17 アメリアの知りたい真実
王都内のとある屋敷、その執務室で三人の男達が会合を開いていた。三人はそれぞれ、国の重鎮である宰相や大臣といった役職についている者達である。
だが、彼等の表情は一様にして優れない。何故なら自分達の娘が十数日の間、行方不明になっているからだ。
三人の中心人物であるガストン・ファーンス公爵は娘を溺愛していた為、この中の三人の中では一番、娘が見つからない事に焦燥感を覚えていた。
「くそっ、娘はまだ見つからないのか!?」
「ここまで手を尽くしたというのに見つからないとなれば、あの女、アメリアの仕業と考える方が自然でしょうな。アメリアが私達の娘を連れ去ったのは間違いないでしょう」
「くそっ、あの女か、忌々しいユーティス侯爵を夫人ともども排除したというのに、まさかその娘が我々に牙を向けるとは……」
「こうなれば、娘ごと処刑しておけばよかったのでは?」
「そうすると、今度はあの伯爵まで手が伸びる事になる。そうなれば、我々の身にも害が及びかねない」
「そうでしたな……」
「娘たちの問題も由々しき問題だが、屋敷に張られた結界も問題だ」
「突然、ファーンス公爵の屋敷に謎の結界が張られたとお聞きしましたが……」
「ああ、宮廷魔術師にも依頼をしたが穴一つ空く気配もないとの事だ。おかげで屋敷内には全く入れない。これも間違いなくアメリアの仕業だろうな」
ファーンス公爵邸にはある日突然、謎の結界が展開されていた。その結界は今現在も維持されており、屋敷の敷地には誰も入る事が出来ないのだ。
ガストンは何時まで経っても解除されない結界に業を煮やし、宮廷魔術師に結界の解除を頼んだ。だが、派遣された宮廷魔術師達はファーンス公爵邸に展開されている結界には全く歯が立たず、全員が諦めて白旗を上げてしまったのだ。
「宮廷魔術師のほぼ全てを動員したというのに、張られている結界には手も足も出なかったのだ。なにがエリートの宮廷魔術師だ、とんだ無能の集まりではないか」
「なんと……、結界一つ解除できないとは、宮廷魔術師も堕ちたものですな」
「全くです」
「ああ、忌々しい事にその通りだとも。おかげで、私はこの屋敷での生活を強いられているという訳だ」
そう、この屋敷はファーンス公爵家の別邸だった。ガストンはいざという時の非常用としてもう一つこの王都内に屋敷を所有していたのだ。今回はそれが功を成した形だった。
だが、あくまでこの屋敷は非常用でしか無く、生活レベルで言えば公爵邸よりも水準は低い。それでも、結界が解除されるまではこの屋敷での生活を強いられる事になるだろう。
「今度、宮廷魔術師団に対する予算の削減を提案しては?」
「それもありだろうな。あんな使えない連中に予算を割くぐらいなら、別の場所に回した方がよほど有効に使えるだろう」
「人員の削減を提案してもいいでしょうな。或いは、宮廷魔術師団の総入れ替えも検討しなくては……」
彼等は、娘が見つからない事や屋敷に入れない事に対する八つ当たりを宮廷魔術師達へと向けていた。
そして、彼等が娘の居場所の事やアメリアに関する事について対策を練ろうとしていた時だった。
「だ、旦那様。談話中のところ申し訳ありません。お客様がお見えです」
執務室の外からそう声を掛けてきたのは、ファーンス公爵に仕える執事の一人だ。だが、こんな時間に来客を予定していた覚えは彼には無い。しかも、今は重要な話をしている最中だ。こんな所で中断するわけにはいかない。
「後にしろ。今は別の客人がいる」
「で、ですが……」
「くどいぞ。後にしろと……」
だが、ガストンが最後まで言葉を続けることは無かった。何故なら、その途中で執務室の扉がバンッという音を立てて一気に開かれたからだ。
そして、そこから現れたのは何かに怯える表情を見せる執事と右手に展開した魔法陣を執事の頭へと向けるアメリアだった。
「あまり彼を責めてあげないでください」
「お前は、アメリアっ!!」
