのだろう。デニスの中にある苛立ちも少しばかり引き始めていた。
「くそっ、くそっ、くそおっ!!」
そして、苛立ちを更に抑えるべく叫び続けていると、彼がいる執務室の扉がノックする音が聞こえてきた。
「誰だっ!?」
「だ、旦那様……。お客様がお見えになっております……」
扉の向こう側から声を掛けてきたのはこの屋敷の執事だった。だが、こんな時間に来客など来る筈も無い。
「なんだとっ!? 誰が来たというのだ、こんな夜更けにっ!!」
「そ、それが……」
だが、執事の言葉の途中で執務室の扉が大きな音を立てて勢いよく開いた。そして、そこから現れる一人の令嬢はデニスにとって酷く見覚えのある者だった。最後にあった時から外見は殆ど変わっていない。その令嬢はたった今破り割いた手紙の主、自分の姪の一人であるアメリアだった。
「ア、アメリアっ!!」
アメリアの姿を見たデニスは思わず立ち上がって彼女の名を叫んでいた。
「伯父様、お久しぶりです」
そして、当のアメリアは執務室内へと入り、デニスの近くまで行くとニッコリとした表情で笑う。だが、彼女のその表情を見て、デニスは一段と表情を顰めた。
「……アメリア、お前の目的は何だ?」
「あら、それを私に聞くのですか? 貴方なら、それを御存知の筈ですが?」
「……お前の目的は、お前の両親であり私の弟であるディーンとその妻のユリアーナ、二人を売った私への復讐、そうだな?」
「ええ、その通りです。ファーンス公爵に誑かされてお父様とお母様を裏切った貴方への、ね」
「……そこまで知っているのか」
「ええ、ファーンス公爵を始末する前に直接お聞きしましたので」
「やはりファーンス公爵は既にお前に殺されていたか……」
「ふふふっ、正解ですよ。あの人達は今頃、永遠の苦しみを味わっています。死後、魂となろうとも解放されない永劫の苦痛をね」
そして、アメリアは狂気が混じった笑みを浮かべる。その笑みを見たデニスは思わず、一歩だけ後ずさってしまった。
「では、伯父様。貴方への復讐を始めましょう。勿論ただでは死なせません。永劫の苦痛と絶望の中に貴方を引きずり込んだ後、殺すと約束しましょう!!!!」
だが、アメリアの言葉を聞いたデニスは右手で顔を覆い「くくく、あはははっ、あはははははははは!!」と謎の高笑いを始めた。
アメリアは、自分が殺されるかもしれないという恐怖から気が狂ったのか? と訝しんだが、彼の浮かべる笑みはそういった類の物ではないと感じたアメリアはすぐにその考えを捨て去る。
「私が何の用意もしていないと思ったか!?」
「なら、貴方の言う用意とやらをお見せください。貴方の縋るその希望を圧し折ってこそ、今の私は満たされるのですから!!!!」
アメリアの言葉から垣間見えた狂気から、デニスは嫌な物を感じた。だが、彼にしてみれば今のアメリアは袋の鼠、自ら猛獣の餌になろうと猛獣の巣に飛び込んできた哀れな小鳥でしかない。そんな相手に臆するなど彼のプライドが許さなかった。
そして、デニスはこの屋敷に隠れ潜んでいた『鋼牙』の暗殺者たちに指示を出した。
「なら存分に見せてやろう!! お前の命を対価としてな!!」
「何を……? なっ!?」
デニスが叫んだ直後、アメリアは突如として自分の背中の辺りに人の気配を感じたのだ。それも、かなり至近距離まで近づかれているだろう。
「そんなっ!?」
アメリアは突如として自分の真後ろに現れた人の気配に驚愕を隠せず、思わず体が一瞬だけ硬直してしまった。今迄、その場所には何の気配も感じなかった。だというのにこれだけ近づかれているという事は彼女の後ろにいる者は明らかに暗殺を生業としている手練れだろう。そうでなければここまで近づかれていながらも気配を隠せるわけがない。
アメリアの真後ろにいる暗殺者は彼女の硬直に合わせて懐から短剣を取り出すと、それをアメリアの首元に当てる。そして、そのまま流れるような動きでアメリアの首を一気に切り裂いた。
「あっ……」
切り裂かれた首からブシャッという音と共に流れ出る大量の血は誰が見ても致命傷となりうるものだった。首を切り裂かれたアメリアは呆然とした表情を浮かべながら、バタリという音を立てて地面に倒れ込むのだった。
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