22 過去①
第二章、始まります。
最初は過去話からになります。
これは、アメリアが婚約破棄を告げられる前、彼女がまだ幸せだった過去の一部である。
今日、アメリアは王都にある自分達が暮らしているユーティス侯爵邸で開かれている夜会に参加していた。この屋敷で開かれている夜会はアメリアと王太子の婚約が正式に決定した事を祝してのものだった。
「娘の為に良く集まってくれた。今日は存分に楽しんで行ってくれ!!」
アメリアの父であるディーン・ユーティス侯爵が夜会の開始を宣言した。その隣には彼の妻であり、アメリアの母でもあるユリアーナ・ユーティス侯爵夫人が並んで立っている。
そして、ディーンが夜会の開始を宣言した直後、本日の主賓であるアメリアの元には彼女に挨拶をしようと、夜会に参加している貴族達が大挙して押し寄せていた。
「アメリア様、王太子殿下との婚約、おめでとうございます」
「はい、ありがとうございます。ハーロック子爵。今後もご助力の程、よろしくお願いいたします」
アメリアは夜会開始直後から、自分達に挨拶に来る貴族達の対応に追われる事なった。今、挨拶に来たハーロック子爵もその一人だ。今日の夜会はアメリアの王太子との婚約を祝したものの為、出席者はかなり多い。それに比例して自分達への挨拶に来る貴族達もいつもに比べるとかなり多かった。おかげでかなりの時間を彼等への対応に費やす事になってしまった。
「……では、これにて失礼します」
「ええ」
そして、最後の貴族が立ち去った事でやっとアメリアの元に挨拶に来ていた貴族への対応が終わった。やっと終わったのだと感じたアメリアの口からはため息が零れる。そんな時、彼女の両親が心配そうに声を掛けてきた。
「アメリア、お疲れだったね」
「大丈夫? 疲れているなら戻ってもいいわよ?」
「いえ、お父様、お母様。大丈夫です。このぐらい、今の内に慣れておかないと……」
両親の心配の声にアメリアは大丈夫だと返事を返した。アメリアが王太子妃となれば今以上の数の貴族達への対応をする事になる。だからこそ、今の内に慣れておこうと思ったのだ。この程度で疲れていては、今後は持たないだろう。
そして、貴族達の挨拶が一通り終わった、これでゆっくりできる。アメリアがそう思った時、彼女の隣に一人の少女が現れた。
「お姉様、遅れてしまい申し訳ありません」
「ルナ」
彼女の名は、ルナリア・ユーティス。アメリアの実の妹だ。親しい者は彼女の事を『ルナ』という愛称で呼んでいる。彼女は所用で夜会への参加が遅れていた。
「お姉様、婚約、おめでとうございます。そのドレス、とてもお似合いですよ」
「ありがとう、ルナ。そう言ってもらえると嬉しいわ。ルナのドレスもとっても似合っているわよ」
そして、アメリアとルナリアが会話をしていると、彼女達の元に一人の男性が近づいてきた。その男性は二人と顔見知りなのか、彼女達に親し気に声を掛ける。
「アメリア、ルナリア、久しぶりだね。元気だったかい?」
「ええ。伯父様、お久しぶりです」
「お久しぶりですね。伯父様」
アメリア達に声を掛けてきたのは彼女の父の兄、つまりは伯父のデニス・カストル伯爵だ。彼は、アメリアとルナリアに挨拶した後、彼女達の両親であるディーンとユリアーナの二人にも声を掛ける。
「二人も久しぶりだな」
「ええ、兄上こそお元気そうで何よりです」
「義兄様、お久しぶりです」
「ああ。折角、久しぶりに会ったんだ。ゆっくりと話をしようじゃないか」
「そうですね。私も兄上と話したい事が沢山あるのです」
そして、三人は久しぶりに会った為、話したい事が沢山あるという言葉通り、談笑を始めた。
アメリアは伯父であるデニスの姿を見た時、ずっと疑問だった事がある事を思い出した。折角、この場に父と伯父がいるのだ、自分の疑問を問う事が出来るいい機会だと思い、彼等の話に遠慮がちに割り込んで、その疑問を口にした。
「そう言えば、ずっと気になっていたことがあるのです。何故、侯爵家を継いだのが伯父様では無くお父様だったのですか?」
この国では長子相続が基本とされている。例外はあれど、あくまで次男以降は長男が何らかの理由で爵位を継ぐ事が出来なくなった時の予備、或いは家同士の繋がりを図る婚姻の為の道具という扱いだ。次男以降は殆どが何処か別の貴族の家に婿養子として出されている。
だというのに、兄であるデニスはカストル伯爵家に婿養子として出されて、侯爵家を継いだのはデニスの弟であるディーンだった。アメリアはこの国の貴族の事を勉強している内にその事を知り、ずっとその答えを知りたかった。
そして、アメリアの疑問の言葉から少しの間が置かれた後、彼女の疑問に答えるのはアメリアの父であるディーンだった。
「……それは先代の意向だからだ」
「先代というと、お爺様ですか?」
「ああ、先代のユーティス侯爵であった父上が兄上では無く私を後継者として指名したんだ」
実のところアメリアは自分の祖父の事は殆ど覚えていない。彼女が物心ついた時には既に亡くなっていたからだ。だが一応、生まれた直後にはあった事はあるらしい。
ディーンが侯爵家を継ぐ事になった理由、それは亡くなった祖父の意向だという。当初、ディーンは侯爵家を継ぐのは兄であるデニスであるべきと言い切って侯爵家を継ぐことを断り続けていた。だが、祖父の強い押しの声によって最終的には渋々、受け入れたのだそうだ。
その数年後に祖父は亡くなり、生前に言われた通りディーンがユーティス侯爵家を引き継いだのだそうだ。
「まぁ結局、何故兄上では無く私が後継者として指名されたのか、父上に何度聞いても一切教えてもらえなかったのだがな。正直、今でも兄上の方が後継者に相応しかったと思っているよ」
「何を謙遜しているんだ。お前が侯爵家を継いだからこそ、アメリアが王太子殿下の婚約者になれたのだろう? 私が侯爵家を継いだからといって、自分の娘を王太子の婚約者に出来るかどうか……」
「兄上こそ、そんな謙遜は……」
「いやいや……」
そう言って、二人は互いに謙遜し合いながらも談笑を続ける。だが、その談笑もあまり長くは続かなかった。ディーンとユリアーナはまだ別の貴族達への挨拶が残っていたからだ。
「ああ、そろそろ行かなくては。では兄上、これにて失礼します」
「ああ」
そして、両親二人はアメリア達の元から去り、別の貴族達の方へと向かって行った。だがその時、アメリアはデニスがディーンの背中を忌々しげに見つめていたのが見えてしまった。
「……?」
しかし、その視線は一瞬だけで、すぐにその忌々しげな視線は消えてしまった為、アメリアも見間違いかと思ってしまった。何故なら、傍目には二人は兄弟でその仲も良好だったからだ。アメリアも二人の仲が良好だと思っていた為、何かの見間違いかと思い、その事を忘却してしまった。
もしアメリアが、デニスがディーンに向けていた視線に隠されていた意味と、彼の内にある心の闇に気が付けていたなら、ほんの少しだけ歴史は変わっていたのかもしれない。
だが、神ならぬ身である当時のアメリアには人の心の内など分かる筈も無いのだった。
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