アメリアの姿を見たガストンはまるで親の仇を睨むような視線を彼女へと向ける。だが、当のアメリアはその睨みつけるような視線に臆した様子は一切見せなかった。
「さぁ、もう貴方はお役御免なので解放してあげますよ。何処へなりとも消えなさいな」
そして、アメリアはここまでの案内を終え用済みになった執事長に向けている魔法陣を消し、彼を解放する事にした。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!!」
執事長はアメリアから解放されると、一目散に逃げていった。執事長が逃げた事を確認したアメリアは改めて執務室にいる三人の方を向きなおした。
「さて、お久しぶりですね。ガストン・ファーンス公爵様、ヴァネルラント侯爵様、アッカーソン侯爵様。先日予告した通り、貴方達への報復に参りました。あ、因みにですが、貴方達の娘である、マーシア、エルザ、マーシャの三名は私がお預かりしておりますよ」
「やはり、お前の仕業だったか!! 娘を何処に連れ去った!!」
「ふふふっ、彼女達は今、とってもとっても楽しい夢の中にいますよ」
そう、現在マーシア達三人は三度目の罰ゲームとして、自分の家が借金で没落してしまい、金と引き換えに商人と婚姻を結ぶと言う屈辱の幻覚を見せられているのだ。しかし、没落したというのに派手な金遣いは健在だったようで、もうすぐその商人にも捨てられて貧民街に落ちる事になるだろう。最後は娼館行きという結末を用意している。
因みに、精神が壊れかけるギリギリだったので、アメリアは二度目よりも更に手加減をしていた。
「今すぐ娘を返してもらおうか!!」
「ふふっ、お断りします」
「なら、娘が何処にいるか、その体に聞くまでだ!!」
すると、ガストンは懐に手を入れ真っ赤な宝石の様な物を取り出した。ガストンはその宝石に魔力を込める。
その瞬間、彼の持っていた宝石が壊れアメリアの足元に魔法陣が現れ、そこから出現した鎖がその手足を拘束してしまった。
「どうだ!! これこそ、古代魔術の『永劫の鎖』だ!! これでお前はもう、そこから動く事は不可能だ!!」
「おお、古代魔術!!」
「これであの女も終わりですな!!」
古代魔術と聞いたヴァネルラント侯爵とアッカーソン侯爵は、口々にガストンを持ち上げた。それに気を良くしたガストンは、アメリアに脅しかけるように声を掛けた。
「お前をその鎖で縛ったまま拷問に掛ければ、すぐにでも娘の居場所を吐くだろう。そうなりたくなければ、今すぐ娘の居場所を言え。今すぐ言えば、拷問にかける事無く一思いに殺してやろう」
だが、アメリアはその脅しに臆するどころか呆れた様な表情を浮かべるだけだった。
「……はぁ、父娘揃って同じ事をするなんて芸が無さすぎますよ?」
アメリアは自分を縛り付けていた鎖に対して、僅かな力を加える。すると、その鎖に罅が入っていき、数秒後に、パリンッという音を立てて鎖はバラバラに砕け散った。
その光景に、当然と言わんばかりに表情を変えないアメリアと違い、驚きを隠すことが出来なかったのはマジックジェムを使用したファーンス公爵の方だった。
「バカなっ!?」
「まぁ、ある意味では父娘らしいとでもいうべきでしょう……。それにしても、一体どれだけ同じ物を所持しているのでしょうか。何度も同じ事をされると流石に見飽きてしまいましたよ」
呆れる様な表情を浮かべるアメリアとは対照的に、自分の絶対の切り札だと思い込んでいたマジックジェムがほとんど意味をなさなかったという事実にファーンス公爵は目を丸くし、体が硬直してしまった。
それは他二人も同様だ。古代魔術と聞いてアメリアも終わりだと確信したのに、次の瞬間には、何事も無かったかのように解放された事に驚きを隠せず、体が硬直してしまった。
「はぁ、この程度で驚かれるとは思いませんでしたよ……」
アメリアは彼等を見つめて一度溜め息をついた後、魔術を行使し始めた。
