後日談12 村への帰還
今日は作者の誕生日なので、ちょっとした記念更新です。
ガリア王国軍との戦いが終わった後の事、アメリアはユーティアの街の中央にある領主館にてこの地を治めているグリンバーグ子爵と向かい合って座っていた。
「此度はご助力、ありがとうございました」
そして、彼は開口一番、そう言いながら真摯に頭を下げる。
今回のアメリアの助力がなければ、この地は間違いなく陥落していただろう。そうなれば、この街や彼自身もどうなっていたか分からない。
しかし、当のアメリアはその事に関して恩を着せるつもりは全くなかった。
「頭を上げてください。今回、助力したのは私にも益があったからなのですから」
もし、この街が陥落すれば、ガリア王国の魔の手はアメリアが暮らすあの村にまで伸びていただろう。そうなれば、アメリアの力があったとしても、村を無傷で守れた保証はどこにもない。
だからこそ、アメリアは積極的に彼に手を貸す事にしたのである。
「それで、あなたたちはこれから一体どうするつもりなのですか?」
アメリアとしても、この街の今後は気になっていたところだ。
「これからは今後の情勢に対処できるよう、兵力の増強に励みたいと思っています」
大国であるエルクート王国が崩壊したことで、世界の情勢は不安定になっている。連合軍との約束は取り付けたが、今後の情勢次第ではその約束を反故にされる可能性は十分に考えられるだろう。
だからこそ、情勢の変化に少しでも対応するために兵力を増強するとの事だった。
「本当ならば、あなたにこの地を治めていただきたいのですが……」
アメリアは元々この地を治めていたユーティス侯爵家の最後の生き残りだ。また、未来の王配への教育の一環として領地の運営に関する教育も受けている。血筋や教養を考慮すれば、彼女ほどこの地を治めるのに相応しい者はいないだろう。
また、アメリアが見せたあの力があれば、他の野心ある周辺諸国もこの地に攻め込もうとは考えなくなるかもしれない。
だからこそ、彼はアメリアにこの地を治めてほしいと思っていた。
しかし、それらを聞いてもアメリアは無言で静かに首を横に振る。
「そう、ですか……」
グリンバーグ自身も断られると分かっていたのだろう。アメリアの返事を聞いた彼は残念そうな表情を浮かべるが、それ以上は何も言わなかった。
だが、アメリアもその事を考えなかったわけではない。かつては自分の両親が治めてきた地なのだ。それを継ぐという意味でも、本来は彼女がこの街を治めるのが最適解なのだろう。
しかし、彼女はどうしてもそんな気分にはなれなかった。
アメリアの心の傷もマイたちとの日々で癒されてきているとはいえ、それでもまだ彼女の心には深い傷が残っている。
そんな状態で、領主として忙しい毎日を送れる都は今の彼女にはどうしても思えなかったのだ。
「……では、用件も済んだ事ですし、私はそろそろ村に帰ります。あの村には私の帰りを待っている人たちがいるので」
アメリアはそう言うと、おもむろにソファーから立ち上がる。
「それでは、失礼いたします」
そして、優雅に一礼をしながら転移魔術を使い、この場から去るのだった。
アメリアが転移した先、それは村から少し離れた場所だった。アメリアはゆったりとした足取りで村の入り口へと歩みを進めていく。
そして、村の入り口が目に入った時の事だった。
「アメリア様!?」
そう声を上げたのは、村の入り口で警備をしている青年だった。彼は帰ってきたアメリアの姿を見るなり、驚きの表情を浮かべながら村の中へと入っていった。
「皆、アメリア様が帰ってきたぞ!!」
村の中へと入っていった彼は村の仲間たちにアメリアの帰還を知らせるべく、大声でそう叫びながら村中を走り回っていく。
そして、その声に真っ先に反応してアメリアの元まで駆けつけたのはマイだった。彼女はアメリアの元まで駆けつけると、勢いそのままにアメリアの体へと抱き着いた。
「アメリア様、おかえりなさい!!」
そう言いながらアメリアに抱き着くマイは嬉しそうな笑顔を浮かべている。マイはよほどアメリアの事が好きなのだろうという事がそれだけでもよく分かる。
また、他の村人たちもマイに続いて、アメリアの元まで向かっていった。
「お帰りなさいませ、アメリア様」
「アメリア様、ご無事で何よりです」
彼らもアメリアが村の外に出た事やその事情をマイから聞かされていたのだろう。彼らは各々がアメリアの無事を祝っていた。
すると、その時、アメリアの周りにいた村人たちの内の一人がそっと手を挙げながら、一つの質問をしてきた。
「……アメリア様、戦いはどうなったんですか?」
彼らもユーティアで起こっているという戦いの事が気がかりだったようだ。
「もう大丈夫よ。全部片付いたわ。だから、安心して」
アメリアのその言葉を聞いた村人たちは、おおっ、という感嘆の声や安堵の声を上げた。
「さっ、皆も仕事があるのでしょう。私の事はいいから仕事に戻ってちょうだい」
「あっ、そうでした。じゃあ、戻りましょう」
その言葉に他の村人も頷き、村人たちはそれぞれが自分の仕事に戻っていった。
この場に残っているのはアメリアとマイだけだった。マイの今の立場はアメリアの専属侍女見習いだ。彼女の傍に侍るのが彼女の仕事なのである。
「ささっ、マイもそろそろ離れて」
「いやですっ、まだアメリア様」
「もうっ、本当にこの子は……」
だが、アメリアも満更ではない様子で、マイの髪を優しく撫でる。すると、マイは本当に嬉しそうな表情を浮かべていた。
「えへへっ、アメリア様ぁ……。私の髪、もっと撫でてください」
「はいはい、分かったわ」
そして、マイの髪をそっと撫でながらアメリアは思う。
復讐に囚われ、その果てに深い絶望に堕ちた心を彼女たちは救ってくれた。だから、今度は私が彼女たちを守って見せる。
アメリアは改めてそう誓うのだった。
次回ですが、かなり前にご希望をいただいていた話を書こうと思います。次は近いうちに更新するつもりなので、ご期待ください。




