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ヒロ、冒険者を志す



「で、昨日あれから討伐して来ちゃったの?」

「そうです。」

「どれどれ、お姉さんに見せてみ?」


ヒロはエルポーリンのカウンターにドカドカと、猪の牙や鹿角を並べていく。


「ちょ!? 待って!どこから…ヒロさん召喚装備持ち?」

「召喚装備?」

「や、その話は後。まだ有るんでしょ?ちょっと場所変えよう。」


エルポーリンはヒロに一旦討伐部位をしまわせると、自分のカウンターに“休止中”の札を掛けて、奥の個室に案内した。そこでヒロは全ての牙と角を並べる。


「うはぁ!お姉さん感激!猪10匹、鹿4頭で銀貨7枚ね。待ってて。」


椅子から立ち上がったエルポーリンは外に行きかけて、ハタと立ち止まる。


「あの。全部すぐ食べるわけじゃないわよね。ひょっとして解体してない猪や鹿が有ったりする?」

「有りますよ。」

「それ売らない?鹿なら銀貨50枚、猪なら30枚なんだけど。」

「売りますけど、ここで出しちゃっていいんですか?」


またしまって移動する。今度は廊下を通り階段を降って地下に行った。地下はギルド建物裏手から荷馬車で直接入れる造りになっていて、そこには多くの人が働いていた。ナンバリングされた仕切りの一つに案内される。


「さぁ、ド〜〜ンといってみよう!」


言われてヒロは、鹿2頭と猪5匹を石床に並べる。隅の方に先の牙と角も並べる。


「金貨2枚と銀貨57枚!ちょっと待っててね!」


エルポーリンは色の付いたタグを獲物や討伐部位に付け何か書類を書き込むと、他の男性職員を呼んで来た。男性職員が確認しエルポーリンの書類に書き込むと、引き渡して終わりだ。


「じゃ行こうか!」


再び1Fの個室に案内され、暫く待ってるとエルポーリンが戻ってきてお金を渡してくれた。


「ヒロさん凄いわ!あの狩果はD級冒険者チーム並みよ。でも近場の討伐依頼がいつも有るわけじゃないから、本当の冒険者になった方がいい。」

「それ、どうやったら成れるんですか?」


するとエルポーリンはニヤリと笑った。


「実はもうヒロさん成れるんです。本当は武術と、使えれば魔法の実技試験有るんだけど。今回ので実績付いたから。」

「お金とか必要なんですか?」

「ゼロ。冒険者証は身分証明にもなるし、一定の成果が有れば税金も免除でお得。」


(ここに溶け込むには打って付けだな。)


「じゃなります。」

「イイわね!お姉さん嬉しい!見習い1日で冒険者ってカッコいいじゃない?待ってて!」


椅子から立ち上がったエルポーリンは外に行きかけて、ハタと立ち止まる。


「ヒロさんもしかして…魔法使えたりする?」


------------



結局一般のギルドメンバー試験を受ける事にして、ヒロはギルドを出た。懐は暖かくなったが、トニー達を何とかするにはまだまだ寂しい。


(トニーとベスが働きに出られる、安全で衛生的な家や教育が必要だな。この辺の家とか借りると幾らくらいなんだろう。それと召喚装備に関してエルポーリンさんに聞き損なったな。)


「ヒロ。」


大通り脇をボーっと歩いていると、頭上から声を掛けられた。


「ニトーシェさん!」

「は〜いヒロ君。」


パティーナも一緒で二人は騎乗していたが、下馬して話し掛けられた。ヒロはこのチュニカの街に詳しいだろう二人に、色々聞いてみる事にした。相談が有ると言うと、じゃあニトーシェの家でとなった。


街の中央入り口の前は十字路になっており、街を背にして1km程南、農場の肥料が臭わない辺りにニトーシェ邸は有った。左右に鉄柵の塀が広がり、門を抜けて100m程の庭を抜けると家だ。


------------


綺麗で広い石造りのホールはガラスのシャンデリア、左右から二回へ上がる階段が有り、昼間は玄関上のガラス窓からの採光で明るい。


ホール横に20人は入れる応接室が有り、ヒロは執事にそこの少人数用のソファへ案内された。お茶が出されてニトーシェ達が着替えるのを待つ。


(大きいけど清潔で華美じゃない。モダンな感じでニトーシェさんの性格が解るような家だな。)


