後日談5 村への客人
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突如として村に現れた高級そうな馬車から降りてきた一人の男性。その男性は馬車から降りるなり、堂々とした姿で辺りを見回していた。
だが、村人たちは突然村に現れたその男性の様子に困惑を隠せなかった。面倒な事に関わり合いになりたくない、と言わんばかりに村人たちは揃ってその男から視線を逸らす。
彼も周りの者達の様子から自分が村人達からどのように思われているのかが分かったのだろう。眉間に皺を寄せて、少しばかりの苛立ちを露わにする。
すると、その時だった。村人たちの輪の中から一人の身なりの整った男性が姿を現し、馬車から降りてきた男性への応対を始めたのだ。
彼はこの村の警備を担当している人物の一人だった。また、彼はユーティス侯爵家に仕えていた上級騎士の一人でもあったので礼儀作法には一通り精通している。その為、この村に訪れたある程度以上の立場にいる者達への初期対応は彼のような人物が受け持つ事になっていたのだ。
「失礼します。私はこの村で警備を担っております。もしよろしければ、貴方様のお名前とこの村に訪れたご用件をお聞かせ頂きたい」
「私はこの辺り一帯を治めるグリンバーグ様の配下でダリスという者だ。今日はグリンバーグ様からの書状を持って来た。この村の長に会わせていただきたい」
その言葉に彼は困った様な表情を浮かべる。そして、近くに居たアメリアに気が付くと、すぐに彼女へアイコンタクトを送った。そのアイコンタクトを受け取ったアメリアは目を左右に数回だけ動かした後、視線をそのまま自分の屋敷に向ける。
その目の動きでアメリアの意図を察した彼は、ダリスに向かって恭しく頭を下げた。
「では、お嬢様の元までご案内いたします。こちらにどうぞ」
そう言いながら彼はダリスを先導し、村の中央にある邸宅へと案内していく。
そして、ダリスが屋敷の中に入った後、その様子を見ていたアメリアは思わず口からため息を零した。
「なんだか面倒な事が起きそうね。マイ、いつもの準備を頼んでもいいかしら?」
「はいっ、分かりました!!」
その後、アメリアとマイの二人も屋敷へと戻っていくのだった。
一方、屋敷へと案内されたダリスは困惑を露わにしていた。案内された屋敷だが、そこはこんな辺鄙な村にあるとは思えない程に豪華だったのだ。
しかも、今、彼を案内している侍女も間違いなく一流の者だろうという事も一目で分かった。少しでも気を抜けば、ここが貴族の屋敷だと錯覚してしまいかねない。
何故、こんな辺鄙な村にこんな豪華な屋敷があるのか、全く以って意味が分からない。こんな事は彼の人生でも初めての経験だった。
「こちらは応接間になります。すぐにお嬢様が来られると思いますので、こちらで少々お待ちください」
「は、はぁ……」
そして、彼は応接間に通されるが、そこでも驚愕する事になった。その応接間は嘗て彼が訪れた事がある伯爵家の屋敷にも匹敵する程に豪華絢爛だったのだ。
この応接間に置かれている調度品一つとっても、明らかに高価な物だという事が分かる。今の彼の立場では、この部屋に置かれている調度品の内の一つを手にしようとするだけでも自分の全財産の大半を費やさなければならないだろう。
しかも、それらの調度品はアメリアの卓越した美的センスにより、最も映える様に計算されて置かれているのだ。こんな場所に案内されて臆するなと言われる方が到底無理な話だった。
(なんだ、ここは……。一体、何がどうなっているのだ……?)
彼はこの村に来るまでは自分の方が上の立場であると思っていたが、それは誤りだったのではないかと思い、今となっては途轍もない場違い感を覚えていた。
そして、ダリスは応接間に置かれているソファーに静かに腰掛け、村長が現れるのをジッと待っていた。
しかし、それから十数分程の時が経過するが、この村の村長は全く現れなかった。
(まだか……、まだ来ないのか……?)
全く姿を現さない村長に彼は焦らされるが、それでもこの村の長が現れる気配は全く無かった。逸る心を何とか抑え、必死に村長が現れるのを待つ。
(まだか、まだ来ないのか!?)
だが、どれだけ待っても村長は一向に現れない。そして、遂に彼の中にある焦りが限界寸前にまで達し、思わず立ち上がってしまいそうになったその時だった。
「お待たせしたようね」
応接間の扉が開き、その向こう側からそんな声が聞こえてきたのだ。やっとこの村の長が現れたのかと思い、ダリスは視線を声がした方に向ける。しかし、その直後、彼は思わず息を飲んだ。
そこには豪奢なドレスと高価な装飾品を身に纏った、貴族としか思えないアメリアの姿があったからだ。また、その後ろには侍女の服を着ているマイの姿もある。
今のマイはアメリア専属の侍女見習いという立場だった。彼女は自分で望み、アメリアの侍女として彼女の傍に居る事を選んだのだ。
また、マイは未だ見習いと言う立場ではあるが、先輩の侍女達に厳しく鍛えられた結果、侍女としての技量は普通の貴族の屋敷で働く侍女となんら遜色ない程に成長していた。マイの侍女としての実力は先輩たちにもかなり高く評価されており、このまま成長すればすぐにでも見習いから正式な侍女として昇格するだろう。
そして、アメリアはダリスと向かい合う様に優雅に座る。その後、アメリアは小さく笑みを浮かべながらマイに視線を向けると、彼女は小さく一度だけ頷き、手早く紅茶を作り始めた。
「お客様、こちらをどうぞ」
そして、マイはそう言いながら出来上がった紅茶を全く無駄のない動きで二人の前にそっと差し出した。
彼女のその侍女として完璧とも言える動きにもダリスは感嘆するが、マイは意に介した様子は無く、彼女はそのままアメリアの後ろに控えるのだった。




