後日談7 書状の内容とその裏側
ドレス姿のアメリアとその後ろで控える侍女服姿のマイ、という構図の絵をどうしても見てみたい衝動に駆られる日々を過ごしております。
というか、絵で見れないならせめて文字で書けばいいじゃないか、と思って話を書いてる節すらあると言っても過言ではありません。
ダリスが去った後、応接間にアメリアとマイの二人になった直後の事。アメリアは思わず口からため息を零した。
「はぁ、今回の件、本当に困った事になったわね……」
そう言いながらアメリアは呆れたように首を横に振った。
「アメリア様、今回の件ってそんなに面倒な事なんですか?」
「ええ、本当に困ったわ……」
今のアメリアとマイの間には、先程までの主と従者という雰囲気から打って変わって、まるで仲の良い姉妹の様な空気が流れていた。
マイは外から来た客人がいる時は先程の様に礼儀正しく振る舞うが、周りにいるのが自分達の事を良く知っている村人達だけの時はアメリアに対してこうして接しているのだ。
また、彼女がこんな風に接してくれる事をアメリア自身も望んでいる為、マイのこの態度を咎める者は誰もいなかった。
すると、アメリアは自分の膝の上に置いていた書状をマイに手渡した。
「マイ、貴女もこれを読んでみなさい」
「はい、分かりました」
書状を受け取ったマイはアメリアの言葉に従い、その内容を読み始めた。しかし、マイの表情は書状を読み進めるにつれ、次第に硬いものへと変わっていく。そして、書状の最後の部分を読んだ直後、彼女の表情は驚き一色に染まった様な物へと変わった。
「えっ、これって!?」
マイが驚きの声を上げるのも当然だろう。
この書状には、近々この付近に連合軍が侵攻してくる事が分かった為、軍備の増強を行う。その為に近隣の村から若く健康な者達を徴兵する事が決定した。これはこの辺り一帯を治める代官であるグリンバーグ子爵からの命令である。命令に従わない場合、厳重な処罰を与える、という旨の内容が長々と記されていたのだ。
つまり、この書状はただの書状では無く、徴兵令の命令書だったのである。それを理解した瞬間、マイは焦った様な表情を浮かべた。
「アメリア様、このままだとこの村の皆が!!」
「そうよ、だから困っているのよ」
この村は未だ発展途上だ。ここで人手を大量に持っていかれたら、この村は発展するどころか衰退しかねない。しかも、戦争に駆り出されるのは村の仲間達であり、村を出た彼等が無事に戻ってくる保証も何処にもないのだ。
村の仲間達が戦争に駆り出されるかもしれないと知り、焦るマイの気持ちもよく分かる。
だからこそ、この命令は断固として拒否をしなければならないのだが、今のアメリアは何の身分も持たない一つの村の村長でしかない。そう簡単に命令を拒否できる立場にはいない。
しかし、後ろで焦りを隠せない様子のマイとは裏腹にアメリアはこの徴兵令の書状に違和感を抱いていた。
(恐らく、この書状で重要な所は徴兵の命令という部分じゃない。むしろ、もっと重要な事は……)
そして、アメリアはこの徴兵令に抱いた違和感を元に思考を進めていく。その結果、明晰な彼女の頭脳は一つの答えを弾き出していた。
「ああ、そういう事なのね……」
「アメリア様、何か分かったんですか?」
「ええ」
そう言いながら、アメリアはマイを安心させるように優しく頭を撫でた。
「もし、私の考えが正しければ、村の皆はこの徴兵令に従わなくて済む筈だから」
「ほ、本当なんですか!?」
「ええ、だから安心して」
「そうなんですね、よかった……」
そして、二人の間に流れる空気は和やかな物になった。すると、アメリアは先程のダリスの様子を思い出しながらおもむろに口を開いた。
「それにしても、やっぱり皆この屋敷に驚くわね……」
「まぁ、それは当然だと思いますよ」
アメリアとマイがそう言葉を交わすと、二人はそのまま客間の内装を見ながら少しばかり呆れた様な表情を浮かべる。
「私はこんな豪華な屋敷を建てるつもりは無かったのにね……」
「あの人達のあの時の行動力は本当に凄かったですよね」
そう、実はこの屋敷、アメリアが建てようと思った訳では無い。元を辿ればユーティス侯爵家に仕えていた者達が勝手に建て始めた物だったのである。
アメリアがこの村に来た当初、彼女はこの村にある民家の一つで暮らしていた。
しかし、アメリアに勧誘され、この村に来た彼等は彼女の今の暮らしを知った直後から「お嬢様にこんな所は相応しくない!!」「お嬢様に相応しい屋敷を建てる!!」等と言い始めてしまったのだ。
その結果、彼等は本当に自分達で財産を出し合って職人にこの屋敷の建設を依頼してしまったのである。流石に話がその段階まで進むとアメリアも彼等のその行動を無碍には出来なかった。アメリアは村に屋敷を建てる事を容認し、彼等の代わりにこの屋敷の建設に掛かる費用を出したのである。
屋敷内に置かれている調度品や屋敷を建てるに当たって掛かった費用などは、ユーティス侯爵家が取り潰しになった時に国に没収されていた物をアメリアが拝借してきたものが元手だったりする。アメリアにしてみれば不当に没収されていた物を取り返しただけなので、勝手に拝借する事に何の躊躇も無かった。ついでに、エルクート王国の国庫に蓄えられていた一年間の国家予算にも匹敵するであろう大量の金貨もこっそりと拝借してきたりもしたのだが、それはアメリアしか知らない内緒の話だったりする。
因みにだが、この屋敷の周囲にはアメリアが結界を張っている為、不届き者がこの屋敷に盗みに入る事が出来ない様になっている。その為、屋敷に置かれている調度品が盗まれる心配も無かった。
「まぁ、今はそんな事よりも目先の問題ね。マイ、私はこれから村の外に出るわ」
「村の外、ですか?」
「ええ、どうやら今すぐにでも私に会いたい人がいるみたいですからね。その望み通り、すぐに会ってあげましょう。という訳で、すぐに外へ出る準備を頼むわ」
「分かりました」
そして、二人はそのままこの応接間から退出していくのだった。
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