『永劫の鎖よ、我が敵を拘束せよ』
その瞬間、まるでアメリアに放った技が反射されたかの様に、三人の足元に魔法陣が現れ、そこから出現した魔法陣が手足を拘束してしまった。
「これ、はっ!!」
「どうですか? 貴方の持っていたマジックジェムの様な紛い物と違って、本物の『永劫の鎖』です」
「……お前は、まさか古代魔術を……」
「ええ。ご推測通り、私は古代魔術を使う事が出来ますよ」
「「なっ……」」
三人はアメリアが古代魔術の使い手だという事に驚くと同時に、納得もしていた。あの夜会で見せた力も古代魔術だとすれば納得がいくからだ。
「ああ、マーシア様達については心配しなくても大丈夫です。私の知りたい事の答えが得られれば、すぐにでも会わせて差し上げますよ。それに貴方達もその鎖から解放して差し上げましょう」
「知りたい事、だと? それを知れば、私達を解放する、だと?」
「ええ。私はなぜお父様とお母様が国家反逆罪という冤罪を着せられて、処刑される事になったのか。その全ての真実を知りたいのです。二人の処刑を承認した貴方達なら真実を知っているかと思いまして」
この国では貴族の処刑には法務大臣を含む、大臣二人以上と宰相、そして王族、その全ての賛成と承認を経て処刑される事になっている。
この場にいるのは、アメリアの両親の処刑を承認した宰相であるガストン、法務大臣であるヴァネルラント侯爵、財務大臣であるアッカーソン侯爵が揃っている。しかもこの三人こそがアメリアの両親の処刑を承認した者達なのだ。
「真実とはなんだ!? お前も知っての通り、お前の両親の罪状は正当なものだ。証拠もしっかりと揃っている。文句を言われる筋合いはない!!」
「ええ、知っていますよ。それが、恐らくは捏造された物だという事もね」
「捏造だと!? 何を根拠に!!」
「……そもそも、私はずっと疑問に思っていたのですよ。お父様とお母様の裁判が行われてから刑の執行までがあまりにも早すぎた事を」
この国では貴族の処刑には、慣例として刑の確定から執行までは最低でも一年以上の間が置かれる筈なのだ。その事は法には明記されていないが、慣例なので暗黙の了解となっている。
だが、アメリアの両親の処刑は刑の確定から殆ど間が置かれず行われていた。その速度は、まるでアメリアの両親が有利になる証拠が出てくる前に口封じをしてしまおうと言わんばかりの速度だったのだ。
「おかしいとは思いませんか。貴族の処刑には一年の期間が置かれる筈。ましてや、お父様とお母様は侯爵とその夫人。だというのに、あんなに急いで処刑されるなんて。しかも、二人はずっと無実を訴えていたのに、全く聞き入れられなかった事も不思議で仕方がないのです」
「国家反逆罪だぞ!? そんな企みをした者達を、間を置かずにすぐに処刑したからといって、一体どんな不都合があるという!? 証拠も綺麗に出揃っているのだ!! 聞き入れられないのも当たり前だ!! そもそも私は反対だったのだよ、あんな慣例はな!!」
「……貴方の口から聞く言い訳はどうでもいいのです。私が知りたいのは真実だけなのですから」
そう言うと、アメリアは鎖で縛られたままのガストンへと近づいていく。アメリアがガストンの頭に手を当てると、そこから魔法陣が展開された。
「さぁ、私に教えてください。お父様とお母様の処刑にどんな企みがあったのかを。貴方の記憶にはその真実がある筈なのですから」
そして、アメリアは真実を知るべくガストンの記憶の奥まで探っていくのだった。
テンポが悪くなりそうだった為、三度目の罰ゲームはダイジェスト風味にしてしまいました。申し訳ありません。だけど、これ以上書くと、あまりにもストーリーが進行しなさそうなので……。
いずれ閑話という形で三度目の罰ゲームの事を書くかもしれません。
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