後日談11 女神
アメリアが起こす天変地異によりガリア王国軍の兵士たちは次々と命を落としていく。その一方で城壁の上からそれらの光景を見ていた兵士達は皆、目の前で繰り広げられているその現象の数々に呆然としていた。
彼等は全員がここ死ぬ事を覚悟していた。そうでなくては、この街は侵略者の手によって滅茶苦茶にされてしまう。この街を愛する一人として自分の命を掛けてでもこの街を守らなければならない、そう覚悟していたのだ。
しかし、敵軍の侵攻が始まったその瞬間、突如として天から数多くの雷が敵軍目掛けて降り注ぎ始めたのだ。
「なん、だ……? 一体何が起こっているんだ……?」
だが、彼等が目の前の光景に対してそう呟いた直後、また新たな現象が起きていく。今度は何かが大きく揺れるような音がした直後、敵軍を飲み込むように地面が大きくヒビ割れたのだ。地面に出来た大きな裂け目は敵軍の兵士達を次々と飲み込んでいく。
すると、その直後、今度は敵軍の中央に巨大な嵐が巻き起こった。その嵐は敵軍の兵士達を次々と飲み込んでいく。そして、嵐に巻き込まれた敵軍の兵士たちは次々と天へと投げ出されていった。
「あっ、ああああ……」
まるで自分達を救う奇跡としか言えないその現象の数々に彼等は呆然とする事しか出来なかった。
その一方でアメリアの傍に居た兵士たちは目の前で起きている現象が誰の手によって起こされているのかが分かり、驚愕を隠せなかった。アメリアが手を天にかざすと雷が降り注ぎ、彼女が手を横に振るうと地面が割れる。それらの一部始終を見ていた彼等はアメリアがあれらの現象を起こしているという事を嫌でも理解せざるを得なかったのだ。
しかし、同時に疑問も湧き上がる。目の前で起こっている天災の様な数々の現象、あんな現象がたった一人の人間に起こせるものだとは到底思えなかった。むしろ、神の御業であると言われた方がまだ納得できるだろう。
それに彼等にはもう一つ疑問があった。それは、処刑されたはずのアメリアがどうしてこんな所にいるのか、というものだった。その疑問はアメリアの事をよく知っている者ほど特に顕著であった。
彼等はユーティス侯爵家が取り潰しになった時、アメリアも処刑されたのだと聞かされていた。
しかし、その処刑された筈のアメリアはこうして自分達の前に現れ、自分達が暮らしているこの街を守る為に力を振るっている。
そして、そんな神の御業の如き力を振るうアメリアを見ている内に彼等の頭の中にはある荒唐無稽な考えが過ぎった。
「まさか、あのアメリア様は女神様、なのか……?」
アメリアは天に召された後、女神となった。そして、存亡の危機に陥ったこの街を守る為に天から自分達の元へと降臨してくださった。全く以って荒唐無稽な話ではあるのだろうが、今の彼等にはそうとしか思えなかった。
「ああ、神よ……」
「神よ、ありがとうございます……」
また、兵士たちの中でも特に信仰心の篤い者はここが戦場だという事も忘れ、地面に膝を着き、涙を流しながら天に祈りを捧げ始めてしまう。
すると、どうだろうか。今度は巨大な嵐が巻き起こり、そのまま敵軍の兵士たちを次々と飲み込んで行くのだ。
まるで、彼等の祈りが天に届いた様なその光景を見ていた者達は一人、また一人と天に向かって祈りを捧げていく。
そして、戦いが始まってから一時間程が経過した頃、あれだけの規模を誇っていた敵軍は壊滅、見るも無残な状態になっていしまっていた。生き残った敵軍の兵士達や後方で待機していた者達も慌てた様子でこの戦場から去っていっている。
―――――そう、この街は敵の魔の手から守られたのだ。
その事を悟った兵士たちは涙を流しながら勢い良く立ち上がり、万歳を始めた。
「うおおおおおおおおお!!!!」
「ああ、この街は守られたんだ!!」
「やった……。これで俺は家族の元にっ……!!」
自分が生き残った事に狂喜する者、この街が守られた事に安堵する者、自分の家族の元に戻れる事に感涙する者。そんな者達が高らかに声を上げている。
その一方でアメリアの傍で彼女の行いを見ていた兵士達の興奮は顕著であった。
「アメリア様は女神となり我々を守ってくださったのだ!!」
「アメリア様万歳、アメリア様万歳!!」
アメリアの事を女神だと信じ込んだ者達が高らかにそんな事を叫んでいる。その声は神の降臨に歓喜する信徒の声そのものだった。
そして、彼女の事を女神と称えるその声はまるで辺りに伝染したかのように次第に大きくなっていく。
「……えっ?」
その一方で当のアメリアはその事に対して困惑の表情を浮かべているが、今の彼等にはそんな事を気にしてはいなかった。
「ありがとうございます、アメリア様!!」
「アメリア様、あなたこそ、このユーティアの守護女神です!!」
彼等はただひたすらアメリアの事を称えている。
「…………っ」
そして、アメリアは困惑の表情から次第に少しだけ恥ずかしさが見て取れる様な表情へと変わっていく。公の場に出る事に対してはかなり慣れている彼女だが、それでもこうして自分の事を本物の女神の様に称えられるのは少しばかり恥ずかしい様子だ。
「「「女神様!! ユーティアの守護女神、アメリア様!!!!」」」
「…………っっっっっ!!!!」
自らを称える声を聞き続けた事で流石に羞恥心が少しばかり度を超えたのか、彼女は頬を少しだけ赤く染めながら無言でパチンと指を鳴らして転移魔術を行使し、この場から去っていく。
そして、この場に残った彼等はただひたすらアメリアの事をこの街の守護女神と称え、万歳三唱を続けるのだった。
その後、『処刑されたアメリアはその死後に女神となりこのユーティアの街を守った』という逸話は戦場に出ていた兵士達を通じて、この街の住人たちの間で広まっていき、遠くない未来でアメリアはこのユーティアの守護女神として広く信仰されていく事になる。
そして、それから数百年後、高名な歴史学者の手によって一冊の本が発表される。その本の題名は『復讐の女神』。
アメリア・ユーティスの復讐の旅路とその生涯が記された本であった。
その本が発表されると、アメリア・ユーティスの名は世界中に知れ渡るようになる。そして、その本はユーティアの街を中心としたアメリアへの信仰にも多大な影響を与える事になり、それからのアメリアは『ユーティアの守護女神』から『復讐の女神』へと名を変えて信仰されるようになっていくのだった。
やっと、やっとここまで書く事が出来ました。これで自分が書きたかった事はほぼ全て書き終わりました。当初の構成通りにここまで書けて本当に安堵しています。何度も心が折れそうになり、筆を折ってしまいそうになりましたが、それでもここまで書き切れたのは、皆様の応援のおかげです。ここまでお付き合いいただいた皆様、最後まで本当にありがとうございます!!
今後に関してはですが、現在悩み中です。恐らくですが、当作品で長編を書く事はもうありません。
書くとすれば、この話の後始末の話、或いは単話か数話程度の形式の短編ぐらいだと思います。不定期にはなりますが、何か面白そうな話が浮かんだら少しばかり更新するので、その時はまたお付き合いよろしくお願いします。
最後にもう一度になりますが、ここまでお付き合い頂き、本当に本当にありがとうございました!!
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