ニトーシェは自室で平服に着替えた。階下で、同じく着替えて応接室に向かうパティーナと会った。


「しっかしあのヒロって子、外人?何が目的でチュニカに来たんでしょうね?」

「その辺は気になるが紳士的な少年だし、それも今から聞けるだろう。」


ニトーシェ達が応接室に入ると、ヒロは落ち着いた風情でソファに腰掛けお茶を飲んでいた。この大きな屋敷に物怖じしない辺り、ニトーシェ達からすればヒロは只の平民に思えなかった。


「なんと、ご家族を探されて旅を…。」

「そうなのです。父さん母さんと、今年6歳になる妹を探しています。これを見て下さい。」


ニトーシェとパティーナは、ヒロが手渡した写真を手に取る。スーツを着た父、華やかなドレスシャツの母、着物を着た舞、そしてチビスーツを着込んだヒロ。皆幸せそうに微笑んでいる。


「何と精巧な絵!いやそれより、これはヒロか?」

「嘘!? 可愛い〜〜ぃい!」

「そうです。それは通常時間で3年前の物。お2人は、異界から人間が来たとの噂を耳にした事は有りませんか?」


七五三の記念写真であろうそれを前に、ニトーシェ達は考え込んだ。魔法の有る世界、召喚術も有り異界から様々な存在を呼び出す者もいるとと聞いている。


「すまない。私は一介の騎士で、高度な情報には通じていないのだ。召喚装備は聞いた事が有るが。」

「召喚されし者がいる。そう言う噂は聞いた事がありますが、お目にかかった事は無いですね。」

「なに!召喚されし者が…いる?」


ヒロはパァーッとした笑顔を浮かべた。それは目元まで前髪が覆っていても解る程の、明るい笑い顔だった。


「苦労して次元を越えた甲斐が有りました!ならば、僕はここで家族を捜そうと思います!」

「じ、次元ですか?」


(召喚ではなく自ら異界越えをした?この若さで?本当ならとんでも無い魔法使いだぞ。)


ニトーシェ達の考えをよそに写真を大切そうにしまうと、ヒロはまず召喚装備の事を聞く。


「入手先は知らないけど、異界からの装備が流れて来る事が有るの。それは普通じゃ無い能力を持っていて、例えばカバンなら、見た目の10倍位荷物が入ったりするらしいわ。」

「私は行った事が無いが、貴族区にはそう言った物を取り扱う店もあるらしい。」


(なるほど、そう言う事か。何か魔法の装備とかが出現する事が有るんだな。)


パティーナとニトーシェの情報で、ヒロは装備の事は納得いった。次に街に家を探している事を話し、家賃や値段を聞いてみる。


「ギルド周辺で家賃は、一か月金貨1枚位が相場かな。お店だったら5枚ね。中通り二本外れると半分位になるけど。」

「買うならその100倍くらいだな。」

「うわぁ高っか!」


小さな家で金貨100枚、お店が開けるようなもので500枚程が、安い方だと言う。一般市民は中通り2本外れた辺りに暮らしているそうで、宿や食事処はその辺に集中しているそうだ。


「その外側は不法占拠者のブロックと接していて治安が悪い。憲兵の巡回も無いから、住むのはお勧め出来ないな。」


ニトーシェによれば、トニー達の住居は街として認可されていない場所らしい。徴税しない代わりに、水路も治安維持も市民権も保証されない宙ぶらりんの場所だと。


「いずれ栄えて街が拡がれば、認められる地域になるとは思う。」

「今の一般街だって、最初は不法占拠区だったらしいのよね。大昔の話だけど。」


(それでクーンツとかいう悪人が好き勝手やっているのか。)


ニトーシェ達によって、大まかな知識は得られた。ヒロは礼を言って帰ろうとする。


「貴重な情報をありがとうございます。お陰様で自分が何をすれば良いか、見えました。」

「待て。自ら異界越えをした者など聞いた事が無い。その話は他ではしない方が良い。」

「そうよ。いろいろ厄介な事になるわよ。」


そう言われ、ヒロはハッとした。


(そうだ管理者の事を忘れていた。どこに悪の手先が潜んでいるか…緩んでいたな。)


「そうですね。そうします。」

「何か力になれる事は無いか。調べておく。」

「私も!」

「本当にありがとうございます。」


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